この世界で生きていく

Emi 松原

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生まれる命、去る命

1-3

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 ふと、僕の肩に、誰かが手を置いた。振り向くと、ご飯屋さんが、僕を、微笑んで見ていた。
「ずっと、心配していたんだよ。元気そうに振る舞っていても、隠せていなかったから」
「……」
「この子たちは、スモ爺が繋いだ、命。この子たちの存在自体が、スモ爺が、生きた証なんだ。そして、何より、私たちには、スモ爺からもらったものが、沢山あるだろう?」
「それは……」
 僕は、ご飯屋さんの顔を見つめる。そこには、あたたかい笑顔があった。
「スモ爺の目、顔、声、手触り、乗り心地、そして、何気ない毎日の、思い出。全て、スモ爺が、私たちにくれたんだよ。だから、例え、スモ爺が死んでも、それらは、全て、残るんだよ。そして、これから、また、この子たちが、新しいものを、沢山くれるんだ」
 僕の目から、また、涙がこぼれ落ちる。
「ロキ。今の君に、この光景を見せることができて、本当に良かったよ」
 ご飯屋さんの、優しくて、あたたかい言葉に、僕は、黙って頷いたのだった。



※※※



「そうか……。フール、それで、ほぼ身一つで、国を出たんだね」
 キラの言葉に、画面越しのフールが、頷いた。暗闇で、ライトもつけていないので、うっすらとしか、その姿は、見えない。
「国境を抜けるまでは、このまま、一人で森を抜けます。僕が、見つかってしまえば、全てが、台無しになる可能性が、あるのですから」
「あぁ、そうだね。長と、エミリィたちには、伝えておくよ。国境を越えたら、すぐに、ライキと、合流できるようにしよう」
「ありがとうございます。いつ、人族が、僕を追い抜かし、攻撃をしかけるか、分かりません。どうか、みんな、無事でいてください」
 フールの言葉に、キラが、真剣な顔で、画面を見た。
「分かった。……フール。ギア王国を出たことを、後悔していないかい?」
「もちろん。確かに、思うところは、沢山あります。ですが、これが、僕の決めた、僕の生き方です。それに……ふるさとに帰るのと、同じですから。それより、心配なのは、ルカちゃんと、ロキくんです」
 キラと、フールは、顔を見合わせると、悲しそうに笑った。
「それでも、進まなければいけない」
「はい。その通りです」
 月明かりだけが、フールを照らしていた。
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