思春期のテロリスト

Emi 松原

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思春期のテロリスト

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第八章 みんな,バイバイ。~ありがとうの気持ち~

 青い悪魔と接触して一週間が過ぎた。
 ソウタに頼んでいた物もできあがり,コウタに頼んだ注文の品も届いた。
 エミは,ひとまず安心すると,部屋でリョウからもらったパソコンでアニメを見ていた。
 エミが大好きなアニメ。何年も続いているシリーズで,普通の女の子が可愛く変身して友人と共に,世界を守るために戦うものだ。
 もちろん子供用なので,エミが暗殺で見てきたような残酷なシーンなどもない。
 しかし子供用のアニメと言っても,改めてじっくり見てみると,どこかとても深いことが描かれているので,エミは集中して見ていた。
 その時,パソコンのメール受信のランプがついた。
 エミは,無言でアニメを閉じるとメールボックスを開いた。
 そのまま無言で読むと,エミはそれを,パソコンをもらったならついでにと接続してもらっていたプリンターで印刷した。
 そしてその紙と,ソウタに作ってもらった物を持ってコウタの部屋へ向かった。

 エミはコウタの部屋を空けた。
 いつも通りコウタはパソコンに向かっていたが,エミの顔を見ると,いつもとは違う,複雑な顔をした。
「エミ,お前に頼まれたこと,成功したよ。・・・今日だってさ。」
「うん。分かってる。」
 そう言って,エミはプリントアウトしてきた紙を見せた。
「お前・・・これ・・・。」
 エミは頷いた。
「私,もう決心はついているよ。コウタ,コウタには昔から本当に世話になってばかりで,私からは何もできなかったね。でも,コウタがいたから,私,ここまでこれた。本物の悪魔にならず,人としての心を保つことができた。・・・ありがとう。」
 エミはコウタに抱きついた。黙って抱きしめるコウタ。
「はい,これ。ソウタに作ってもらったんだ。お得な三点セットだよ。」
 コウタから離れると,何かを差し出すエミ。コウタはその顔をみて,嬉しい気持ちと悲しい気持ちが交差した。
 エミが,笑っていたのだ。昔ほどの満面の笑みではないが,ニッコリと確かに笑っている。
 エミの笑顔を望んでいたはずなのに・・・。
 コウタは,黙って渡された物を見た。
 それは,男物に作られた,紫のチューリップをベースとしたピアス,ネックレス,指輪だった。
「ちょうど紫の宝石が,コウタの誕生石でよかった。花言葉は,知っての通りだよ。私は,シゲルもコウタも永遠に愛してるから。」
 コウタは頷くと,無言でピアスを取り替え,ネックレスをして指輪をした。
「どう?」
 コウタが言った。
「うん,似合ってるよ。あと,これも,よろしく。」
 エミはそう言うと,コウタに何か手渡した。
 コウタは,無言で頷いた。
「また,準備をして時間の前に来るね。」
 エミはそう言うと,コウタの部屋から出ていった。

 エミは一旦部屋に戻ると,今度はコウタに注文してもらった物を持って,部屋を出た。
 そのまま,ユリの元へと行く。
 ユリは,洗濯物を干している最中だった。
「ユリさん。」
 エミが声をかけた。
「あら,エミちゃん,どうしたの?」
 いつもの笑顔でユリが言った。
「ユリさん,突然ですけど,プレゼントです。」
 エミはそう言うと,造花のカーネーションの花束を渡した。
「・・・カーネーション?どうしていきなり?」
 ユリが不思議そうな顔をした。
「ユリさんが前に,みんなの母親みたいな存在でありたいって言っていたのを思い出して・・・。私,テロリストに入ってから,家事は全部ユリさんに任せていたから,お礼がしたかったんです。それで,母の日じゃないけれど,母の日にはカーネーションを贈るからと思って・・・。」
 エミがユリに花束を渡した。ユリは,不思議そうな顔をしたが,笑って
「ありがとう。嬉しいわ。」
 と言った。
「ユリさん,テロリストに入ってからずっと,私に暖かく接してくれて,家事も全部やってくれて,本当にありがとうございました。」
 エミが,頭を下げた。
「エミちゃん・・・?急にどうしたの・・・?」
 ユリが少し不安そうな声で言ったが,エミは首を横に振ると,また一礼してその場から去っていった。

 エミは次にソウタの部屋へ行った。
「あ,エミさん!!」
 ソウタが顔を上げて笑う。
「ソウタ,頼んだもの,全部作ってくれてありがとう。これ,私からのお礼だよ。」
 そう言うと,エミは黄色とピンクの造花が隙間なく入った,綺麗な花かごを渡した。
「わぁ,綺麗ですね!!ありがとうございます!!嬉しいです!!でも,どうして黄色とピンクなんですか?」
 ソウタが言った。
「私の一番好きな色が,黄色とピンクなんだよ。・・・ソウタ,特殊な武器を作ってくれたり,チマオと友達にならせてくれたり,本当にありがとう。何より,テロリストに入ったばかりの,みんなが私を恐れている時から普通に接してくれて,それにいつも遊びに来させてくれてありがとう。私,ここがどんな場所であれソウタと出会えて友達になれてよかった。」
 そう言うと,少しだけエミは笑った。
「エミさん・・・?」
 何かの異変を感じとるソウタ。
「ソウタ,ソウタの造る物は,きっと色々な人の心の支えになると思う。だから,いつもの優しいソウタのまま,物造りを続けてね。」
 そう言うと,エミは背を向けた。
「エミさん!?いったいどうしたんですか!?」
 ソウタが言ったが,エミは無言で出ていった。

 エミは部屋に帰ると,任務の準備をした。
 いつものように緑のコートを着る。
 最後にエミは,紫のチューリップのピアスをはずし,ソウタに作ってもらった新しいピアスに付け替えた。真ん中が黄色で,ピンクの花びらのコスモスのピアスだ。
 パソコン用マイクをつけると,エミは机の引き出しの奥から,大事にしまっておいたコスモスの髪飾りを取り出し,頭につけた。懐かしい感覚が甦る。
 そして,木の写真立てから二枚の写真を取り出すと,大事にコートの内側のポケットに入れた。
 エミは,そのままコウタの部屋へと行った。

 コウタが部屋で待っていた。
 コウタもパソコン用マイクをつけている。
「久々につけてみたけれど,どう?」
 エミが言った。
「似合ってるよ。・・・本当に。」
 コウタが笑って言った。
「後は予定通りお願いね。」
 エミの言葉に,コウタが頷いた。
 コウタがエミを抱きしめた。エミもコウタを抱きしめる。
「・・・じゃあ,行くね。」
「おう・・・。」
 エミとコウタは離れると,もう一度顔を見合わせた。
 頷き合う二人。
 そしてエミは部屋から出ていった。

 エミは,ケントの部屋に向けて歩いた。
 ケントの部屋の前に立つと,扉をノックする。
「はい?」
 ケントの声がした。
「私だけど。」
 エミが言った。
「エミちゃん!?いったいどうしたの!?俺の部屋に来てくれるなんて!!」
 ケントが弾んだ声と共に扉を開けた。しかしエミの姿を見て表情が変わる。
「エミちゃん?なんで任務の格好を・・・それに,そのピアスと髪飾り・・・どうしたの?」
 ケントが驚きと不安の混じった声で言った。
「別に。ちょっとイメチェンしただけ。あのさ,『しそにお』の意味,解読できた?」
 エミがいつも通りの口調で言った。
「いや・・・まだできてない・・・というか全然わからないよ・・・。」
 ケントが,状況を飲み込めないまま言った。
「時間切れ。正解を教えてあげる。『し』は、あいうえお順では何番目?」
 エミが言った。
「・・・12。」
 ケントが答える。
「その数字をローマ字にあてはめると?」
「・・・L?」
「その要領で考えたらどうなる?」
「・・・・LOVE。」
「正解。それを教えに来ただけ。」
 そう言うと,エミはケントに背を向けて歩き出した。
「ちょ・・・エミちゃん!!いったいなにが・・・・。」
 ケントが引き留めようとした時,いつもなら無言で立ち去るエミが振り返った。
 ケントは何も言えなくなった。エミが,微笑んでいるのだ。
「バイバイ,ケント。あんたの事,そんなに嫌いじゃなかったよ。」
 そう言ってエミは,姿を消した。
 ケントは,慌てて追いかけたが,そこにはもうエミの姿はなかった。

 ケントは,走って〈第三情報室〉へと向かった。
 明らかにおかしかったエミの様子に任務の格好。何より,エミはケントのことを名前で呼んだことは初めて会ったときから今まで一度もなかった。
 ケントは息を切らしながら,扉を指紋認証で開けた。
〈第三情報室〉には,コウタ一人だけがいた。
「コウタ・・・?これはいったい・・・」
 ケントが言い終わる前に,扉が閉まった。
「来ると思ったよ。・・・予定通りだ。」
 コウタが言った。
「コウタ?一体どういうことだよ。」
 ケントが言うと,コウタが立ち上がった。手にはリョウがエミに残したボイスレコーダーを持っている。
「リョウからエミへの形見だ。黙って聞け。」
 そう言うとコウタはボイスレコーダーを再生させた。
 黙って最後まで聞くケント。
「なんで,そんな大事なことをいきなり・・・?」
 ケントが聞いたが,次にコウタは黙ってケントに黄色い星の形で,周りが赤くふちどってあるネックレスを渡した。
「これは・・・?」
「エミからお前にって。その黄色い宝石はトパース。ずっとエミが左手で持っていたシゲルの誕生石だ。その誕生石の宝石言葉は友愛・潔白・希望。そして赤い部分はガーネット。右手でエミが持っていたエミの誕生石。友愛と希望を,自分が見守っているって意味だとよ。」
 コウタは無表情だ。
「おい,どういうことだか意味がわからねーよ!!」
 ケントが言ったが,最後にコウタは無言で、エミがプリントアウトして持ってきた紙をケントに見せた。
 ケントは,目を見張った。
 それは,青い悪魔からエミへのメールだった。

 緑の復讐者,エミへ
 今日,あなた達テロリストが首相官邸に乗り込んでくることは分かっています。
 心配しなくても,知っているのは私だけです。私もあなたの友人と同じように,政府軍に秘密で最高裁判所をハッキングしただけですから。誰にも言うつもりもありません。
 実験者であるあなたは組み込まれないようですが,もしかしたらあなたも何か準備をしているのではないかと思ってメールをしました。
 もし,あなたが来るのであれば,全ての情報を流せるよう,メモリーチップに移しておきます。そして,任務が確実にあなたの手で成功できるようにします。その変わり,乗り込んできた人間は全員死にます。銃声が一分間途絶えたら,首相がいる部屋に入ってください。二人で復讐の連鎖に決着をつけましょう。         
青い悪魔,エミより。

「おい・・・これ・・・!!俺はそんな話し聞かされていないぞ!!それより,エミちゃんは,これを信じて行ったのか!?でも,どうやって・・・コウタ、まさかお前・・・?」
 ケントがコウタに詰め寄った。
「エミはそれを信じて行ったわけじゃない。リョウが残したボイスレコーダーを聞いてから、この日のためにずっと準備をしていた。・・・あいつはな、お前をこの任務に組み込まない代わりに自分を組み込むよう、俺を通して上に掛け合ったんだよ。実力だけみたらあいつが上だし、もしこの任務で全員が死んでも、後輩のテロリストを実践的訓練できるのはエミよりお前の方が向いている。・・・そう言ったら簡単に上は納得したよ。そして、他のテロリスト達にはお前に何も知られないよう、エミが圧力をかけていたんだ。」
「くそっ・・・!!」
 ケントが走って部屋から出ようとしたが、扉が開かない。
「無駄だ。外から開けるか、俺が開けないと、もうここの扉は開かない。それに、今更もう遅い。とっくにテロリスト達は首相官邸に向かった。」
 コウタが淡々と言った。
「お前・・・!!エミちゃんが死ぬかもしれないんだぞ!?それなのに黙ってここにいるつもりか!?なんでだよ!!・・・なんでお前があの動きをできたのかはわからねーけど、お前はリョウが死んだ時、上の命令を待たずに俺たちを助けに来たじゃねーか!!お前は・・・いくらお前も復讐者でも、エミちゃんをみすみす死なすようなことをさせるのか!?」
 ケントが怒鳴った。その途端、コウタの顔が変わった。エミと同じで感情を出したことのないコウタが怒りで顔をゆがめ、ケントの裾をつかむと顔面を思いっきり殴った。
「お前・・・俺が、エミを死なせたいなんて思うと思うのか?ずっと、ずっと・・・ガキの頃から一緒だったエミを!!お前なんかに何が分かる!」
 そう言うと、驚いているケントを尻目にコウタはもう一発拳を叩き込んだ。
「エミがどれだけシゲルを愛していたか!エミが復習者になった日、エミの涙、エミの気持ち、お前なんかに何が分かるんだよ!!あいつはな、利用したようにみせかけて最後の最後にお前を守ったんだよ!!お前のこと、友達だと思っているんだよ!!・・・あいつの気持ちを一番知っている俺が、あいつの一番の味方でいると約束した俺が、どうやってあいつを止めることができる!!」
 コウタが怒鳴った。
 ケントは何も言えなくなったが、その途端、外から扉が開いた。
 そこには、応急処置のセットを持ったユリとソウタがいた。
「みんな、〈第一情報室〉に集まっていて、なんだかおかしいと思ったら、そういうことだったのね。・・・今ならまだ間に合うかもしれない。エミちゃんを助けに行ってあげて!!たとえ青い悪魔に勝ったとしても、重症は免れない!!」
 ユリが応急処置のセットをコウタに突きつけた。
「ユリさん・・・。ソウタは分かっていると思うけれど、あいつ、新しいピアスに規則を破って探知機をつけてないんですよ。だから居場所も分からないし・・・・」
「馬鹿なこと言わないで!!本当にそれでいいの!?」
 コウタの言葉にユリが叫んだ。
「私、知っているのよ。コウタくんが、シゲルくんと一緒に特殊訓練を受けていて、何かあったら必ず二人でエミちゃんを守ろうって約束していたことも、エミちゃんがそうやって自分の居場所を分からなくさせた時のために、絶対にエミちゃんが手放さない、あの緑のコートにこっそりと防水の探知機を付けていることも!!私が気がつかないと思った!?・・・こんなことになった時のために、そんなことしていたんじゃないの!?」
「コウタさん、今エミさんを救えるのはコウタさんだけなんです!!シゲルさんも、きっとこんな結果望んでいないはずです!!」
 ソウタも叫んだ。
 コウタは、無言で二人を見た。そして、机の上の小さなパソコンを持った。そのまま応急処置のセットをユリから受け取ると、ケントに渡した。
「・・・どうせお前も来るんだろ。・・・行くぞ。」
 そう言うと、コウタは飛び出していった。ケントも慌てて後を追う。
 そんな二人を、ユリとソウタは祈るように後ろから見守った。 

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