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第十三章 王都生活編その2

第二百七十一話 火山灰除去と治療開始

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 出動に向けて準備しているが、うちのメイド陣は器用なのか馬が凄いのか。
 何と、馬用のマスクを作ってしまった。
 昔何かの本で毒ガス用マスクを見たことあるが、流石にそこまでの物ではない。
 しかも、小さい従魔のホワイト用やニー用の物も作り始めている。
 バハムート用の物まで作り始めているぞ。
 うん、ここはお任せしていこう。
 
 先行部隊は、ワープが使えるスラタロウとショコラ。
 スラタロウは火山灰の影響を受けないらしいし、ショコラは小さなフクロウだから小さめのハンカチでオッケーだった。
 そして、ミケとララとリリとレイアにザンディ子爵。
 大人用の布が少し足りないので、他の面々は準備を続ける事に。
 食料品も仕入れてもらう。
 
 ブレンド子領の例の川沿いの村に転移し、先ずはゲレーノ男爵領へ向かう。
 今回は急ぎなので、馬車も気をつけながらではあるがかなりのスピードを出している。
 周囲に人がいないか、常に探索もかけていく。

「な、何ですかこのスピードは?」
「これがこの馬の最大の武器ですよ。魔法で身体強化しています」
「馬が魔法を使うのですか? いやはや、これは物凄い」

 初めて馬車に乗るザンディ子爵は、うちの馬車の速さにかなり驚いている。
 普通の馬の倍以上の速度は、軽く出ているからな。
 ゲレーノ男爵領に入ると、そこら中で火山灰が積もっている事が一目で分かった。
 馬は、火山灰を吸い込まないように魔法障壁を展開して進んでいく。
 更に火山灰で滑らないように、慎重に進んでいく。
 それでも、村を出発して三時間でゲレーノ男爵の街に到着。

「多いところだと、五十センチ以上は火山灰が積もっているな」
「話に聞いていましたが、これ程まで酷いとは」
「作物とかも、完全に火山灰に埋もれてしまってますね」

 ゆっくりと街中を進むが、市場も商店も全て閉まっている。
 一見ゴーストタウンだが、探索を使うと家に住民がいる。
 恐らく、肺病になってしまったのだろう。

「誰もいないね」
「門番もいないよ」
「でも、屋敷の中には反応があるね」
「恐らく教会にもいる」

 屋敷と隣接する教会には、結構な数の反応がある。
 しかし、周りには誰もいない。
 情報を集めるために、先ずは屋敷の中に入る。
 領主を回復させれば、何か聞けるはずだ。

「領主の部屋はこちらです」

 屋敷の中に入っても、メイドも侍従もいない。
 これはかなり不味いぞ。

「スラタロウかショコラ。王都のお屋敷にワープして、準備ができた人からこちらに寄越して。ララとリリとレイアは、手分けして治療を始めよう。ミケは俺についてきて」
「直ぐに治療するよ」 
「リリも、頑張る」
「パパは早く領主を治して」

 手分けして治療をするために、先ずはララとリリとレイアに指示をした。
 俺も急いでザンディ子爵の後をついて行って、領主の部屋に入った。

「ゲレーノ男爵!」
「ゴホゴホ、ザンディ子爵か。ゴホゴホ」

 領主の部屋に入ると、ゼエゼエ言っているゲレーノ男爵がベットで寝ていた。
 少し喋るだけで咳き込むから、かなり体調が悪いのだろう。

「ザンディ子爵、治療を行います」
「頼む」

 直ぐにゲレーノ男爵の治療を開始する。
 肺だけでなく、気管支にも炎症が出ている。
 念入りに治療を行い、ゲレーノ男爵は回復した様だ。

「ゲレーノ男爵、体調は如何ですか?」
「息苦しくない! 助かった、ありがとう!」

 無事に治療はできた様だ。
 ゲレーノ男爵は、息苦しさを感じなくなったようだ。

「はっ。娘を、どうか娘を助けてやってください。症状が重いのです」
「分かりました。直ぐに案内してください」 

 ゲレーノ男爵に連れられて、隣の部屋に移動する。
 すると、小さな女の子がヒューヒューと苦しそうに息をしていた。
 急いで女の子の治療を行なう。
 重症だったので結構魔力を使ったが、何とか回復させられた様だ。
 女の子は寝ているが、規則正しい寝息に変わっている。

「ふう、先ずはこれで大丈夫かと。ただ体力を失っていますので、暫くは安静にして下さい」
「おお、マルゲリータが苦しそうにしていない。ありがとう、本当にありがとう」
「いえ、正直危ない所でしたが、マルゲリータちゃんが頑張ったお陰ですよ」

 ゲレーノ男爵は涙ながらに感謝して、マルゲリータちゃんの頭を優しく撫でていた。
 
「ゲレーノ男爵、紹介が遅くなり申し訳御座いません。サトーと申します。ライズ姓と伯爵位を承っております」
「あなたが、有名な聖女部隊のトップですか。改めてゲレーノ男爵だ。この度は、色々と助けて頂き感謝する」
「我々の仲間を呼び、手分けして屋敷や街の人の治療を行っています」
「重ね重ね済まない。こちらもモートル伯爵やザンディ子爵からの支援がなかったら、今頃全員死んでいただろう」
「先ずは住民の救出を行います。それと同時に、マンチェス子爵領へも向かいます」

 お互いの紹介をしていると、エステルとビアンカ殿下が部屋に入ってきた。
 どうやら一部のメンバーは、準備完了した様だ。

「ゲレーノ男爵、よくぞ無事だったのう」
「エステル殿下、ビアンカ殿下。この度の尽力に感謝致します」
「よい、今は人命救出とこの火山灰をどうにかすることが先決じゃ」
「エステル、火山灰は軽く水で濡らしたほうが良い。飛び散らなくなる。それから麻袋に火山灰を入れていこう」
「了解、どんどんやろう。ミケちゃんも手伝って」
「ミケにお任せだよ!」
「我が領の兵も回復次第、火山灰回収にまわします」

 エステルとミケに火山灰の回収を任せよう。
 今度は俺とビアンカ殿下とザンディ子爵で、マンチェス子爵領へ向かう。

「どうやら火山灰だけでなく、火山ガスの影響もあって喉を痛めているようです」
「この辺は火山灰も多く降り積もっておる。噴火時の風向きが悪かったのじゃろう」
「この状況で、一ヶ月以上よく持ったと思いますよ。ザンディ子爵達の支援がなければ、全滅でしたよ」
「我々は最低限の事しかできませんでした。食料品を届けるのが精一杯で、火山灰の除去まで手がまわりませんでした」
「可能な限り住民も火山灰の除去はしていたみたいですが、完全に人手不足ですね」

 街道も塞がり、陸の孤島になってしまったのも被害を拡大する要因になったのだろう。
 基礎疾患を持っている人は、今回の件で悪化してしまった様だ。
 今も街道に火山灰が降り積もっていて、かなり慎重に進んでいっている。

 ニ時間ほど街道を進んだ所で、マンチェス子爵領に到着。
 こちらも、場所によってはかなりの火山灰が降り積もっている。
 そして街は歩いている人が殆どいない。
 マンチェス子爵の屋敷も、ゲレーノ男爵の所と同じく門番はいない。
 それでも屋敷内には、人の反応があった。
 俺は一度ゲレーノ男爵の屋敷にワープし、スラタロウとショコラを連れてきた。
 これでスラタロウとショコラもワープでマンチェス子爵領に来れるので、こちらにも援軍を頼んだ。

「ぐほ、ゴホゴホ」
「マンチェス子爵、しっかり!」

 マンチェス子爵の部屋に入るが、マンチェス子爵はまともに喋れない位にダメージを受けていた。
 急いで治療を開始する。
 どうも、少し肥満気味だったので、今回の件で一気に体調が悪くなった様だ。

「ふう、だいぶ楽になりました。誠にかたじけない」
「今、うちのメンバーが手分けして治療を行っている。暫しの我慢じゃ」
「ビアンカ殿下、支援頂き感謝します。正直、もう駄目かと思いました」

 マンチェス子爵も無事に回復できた。
 これからは、ダイエットもしてほしいのが本音と言える。
 今度は、部屋の中にリンが入ってきた。

「サトーさん、こちらも準備できて活動始めています」
「了解、火山灰の処理はさっきもエステルに伝えたけど、軽く濡らしたほうが飛び散らなくてやりやすいよ」
「ありがとうございます。手分けして作業します」

 こちらも動き始めた。
 だが、どう見ても手が足らない。
 ということで、ゲレーノ男爵もひろいつつ、皆で王城にワープします。

「マンチェス子爵、ゲレーノ男爵。よくぞ無事だったのう」
「ライズ伯爵の治療のお陰となります」
「ご支援頂き、心から感謝申し上げます」

 陛下としても、マンチェス子爵とゲレーノ男爵が生きていたのは大きいと思う。
 この状況で領主が死亡なんてなったら、領地は大混乱となるだろう。

「運が悪い事に、火山灰だけでなく火山ガスも流れていたみたいです。住民の健康被害も火山ガスのせいもあります。また、火山灰や火山ガスの為に作物がほぼ全滅です」
「正直よく持ちこたえていたといえるのう。ザンディ子爵やモートル伯爵は最低限の支援といっておったが、それが無ければ悲惨な状況になったじゃろう」

 思っていたよりもかなり悲惨な状況に、陛下や閣僚も黙り込んでしまった。
 作物が駄目なのは予想ついていたのだが、危うく住民も全滅する所だった。

「とにかく火山灰を回収しないといけません。住民の治療は二、三日あればできますが、街道も火山灰で塞がれているので、これでは物資が届きません」
「最低でも小隊は必要じゃ。勿論妾達も手伝うが、街道まで手がまわらぬ」
「正直、他の二領も状況は良くないと思います」

 陛下は少し考えてから軍務卿に訪ねた。

「軍務卿、二個小隊は直ぐに動かせるか?」
「明日朝にでも稼働できます」
「よし、各領地に一個小隊を配置し、作業にあたらせよう。ザンディ子爵、このまま他の二領に向けてサトーとビアンカと同行し、現地の調査と領主との対応を行うように」
「はっ、承りました」
「軍務卿は、追加二個小隊を動かせる準備をしてくれ」
「直ぐに対応します」

 今日はもう遅いので、現地に向かうのは明日朝になってから。
 朝一で軍を各領地に連れていき、その足で残りの二領に向かう事にする。
 ここで陛下が、俺とビアンカ殿下に話をしてきた。

「サトーとビアンカには伝えた方がいいな。モートル伯爵が、今回の助成金の件で様々な証拠を持ってきた。中には自分が不利になる証拠もな。だが、これは自首扱いにする」
「自分からの証拠提出なら、自首扱いで問題ないですね」
「モートル伯爵とザンディ子爵は自分の財産から支援をしたらしいのう。後でキチンと補填しないとならぬな」
「勿論それは行なう。プラスして、身銭を切った支援をした報奨も与えなければならぬ。それがなければ、大量の死者を出すことになった」
「寛大なご配慮に感謝します」

 一先ずは会議は終了。
 ゲレーノ男爵とマンチェス子爵を領地に送りつつ、時間の許す限り俺も治療を行うことにした。
 街中ではミケ達が懸命に火山灰を集めているけど、如何せん人数が足らない。
 どうにかして、手を増やさないと。
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