真実を求めて

Emi 松原

文字の大きさ
2 / 12

真実を求めて

しおりを挟む
人間族~ヒロトの決意~

もうすぐ春がやってくるというのに,相変わらずの寒さが続いている。
 そんな中,ヒロトは足早に道路を進んでいた。
 ヒロトは十五歳。『機械帝国』と呼ばれる王国に暮らしている。
 この国では人間族が暮らしている。人間族とはいわゆる『普通の人間のこと』。らしい。
 この国の南には,一般市民は滅多に近づくことが出来ない国王の住む城がある。
 国の中は灰色の建物が所狭しと並んでいて,そこら中から機械音が響いている。
 ヒロトは学校へと足を運んだ。学校の門の前には,四角い胴体をした警備ロボットが立っている。
『セキュリティチェックデス。』
 ガチガチの機械音で,警備ロボットが言った。
 ヒロトは無言で右手を警備ロボットの上に置いた。
『指紋・手相チェック共ニ認証シマシタ。声ノ認証デス。』
「オウキ。」
 ヒロトがそう言うと,警備ロボットは俺を学校の中へ通してくれる。毎朝同じ事の繰り返し。
 でもヒロトの日常は,数ヶ月前から大きく変化をしていた。そして何日か前から,彼は教室に一歩も足を踏み入れていない。毎朝,学校へ入ると図書室へ向かい夕方までそこで調べものをしている。

 ヒロトには,たった一人だけ家族が居た。オウキという名の年が離れた兄だ。二人の両親は,ヒロトが生まれてすぐ二人とも死んだらしい。くわしいことは知らないけれど。
 でも,両親が多額の財産を残してくれていたらしく,生活に困ったことはなかった。
 調理や掃除は家事・育児専用ロボットがすべて行ってくれるし,ありがたくないことに教育ロボットなんてのも居た。毎日同じ時間に,何をしていようと机に向かわされ,勉強させられる。
 そんな生活の中で,オウキはいつも笑っていた。引っ込み思案なヒロトと違い,オウキは明るくて前向きで,感情がないはずのロボット達も,オウキにはどこか違う態度で接しているような気がするほど誰からも慕われる人だった。
 オウキはヒロトに,剣の修行もさせていた。剣と言っても本物の剣ではなく,木で作られたレプリカだ。それでも叩かれたらめちゃくちゃ痛くて,ヒロトはいつも涙目になりながら修行を続けていた。
「今時,剣の修行なんかしてる人居ない。警備ロボットが一家に一台は居るじゃないか。」
 ヒロトは何度もそう言ったのだが,
「自分の身は自分で守るものだ。」
 そう言ってオウキは笑うだけだった。
そんなオウキが,今年の秋頃からあまり笑わなくなった。口数も少なくなり,ため息をつく姿ばかり見るようになった。
「仕事が忙しいの?」
 ある日の夕食時,ヒロトはオウキに尋ねた。オウキは国王の城で働いている。この国で国王の城で働くということは,かなり名誉なことだ。
「いや?なんでだ?」
 オウキが無表情で言った。
(そんな無表情で話すことなんか,今まで一度もなかったじゃないか・・・・。)
 そう思ったけど,ヒロトは「いや・・・別に・・・」としか答えられなかった。
「なぁ,ヒロト・・・・・。」
 オウキが言った。
「何?」
「なんで,俺は人間族に生まれたんだろうな・・・・・。」
「えっ??」
 ヒロトには,オウキの言っていることが理解できず黙り込んだ。
 オウキは他に何も言わず,食事が終わると自分の部屋へ引き上げていった。
そして,真冬にさしかかろうとした寒い日の真夜中,事件は起こった。

【バタン】
 ドアの閉まる音で,ヒロトは目が覚めた。まだ外は真っ暗で,シンと静まりかえっている。
(気のせいか・・・・?)
 そう思うと,ヒロトはもう一度眠りについた。

 そして朝。家の中に,オウキの姿がなかった。
 次の日も。その次の日も。

 最初は仕事かと思っていたけど,ヒロトはものすごく不安で心配になった。
 国の警備団に問い合わせて探してもらっても,オウキは見つからない。
 ヒロトはオウキの仕事場であり,この国で一番偉い国王が住んでいる城へ向かった。けれど,警備ロボットに門前払いされ,話しすら聞いてもらえなかった。
 ヒロトは必死でオウキを探した。しかし,なんの情報も得られず途方にくれる日々が何日も続いた。そして,オウキは失踪したという結論に至った警備団は,いつしか捜査すらしなくなっていた。
 そんなある日,ヒロトはオウキの部屋に入って,オウキの手がかりを探すことにした。
 オウキは自分の部屋に誰一人として入れたことがなかった。ドアに近づくことも,ヒロトですら許されていなかった。だからヒロトはオウキが居なくなってもなんとなく部屋に近づけなかった。
 ヒロトは,思い切ってオウキの部屋の前に立ち,勢いよくドアを開けた。勢いで埃が舞い散る。
 部屋には,机と椅子,そして空の本棚が並んでいるだけだった。オウキが全て運び出したのだろうか。
 机に近づいた。そして,机の上に一冊の古い本が置いてあるのを見つけた。
 恐る恐る,本を開く。そこには見たことのない文字が並んでいた。どのページを見ても,読める言葉が見つからない。ヒロトはこの本から情報を得る事を諦めようとした。
 だがその時,最後のページで手が止まった。最後のページだけ,読める文字が書いてあったのだ。
 そのページだけ手書きだった。間違いなくオウキの字だ。

ヒロトへ
突然居なくなってすまん。俺は,俺にしかできないことを成し遂げるためにこの国を去る。
この先何があろうとも,生き延びろ。
誰にも知らせず,喜光(きこう)王国(おうこく)へ移り住め。そして静かに暮らせ。
オウキ  

その手紙を見て,ヒロトは言葉を失った。喜光王国だって?
 喜光王国は,森と谷を抜けたところにあり,深い森に囲まれた機械帝国に並ぶ大国で,その国では人間族を含めた多くの種族の者が暮らしている。ヒロトが知っている喜光王国の事はそのくらいだ。
ヒロトは,何度も何度もたった三行の書き置きを読み返した。
オウキにしかできないこと?何があっても,生き延びろ? 挙げ句の果てに喜光王国へ移り住め?
疑問は山ほどあった。それがもどかしかった。何も知らないことが悔しかった。
だからヒロトは,喜光王国についてできるだけ多くのことを調べることに決めた。
調べることで,オウキについて何か分かるかもしれないと感じたから。

 その次の日から,ヒロトは毎日学校の図書室で喜光王国について調べている。
 授業も受けず図書室に居る彼を,誰も気にしない。だから朝から夕方まで,思う存分調べることが出来た。必要だと思う情報を箇条書きにしてノートに書き写し,家に帰って何度も読み返す。そんな毎日が続いた。
 調べ初めて二週間ほどたった時,ヒロトは図書室にある喜光王国に関係する本を全て読み終えた。
 ヒロトは家に帰って,最後にもう一度ノートを読み返すことにした。

・喜光王国とは,『迫害戦争』の後にできた大国である。
・森に囲まれたその国は,自然豊かで様々な種族の者が暮らしている。
(魔術師・エルフ・ノーム・ドワーフ等)

・魔術師族とは,魔力を持った一族である。
 魔力により呪文を唱えることで魔法が使え,杖を持つことで魔力を増幅させる。
 魔力の強い者は未来を予知することもできるという噂がある。
・エルフ族は,緑の精霊と呼ばれている。
 何千年もの時を生き,他の種族を好まない傾向にある。
 そのためかあまり情報がない。
・ノーム族は大地の精霊と呼ばれている。
 エルフと同じく何千年もの時を生き,優しく穏やかな性格の者が多い。
 手先が並はずれて器用である。
・ドワーフ族は岩山の中などで暮らす,力の強い一族である。
 強気で攻撃的なものが多く,鉱石を掘り出す技術に優れている。
・魔術師であるキシンが国王で,キシンは世界最強の魔術師と言われている。
・喜光王国は人間族の住む機械帝国と平和契約を結んでいる。
・ロボットと,機械の持ち込みは禁止されているが,人間族でも特に何の許可もなく住むことができる。
・喜光王国に住む者(人間族以外の種族)は機械帝国に入ることはできない。
(機械帝国が禁止している。)

 改めて読み返してみると,そんな感じで何ページもノートを書いていた。
 ただ,どの本を探しても『迫害戦争』については何も記述されておらず,なぜ起こった戦争なのかも,なにがあったのかも何も分からなかった。
(・・・俺には,知らないことが多すぎる・・・。)
最初は,オウキのことに関してとにかく何か手がかりが欲しくて喜光王国について調べていた。オウキが帰ってきてくれることだけを考えていた。けど・・・。
(今は,真実が知りたい。)
 なぜオウキは失踪なんかしたのか。何を成し遂げに去っていったのか。
 なぜ生き延びろなんて書き置きをしたのか。喜光王国に移り住んだら安全ということなのか。
 最後に聞いたオウキの言葉は何を意味していたのか。
何で,俺は人間族に生まれたんだろうな・・・・。
その言葉が,頭から離れなかった。
気が付いたら,ヒロトは小さな鞄に荷物をまとめていた。
ありったけのお金,少しの服,そして喜光王国に関してまとめたノート。
引っ込み思案なヒロトは,自分がなぜこんなことをしようとしているのか分からなかった。
でもヒロトは,この生まれ育った機械帝国をたった一人で去ろうとしていた。
オウキの書き置きのとおり,喜光王国で静かに暮らすためじゃない。喜光王国に行って,『真実』を探すために・・・。
この時ヒロトは,『真実』を知るということがどれだけ重いことか考えてもいなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】

旅する書斎(☆ほしい)
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】 魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。 ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。 「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」 不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。 甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!

今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

処理中です...