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第十三章 王都生活編その2

第二百六十三話 体験入園

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 エステルの事も考えつつ、日々の事もこなさないとならない。
 今日も仕事をしつつ、明日の準備を進める。
 明日は、午後から来年学園に入るメンバーの体験入園に同行する。
 と言っても、俺は合間を縫って学園長や先生達と話し合いもしなければならない。
 
「明日は、貴族だけでなく一般市民も体験入園に参加する。どんな状況とかも確認してくれ」
「妾も一緒に行くから、何も問題ないと思うがな」
「勿論レイアも行く」

 ビアンカ殿下が入園する年代だから、王族としても国としても気になる所だ。
 うちのメンバーも沢山入園するから、ボッチになることはない。
 ちなみにうちから入園するのが、シルク様とクロエとアメリアとカミラとノラ。
 それに、ドラコとシラユキとルシアの龍組三人。
 ビアンカ殿下と軍務卿の所のヴィル様もいる。
 学園見学は、貴族とかはドレスやスーツを着ていく人が多いらしいが、どうもうちの子達は巡回する時の騎士服で参加するつもりだ。
 事前にチナさんに確認を取ったけど、特に問題ないという。
 中には超派手な服を着てくる貴族もいるらしいので、全然マトモらしい。
 一般市民は、普通の服でくる。
 一部商会などで、上等な服を着てくる程度という。
 何回か行ったことがあるし、大丈夫だろう。

 ということで、翌日は午前の仕事を終わらせてうちに戻る。
 例のごとく大量の書類をこなすハメになったが……

「では、学園に行きましょう」
「「「「はーい」」」」

 準備が整ったので、皆で学園に歩いていく。
 ちなみにドラコとシラユキとルシアの母親も一緒に同行する。

「早かったのう」
「皆さん、こんにちは」

 王城の前で、ビアンカ殿下とヴィル様と落ち合う。
 軍務卿と王妃様達も一緒だ。
 ビアンカ殿下の母親は既に亡くなっているので、王妃様達はその代わりだという。
 陛下は、外せない仕事があるので来ないらしい。
 流石に警備の問題もあるので、王城から直ぐに着くけど馬車で移動する。

「「「「うわあ、大きい!」」」」

 学園に着くと、初めて学園に入る子達はその大きさと広さにビックリしていた。
 六年制だから、通う学園生もかなりの数となる。

「ようこそ王立学園へ。皆さん、お待ちしてました」
「「「「宜しくお願いします!」」」」

 学園見学には、先輩が案内係として付くようになっている。
 ここの面々を考慮して、うちに実習で来たエスメさん達が案内役になってくれた。
 このメンバーなら全員顔見知りだし、何も問題ないだろう。

 エスメさん達に体育館に案内されて、皆の受付を済ませる。
 うーん、メンバーがメンバーなだけに、周りからとっても注目を浴びている。
 皆で固まって座っているけど、色々な人がチラチラとこちらを見ているぞ。
 おお、ド派手な服を着ている人がいる。
 間違いなく貴族主義の連中だろう。
 後は、思ったよりも一般市民の数も多い。
 おっと、学園長が出てきた。
 先ずは話を聞かないと。

「皆様、ようこそ王立学園へ。これから入園を希望する皆様にとって、今日の体験入園がより良いものになる事を期待します」

 うん、無難な挨拶だな。
 無駄に長いよりとても良い。

「では、今日のプログラムについて説明します。この後は各学年の授業の説明を行います。その後、場所を移動して魔法と剣技の授業の実演。その後、希望者は教員や学園の先輩と面談を行います」

 教員より、この後のプログラムについて話があった。
 面談については、子ども達の希望を聞いてから受けるようにしよう。
 実習生を受け入れた時に色々と質問していたし、聞きたいことがあるかどうかだな。

 説明の準備があるみたいなので、貰ったパンフレットをピラピラめくりながら内容を見る。
 校舎は、三年までと四年からで二つに分かれる。
 体育館の他に屋内武道場もあり、雨天でも魔法と剣技の実習ができる。
 食堂完備でお弁当も持ち込み可能。聖女様の従魔監修の元、美味しいメニューに生まれ変わりました。
 これは絶対にスラタロウだな。
 学園生活で必要な物は、全て購買で購入可能。
 おお、これは便利だな。いちいちお店を探さなくても良いのか。
 周りを見渡すと、他の人も一生懸命にパンフレットを覗き込んでいる。
 王妃様の様に既に他の子どもが学園にいる人は、サラリと確認している位だ。
 授業料は貴族の方が高く、庶民の方が安い。
 実際には収入によって変わるようなので、ほぼタダの人もいるらしい。
 
「間もなく説明を再開しますので、お席にお戻り下さい」

 おっと、一旦ここで中身を確認するのをやめておこう。
 
 カリキュラムについては以前話を聞いていたけど、それと大体同じだった。
 四年までは基礎教科。
 五年で実習を含んだ専門教科。
 六年が現場での長期実習。
 ちなみに六年でも授業は受けられるので、全員が現場に出る訳ではないという。
 後は、各々の進路に進むという。
 勿論、成績優秀者は各方面からスカウトが来るらしい。
 大まかにこんな内容だ。
 そして教科担当の先生を紹介していたが、チナさんも魔法担当で呼ばれていた。
 チナさんの事を巡回とかで見たことがある人も多くて、ビックリしている入園希望者もいた。

「それでは、野外武道場へ移動します。忘れ物をしないようにして下さい」

 エスメさん先導で、俺達も移動する。
 人数が多いので、今日は野外武道場でデモ授業をするらしい。
 うちの子達だけでなく、他の参加者もワクワクしている。
 なんと、成績優秀の六年生が相手をしてくれるというのだ。

 野外武道場に着くと、そこには見知った顔がいた。
 エステルとリンとフローレンスだ。
 あ、そっか。
 リンとフローレンスは勿論の事、エステルも優秀だったんだっけ。
 エステルとリンが騎士服で、フローレンスが魔法使いの服を着ている。
 その姿を、王妃様達とビアンカ殿下がニヤニヤと見ているぞ。

「はい、では簡単に授業について説明します。まず剣技の授業ですが、最初の内は全員木剣から始めます。慣れてきたところで、実際の剣を使用していきます。ただ、怪我の恐れがあるので、集中して授業に望みましょう」
「「「「はーい」」」」

 先ずリンが、木剣を使った型を行った。
 入園希望者からは、感嘆と驚きの声が上がっていた。
 リンの型は、やはり綺麗だな。

「では、実際に先輩がどの位凄いのか体験してみましょう。フローレンス先輩も参加してくれますよ」
「「「おお!」」」

 木剣を使ってだけど優秀な先輩と対戦できるとあって、入園希望者はやる気満々だ。
 中には気の弱そうな一般市民の女の子もいるけど、そこは仕方ないだろう。
 ドラコ達もアップを始めている。

「なお、聖女部隊でもあるビアンカ殿下、ライズ伯爵の関係者様、軍務卿の関係者様におかれては、最後の方でお願いします」
「「「分かりました!」」」

 これは仕方ないだろう。
 他の子どもと実力差がありすぎる。
 ショックを与えない為にも、後々の方が良い。

「もっと深く踏み込んでみて」
「そうそう、今のは良いよ」
「はい、お疲れさまでした。中々良かったですわ」

 正直な話、エステル達にとってはお遊びレベルな感じだろう。
 それでも、貴族関係者は元々の基礎訓練を行っているだけあって、一般市民よりも上手だった。
 さてさて、あのド派手な服の子はっと。
 うーん、運動神経が皆無だ。
 基礎もなってないな。
 教え方が悪かったのか、本人の才能なのか微妙な所だ。

「続いては魔法の体験をしてみましょう。初めにフローレンス先輩が、的に向けて魔法を放ちます」

 フローレンスは元々の魔法の才能も良かったけど、うちに来て訓練をしたら更に良くなった。
 魔法使いとしては、うちの中でも間違いなく上位に入るだろう。
 フローレンスは同時に水魔法のウォーターバレットを五つ発動し、それをくるくると動かした後で的に正確にぶつけた。
 見事真ん中を射抜いて、皆は大きな拍手をしている。

「中には身体能力タイプだったり回復タイプな人もいますが、それぞれにあった魔法の勉強をしていきますよ」

 これはチナさんも監修した教育プログラムで、ミケの様に身体能力特化タイプや、俺の様に放出魔法が使えない人にも基礎から学べる様にしたという。
 この教育プログラムのお陰で、学園全体の魔法の成績が上がっているらしい。
 入園希望者も三人に色々と教わりながら、魔法を試している。
 一般市民の子はそもそも魔法が使えない子も多いので、魔力循環のやり方から教えていた。
 うーん、こう見ると三人とも教えるのは上手だな。

「さて、皆さんお待ちかねの聖女部隊の実演となります。こうして身近に良い手本がありますので、皆さんもしっかりと見てみましょう」
「「「おお!」」」

 そしてドラコやビアンカ殿下達の番となった。
 木剣とはいえ流石に危ないので、同時ではなく一人ずつ行うことにする。
 エステルもリンもフローレンスも、とてもワクワクしている様だ。
 おや、あの派手な服の子はどうせ大した事はないとニヤニヤしているぞ。
 うーん、あの子はちょっと問題があるな。
 親も親で、あくびしている。
 これは少し驚かせてあげないと。

「「「すげー!」」」
「「「カッコいい!」」」
「な、何だこれは」
「嘘よ、ありえないわ、きっと詐欺よ」

 エステル達とドラコ達が手合わせすると、あまりの凄さに皆ビックリすると共に歓声をあげている。
 そして、あの派手親子はその動きが信じられないのか、あんぐりとしている。
 でも、俺からみると、エステル達とドラコ達はこれでもかなり押さえていると分かる。
 同じ事を思ったのか、王妃様達と軍務卿と目を合わせて苦笑いした。
 
 魔法でも、同じ様に周囲の歓声を浴びている。
 特にシルク様とビアンカ殿下は魔法の威力が凄いので、特に注目を浴びていた。
 
「さて、ここで皆さんにプリントを配ります」

 と、ここで先生が入園希望者と保護者にプリントを配り始めた。
 なになに?
 入園前までに剣と魔法訓練をやってみよう。
 勉強も教わることができます。
 貴族も一般市民も大歓迎。
 費用は無料です。
 場所はライズ伯爵邸。
 あれ? 
 何でうちでこんな事をやるんだ?

「陛下より、ライズ伯爵邸で入園前までの基礎訓練を受けられるとご配慮頂きました。こちらの三人の先輩の他にも、勇者ミケ様や知の令嬢のレイア様も教えるとの事です」
「ブイ」

 いやいやいや、レイアよブイじゃないから。
 当主の俺は何も知らないよ。
 そして王妃様達と軍務卿は、一斉に俺から顔を反らした。

「あれ? サトー知らないの?」
「レイアちゃんが、お屋敷の人に知らせてましたよ」
「勿論、入園する子も知っていますよ」

 エステル達は勿論の事、ドラコ達も知っているのかよ。
 これは、俺だけのけ者にされたな。
 既に入園希望者は喜んでいるし、一番喜んでいるのが貴族も一般市民も関係なく親御さん達だ。
 塾って、どの世界でもお金かかるらしい。
 まあ、貴族は繋がりのある所でやるだろうな。

「さっそく明日朝からやるそうなので、失礼の無いようにしてください」
「「「はーい」」」

 ハハハ、また面倒事がひとりでにやってきた。
 入園まで半年以上あるし、どのくらいの人が来るのだろう。

 ちなみに面談希望者は、うちの中にはいなかった。
 それよりも、明日の朝の方が気がかりだった。
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