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第十五章 人神教国
第三百十一話 国境での戦いと軍務卿の思い
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「お、ビアンカからの連絡だな。どれどれ?」
「人神教国の街に人がいない。ほぼ魔獣化している模様」
「なんと酷いことを。善良な住民も含めて魔獣化ですか!」
「とはいっても、奴らはランドルフ領で同じ事をしている。規模が違うだけだ」
国境にいる軍務卿の所に、ビアンカからの情報がもたらされた。
軍務卿や一緒にいたミミは、過去にこういった事態を経験していて冷静だったが、初めて聞くシルクには衝撃的だった。
この情報を聞いて、軍務卿が直ぐに動いた。
「ショコラ、ルキアを連れてきてくれ」
「ピィ!」
未だにふくろうらしくない鳴き声でショコラが応えてワープすると、直ぐにルキアと獣人部隊の一部がやってきた。
「以前にも強制的に魔獣化させる事がありましたが、また同じ事を繰り返していますね」
「しかも人神教国にいる全ての住民だ。ギース伯爵領と王都に出現下魔獣にもいるだろうな」
「とはいえ、作戦は変わらないですね」
作戦はランドルフ領での件と同じで、聖魔法で魔獣化された人を元に戻し陣地内に連れてくる。
救助優先で、魔獣や魔物の相手は後にする。
それで良いはずだった。
「軍務卿、魔獣の両サイドを魔物が挟んでます」
「このまま魔獣化を解いたら、速攻で戻った人を襲う可能性が高いな」
「結構な高ミッションですね」
とはいってもやらないといけないし、ここで広範囲魔法をぶちかましては救える命も救えない。
軍務卿はこのメンバーならできると判断して、魔獣や魔物を討伐しながら魔獣化された人を救う方法を選択した。
人神教国もこちらがこの方法を取ってくると思っているのだから、人神教国の考えにのっかった上で成功させてやると思っていた。
「ミミ、魔物は全部倒して問題ないな」
「問題ない」
「それなら難易度も下がるってわけだ」
魔物を倒していい判断になったので、軍務卿は個人の能力に頼った形だが作戦を実行することにした。
「ベリルとフウは、馬みたいに魔法障壁を展開しながら突っ込めるな?」
「「ガウ!」」
「それなら話は早い。魔獣と魔物との間を広げるように走りまくれ」
「「ウォン!」」
先ずは、魔獣と魔物の間をとにかく広げる。
出会った頃は小さかったベリルとフウも、いまではだいぶ大きくなってきた。
馬まではいかないけど、魔法障壁を展開しての突進もできるようになった。
「そしてドラコの嬢ちゃん達にクロエの嬢ちゃんは、龍人と手分けして魔物退治に専念してくれ」
「全部倒しちゃっても良い?」
「勿論だ、ベリルとフウと協力してやってくれ」
「「「「わかった!」」」」
魔物を魔獣からドラコ達に注意を向ける意味でも、ここはドラコに派手に動いてもらう。
この子達の実力なら問題ないと、軍務卿は理解している。
「シルクとドリーの嬢ちゃんは、ルキアと共に最初は聖魔法で魔獣化を解くことに専念だな。救出が終わったら、各個撃破に移る」
「戦女神様の登場だね!」
「ドリー、もしかしてからかっている?」
「全然。私は魔法特化型だから、個別撃破には向いていないし、シルクの出番だよ」
こういう時に、万能型のシルクの存在は助かる。
魔法も剣技も使えるとなると、勇猛果敢なランドルフ家の再来と言われても納得する。
「軍と獣人部隊に龍人の半分は、魔獣から人間に戻った人の救出に専念だ。無理に魔獣を倒さなくてもいいぞ」
「「「「おー!」」」」
という事で、分担はこれで大丈夫。
後は、オープニングを飾る魔法の魔力を溜めているミミの準備待ちだ。
「ミミ、間違えても助けられる人を殺害するなよ」
「そこは大丈夫。前回も出来ているし、魔法制御も上手くなっている」
「その言葉を信じるぞ」
「どんとこい」
素人目から見ても、とんでもない魔力が小さいミミに集まっているのが分かるだろう。
軍務卿からしたら、とんでもない魔法が放たれてるのが手にとるようにわかる。
そして、ミミの魔法が完成したようだ。
「いつでもオッケー」
「よし、カウントダウンで放てよ。待機しているメンバーも、魔法が沈静化したら突撃だ!」
「「「おー!」」」
では、カウントダウン開始だ。
「ごー」
「よん」
「さん」
「にー」
「いち」
「よし、ミミやれ!」
「うん。ジャッジメント、フルパワー!」
ミミがとんでもない魔法を放った。
相変わらずでたらめな魔法の威力が、更に上がっている。
時々、サトーの所の訓練に参加している成果だな。
ミミの魔法は、五千を軽く超える魔獣と魔物を飲み込んでいく。
光の奔流がやむと、あたり一面の魔物と魔獣が倒されていて、千を超える人間が魔獣から戻っている。
もしかして、既に七割以上の敵が倒されている?
皆ミミの魔法の威力にあ然としているけど、手は休めてはいけない。
「全軍行動開始!」
「「「おー!」」」
待機していたメンバーが、一気に敵に突っ込んでいく。
いくら敵をかなり減らしたとはいえ、まだまだ生きている魔獣も魔物もいる。
特に人間に戻った人の救出は、迅速に行わないといけない。
エステルの獣魔でもあるショコラも、ワープ魔法を使って人を運んでいく。
念の為にシルクとドリーに聖魔法をかけてもらい、ミミのうち漏らしの魔獣を人間に戻していく。
一気に保護した人物が増えたので、ルキアには後方支援にまわらせた。
ルキアは、ブルーノ侯爵騎士団の後方支援部隊も連れてきていたので、助け出す人数が多くてもスムーズに治療が進んでいく。
こうして人間に戻った人の大半を保護した所で、魔獣の何頭かが更に魔獣化の薬を飲んで異型の形になっていく。
奴らも、奥の手を出してきたな。
「よし、ドリーは聖魔法での補助を継続し、シルクは化け物を倒してこい。遠慮なくやってきな」
「「はい!」」
「ドラコ達にクロエも、魔物を片付けちゃいなさい」
「「「「おー!」」」」
ここはせっかくだから、シルクに花を持たせる様にしよう。
シルク達と行動を共にしているドラコ達も、シルクの無念は知っているはずだ。
人神教国から国を守るべきランドルフ伯爵家が、逆に人神教国に飲まれてしまった事。
サトー達によって解放されたが、両親を失い自身も四肢切断と薬物投与によって重体となったこと。
そして、ランドルフ家が領地を国に返した事。
今は奇跡ともいえる治療のお陰でシルクは全快し、戦女神と周りからいわれる位に成長した。
しかしシルクは、人神教国から受けた屈辱は忘れる事はなかった。
軍務卿はサトーと共に、シルクの事を保護している。
そのために、軍務卿も定期的にシルクと面談をしているが、やはりシルクは後悔の念と人神教国へ何とかできないかと思っていた。
「やー!」
どさ。
「おお、流石は戦女神様」
「あの様な巨大な魔獣を、一刀で倒すとは」
「流石は、勇猛果敢なランドルフ家のご令嬢だけある」
軍務卿は、感慨深い思いでいた。
苦しい訓練を乗り切り、こうしてランドルフ家の名を上げたと共に魔獣を倒すだけの力を手に入れた事に。
誰もシルクを蔑む事はしない。
その戦いっぷりに感嘆している。
「これで最後です!」
「ゴブア……」
「「「うおー!」」」
シルクが見事に最後に残った魔獣を倒した所を見届けた軍務卿は、シルクの活躍に歓声を上げる軍に対して、直ぐに指示を出した。
「よし、周囲の探索を続けつつ倒した魔獣と魔物を回収せよ」
「「「はっ!」」」
「魔物の回収が終わったら、順番に休憩し体を休める様に」
兵や獣人部隊は戦闘することが少なかったので、まだ元気は一杯だ。
しかし無理はさせられないので、順番に休憩を取らせる。
そして、ある程度魔物を回収したところで、シルク達も戻ってきた。
「お疲れさん。シルクよ、少しは気が晴れたか?」
「うーん、分かりません。いくら戦っても両親は帰ってきませんし、領地も戻ってくるわけではありませんので」
「はは、それはしょうがないな。現に、ここはこれだけの戦闘があったわけだ。まだ当分は、未成年のシルクに任せるのはキツイな」
「分かっています。そのためにも、学園で一生懸命勉強します」
目標があるし、仲間もいる。
軍務卿は、このままシルクが順調に成長して欲しいと思っていた。
「それに、今日のMVPは間違いなくミミちゃんですから」
「ハハハ、それは間違いないな。正直な所、勲章間違い無しの戦功だからな」
「今は魔力を使い果たして、軍務卿の腕の中ですね」
「仕方ない。他の所に降ろすと、直ぐに目を覚ましやがる。今日はミミへのご褒美としておこう」
全魔力を使っての広域魔法を放った反動で、ミミは魔力切れで軍務卿の腕の中ですやすやと眠っていた。
まだ小さい子があれだけ頑張ったのだから、このくらいは多めにみようと思っている軍務卿だった。
こうして、人神教国との国境は一時の平穏を取り戻したのであった。
「人神教国の街に人がいない。ほぼ魔獣化している模様」
「なんと酷いことを。善良な住民も含めて魔獣化ですか!」
「とはいっても、奴らはランドルフ領で同じ事をしている。規模が違うだけだ」
国境にいる軍務卿の所に、ビアンカからの情報がもたらされた。
軍務卿や一緒にいたミミは、過去にこういった事態を経験していて冷静だったが、初めて聞くシルクには衝撃的だった。
この情報を聞いて、軍務卿が直ぐに動いた。
「ショコラ、ルキアを連れてきてくれ」
「ピィ!」
未だにふくろうらしくない鳴き声でショコラが応えてワープすると、直ぐにルキアと獣人部隊の一部がやってきた。
「以前にも強制的に魔獣化させる事がありましたが、また同じ事を繰り返していますね」
「しかも人神教国にいる全ての住民だ。ギース伯爵領と王都に出現下魔獣にもいるだろうな」
「とはいえ、作戦は変わらないですね」
作戦はランドルフ領での件と同じで、聖魔法で魔獣化された人を元に戻し陣地内に連れてくる。
救助優先で、魔獣や魔物の相手は後にする。
それで良いはずだった。
「軍務卿、魔獣の両サイドを魔物が挟んでます」
「このまま魔獣化を解いたら、速攻で戻った人を襲う可能性が高いな」
「結構な高ミッションですね」
とはいってもやらないといけないし、ここで広範囲魔法をぶちかましては救える命も救えない。
軍務卿はこのメンバーならできると判断して、魔獣や魔物を討伐しながら魔獣化された人を救う方法を選択した。
人神教国もこちらがこの方法を取ってくると思っているのだから、人神教国の考えにのっかった上で成功させてやると思っていた。
「ミミ、魔物は全部倒して問題ないな」
「問題ない」
「それなら難易度も下がるってわけだ」
魔物を倒していい判断になったので、軍務卿は個人の能力に頼った形だが作戦を実行することにした。
「ベリルとフウは、馬みたいに魔法障壁を展開しながら突っ込めるな?」
「「ガウ!」」
「それなら話は早い。魔獣と魔物との間を広げるように走りまくれ」
「「ウォン!」」
先ずは、魔獣と魔物の間をとにかく広げる。
出会った頃は小さかったベリルとフウも、いまではだいぶ大きくなってきた。
馬まではいかないけど、魔法障壁を展開しての突進もできるようになった。
「そしてドラコの嬢ちゃん達にクロエの嬢ちゃんは、龍人と手分けして魔物退治に専念してくれ」
「全部倒しちゃっても良い?」
「勿論だ、ベリルとフウと協力してやってくれ」
「「「「わかった!」」」」
魔物を魔獣からドラコ達に注意を向ける意味でも、ここはドラコに派手に動いてもらう。
この子達の実力なら問題ないと、軍務卿は理解している。
「シルクとドリーの嬢ちゃんは、ルキアと共に最初は聖魔法で魔獣化を解くことに専念だな。救出が終わったら、各個撃破に移る」
「戦女神様の登場だね!」
「ドリー、もしかしてからかっている?」
「全然。私は魔法特化型だから、個別撃破には向いていないし、シルクの出番だよ」
こういう時に、万能型のシルクの存在は助かる。
魔法も剣技も使えるとなると、勇猛果敢なランドルフ家の再来と言われても納得する。
「軍と獣人部隊に龍人の半分は、魔獣から人間に戻った人の救出に専念だ。無理に魔獣を倒さなくてもいいぞ」
「「「「おー!」」」」
という事で、分担はこれで大丈夫。
後は、オープニングを飾る魔法の魔力を溜めているミミの準備待ちだ。
「ミミ、間違えても助けられる人を殺害するなよ」
「そこは大丈夫。前回も出来ているし、魔法制御も上手くなっている」
「その言葉を信じるぞ」
「どんとこい」
素人目から見ても、とんでもない魔力が小さいミミに集まっているのが分かるだろう。
軍務卿からしたら、とんでもない魔法が放たれてるのが手にとるようにわかる。
そして、ミミの魔法が完成したようだ。
「いつでもオッケー」
「よし、カウントダウンで放てよ。待機しているメンバーも、魔法が沈静化したら突撃だ!」
「「「おー!」」」
では、カウントダウン開始だ。
「ごー」
「よん」
「さん」
「にー」
「いち」
「よし、ミミやれ!」
「うん。ジャッジメント、フルパワー!」
ミミがとんでもない魔法を放った。
相変わらずでたらめな魔法の威力が、更に上がっている。
時々、サトーの所の訓練に参加している成果だな。
ミミの魔法は、五千を軽く超える魔獣と魔物を飲み込んでいく。
光の奔流がやむと、あたり一面の魔物と魔獣が倒されていて、千を超える人間が魔獣から戻っている。
もしかして、既に七割以上の敵が倒されている?
皆ミミの魔法の威力にあ然としているけど、手は休めてはいけない。
「全軍行動開始!」
「「「おー!」」」
待機していたメンバーが、一気に敵に突っ込んでいく。
いくら敵をかなり減らしたとはいえ、まだまだ生きている魔獣も魔物もいる。
特に人間に戻った人の救出は、迅速に行わないといけない。
エステルの獣魔でもあるショコラも、ワープ魔法を使って人を運んでいく。
念の為にシルクとドリーに聖魔法をかけてもらい、ミミのうち漏らしの魔獣を人間に戻していく。
一気に保護した人物が増えたので、ルキアには後方支援にまわらせた。
ルキアは、ブルーノ侯爵騎士団の後方支援部隊も連れてきていたので、助け出す人数が多くてもスムーズに治療が進んでいく。
こうして人間に戻った人の大半を保護した所で、魔獣の何頭かが更に魔獣化の薬を飲んで異型の形になっていく。
奴らも、奥の手を出してきたな。
「よし、ドリーは聖魔法での補助を継続し、シルクは化け物を倒してこい。遠慮なくやってきな」
「「はい!」」
「ドラコ達にクロエも、魔物を片付けちゃいなさい」
「「「「おー!」」」」
ここはせっかくだから、シルクに花を持たせる様にしよう。
シルク達と行動を共にしているドラコ達も、シルクの無念は知っているはずだ。
人神教国から国を守るべきランドルフ伯爵家が、逆に人神教国に飲まれてしまった事。
サトー達によって解放されたが、両親を失い自身も四肢切断と薬物投与によって重体となったこと。
そして、ランドルフ家が領地を国に返した事。
今は奇跡ともいえる治療のお陰でシルクは全快し、戦女神と周りからいわれる位に成長した。
しかしシルクは、人神教国から受けた屈辱は忘れる事はなかった。
軍務卿はサトーと共に、シルクの事を保護している。
そのために、軍務卿も定期的にシルクと面談をしているが、やはりシルクは後悔の念と人神教国へ何とかできないかと思っていた。
「やー!」
どさ。
「おお、流石は戦女神様」
「あの様な巨大な魔獣を、一刀で倒すとは」
「流石は、勇猛果敢なランドルフ家のご令嬢だけある」
軍務卿は、感慨深い思いでいた。
苦しい訓練を乗り切り、こうしてランドルフ家の名を上げたと共に魔獣を倒すだけの力を手に入れた事に。
誰もシルクを蔑む事はしない。
その戦いっぷりに感嘆している。
「これで最後です!」
「ゴブア……」
「「「うおー!」」」
シルクが見事に最後に残った魔獣を倒した所を見届けた軍務卿は、シルクの活躍に歓声を上げる軍に対して、直ぐに指示を出した。
「よし、周囲の探索を続けつつ倒した魔獣と魔物を回収せよ」
「「「はっ!」」」
「魔物の回収が終わったら、順番に休憩し体を休める様に」
兵や獣人部隊は戦闘することが少なかったので、まだ元気は一杯だ。
しかし無理はさせられないので、順番に休憩を取らせる。
そして、ある程度魔物を回収したところで、シルク達も戻ってきた。
「お疲れさん。シルクよ、少しは気が晴れたか?」
「うーん、分かりません。いくら戦っても両親は帰ってきませんし、領地も戻ってくるわけではありませんので」
「はは、それはしょうがないな。現に、ここはこれだけの戦闘があったわけだ。まだ当分は、未成年のシルクに任せるのはキツイな」
「分かっています。そのためにも、学園で一生懸命勉強します」
目標があるし、仲間もいる。
軍務卿は、このままシルクが順調に成長して欲しいと思っていた。
「それに、今日のMVPは間違いなくミミちゃんですから」
「ハハハ、それは間違いないな。正直な所、勲章間違い無しの戦功だからな」
「今は魔力を使い果たして、軍務卿の腕の中ですね」
「仕方ない。他の所に降ろすと、直ぐに目を覚ましやがる。今日はミミへのご褒美としておこう」
全魔力を使っての広域魔法を放った反動で、ミミは魔力切れで軍務卿の腕の中ですやすやと眠っていた。
まだ小さい子があれだけ頑張ったのだから、このくらいは多めにみようと思っている軍務卿だった。
こうして、人神教国との国境は一時の平穏を取り戻したのであった。
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