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祖父からのプレゼント
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しおりを挟む「……時計、ですか?」
「うん、そう。懐中時計だよ」
フールさんの、手の中で、キラキラと光っているのは、金色の、懐中時計だった。特に変わった見た目ではないが、僕はまた、首をかしげる。
そもそも、今、時計というものは、コレクションとして、持っている人が、ほとんどなのだ。サポートロボットが、常についているから、時間の心配をすることはないし、時計を持っていたとしても、もっと機能のついた、デジタル時計を持つ。
ふわふわと笑っている、フールさんに差し出されて、僕は、懐中時計を手に取った。手の中で、カチカチと針が動く。
「フールさん。この時計には、なんの意図が、あるのでしょう。解析をすることが、できないように、プログラムまで、組んでありますね。これは、メインコントロールに、報告するべきものだと、考えます」
「僕が、人に渡す物に、君以上の、チェックが入らないとでも、思うのかい? だから、ワザと、報告する前に、言ったんだろう?」
フールさんが、チィに向かって、ふわふわした笑顔のまま、言った。
「その通りです。ですが、意図は、全く読み取れません」
「プレゼントは、心だよ。想いであって、意図ではないものさ」
「その理解はできませんが、意味はわかりました」
僕は、チィと、フールさんの、会話を聞きながら、懐中時計を、見つめていた。
手の中で、カチカチと動く秒針に、今までに、感じたことのない、安心感を覚えるのは、何故だろう。
「ロキ、心が安定していますね」
「うん……なんでだろう。この時計を見ていたら、凄く、穏やかな、気持ちになるんだ」
僕は、手の中で、ギュッと時計を握りしめてみた。針の鼓動が、手に伝わってくる。まるで、時計が、生きているようだ。
「気に入って貰えたようで、良かった。首から下げても良いし、ポケットにも、入れられる。大事に、持っていてくれたら、嬉しいな」
僕は、フールさんの言葉に、笑顔で頷くと、お礼を言った。
でも、なんで、おじいちゃんは、この時計を、フールさんに、預けていたんだろう?
十六歳の、お祝いと言えば、それまでだけれど……。そう思ったけれど、僕は、それ以上に、この時計が気に入って、しばらく、眺めていたのだった。
「本当に、素敵な時計ね」
ルカが、僕の手の中にある、時計を見ながら、ニッコリと笑った。
「うん。僕が、十六歳になる前に、渡すようにって。どういう意味かは、分からないけれど、なんだか、凄く、嬉しいんだ」
「良かったわね。それで、ルトは、十六歳になったら、どうするか、決めたの?」
「うーん……。研究職に、向いているなら、やってみようかなぁと、思ってるんだ。もしかしたら、フールさんと、同じ場所で、働けるかもしれないしね」
僕は、正直、自分が、研究者になることに、実感が沸いていなかった。
でも、ルカのように、やりたいことがあるわけではないし、生まれたときから、ずっとデータを取ってくれている、チィが、向いていると、判断してくれたのだ。
「そう……。私はどうしようかしら……。国の、上の方から、色々と、お誘いはして貰っているから、そこから、決めるしかないのかもね」
「ルカ、悲しそうだね」
少し、目を伏せていたルカが、心配になって言った僕に、ルカは、力なく笑った。
「大丈夫よ。ロキまで、悲しそうな顔をしないで」
「う……ん」
「ロキ、ルカは、自分で考えることができ、的確な答えを、出すことができます。だからこそ、サポートロボットが、ついていないのです。心配しなくても、大丈夫ですよ」
チィの言葉に、僕は頷いたけれど、悲しそうなルカが、心配なことは、言わないでおいた。
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