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第十五章 人神教国

第三百十八話 マッドサイエンティスト

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 俺達は、椅子に座ったまま話しかけてきた人物を見て驚愕した。

「まさかエルフとは……」

 今まで散々人間至上主義を掲げてきていた人神教国の教主が、人間でない事に一同ビックリしていた。

「別に人神教国は人間至上主義を掲げておらん。人神教は、人神を信仰するものだ」

 ひょうひょうとした語り口で、俺らに話す教祖。
 全員武器を持った状態で、相手の話を聞いている。

「全員魔法障壁を展開。念には念を入れよう」
「「「はい!」」」

 相手が何をしてくるか全く分からない。
 警戒に警戒を重ねておくのがベストだ。

「流石は聖女様だ。何とも賢明な判断だ」
「俺のことを知っているのか?」
「ハハハ、こうして垣間見るのは初めてだが、色々と噂は聞いている。それだけ頭か切れる人物は、そう多くはない」

 くそ、こいつと話していると何だか心の底を覗かれてくるような気分になる。

「人神教は確かに儂が育てた。だけど儂は何もしておらん。遥か昔に、人神教は儂の手を離れておる」
「では、何で教祖の座に留まっている」
「決まっているではないか。観察をするためだ」
 
 エルフは両手を上げて、恍惚とした表情で話し始めた。

「儂の作った組織が、儂の手を離れたらどうなるのか。そしてどのような結果になるのか。そう、これは壮大な実験でもあるのだ」
「つまりお前は、この人神教がどうなっていくのか見ていただけなのか?」
「基本はな。しかし時として組織は硬直する。だから、たまにお告げをしてやったのさ」

 この人神教、ひいては人神教国自体が教祖の実験と言い切った。
 やはり、こいつも頭がイカれてしまっているぞ。

「人神教国が犯罪組織化し、知っての通り他国への介入や人身売買。そしてご覧の通りの薬物汚染まで、全て人神教が己の意志で判断し行ったこと。儂はその経過を見ていただけじゃ」
「あくまでも、自分はただの傍観者と言いたげだな」
「そのように言っている。しかし、ここ数ヶ月の変化は実に見応えがあった」

 目をかっと見開き、涎を垂らしながら演説をするように話しだした。

「君のようなイレギュラーの存在が現れてくれたお陰で、どんどんと人神教は変化していった。それこそ一日違えば、全く別の組織に変わるくらいだ。実に興味深い変化だった」
「俺はただ、自分と身の回りの人を守りたいだけを思って活動していただけさ」
「そのような人物は過去にもいたが、我々を崩すだけのうねりは作れなかった。それはただの想定内の結果でしかない。今、我々は崩壊の瀬戸際にある。それだけの力を持つものだから、君はイレギュラーなのだ」

 教祖は俺のことを指差した後、何故か拍手をしていた。
 まるで、俺という存在を待っていたかの様な感じだぞ。

「お前はエルフらしくないな。まるで人間の様な、自分の理論を極める研究者に見える。マッドサイエンティストだ」
「君と同じだからだよ。儂には分かるのさ。聖女サトー、いや転生者サトーと呼んだ方がいいのかな?」
「「「え?」」」

 俺とミケ、そして教祖以外は一斉に俺の事を驚いた目で見ている。
 その反応を見て、教祖は笑いだした。

「おやおや、そこの猫耳のお嬢ちゃんも転生者だったのか。これは愉快愉快」
「ミケは関係ないぞ。しかし、何故俺の事を見抜いた」
「簡単な話だよ。儂の話の胡散臭さ、そしてその奥底にあることを見抜いたからさ」
「なに?」
「学の無いものは、儂の話を理解できない。それこそ、この世にはない崇高な教えと崇められたよ。しかし、君は儂の事を怪しいと思った。そう、怪しいと思うだけの知識と経験がある」

 そして、教祖は語りだした。

「儂はとある科学者だった。儂は本当に研究に打ち込んでしまう性格でね。ある日、とてもいい理論を思いついたんだよ。熱中してしまったのさ。気がついたら、過労死をしてしまったらしい。しかし、儂は知識欲の中で死ねたのだから、過労とは思わなかったがな」
「そして、この世界にエルフとして転生した。何故か前世の知識を持ってな。この世界は、余りにも科学が発達していない。しかし、宗教はあった。なら、その宗教がどの様に変化するのか観察を始めたのだよ」
「幸いにして私はエルフ。とても寿命が長い。いやあ、とても都合のいい体だったよ。長い間変化を観察ができるのだから。研究者として、これ程の喜びはないのだよ」
「始まりから成長。そして正に今滅びようとしている。実に興味深い変化だよ」

 元々マッドサイエンティストだったのか。
 ならこの人神教に関する事も、実験の一部と言い切れるのか。

「でも、お前は大きなミスを犯した。俺らは、実験で使われるモルモットではない。今をこうして生きている人間だ。実験室内でとどめておくべき事を、こうして世の中に当てはめるべきではない」
「そこは知識欲が倫理を勝ったと言ってくれ。儂にも倫理はあったが、とうになくなってしまったよ」
「やはりお前は、この世界にいていい存在ではない。排除させてもらう」
「それはどうかな? 観察の邪魔をされる事の対策をしていないと、本当に思っているのかな?」
「だから全員に魔法障壁を張らせたんだ。こうしてお前がのうのうと話をしている間に、何かしらの事をされないように警戒をしていたのだよ」
「ハハハ、やはりお前は転生者だ。実に思慮深いよ」

 そう言って、教祖が立ち上がった。
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