真実を求めて

Emi 松原

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真実を求めて

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真実を求めて
 
城の中に入ると,そこはとても広いホールのようになっていて,多くの者が行き来をしていた。
(どうしたら国王に会えるかな・・・?)
 ヒロトは少しホールを歩いた後,楠木のマークに白いマントを着た女性の魔術師に声をかけた。
「あの・・・突然すみません・・・。国王のキシン様に会いたいんですけれど・・・。」
「はい。人間族の方ですね?承っております。」
「えっ・・・・・?」
 ヒロトは驚いた。国王と会おうとすることは,ついさっき決めたばかりだ。もしかして,誰かと勘違いしているのでは・・・?
 そう思ったが口には出せず,ヒロトは黙って女性魔術師についていった。
 女性魔術師は城の奥へと足を進めた。進むに連れ,ヒロトは段々と怖くなってきた。
 (僕は,どうなるんだ・・・・?)
 けどここまで来て逃げ帰ることは嫌だった。
 女性魔術師の足が止まった。目の前には,大きな扉がある。女性魔術師が扉を三回ノックした。
「入りなさい。」
 太くて優しい男の人の声がした。
 女性魔術師が一礼して中に入る。ヒロトも続いた。
 中へ入ると,いかにも王様が座る椅子と思える大きな椅子に,白く長い髪をして同じように白くて長い髭のはえた,でも顔は若々しい魔術師が座っていた。
 それがキシンだと,ヒロトはすぐに分かった。
 女性魔術師はキシンに一礼すると,部屋から出ていった。ヒロトはキシンの前に一人取り残されてしまった。
「あ・・・あの・・・・。」
 ヒロトは何か言おうとした。しかしキシンの声に遮られる。
「君が来ることは分かっていたよ。正確には,君が来る可能性があることが分かっていた。」
 笑顔のキシンが言った。
「え・・・・?」
 ヒロトは何も言えなくなり,黙ってキシンを見つめた。
「君は,いくつもの道の中から,ここへ来る道を選んだ。君には,いくつもの選ぶ道があった。ここで穏やかに暮らす道もあり,機械帝国に戻る道もあり,はたまた旅人として世界を見る道もあった。そのなかで,君はここに来ることを自ら選んだのだよ。さぁ,聞かせてくれるかい?君が私に会いに来た理由を。」
 ヒロトはキシンの言っている意味を考えた。キシンの言っていることはなんとなく分かる。けれども,なんでキシンは僕が来ることを分かったんだ・・・?
 ヒロトは突然自分がノートに書いた内容を思い出した。
 そうか,魔力の強い魔術師は未来を予知できるんだ・・・・。
 でも,大国の国王が,なんのために来たのか分からない人間族の子供を簡単に通すなんて・・・・・。機械帝国では,話しも聞かれずに門前払いされたのに・・・・。
 ヒロトはキシンを見つめた。キシンは微笑んで,ヒロトが話すのを待っている。
 
ヒロトは,一つずつゆっくりと話し始めた。最初は自分がここへ来た理由をどう説明すればいいのか分からなかったが,話し始めると自分でも驚くほどスムーズに言葉が出てきた。
 そしてヒロトは,オウキの部屋にあった本をキシンに渡した。
 キシンが受け取り,パラパラとページをめくる。
「これは・・・・・・。」
 ヒロトが話し始めて,初めてキシンの顔から笑顔が消えた。
「・・・読めるのですか?その本には,何が書いてあるのですか!?」
 ヒロトが言った。早く内容が知りたかった。
 しかしキシンは,軽く首を振ると本をヒロトに返す。
「私にはこの本が読める。だが,この本の内容は,まだ知るべきではない。」
 キシンが言った。納得のいかないように,黙るヒロト。
「この本には,過去の出来事が記されている。」
 考え込むキシン。その真剣な様子に,ヒロトは黙ってキシンの次の言葉を待った。
「私は君に協力したい。だが,私が君に協力するということは,王国と王国の問題に発展してしまうことになる。これは分かるね?」
 キシンの言葉に,ヒロトは黙ってうなずいた。
 いくら平和条約を結んでいるとはいえ,機械帝国で起きた出来事を喜光王国の王が調査することになれば,機械帝国の王は良い気分ではないだろう。
 ヒロトは肩を落とした。やっぱり,この国で穏やかに暮らす道を選ぶべきなのか・・・。
「・・・・・ワカホ。ワカホや。」
「はい,国王様。」
 突然キシンがヒロトを案内してきた魔術師を呼んだ。ヒロトは驚きながらもキシンを見つめている。
「あー,近頃,魔物が暴れておるというよくない噂を聞く。それは,暗黒の森付近で起こっていることに間違いないのだな?」
「はい。詳しいことは調査中ですが,何か今までとは違う良くないことが起こっていることは事実です。ただ,まだ被害報告がないため本格的な調査はできない状況です。ヒロト様の兄上様が失踪したのと同時期に噂が流れ始めていますね。」
 ヒロトは突然勘づいた。
(・・・キシン様は,僕にヒントを与えている・・・・・?)
「ほう。ワカホ,ありがとう。もう下がって良いぞ。」
「はい。失礼します。」
 キシンはそのまま立ち上がり,窓の外を眺めた。
「暗黒の森か・・・そこへたどり着くには多くの困難が待ちかまえ,道なき道を進まなければならない。そして,目を背けたくなる〈過去〉〈真実〉そして〈今〉と向き合わなければ先には進めないだろう。たどり着いたところで,何が待ちかまえているのかも分からない。おっと,これは年寄りの独り言じゃ。」
 キシンがヒロトを見ずに言った。ヒロトはキシンの一言一言を聞き逃さないよう集中していた。
「・・・道なき道を進むのには,一人では進めずとも様々な特性を持った者が協力し合えば必ず道は開けてくる。そして,〈過去〉と〈今〉。これと向き合わなければならない者達が集まり進んだとき,〈真実〉が見えてくるかもしれない。」
 ヒロトは考えた。
(たぶん,キシン様は一人では無理だと言っているのだ。けれども,いろんな種族が協力してその特性を生かせば,道は開けると・・・。)
 ヒロトは,キシンを見つめた。
 キシンがゆっくりと椅子に座り,ヒロトを見つめた。
「おぉ。私の独り言じゃ。気にせんでくれ。ところで,ヒロトよ。武器屋の【大樹(たいじゅ)】にはもう行ったかの?」
 ヒロトは首を横に振った。キシンの言葉の意味を考えながら,キシンを見つめる。
「あそこには,ジュライという名のドワーフが居る。良い武器を作っているぞ。それに,小物屋の【スイセン】。エイキというノームが居るのだが,この小物が王国でなかなか評判じゃ。」
 ヒロトは目を見開いてキシンを見つめた。キシンは,ヒロトにヒントを与えているだけではない。〈過去〉そして〈今〉と向き合うべき他の種族の者まで教えてくれているのだ。
「そうそう,占い館の【未来】は当たると人気でな。魔術師のケントがやっておる。あと,この国には伝説の歌姫と呼ばれているエルフのエリヤが居る。エリヤは毎日何処で歌っているか分からない。そして,この四人は深い友情で結ばれている。」
 キシンはヒロトを見つめた。
「・・・ありがとうございました。」
 ヒロトはキシンに深く頭を下げた。
「私は,独り言しか言っておらんよ。・・・ヒロト。道は,無数にある。今から出会う全ての者は,自分自身で道を見つけるしかない。もちろん,君もじゃ。君の未来に暖かい光が満ちることを祈っている。」
 ヒロトは深くうなずくと,またキシンに頭を下げ,国王の城を後にした。
城を出たヒロトは,近くの店でキシンから聞いた武器屋や小物屋の場所を聞いた。
(とりあえず,武器を買わないとな・・・。)
 そう思ったヒロトは,まず武器屋の【大樹】へ行くことにした。
 武器屋の大樹はすぐに分かった。けれども,ヒロトは中に入るのを躊躇した。
 国王に説明したように説明したところで,なんて言えばいいんだ・・・?
 あてもない危険な旅に,見知らぬ人間族が誘うのか・・・?
 頭の中で迷い続けた。道は無数にある。キシンの言葉が頭を回る。
 でも・・・でも・・・やっぱり,真実が知りたい・・・・。
 たとえ断られても,オウキを探したい・・・。
 ヒロトは,ゆっくりと武器屋の大樹に入っていった。
「いらっしゃいませぇ。」
 店番をしていた若い女の子が言った。ヒロトは軽く頭を下げると店内を見渡した。
 様々な種類の,あらゆる武器が並んでいる。ヒロトは,刃の部分が長い剣がならんでいる場所に行くと,一つ一つ手にとって見てみた。
 刃の部分が長い剣にしようと思ったのは,オウキに修行させられていたものに近かったからだ。
「・・・それは,両手剣・・・。刃が長くて威力が強い分,両手がふさがる欠点もある・・・・。」
 ヒロトが声に驚いて振り返ると,そこには背が高く体格のいいドワーフと思われる者が立っていた。
「・・・こっちは,片手で扱える剣。刃の長さと威力は両手剣に比べて劣るが,攻撃が早くできる。それに盾が持てる。これより短い剣は早いスピードの分威力が劣るが,両手で持つことでカバーできる。」
 ゆっくりと太い声で説明をするドワーフ。ヒロトはどうすればいいか分からず,立ちすくんでいた。
「もぉー,ジュライ!!お客さんがびっくりしてるでしょ!!」
 女の子が言った。ヒロトはジュライを見つめた。キシンの言っていた,〈過去〉〈今〉と向き合うべき他の種族の者の一人・・・・。
「・・・本来は・・・使い手が武器を選ぶんじゃない。・・・武器が,使い手を選ぶ・・・。」
 女の子を無視したジュライはそう言うと,刃が細くとても長い両手剣をヒロトに渡した。
 ヒロトは黙って渡された両手剣を持った。そして渡された両手剣を握りしめた。
 なんとなく,自分の手にしっかり合う気がする。それに,とても軽い。
「・・・・・・・・。」
 ジュライは黙ってヒロトを見ている。ヒロトは,両手剣を軽く振って感触を確かめると,ジュライに武器を渡した。
「あの,これ,下さい。いくらですか?」
「・・・お金は・・・いらない。久しぶりに,武器が選んだ・・・使い手だから・・・。」
「えっ・・・?」
 ヒロトは何も言えず,ジュライを見つめた。ジュライは何も言わず,奥へ戻ろうとしている。
(ダメだ,今,何か言わないと・・・・!!)
「あのっ・・・!!ジュライさん!!僕と一緒に旅をしてください!!」
ヒロトは勇気を振り絞って,ジュライに声をかけた。いきなりそんなことを言うつもりはなかったのに,口が勝手に動いていた。
 ジュライは驚いた様子でヒロトを見つめている。ヒロトも次になんて言えばいいか分からず,下を向いてしまった。

「まぁ,ここではなんだから,奥へ入ってもらったら?」
 じっと見ていた店番の女の子が助け船を出してくれたので,ヒロトは少しほっとした。ジジュライはうなずくと,ヒロトを手招きして奥へ入れてくれた。
 店の奥は鍛冶場があり,武器作りの材料が沢山並んでいた。
「・・・そこらへんに,座ってくれ・・・。」
 ヒロトはジュライの言うとおりにした。
「で・・・なんだって・・・?」
 ジュライがヒロトを見ながら聞いた。改めて向き合ってみると,かなりの迫力がある。
「あ・・・あの・・・・・。」
 ヒロトは必死で説明した。
 たった一人の兄が居なくなったこと。その兄の書き置きを見て喜光王国に来たこと。キシン様に言われた言葉。そしてヒント。この武器屋の名前を教えてもらったこと。全てを話した。
 ジュライは何も言わず,黙って聞いていた。時々ヒロトが不安になって顔を見ると,軽くうなずいた。
「それで・・・一緒に来てほしいと・・・?」
 ヒロトが話し終わると,ジュライがゆっくりと言った。ヒロトは黙ってうなずいた。
「・・・招かれざる客・・・・暗雲の雲・・・・・か・・・・・。」
「えっ?」
「いや・・・・こっちの話だ・・・・・。」
 そう言うとジュライは黙って下を向いた。
(やっぱり無理なのか・・・・?)
 ヒロトは半分諦めて,でも半分期待してジュライを見つめた。
「もし・・・全員に断られたら・・・諦めるのか・・・・?」
 ジュライが言った。
 ヒロトはゆっくりと首を横に振った。
「ここまで来て,諦めません。全員に断られたとき,どうやって真実を探せばいいかは分からないけど・・・・・。でも,どうしても,真実が知りたいんです。」
 ジュライはヒロトを見つめていた。何を考えているか,表情からは読みとれない。
「・・・・〈過去〉と向き合うか・・・・・。」
 また,ぼそぼそとジュライが言った。
「暗黒の森へ行く危険は・・・・分かっているのか・・・?」
 ジュライの言葉に,ヒロトはうなずいた。
「・・・・・・・。」
 黙り込むジュライ。ヒロトも黙ってジュライの答えを待った。
 どれくらいの時間がたっただろうか。ヒロトはじっと,待ち続けた。
「・・・・・ハルカ。ちょっと・・・・。」
 突然ジュライが言った。
「なぁに?」
 店番をしていた女の子が顔を覗かせる。
「・・・しばらく・・・店をあける・・・。後のことは・・・任せたから。」
ヒロトはジュライの言葉に,耳を疑った。・・・一緒に来てくれるということなのか!?
 ハルカと呼ばれた女の子は,ジュライとヒロトを交互に見つめた後うなずいた。
「わかった。まぁ,私はジュライの一番弟子なんだから店のことは心配しないで。」
 ハルカはそう言うと,他には何も言わず店へと戻っていった。
「あ・・・あの・・・・。」
 ヒロトが言った。
「なに・・・。」
「い,いや・・・あの・・・一緒に来てくれるってことですよね?」
「・・・ほかに店をあける理由はない・・・・・・。」
「本当にいいんですか?」
「・・・・・いい。・・・俺も・・・気になることがあるから・・・。」
 ジュライの言葉に,ヒロトは思わず笑顔になった。
「・・・改めて,言っておく・・・・。俺は,ジュライ。ドワーフで・・・武器作りが得意・・・・。」
 ヒロトの笑顔を見て,ジュライも少しだけ微笑んで言った。
 ヒロトは嬉しくて嬉しくて,思わずジュライの手を握りしめて握手をしていた。
 ジュライは驚いた様子だったが,何も言わずにその手を握り返した。
「さて・・・行こうか・・・。」
 そう言ってジュライが立ち上がった。
「え・・・?」
「ほかの・・・三人の説得・・・。行くんだろ・・・?俺も・・・・行く。」
 ヒロトはジュライの言葉に喜んで立ち上がった。一人でここまで来るのはものすごく不安だったが,誰か一人でも一緒に居てくれる者が居るとこんなに不安がなくなるなんて初めて知ったことだ。
「まず・・・占い館へ行く・・・・・。」
 店を出て歩き始めると,ジュライが言った。
 ヒロトはうなずくと,ジュライの横に並んで歩いた。
 占い館は,武器屋のすぐ近くにあった。しかし,ドアには『本日はお休みします。』と看板が出されていた。
 それでもおかまいなしに,ジュライはドアに手をかけた。
「いいんですか?」
 ヒロトが聞いた。うなずくジュライ。
「いい・・・。どうせ・・・俺達が来ることは分かっているだろうから・・・・。」
 そう言ってジュライはドアを開けた。後に続くヒロト。
 中に入ると,いかにも占い館という雰囲気の店内がヒロトを出迎えた。薄暗く,怪しい光がチカチカしている。
 ジュライはかまわず奥へ入っていった。慌ててついていくヒロト。
 奥へ入ると,机の上に水晶玉が置いてあった。その机を挟んで,黒いマントを着た魔術師らしき者が座っている。
「お客さーん。残念ながら今日は定休日ですよーー。」
 魔術師が言った。
「ケント・・・とぼけるな・・・。俺達が来ることは分かっていたんだろう・・・?だから,店を閉めたんだろう・・・・・。」
「あーあ。相変わらず素っ気ないねぇ。そんなんだから,ハルカちゃんが苦労するんだよ。」
 ジュライは無言でケントを睨み付けた。
(この人が,ケント・・・・・。)
 ヒロトは黙って二人の様子を見つめていた。
「そーんな睨むなって。冗談だろ。今日,そっちの客人が来るだろうって事は感じたよ。だから,店を閉めた。でも,お前が来ることは分からなかった。さっき決めたんだろ?」
 ケントが言った。ジュライとは対照的に,とても明るい。
「で・・・どうするんだ・・・・・?」
 ジュライがいきなりケントに聞いた。
「どうするって?」
「とぼけるな・・・・・。どうせ分かっているんだろう・・・?」
「おいおい。いくら俺が占い師だからってそこまで分かるわけがないだろう。いいから黙って座れよ。そっちの客人もどうぞ。」
 机を挟んで,ジュライとヒロトは椅子に座った。
「で,この俺になんの用事だって?ただの占いに来たわけじゃないだろう?」
「あ・・・はい・・・。」
 ヒロトはジュライに説明したとおり,一つずつケントに説明した。一度ジュライに説明していたせいか,すらすらと言葉が出てくる。ケントは,「ほぅ。」「それで?」と相づちを打ちながら聞いてくれた。
「で,その旅に一緒に行って,俺になんのメリットがあるんだ?」
「えっ・・・?」
 ヒロトは言葉に詰まった。メリット・・・・?
 ヒロトは考え込んだ。自分には,真実を求めるという目的がある。それに,いろんな事が知りたい,いろんなものが見たい。でも・・・・。
「メリットがあるかは・・・・分かりません・・・・。」
 ヒロトは下を向きながら言った。本当のことだった。
「駄目だな。」
 ケントが言った。ヒロトはうつむいたまま聞いた。ケントの言葉が胸に突き刺さる。
 やっぱり,こんな突然の誘いを受けてくれるわけないのか・・・・・・。
「駄目だな。もっと,なんでもいいからメリットを言って説得しないと。旅をしていたら女の子に偶然出会えるかもしれないとか,盗賊に襲われている女の子を助けて恋に落ちるかも知れないとか。」
「えっ・・・・・・。」
 ヒロトが顔を上げた。
「おい・・・・。女の子のことしか頭にないじゃないか・・・。」
 ジュライが呆れた様子でケントに言った。
「失礼な。例えの話だよ。」
 ケントが答える。
「で,どうするんだ・・・?」
 ジュライがケントに聞いた。さっきまでとは何処か違う,迫力のある声だ。その声に,思わずヒロトは小さくなってしまった。
「そう短気になるなって。こう見えて真面目に考えてるんだから。」
 ケントはまったく気にしていない様子だ。
「ヒロトって言ったっけ?」
 ケントがヒロトを見た。うなずくヒロト。
「もし,真実が見つからないとしても,旅に出たいのか?」
 ヒロトは,またうなずいた。
「出たいです。真実は必ず探します。でも・・・もし・・・もし,何も見つからなくても,僕は色々な場所を見たいです。この王国に来るまでの道のりで,僕は自分が狭い世界しか知らなかったことを知りました。だから・・・・・。」
 ヒロトは必死に言った。
「ん~~~。どーーーしよっかなぁーーー。」
「おい。もったいぶるな。答えは出ているんだろう・・・・・?」
 ジュライの声が迫力を増している。
「出てるよ。でもさ,こんなに簡単に決めてもいいのかなって思ってるんだ。」
 ケントがいきなり真剣な顔になった。ジュライを見つめている。
「お前,この旅に命かけられるのか?お前だけじゃない。俺,エイキ,姫,そしてヒロト。全員の命がかかっているんだ。その覚悟があって言ってんのか?」
 ヒロトは,はっとした。ここまで,ただ真実を知ること,いろんなものを見ることという良い面ばかりを考えていた。
 『暗黒の森』を目指すということは,命をかけること。それは分かっていた。覚悟もあった。でも,かけるのは自分の命だけじゃない。旅に誘う,全員の命を背負うことになる・・・・。そこまで,考えていなかった。考えられなかった。自分のことしか考えていなかった。
 ヒロトはまたうつむいた。
「覚悟は・・・・ある・・・・。」
 ジュライのゆっくりだが迫力のある声に,ヒロトはゆっくりと顔を上げてジュライを見つめた。ジュライはケントを真っ直ぐに見ている。
「本気か?」
「・・・本気だ・・・。キシン様が,俺達の名前を出した。俺達は,そろそろ過去を・・・。・・・必ず得るものはあるはずだ・・・・・。それに,俺は・・・誰も死なせない・・・・。」
 ジュライの言葉に,ケントはため息をついた。
「ヒロト,君はどうなんだ?俺達の命が背負えるか?」
「あの・・・僕は・・・・。」
 ヒロトは考えた。口ではなんとでも言える。でも,ヒロトはなぜか嘘をつきたくなかった。だから正直に自分の気持ちを言うことにした。
「僕は,まだそこまでの覚悟はありません。ケントさんに言われるまで,そこまで考えもしませんでした。けれども,その事実と,向き合っていきたいです。考えていきたいです。」
「・・・なかなか正直者だな。普通なら,覚悟はありますくらい言いそうだけど。」
「嘘はつきたくなかったんです・・・・。」
 ヒロトは真っ直ぐにケントを見た。ケントもヒロトを見ている。
 沈黙の時間が続く。
「あーーー!!もう,なんだよこの空気!!分かったよ!!行けばいいんだろ,行けば!!」
 ケントが叫んだ。
「ケントさん・・・。」
「ケントでいいよ。それに,こいつのことも呼び捨てでいいから。」
 ケントがヒロトに笑顔を向けた。そして手を差し出す。その手を握るヒロト。
「改めて,俺はケント。見ての通りの魔術師。得意呪文は火の呪文。占いも得意だけど,キシン様みたいに未来は予知できない。よろしく。」
 ヒロトは笑顔でうなずいた。
「さぁてと。あいさつも済んだところで姫様達の説得に行きますか。」
 ケントとジュライが同時に立ち上がった。ヒロトも後に続く。
「姫様の説得は,俺達みたいにはいかないよ。ま,頑張って。」
 ケントが笑いながら言った。
 三人は小物屋【スイセン】に向かった。
 スイセンに到着すると,一人のノームが出迎えた。
「おっす。歩いてくるのが見えたよ。」
 そう言ってノームは三人を中に招き入れた。
 ヒロトは店の中にあるものに目を奪われた。ガラス細工のような綺麗できめ細かな小物が幾つも置いてある。
「奥へどうぞ。」
 ノームは笑顔で手招きしている。
 四人は奥にはいると,ノームに言われるまま椅子に腰掛けた。
「何か飲む?紅茶で良い?」
 ノームがヒロトに聞いた。
「あ・・・・はい・・・。」
「いきなり見ず知らずの人間族を招き入れて何も言わず茶を出すってどーよ。エイキの考えはわかんねーな。」
 ケントが言った。
 ヒロトはエイキをみつめた。この人が,ノームのエイキ・・・。
 エイキが紅茶を三人の前に置いた。
「まぁ,ゆっくりここに来た理由を聞かせてよ。」
 ヒロトはまた一つずつ説明をした。三度目ともなるとかなり慣れてきて,無駄なく説明することができた。
「で・・・,エイキはどうする・・・?」
 ジュライがエイキに言った。
「俺は,エリヤの答えにしか従わないよ。分かってるだろ?今ここで,答えは出せない。」
「エリヤって・・・エルフの方ですよね?」
 ヒロトが言った。
「そ。で,ここにいるエイキと恋人同士。こいつは色々あって姫の答えにしか従わないんだよ。それに,毎日いつどこに出てきて歌うか分からない伝説の姫が歌う場所をただ一人知る奴。で,姫は今日は何処で歌うんだ?」
 ケントがヒロトとエイキに言った。
「今日は酒場の『夢』で歌うと思うよ。そろそろ日も暮れてきたから,行ってみよう。」
 エイキの言葉で,三人は立ち上がって酒場『夢』へと向かった。
 酒場『夢』は多くの人で賑わっていた。その中で四人は一つの五人がけのテーブルに集まった。
「もうすぐ出てくるよ。」
 エイキの言葉通り,何処からともなくハープの音色が聞こえて来た。
「伝説の歌姫だ!!今日は当たりだな!!」
酒場に居た人たちが一斉に盛り上がる。
 舞台のライトがつき,そこには髪が長く金髪で,耳がとがった美しいエルフが居た。
「あれが・・・エリヤ・・・。」
 ジュライが耳打ちをしてくれる。
 エリヤはハープの音に合わせて,ゆっくりとした歌を歌い始めた。
 その瞬間,ヒロトは歌の中に引き込まれていくような感覚を覚えた。
(これが,伝説の歌姫の力・・・。)
 ヒロトはそのまま歌に聞き入っていた。
 歌が終わると観客の盛り上がりは最高に達し,酒場は大にぎわいを見せていた。
 そんななか,エリヤが四人の居たテーブルにやってきた。
「あーつかれた!!あ,フルーツ持ってきて。」
 椅子に座って店員に言うエリヤ。
「お疲れさま。今日もよかったよ。」
 エイキの言葉にエリヤは無言で頷いた。
「で,この人間族は?どうしたっていうの?」
 エリヤが少し冷たい視線をヒロトに投げかけながら言った。
「あ・・・あの・・・」
 ヒロトは少し緊張しながら,三人に説明したようにエリヤに説明した。
「で,ケントとジュライは行くって?」
 エリヤの言葉に二人はうなずいた。
「エイキはどうしたいの?」
 エリヤがエイキに向き直って言った。
「俺は,エリヤの答えと同じにするよ。俺はエリヤをいつでも見守り守る義務があるんだから。」
「そんな昔の義務なんかどうでもいい!!行きたいの?行きたくないの?」
 エリヤの口調がきつくなる。
「姫,落ち着けって。」
 ケントが間に入る。
「・・・エイキは,過去と向き合う勇気があるの・・・?ケントとジュライも。」
 エリヤの言葉に,三人はゆっくりとうなずいた。
「ヒロトって言ったっけ?あなたはどうなの?過去と向き合う覚悟があるの?」
 ヒロトもまたゆっくりとうなずいた。
「・・・私も過去とそろそろ向き合わないといけないのか・・・。」
 ポツリとエリヤがつぶやいた。そして大きなため息を一つついた。
「この中で,誰かが死ぬかもしれないのよ。へたしたら全滅。それでも行くの?」
「ジュライは,誰も死なせないってよ。俺達だって危険はちゃんとわかってるよ。・・・それに,いろんな道があるのもわかってる。だから,行くかどうかは姫自身が決めること。」
 ケントの言葉にエリヤは無言で考え込んだ。四人は黙ってエリヤの答えを待っている。
「わかったわよ。行くわよ。」
 深いため息をつきながら,エリヤが言った。
「じゃ,俺も行く。全員で行くって決まりだな。」
 エイキの言葉にヒロトは嬉しくなって思わず満面の笑みになった。

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佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

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