真実を求めて

Emi 松原

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真実を求めて

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喜光王国へ
 
ヒロトは,喜光王国へ向けてひたすら道を進んでいた。
 ノートに写した地図だけを頼りに進むのは,不安で不安で何度も引き返そうと思った。
 でもなんとか引き返さず,必死に進んでいる。
 機械帝国の中でも,首都を出たら自然が多く小さな村がいくつもあった。
 毎日名前も分からない小さな村の宿に泊まりながら,少しずつ喜光王国へ近づいていく。
 家を出てから一週間ほどたった日の夜,ヒロトは喜光王国のすぐ近くにあり旅人達の休憩所と言われている〈ハサチ村〉までたどり着いた。
 一週間たち,なんだか旅に慣れてきたのかすぐに宿が見つかり,部屋で一息ついた後食堂へと降りていった。
 食堂には,人間族だと思う者も何人か居たが,半分以上は違う種族の者だと分かった。ヒロトはノートに書いた様々な種族の特徴を思い出しながら,こっそり宿泊客達を眺めていた。
 木の杖を持ってマントを着た魔術師。体ががっちりとしていて,鉄の防具をつけているドワーフ。舞台の上で楽器を演奏している少し小柄なノーム。食堂の隅では,端正な顔立ちで耳がとがったエルフも居る。
 そんな様子を眺めながら,ヒロトはなんだか映画の中に入り込んだような感覚に陥っていた。
 機械帝国に居たら,絶対に味わえなかった感覚。当たり前のように,他の種族の者達が同じ場所にいるこの感覚。
 機械帝国では常にロボットに囲まれていて,監視されている感覚があった。それになんだか冷めている学校。他人と同じでなければ,感情のない白い目で見られる息の詰まるような教室の感覚,そんな感覚全てがなかった。
 旅の先を考えると不安で,歩き続けて体も痛いのに,ヒロトはなんだか穏やかな気持ちになっていた。
 ゆっくりと夕食を食べていると,隣のテーブルに座っていた魔術師らしき二人組の男女の会話が聞こえてきた。

「聞いたか?また一つ村が魔物に襲われたらしい。それも,村一つ壊滅して住民は行方不明らしいぞ。まぁ・・・何も残らなかったと言った方が正しいかも知れないが。」
「またなの?この前も似たような話を聞いたばかりだというのに・・・。」
 女がため息をついた。
 ヒロトはその魔術師二人の話を聞いて,驚いた顔になった。魔術師の男の方がヒロトの視線に気が付いて,声をかける。
「そちらの旅の方はご存じですか?最近魔物が活発になっているらしく,王国からかなり離れた小さな村がいくつか襲われていることを。」
 ヒロトは首を横に振った。
「ここへ来るまでにいくつかの村で夜を過ごしたけれど,そんな話は初めて聞きました・・・。魔物は欲望のためだけに生き,他の生き物を食らうものだということは知っていますが,自分達の住処(すみか),いわゆる縄張りからは出ないはずでは・・・・。」
 ヒロトは魔術師の二人に言った。魔物のことは,ノートに書いたので知っている。王国から遙か遠くの〈暗黒の森〉と呼ばれる場所を住処にしていて,魔物だけが他の種族と違い,他の種族を問答無用で襲い欲望のままに食らい殺すという恐ろしい生き物だ。
 しかし魔物は太陽の光を嫌い,暗黒の森から出ることはない・・・とノートには書いていたはずだ。
「確かに旅の方の言うとおり,魔物が暗黒の森から出るという話は聞いたことがない。けれども本当にごく最近,魔物が暗黒の森近くの村を襲ったという話を聞いたの。最初は半信半疑だったけど,同じような話をいくつも聞いて・・・。それも,魔物は少しずつ襲う村の範囲を広げているなんて噂もあるし,嫌になっちゃう。」
 女の魔術師がまたため息をついた。
「魔物を装って,旅人を襲う盗賊も多いと聞きます。旅の方もどうかお気をつけて。念のため武器の手入れは怠らない方がいいですよ。」
 男の魔術師が笑顔で言った。
 ヒロトも笑顔でうなずいて,部屋へと戻っていった。
 部屋に戻ったヒロトは,自分が武器を持っていないことに気が付いた。
 森には獣も居るし,旅人を狙う山賊も居ることはノートに書いていたのに,準備を怠っていた自分に少し腹が立つ。
 明日この村で武器を買おうかとも考えたが,朝から歩けば昼には喜光王国に到着するはずだ。この村で買うより,王国で買った方がいいものが手に入る気がする。
 そんなことを考えながら,いつの間にかヒロトは眠りについていた。
 朝になり,ヒロトは喜光王国までの残り少ない道を歩き始めた。
 すれ違う者のほとんどが他の種族の者という環境にもいつの間にか慣れていて,むしろその環境を楽しめるようになっていた。
 今は人の視線を気にせず,自然に歩くことができる。
 引っ込み思案でおとなしいヒロトは,いつも人の視線を気にして歩いていた。自分が変に思われているのではないか,そればかり考えていた。
 機械帝国から外に出て,様々な種族が共に暮らす国に向かい,様々な種族を見る中で,ヒロトは自分がいかに狭い世界しか知らなかったのかと思い知らされた。
 まだ喜光王国にたどり着いてもいないのに・・・・・。と,ヒロトは少し不安になったが,今は不安より楽しみの方が勝っていた。
 色々なことが知りたい。自分の知らない世界が見たい。他の種族について,もっと知りたい。
 もちろんオウキのことはいつでも頭にあったし,『真実』を知りたいという強い気持ちは持っていた。
 様々な事を考えながら歩いていると,いつの間にか喜光王国の入り口までたどり着いていた。
 目の前には,大きな門があった。木で出来ていて,薄い黄色で装飾されている。とても綺麗なその光景にヒロトは目を奪われ呆気にとられて門を見つめていた。
「喜光王国へ来られるのは初めてですか?」
 門の前に立っていた,門番のような魔術師に声をかけられた。喜光王国のシンボルである楠木のマークをつけた白いマントを着ている。このマークをつけて白い服を着ている者は,王国に使える者・・・機械帝国でいう王の元で働く者だということを意味していることはノートに書いていたので知っている。
「は,はい・・・。こんなに素晴らしい門,初めて見ました・・・・。」
 ヒロトが正直な感想を門番に述べると,門番は優しい笑顔をヒロトに向けた。
「自分の国のことを褒められることはとても嬉しいことです。どのような理由で喜光王国に来られたのかは存じませんが,貴方の未来に暖かい光が満ちることを祈っています。」
 そう言って門番は,ヒロトを門の中に通そうとした。 
 それを見たヒロトは,ここまでの道のりのなかで一番の衝撃を受けた。
「ちょ・・・ちょっと待ってください。通っていいのですか?まだ何のチェックも受けてないですよ・・・!?」
 焦るヒロト。その様子を見て,門番は何かを察したように微笑んでうなずいた。
「もしかして,機械帝国を訪れたことがあるのですか?」
 門番の言葉に,うなずくヒロト。
 正確には機械帝国に住んでいたのだが,今のヒロトにはそんなこと考えるほど余裕はないくらいに動揺していた。
 機械帝国に出入りするためには,かなり厳しいセキュリティチェックを受けなければならない。
 身元の確認,指紋・手相・目・声・DNAまで登録する必要がある。
 持ち込むものにもかなりの制限があり,何重にも荷物チェックが行われる。
(何のチェックもなく,身分証明も見せずに入国できるなんて・・・!?)
 言葉を失ったヒロトに,門番が優しく話しかけた。
「この国では,機械類の持ち込みだけが禁止されています。理由は・・・キシン様が機械を好まないからです。機械を持っていたら,私たちキシン様に使える者は感覚で分かるように訓練されています。」
 門番の言葉に,ヒロトは黙ってうなずいた。門番が先を続ける。
「しかしそれ以外の入国の規定はこの王国にはありません。どんな種族でも,入国することが出来ます。これは全ての種族は素晴らしい種族であり,共に生き,愛することができるというキシン様の意志なのです。」
 ヒロトはまたうなずいた。そして周りを見渡す。確かに,様々な種族の者が何のチェックも受けずに門を出入りしていた。
「ありがとうございます。」
 ヒロトは門番にお礼を言うと,喜光王国の中へ入っていった。
(喜光王国に到着したのはいいけれど,この先どうしよう・・・。)
 ヒロトは考えながら王国の中を歩いていた。
 様々な色鮮やかな店が並んでいる。全て木でできている家のようで,二階以上の建物は見あたらない。ヒロトは,そんな光景にも目を奪われていた。
「お兄さん,これ,おいしいよ!!食べてみて!」
 食べ物を売っている店の前を通ると,必ずと言っていいほど何かもらえた。かといって買うことを強制されるわけでもなく,強く進められるわけでもなかった。
 王国の中は賑やかで,活気に溢れていた。笑い声が響き渡り,暖かい風がふいている。
(そうか・・・。もう春になったんだ・・・・。) 
 そんなことを考えながら,ヒロトは目的もなく歩いていた。
 王国の中を歩いていて,ヒロトは気になったことがあった。多くの店で『住み込みで働く人歓迎。種族は問いません。』という看板が目立っていたのだ。
 ヒロトは不思議に思って,看板が立っていた花屋の優しそうな女のノームに声をかけた。店の中では色とりどりの花が咲き誇っていて,また目を奪われてしまう。
「あの・・・お仕事中すみません。あの・・・お聞きしたいことがあるんですけど・・・。」
「はいよ。何か捜し物かい?」
 優しい笑顔で答えるノーム。
「ぼ・・・・,僕はこの国に来るのは初めてなんですけど,どうして住み込みで働く人歓迎って看板が沢山立っているのですか・・・?」
「あぁそういうことね。確かに,初めてこの国に来る人には不思議な光景かもしれないね。」
 ノームは笑って言った。
「この国はね,旅の人やなにか理由があって故郷を離れた人,様々な人が種族を問わず集まる国なの。中には,この国に住みたいって人もいっぱい居るから,だからこの国全体で助け合っていくために・・・って言ったらいいのかな。働く人が来てくれたら店は助かるし,住み込みだったら働く人も助かるでしょ?」
 ノームはそう言いながら,一輪の花をヒロトに渡した。ピンク色のチューリップだ。
「はい。どうぞ。この花を貴方にあげるわ。この花の花言葉は『愛』。愛に満ちたこの国で,貴方の未来に暖かい光が満ちる事を祈っているわ。」
 ヒロトは花を受け取り,笑顔で頭を下げると店を後にした。
 花屋のノームの優しさに,少し気持ちが楽になったヒロトは国王のキシンが住む城を目指すことにした。
 王国の真ん中に建っているその城は,色鮮やかで国一番の建物だと有名なものだ。
 しばらく歩くと,目の前に城が見えてきた。城の前に立つヒロト。
 城の前に立ったとき,ヒロトの頭には様々な考えが浮かんできた。
 城に来て,何をするというんだ?国王のキシンに事情を説明するのか?でも,国王が話なんか聞いてくれるのか?機械帝国のように門前払いされるだけではないのか?
 だけど・・・・・・・。
 機械帝国に戻る気はない。機械帝国より,この国に魅力を感じてしまったから。このまま何処かに住み込みで働いて,オウキの言ったとおり静かに平和で穏やかに暮らす道もあるのではないか?
 ヒロトは黙って城を見つめ続けた。
 でも,僕は,『真実』が知りたい・・・・。
 門前払いされたとしても,『真実』を知る可能性をここで諦めるのか・・・?
 ヒロトは大きく深呼吸をした。
 (大丈夫・・・・・・。ここまで自分の足で歩いてきたじゃないか。)
 そう自分に言い聞かせて,ヒロトは城の中に足を踏み入れた。
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