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アパートに戻った加奈は茫然としながらテレビを見ていた。お笑い番組をやっているのだろうが、全然中身が入ってこない。むしろ頭の中では小峰の言葉と、明人の事でいっぱいだった。明人は出会った時からずっと加奈にアプローチをしていたが、加奈はそれが明人の遊びと思い突っぱねていた。
けど、今日小峰の言葉を聞いてあれがわざとでも遊びでもなく真剣だったという事に気が付いた。
「はぁ、もう終わった事……だから考えちゃいけないんだけど」
自分にはもう川田がいる。川田を大切にしなくてはいけない。そう思ってはいるのだが、頭の中で川田の顔は一つも出てこない。むしろ明人と過ごした時間の事ばかりが映像となってリピートされている。
こういう時に詩織か春菜にでも相談したいが、それは何かが違う気がした。二人には川田と付き合うと言ったし、二人はそれで「そっか!よかったですね」と言ってくれた。
実は川田の事好きになれませんでした。などと馬鹿は事は言えない。小峰の言った「加奈ちゃんは今幸せ?」「加奈ちゃんは今の彼氏の事真剣に好き?」その二つがずっと渦を巻いている。
川田の事はちゃんと好きだ。男として……きっと。反芻はんすうする加奈だが、どうしても明人の事が放れない。
「……っ……」
ふと自分の手元が濡れている事に気が付いた。そっと手を頬に持って行くと、気が付かないうちに泣いているのだとわかった。その時ようやくわかった。
自分は川田ではなく明人の事が好きなのだと……
だがそれに気が付くのがもう遅かった。明人と自分はもう無関係なのだ。だから明人に対して恋する事など許されない。自分から断ち切った糸だ。そう思うと余計に涙が加奈の顔を濡らした。
何故自分がこの場にいるのか加奈にはわからなかった。
自分の気持ちがわかり、それからどうしたいのかもわからないまま、その足は明人のマンションに向かっていた。無我夢中だったのだろう。
明人の部屋を見上げれば電気は着いていない。まだ寝ているのだろうか?昼間小峰は風邪だと言っていた。ならば小峰に任せておけばいいのだ。なのに自分はここにいる。足は重くその場から動かなかった。
今ならまだ引き返せる。だが身体は明人のマンションに向かったままで帰ろうとする事すら出来ない。一つため息を漏らし、重い足はようやく前に進む事が出来た。一歩一歩を噛みしめるように……
自分は何をしているのだろうか?川田を裏切るのか?それでいいのか?
なけなしの良心が加奈に警告を告げるが、加奈の足取りは止まらない。エントランスに着くと、慣れた手つきで扉のロックを解除した。エレベータに乗った後は正直良心の声が聞こえなくなっていた。悪魔の囁ささやきの如き声だけが自分の頭に響く。
明人の部屋を前にした加奈は、恐る恐るインターホンを鳴らした。だが返事はない。もう一度……二度、三度と押し、ようやく明人の声が聞こえた。
『はい……』
やはり寝ていたのだろうか?それに小峰が風邪だと言っていたからだろうか。声が少し掠れ、不機嫌そうな声が聞こえてきた。
けど、今日小峰の言葉を聞いてあれがわざとでも遊びでもなく真剣だったという事に気が付いた。
「はぁ、もう終わった事……だから考えちゃいけないんだけど」
自分にはもう川田がいる。川田を大切にしなくてはいけない。そう思ってはいるのだが、頭の中で川田の顔は一つも出てこない。むしろ明人と過ごした時間の事ばかりが映像となってリピートされている。
こういう時に詩織か春菜にでも相談したいが、それは何かが違う気がした。二人には川田と付き合うと言ったし、二人はそれで「そっか!よかったですね」と言ってくれた。
実は川田の事好きになれませんでした。などと馬鹿は事は言えない。小峰の言った「加奈ちゃんは今幸せ?」「加奈ちゃんは今の彼氏の事真剣に好き?」その二つがずっと渦を巻いている。
川田の事はちゃんと好きだ。男として……きっと。反芻はんすうする加奈だが、どうしても明人の事が放れない。
「……っ……」
ふと自分の手元が濡れている事に気が付いた。そっと手を頬に持って行くと、気が付かないうちに泣いているのだとわかった。その時ようやくわかった。
自分は川田ではなく明人の事が好きなのだと……
だがそれに気が付くのがもう遅かった。明人と自分はもう無関係なのだ。だから明人に対して恋する事など許されない。自分から断ち切った糸だ。そう思うと余計に涙が加奈の顔を濡らした。
何故自分がこの場にいるのか加奈にはわからなかった。
自分の気持ちがわかり、それからどうしたいのかもわからないまま、その足は明人のマンションに向かっていた。無我夢中だったのだろう。
明人の部屋を見上げれば電気は着いていない。まだ寝ているのだろうか?昼間小峰は風邪だと言っていた。ならば小峰に任せておけばいいのだ。なのに自分はここにいる。足は重くその場から動かなかった。
今ならまだ引き返せる。だが身体は明人のマンションに向かったままで帰ろうとする事すら出来ない。一つため息を漏らし、重い足はようやく前に進む事が出来た。一歩一歩を噛みしめるように……
自分は何をしているのだろうか?川田を裏切るのか?それでいいのか?
なけなしの良心が加奈に警告を告げるが、加奈の足取りは止まらない。エントランスに着くと、慣れた手つきで扉のロックを解除した。エレベータに乗った後は正直良心の声が聞こえなくなっていた。悪魔の囁ささやきの如き声だけが自分の頭に響く。
明人の部屋を前にした加奈は、恐る恐るインターホンを鳴らした。だが返事はない。もう一度……二度、三度と押し、ようやく明人の声が聞こえた。
『はい……』
やはり寝ていたのだろうか?それに小峰が風邪だと言っていたからだろうか。声が少し掠れ、不機嫌そうな声が聞こえてきた。
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