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帰還、そして出産
51 米の飯1
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慎也の自宅は純日本建築で、この地方独特の『高屋敷』という建て方になっている。
周りを川に囲まれた「輪中地帯」であり、水害の非常に多い地域であった。そこで、屋敷の敷地ごと、盛り土と石垣で高くしてあるのだ。
石段を上がって門があり、「カド」と呼ばれる広場。正面奥に母屋、向かって右に離れと外便所。左に庭で、左奥には、さらに石垣で高くなった『水屋』と呼ばれる建物がある。水屋は洪水の際の避難場所だ。
もちろん、これは地主や裕福な家の建て方であり、この地方の家全てがこういう造りになっている訳ではない。
当然、豪邸の部類。その中でも、この高屋敷は格段に大きいモノだ。
慎也一人には大き過ぎて、使い辛《づら》いこと、この上ないのだが、譲られたものであり、仕方ない。
母屋は二階建て。二階は倉庫のようになっていて、箪笥やら長持やらが置かれている。一階は広い座敷で、先代の時は神社の会議や宴会用に使われていたようだ。今はそのような機会も殆ど無く、普段は使用していない。
水屋は、一般的には食料などを備蓄する倉庫になっていることが多い。だが、慎也のところのは、通常サイズよりも、かなり大きい。倉庫機能もあるが、一階半分は居室にも使えるようになっていて、便所も併設。二階は書庫・居室になっている。ただ、敷地一番奥だし、高くなっている分、階段も上がらなければならない。面倒なので、ここも普段使用していない。
慎也が主に使っているのは「離れ」である。
門から一番近い位置にあり、こちらも二階建て。本来は納屋を兼ねた住居建物で、一階は作業場や農機具倉庫であったり、昔であれば農耕に使う牛を飼っていたりもするところだ。しかし、慎也が受け継いだ時には、内部がきれいに改装されていて、普通の住居になっていた。新しい風呂もある。(元々の五右衛門風呂は母屋に付属して現存。)本来は外にしか無いはずの便所も中に作られ、しかも洗浄機付きだ。
晩年の大叔父は神社の社務所で寝起きしていて、自宅は会議用にしか使っていなかった。慎也も高校時代は社務所で生活していたのだ。
だが、慎也が跡を継ぐのだからということで、彼の大学在学中に大叔父が離れを改装しておいてくれたのだった。
台所は母屋の右奥張り出し部分。この部分で、離れと母屋が繋がっている。元は土間になっていて、竈が設置してあった。今は改装で、半分板間、半分土間となり、竈は以前のまま使える。
慎也たちは離れの玄関から入って、台所へ行った。
「面倒だけど、竈の方が美味しく早く炊けるから、久しぶりに使ってみるかな」
慎也は、毎日竈でご飯を炊いていたのではない。一人分だと面倒だし、炊飯器であれば、そのまま保温もできる。だから、竈で炊くのは、気が向いたときだけだ。
それでも、たまに使っていたのは、やはり、美味しいから。そして、その美味しい御飯を、舞衣たちにも食べさせたかったのだ。
米を研ぎ、研いだ米を水に浸けておいて、竈の準備を始める。
「すご~い。私、こんなの初めて見る!」
舞衣は興味津々である。舞衣の実家も長野の超田舎だが、竃は使っていなく、炊飯器だった。
祥子も珍しそうに見ている。祥子は平安時代ぶりのことだ。しかも、貴族の出身であり、自分で米を炊いたことは無い。また、その時代は主に蒸した『強飯』、つまり、おこわのはずだ。
神社で拾って来て溜めてある杉葉や松葉を入れ、細枝をその上に乗せる。釜を洗い、竃に設置。水に浸けてあった米を入れ、掌を米の上に乗せて水を入れ、水加減を調節する。
木の蓋をし、竃の焚口から中の葉にマッチで火をつけた。
「な、なんじゃ、その不思議な木は!」
驚く祥子を、不思議そうにみる舞衣。
そう、祥子はマッチを知らない。当然、ライターも。そんなものは、平安時代には無かった。仙界では木を摩擦して火を起こし、その熾きに灰をかぶせて消さないようにして使っていた。その都度、摩擦で火を起こすのは大変だからだ。
慎也が火を付けている間に舞衣からマッチやライターの説明をうけ、祥子は頻りに感心している。
舞衣の方は、慎也の手際に感心していた。本当に手馴れている。そういえば、サバイバル的なことが好きと言っていたのを思い出した。
周りを川に囲まれた「輪中地帯」であり、水害の非常に多い地域であった。そこで、屋敷の敷地ごと、盛り土と石垣で高くしてあるのだ。
石段を上がって門があり、「カド」と呼ばれる広場。正面奥に母屋、向かって右に離れと外便所。左に庭で、左奥には、さらに石垣で高くなった『水屋』と呼ばれる建物がある。水屋は洪水の際の避難場所だ。
もちろん、これは地主や裕福な家の建て方であり、この地方の家全てがこういう造りになっている訳ではない。
当然、豪邸の部類。その中でも、この高屋敷は格段に大きいモノだ。
慎也一人には大き過ぎて、使い辛《づら》いこと、この上ないのだが、譲られたものであり、仕方ない。
母屋は二階建て。二階は倉庫のようになっていて、箪笥やら長持やらが置かれている。一階は広い座敷で、先代の時は神社の会議や宴会用に使われていたようだ。今はそのような機会も殆ど無く、普段は使用していない。
水屋は、一般的には食料などを備蓄する倉庫になっていることが多い。だが、慎也のところのは、通常サイズよりも、かなり大きい。倉庫機能もあるが、一階半分は居室にも使えるようになっていて、便所も併設。二階は書庫・居室になっている。ただ、敷地一番奥だし、高くなっている分、階段も上がらなければならない。面倒なので、ここも普段使用していない。
慎也が主に使っているのは「離れ」である。
門から一番近い位置にあり、こちらも二階建て。本来は納屋を兼ねた住居建物で、一階は作業場や農機具倉庫であったり、昔であれば農耕に使う牛を飼っていたりもするところだ。しかし、慎也が受け継いだ時には、内部がきれいに改装されていて、普通の住居になっていた。新しい風呂もある。(元々の五右衛門風呂は母屋に付属して現存。)本来は外にしか無いはずの便所も中に作られ、しかも洗浄機付きだ。
晩年の大叔父は神社の社務所で寝起きしていて、自宅は会議用にしか使っていなかった。慎也も高校時代は社務所で生活していたのだ。
だが、慎也が跡を継ぐのだからということで、彼の大学在学中に大叔父が離れを改装しておいてくれたのだった。
台所は母屋の右奥張り出し部分。この部分で、離れと母屋が繋がっている。元は土間になっていて、竈が設置してあった。今は改装で、半分板間、半分土間となり、竈は以前のまま使える。
慎也たちは離れの玄関から入って、台所へ行った。
「面倒だけど、竈の方が美味しく早く炊けるから、久しぶりに使ってみるかな」
慎也は、毎日竈でご飯を炊いていたのではない。一人分だと面倒だし、炊飯器であれば、そのまま保温もできる。だから、竈で炊くのは、気が向いたときだけだ。
それでも、たまに使っていたのは、やはり、美味しいから。そして、その美味しい御飯を、舞衣たちにも食べさせたかったのだ。
米を研ぎ、研いだ米を水に浸けておいて、竈の準備を始める。
「すご~い。私、こんなの初めて見る!」
舞衣は興味津々である。舞衣の実家も長野の超田舎だが、竃は使っていなく、炊飯器だった。
祥子も珍しそうに見ている。祥子は平安時代ぶりのことだ。しかも、貴族の出身であり、自分で米を炊いたことは無い。また、その時代は主に蒸した『強飯』、つまり、おこわのはずだ。
神社で拾って来て溜めてある杉葉や松葉を入れ、細枝をその上に乗せる。釜を洗い、竃に設置。水に浸けてあった米を入れ、掌を米の上に乗せて水を入れ、水加減を調節する。
木の蓋をし、竃の焚口から中の葉にマッチで火をつけた。
「な、なんじゃ、その不思議な木は!」
驚く祥子を、不思議そうにみる舞衣。
そう、祥子はマッチを知らない。当然、ライターも。そんなものは、平安時代には無かった。仙界では木を摩擦して火を起こし、その熾きに灰をかぶせて消さないようにして使っていた。その都度、摩擦で火を起こすのは大変だからだ。
慎也が火を付けている間に舞衣からマッチやライターの説明をうけ、祥子は頻りに感心している。
舞衣の方は、慎也の手際に感心していた。本当に手馴れている。そういえば、サバイバル的なことが好きと言っていたのを思い出した。
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