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梅干しと、父の思い

51 父さんの覚書

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 二人が帰って、ビンちゃんと私だけ。
また今度、また今度と、結局放置していた父さんの部屋の片づけをしています。
…今日は、また父さんの話になりましたからね。
いい加減に、整理しようかと…。

 父の部屋…。本がいっぱい。
あ、アルバム…。お母さんの写真も有る。お母さんって、かなりの美人さんなのよね。
ビンちゃんも興味深そうに覗き込んでいる。
 私の小さい頃の写真もあるね。当然ながら小っちゃい頃から金髪白肌の赤眼。目立つよね。まあ、自分の見てても仕方ないな…。

 うん? あら、ここに、漬物の本も有るじゃない!
本棚の上の方。かなり年季の入った本ね。黄ばんでいる。
 奥付を見ると、昭和31年発行って…。え~、古すぎない?
でも、ここにあるってことは、父さんはこの本を見て梅干しを漬けていたに違いない!

 目の色変えた私の様子に、怪訝な表情を向けるビンちゃん。
でも、私はそれどころでは無い。この本にヒントがあるのかもしれないのです。

 急いで目次を見て、梅干しのページを開くと…。
パラッと一枚の紙が落ちる…。

 ん?メモ書き?

 あ、これ、多分、お父さんの字!!

 それは、梅干しの漬け方の覚書でした。
それが挿んであった本の梅干しのページも見てみると、そこにも書き込みがある…。

「男文字だな。こっちの紙の字とは違うな」

とは、ビンちゃん。横から覗き込んでいます。
昼間はあまり興味なさそうにしてたけれどね。実は興味あったのかな?

 でも、お父さんでない男文字。誰の字?

 挿んであった紙には、梅干し漬けの細かな注意まで丁寧に書かれています。
レイラが難しいって言っていた塩加減は、梅の重さの15%で、これよりも減らすと腐敗すると書かれている!
今の減塩の量と、昔の量のちょうど中間ってことかな。
 本の方を見てみると、元々書いてある塩の量は2割か。つまり、20%。やっぱりこれが本来の量なんだ。
でも、その本の記述を二重線で消して、1割7分と書き込んである。
覚書の塩の量とは違う。これは、どういうこと?

 それにしても、この覚書…。細かなことまでシッカリ丁寧に書かれてる。
自分の覚えというよりは、まるで、誰かに製法を知らせる為に…。
 タカイの小父さんにでも伝えようとしていたのかな?

「ハルカよ。昔の事が知りたいなら、ナギに訊いたらどうだ?」

 疑問符を浮かべまくっている私の様子を見かねたのか、ビンちゃんからの助言です。

「え? あ、そうか。ナギさんか…」

 そうですよ。この地の事なら、氏神様のナギさんが誰より詳しいはずです。
 父さんの好物まで知っていたナギさん。
それに、この前、私と父さんが「同じ考え方をする」なんて思わせぶりなこと言われて、気になってもいたんです。
 丁度明日は月曜日。ナギさんが来る日でもあります。訊いてみましょうよ。



 毎週月曜日の夕刻は、ナギさんとのお食事会。第一回目の事はお話ししましたよね。
 次の二回目はこい料理をお出しする約束でした。
タカイの小父さんに事前に頼んで置き、鯉を仕入れてもらいました。
『鯉の洗い』と『うま煮』は小父さんのところで調理してもらい、私は『鯉汁』を作りました。
 鯉汁=鱗を取ったブツ切りの鯉を入れた味噌汁。まあ、富山の『たら汁』の様なモノですよね。
ただ、具は鯉と木綿豆腐で、使う味噌はこの地方の赤味噌です。
味は少し濃い目にした方が良いということ。…コイだけに?
否、そういうことじゃなくて、川魚特有の臭みを消す為…。

 その鯉料理のお味の方はといいますと、やっぱり少し癖があるかな…。それに、小骨が凄く多い。私としては、あまり好みでないかも。
 でも、ビンちゃんとナギさんは喜んでましたよ。
私の好みはどうでも良いです。二柱に喜んで頂けたなら、OKです。


 ということで、今回が三回目なんですね。
 ナギさんからの次のリクエストは漬物って…、渋いな。
お肉がダメな御方だから、まあ、こんなもんか。
 で、お出しするのは滋賀に行ったときに買ってきてあった鮒鮨ふなずしです。
塩漬けしたフナを、炊いたご飯と一緒に一年くらい漬け込んだ保存食です。
これも有る意味「漬物」ですよね!
 買うの迷ったんですけど、名物だってことで買ってきておいて良かったよね…。
前回に続いての川魚ですね。

 鮒鮨は、と~っても臭いと有名な物。
だけど、高級品なんですよ。一匹五千円もしましたからね。
だから、これがメインで~す。
 実は、私も、まだ食べたことない。
ちょっとというか、かなりの冒険ですね。

 そして、これ一品という訳にはゆきませんので、野菜の漬物も何種かご用意しました。
…な~んて言っても、自分で漬けたのではなく、タカイで買って来ただけですが。
 今回、全部買ったものですね。
手っ取り早く済ませてしまいまして申し訳ありません。てへぺろっ。
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