46 / 83
生まれる命、去る命
1-2
しおりを挟む「エミリィさん、一体……」
「スタウロの子供が、産まれるのよ。スタウロは、商業地区の龍と、つがいになってたんだけど。卵が、動き始めたって、連絡があったの」
ルカの言葉をさえぎって、エミリィさんが、説明してくれた。その間も、スタウロは、何度も、僕の体を押す。
「龍の誕生が見られるのは、少ないから、良い機会だと思って。迎えに来ようと思って、外に出たら、先にこいつが、ロキを呼びに行っていたんだ」
ライキさんの言葉に、僕は、スタウロを見た。スタウロも、僕の目を見て、また、僕の体を押す。
「一緒に行って良いの?」
僕の言葉に、スタウロが、小さく鳴いてくれた。
スタウロの、パートナーの龍は、いつも、日常依頼でお世話になっている、ご飯屋さんの、龍だった。小屋があったのは、知っていたけれど、卵があったことは、全く知らなかった。
ご飯屋さんは、僕たちを見ると、嬉しそうに、中に入れてくれる。スタウロは、僕たちが入る前に、スタスタと入っていた。
わらに包まれた、巣の中に、大きな龍の卵が四つ、カタカタと動いている。エミリィさんと、ノルさんが、何かあったときの為に、治癒魔法を準備する。ノルさんが、治癒魔法を使えることを、僕は、はじめて知った。
「龍が誕生する時は、自分で、殻を破って出てくるまで、手助けしちゃいけないんだ。出てきた後も、手助けするには、必ず、親になる龍の許可がいる」
ライキさんが、見学する為に、注意することを教えてくれて、僕たちは、黙って、卵を見守った。
パキッ、パキッと、音がして、少しずつ、卵に、ヒビが入っていく。ぐらぐらと、卵は揺れながら、中で、一生懸命、赤ちゃん龍が、殻を破ろうとしているのが分かった。
一匹目が、殻から、飛び出してきた。とてもとても小さくて、この子が、スモ爺や、スタウロみたいに、大きくなるなんて、信じられない。続いて、二匹目、三匹目と飛び出してきて、スタウロと、ご飯屋さんの龍は、飛び出してきた赤ちゃん龍を、一生懸命舐めている。
「少し、時間がかかっているわね」
エミリィさんが、真剣な顔をして、ライキさんに言った。ライキさんが、黙って頷く。
最後の一匹は、まだ、飛び出してきていない。卵は、ぐらぐら動いているけれど、他の三匹と比べたら、その動きもゆっくりだ。
僕は、少し怖くなった。この子は、無事に、産まれてくることが、できるのだろうか。手助けしてはいけないということは、何があっても、何もできないということだ。
「ロキ、外に出た方が良いです」
「……スタウロが、僕を、呼びに来てくれたんだ。僕は、ここにいるよ」
チィの言葉に、反論した僕に、誰も、何も言わなかった。チィが、何か言ってくるかと思ったけれど、そのまま、黙っている。
ゆっくりと、卵のヒビから出てこようと、赤ちゃん龍が、動いているのが、分かった。スタウロも、舐めるのをやめて、じっと、その卵を見つめている。
時々、卵の動きが止まる。その度に、もう、駄目なんじゃないかと、怖くなった。それでも、誰も、目を背けていなかった。
その時。殻のヒビの隙間から、赤ちゃん龍が、顔を覗かせた。もう少しだ!
「頑張れ!!」
とっさに、僕は、赤ちゃん龍に向かって、叫んでいた。何故か分からないけれど、涙が頬をつたう。
一生懸命、ゆっくりと、自分で殻を破っている、目の前の、赤ちゃん龍。その姿は、自ら生きる、という意思が、伝わってくるようだった。
ころん、と、卵が転がって、その衝撃で、最後の赤ちゃん龍が、殻から出てきた。
「やったぁ!! スタウロ! やったね!!」
夢中で、泣きながら叫んだ僕に、スタウロは、小さく鳴いて、答えてくれた。
「やっぱり、体力が切れそうね。少し、手を出させてもらうわよ」
エミリィさんが、ご飯屋さんの龍に向けて、早口で言った。龍は、何かを伝えるように、エミリィさんに鳴いていて、エミリィさんは、黙って頷く。
「ルカ。こっちに来て、産まれたばかりの龍への対応を、覚えておきな」
エミリィさんが、ルカに、手招きをする。
慌てて、駆け寄ったルカの目も、涙で濡れていた。
「俺の出番がないくらいで、良かったよ」
ノルさんの言葉に、ライキさんも、安心したように頷く。
誰もが、新しい命の誕生を、喜んでいるのが、伝わってきた。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる