この世界で生きていく

Emi 松原

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生まれる命、去る命

1-2

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「エミリィさん、一体……」
「スタウロの子供が、産まれるのよ。スタウロは、商業地区の龍と、つがいになってたんだけど。卵が、動き始めたって、連絡があったの」
 ルカの言葉をさえぎって、エミリィさんが、説明してくれた。その間も、スタウロは、何度も、僕の体を押す。
「龍の誕生が見られるのは、少ないから、良い機会だと思って。迎えに来ようと思って、外に出たら、先にこいつが、ロキを呼びに行っていたんだ」
 ライキさんの言葉に、僕は、スタウロを見た。スタウロも、僕の目を見て、また、僕の体を押す。
「一緒に行って良いの?」
 僕の言葉に、スタウロが、小さく鳴いてくれた。

 スタウロの、パートナーの龍は、いつも、日常依頼でお世話になっている、ご飯屋さんの、龍だった。小屋があったのは、知っていたけれど、卵があったことは、全く知らなかった。
 ご飯屋さんは、僕たちを見ると、嬉しそうに、中に入れてくれる。スタウロは、僕たちが入る前に、スタスタと入っていた。
 わらに包まれた、巣の中に、大きな龍の卵が四つ、カタカタと動いている。エミリィさんと、ノルさんが、何かあったときの為に、治癒魔法を準備する。ノルさんが、治癒魔法を使えることを、僕は、はじめて知った。
「龍が誕生する時は、自分で、殻を破って出てくるまで、手助けしちゃいけないんだ。出てきた後も、手助けするには、必ず、親になる龍の許可がいる」
 ライキさんが、見学する為に、注意することを教えてくれて、僕たちは、黙って、卵を見守った。
 パキッ、パキッと、音がして、少しずつ、卵に、ヒビが入っていく。ぐらぐらと、卵は揺れながら、中で、一生懸命、赤ちゃん龍が、殻を破ろうとしているのが分かった。
 一匹目が、殻から、飛び出してきた。とてもとても小さくて、この子が、スモ爺や、スタウロみたいに、大きくなるなんて、信じられない。続いて、二匹目、三匹目と飛び出してきて、スタウロと、ご飯屋さんの龍は、飛び出してきた赤ちゃん龍を、一生懸命舐めている。
「少し、時間がかかっているわね」
 エミリィさんが、真剣な顔をして、ライキさんに言った。ライキさんが、黙って頷く。
 最後の一匹は、まだ、飛び出してきていない。卵は、ぐらぐら動いているけれど、他の三匹と比べたら、その動きもゆっくりだ。
  僕は、少し怖くなった。この子は、無事に、産まれてくることが、できるのだろうか。手助けしてはいけないということは、何があっても、何もできないということだ。
「ロキ、外に出た方が良いです」
「……スタウロが、僕を、呼びに来てくれたんだ。僕は、ここにいるよ」
 チィの言葉に、反論した僕に、誰も、何も言わなかった。チィが、何か言ってくるかと思ったけれど、そのまま、黙っている。
 ゆっくりと、卵のヒビから出てこようと、赤ちゃん龍が、動いているのが、分かった。スタウロも、舐めるのをやめて、じっと、その卵を見つめている。
 時々、卵の動きが止まる。その度に、もう、駄目なんじゃないかと、怖くなった。それでも、誰も、目を背けていなかった。
 その時。殻のヒビの隙間から、赤ちゃん龍が、顔を覗かせた。もう少しだ!
「頑張れ!!」
 とっさに、僕は、赤ちゃん龍に向かって、叫んでいた。何故か分からないけれど、涙が頬をつたう。
 一生懸命、ゆっくりと、自分で殻を破っている、目の前の、赤ちゃん龍。その姿は、自ら生きる、という意思が、伝わってくるようだった。
 ころん、と、卵が転がって、その衝撃で、最後の赤ちゃん龍が、殻から出てきた。
「やったぁ!! スタウロ! やったね!!」
 夢中で、泣きながら叫んだ僕に、スタウロは、小さく鳴いて、答えてくれた。
「やっぱり、体力が切れそうね。少し、手を出させてもらうわよ」
 エミリィさんが、ご飯屋さんの龍に向けて、早口で言った。龍は、何かを伝えるように、エミリィさんに鳴いていて、エミリィさんは、黙って頷く。
「ルカ。こっちに来て、産まれたばかりの龍への対応を、覚えておきな」
 エミリィさんが、ルカに、手招きをする。
 慌てて、駆け寄ったルカの目も、涙で濡れていた。
「俺の出番がないくらいで、良かったよ」
 ノルさんの言葉に、ライキさんも、安心したように頷く。
 誰もが、新しい命の誕生を、喜んでいるのが、伝わってきた。
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