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美雪と早紀

3 異能力1

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 朝食を終え、慎也と舞衣は着替えて、職場である奈来早神社へ出社する。
 慎也は、一応この神社宮司、責任者である。慎也家族は職員という訳では無いが、否応なく手伝うこととなっている。

 祥子は、片付けと洗濯をしてから神社へ行くことになった。
 それまで、食事準備以外の家事は第四夫人沙織がしていたが、沙織は実家へ強制召喚中。居なくなってしまったので、家事全般を祥子が引き受けたのだ。
 こうなってくると、ますます召使いみてきてしまい、正妻の舞衣は少し後ろめたい。妾とはいえ、使用人扱いするつもりはサラサラないのだ。
 が、当の本人は、全く気にしていない様で、お役目が増えたことを逆に嬉しそうにしていた。根っからの働き者である。千歳超えの仙女で、平安貴族のお嬢様なのに……。


 今日は日曜日。普通であれば、神社は忙しくなるはず。
 だが、どうも朝から天気が怪しい。昨夜は、綺麗な月の出る良い天気であったのに…。
 家事を終えた祥子が神社に着くころには、ついに雨が降り出してしまった。

「あ~あ。これは、今日は暇になるな……」

 慎也の独り言。だから、答えを期待したモノでもないし、特に誰も答えない。

 掃除も終え、お守りの整理も終えた。
 雨は本降りとなり、朝の内はポツポツとあった参拝客も完全に途切れてしまった。

 時計は、午前十一時を指す。昼には、まだ少し早い。

 社務所受付には、女子大生バイト巫女の美雪と早紀が、暇そうに坐っている。
 聞こえてくるのは、雨の音だけ・・・。
 今日は、娘たちとの別れの翌日だ。これでは、寂しい気持ちが増幅されてきてしまう。参拝客が多くて忙しいのであれば、それにまぎれてしまうことなのだが、全く、嫌な天気である。

 舞衣も同じ様なことを考えていたのだろうか、唐突に、祥子に話しかけた。

「ねえ、祥子さん。私たち、祥子さんに、特殊な能力を引き出してもらったじゃない?
 あれ、誰にでもあるのよね」

 特殊な力……。慎也も舞衣も、千年超を仙界で過ごして異能を持った仙女の祥子に、治癒の力・テレパシーの各能力を引き出してもらったのだ。
 祥子もすることが無くて退屈そうに壁にもたれて坐っていたが、ゆっくり顔を上げて答えた。

「ああ、そうじゃな。人により、種類や強弱は様々だがな」

「じゃあ、受付の二人も、どうかな。もう身内同然だし、特殊能力があると便利だと思うけど」

 ニヤッと笑いながら祥子は、またゆっくりと舞衣に向かってうなずく。
 慎也も同感。確かに、その通り。それに、退屈しのぎの、良い余興だ。なんといっても、あの、能力の引き出し方は……。
 苦笑しながらも、慎也は受付の二人を呼んだ。

 雨は降り続いている。境内に参拝客は見当たらないが、念のため、人がこないか見張っている必要がある。
 慎也が受付を代わり、美雪と早紀は、中の部屋へ入った。

 舞衣からの、二人の能力を引き出したいとの提案。
 慎也が治癒の異能を、舞衣がテレパシーを使えることは、二人とも既に知っていた。祥子が色々な能力を持っていることも…。
 そして、舞衣たちの能力は祥子に引き出してもらったということも、聞いていた。

 が、その引き出し方までは、彼女たちは、まだ知らないし、舞衣も意地悪なことに、それについては教えない。
 提案という形での話だが、否やはあり得ず、中半、強制的なものだ。すぐさま、二人の能力を引き出すことになった。


 まずは、美雪から…。
 ニヤつく舞衣を不審視しながらも、自分にどんな能力があるのかと、美雪は期待顔。
 大学生にはとても見えない童顔幼児体型の彼女は、まさにドキドキワクワクの小学生といった感じだ。

 指示された通り、直立不動。手の指もまっすぐそろえて、美雪は立った。

 その正面に、祥子が立つ。
 美雪は一五〇センチちょっとの、低身長。祥子は逆に、一八〇センチに届こうかというくらい背が高い。祥子はかがみ、美雪の顔に自分の顔を近づけた。

「ほ~。これは、これは。透視の力じゃな」

「透視?」

 美雪は、疑問符を浮かばせ、少し顔をかしげた。

「うむ、恵美のような、千里も見渡すというわけには行かぬがな。目前のモノは透かして見ることが出来るぞ」

 かなり顔を近づけ合いながらの会話。
 祥子は、美雪の肩に手を掛ける。

 そして!

「ふぐ~!ふ、ふぐ、ふぐ~!」

 美雪は、祥子に唇を奪われた・・・。

 目を見開いてる早紀と、クスクス笑っている舞衣。
 慎也は障子しょうじ越しに、(やられちゃってるな…)と、中の様子を想像して再度苦笑していた。

 祥子とのディープキスから解放された美雪…。
 なんとも情けない顔をして、そのまま動かない。

「こりゃ、美雪。もう終わったぞ。試してみよ。透視したいものを見ながら、念ずるだけじゃ」

「そ、そう言われましても・・・」

 美雪はキョロキョロと辺りを見回し、親友である早紀に視線を止めた。が…、

「ダメ!!」

 怒鳴りながら、早紀が猛烈な勢いで美雪にダッシュした。そして、美雪の顔を両手で左右からガシッとつかみ、視線をグイッと舞衣に変えさせた。

「なによ~。そんなに怒らなくても良いじゃない…」

 美雪は泣き出しそうな顔をしている。
 慎也も、何事が起きたかと障子を開けて中をのぞき込んだ。

「ご、ゴメン、美雪…。でも、見るなら綺麗なモノを見なさい!!」

 まあ、確かにそれも一理あるかもしれない。美雪は、早紀に顔を固定されたまま、舞衣を注視した。
 その舞衣は、早紀の思い掛けない反応に驚き硬直している・・・。

 ……少しの沈黙。そして。

「うわ~。やっぱり、舞衣さん綺麗」

 美雪の顔が、徐々に赤くなってくる。

「う、うわ、ここまでいくと、これは、ちょっと…。うわ~」

「な、なによ~。美雪ちゃん!」

 このパターンは・・・。
 舞衣は、恵美が能力を得た時のことを思い出していた。

「ゴメンナサイ。いや、ちょっと、というか、かなり中まで見過ぎちゃいました。只今、物凄くグログロ状態で…」

「い、いやだ~!」

 やはり、予想通りである。そして、さらに…。

「あ、あれ?舞衣さん、便秘気味ですか?」

「いやだ~!止めてってば!」

「ホッホッホ。恵美と同じことを言っておる」

 祥子の笑いに、舞衣も苦笑した。

 早紀の突飛な行動で微妙な雰囲気になりかけていた空気は、すぐに普通に戻る。慎也は、そっと障子を閉めた。
 しかし、冷静な早紀にしては珍しい行動だった。女同士で裸を透視されるのが、そこまで嫌だったのか…。
 でも、まあ、透かして見られるのは、気分良いもので無いには違いない。
 自分がされたらと思うと…、やはり勘弁して欲しい。
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