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いつの間にか「加奈」から「霧島さん」に呼び方が変わっている。
川田は苦笑交じりのなんとも言えない複雑な表情はしていたが、なんとか笑顔を見せようとしていたのがとても痛々しかった。
「でも、少しの間でも俺を選んでくれて嬉しかったです」
「ごめん……ごめん、なさい……」
加奈に泣く権利などない。だが、加奈は泣き出してしまった。こんなにもいい子を傷つけてしまった自分は、愚かで最低な人間だ。
「顔上げて下さいよ。俺怒ってないですから……」
「でも……」
「ホントもういいですから、ね。これからも後輩としてよろしくお願いします」
最後の最後まで川田は優しかった。その優しさを裏切る形で断ち切った。本当に悪いと思った。それから川田は用事があると言って去って行ったが、おそらくその場にいたくなかったのだろう。加奈自身止はしなかったし、加奈もしばらくは店で茫然としていた。
閉店時間ギリギリになり、店員から声をかけられまで気が付かなかった。そしてケータイを見れば明人からの着信やメールが来ていたので、店を出て急いで明人に電話した。
「ごめん!全然気が付かなかった……」
『ちゃんと川田には言ったか?』
「うん」
『ならいい。それで?お前はこれからどうするんだ?』
「帰るよ……」
『どこに?』
「自分の家に決まってるじゃない!」
『そうか、せっかく今日はお前が泣くのを許してやろうと思ったが、残念だな。って事で明日までには川田を忘れて俺だけを考えろよ』
言う事を言って電話を切ろうとしたので、加奈は「待って!」と言って明人を止めた。
『なんだ?』
「あの、最低で最悪な悪女の我ままを聞いてくれますか?」
『言ってみろ』
「いろいろあって……その、罪悪感があります。懺悔したいので明人の家に行って泣いてもよろしいでしょうか?」
『許可する……』
電話を切った加奈は明人のマンションへと向かった。自分で相手を振っていながら堂々と新しい彼氏の家に行くなど、不謹慎極まりない気もしたが、今は一人で泣きたくなかった。
その日の明人はとても優しく、加奈が泣き止むまでずっと側にいてくれた。
川田は苦笑交じりのなんとも言えない複雑な表情はしていたが、なんとか笑顔を見せようとしていたのがとても痛々しかった。
「でも、少しの間でも俺を選んでくれて嬉しかったです」
「ごめん……ごめん、なさい……」
加奈に泣く権利などない。だが、加奈は泣き出してしまった。こんなにもいい子を傷つけてしまった自分は、愚かで最低な人間だ。
「顔上げて下さいよ。俺怒ってないですから……」
「でも……」
「ホントもういいですから、ね。これからも後輩としてよろしくお願いします」
最後の最後まで川田は優しかった。その優しさを裏切る形で断ち切った。本当に悪いと思った。それから川田は用事があると言って去って行ったが、おそらくその場にいたくなかったのだろう。加奈自身止はしなかったし、加奈もしばらくは店で茫然としていた。
閉店時間ギリギリになり、店員から声をかけられまで気が付かなかった。そしてケータイを見れば明人からの着信やメールが来ていたので、店を出て急いで明人に電話した。
「ごめん!全然気が付かなかった……」
『ちゃんと川田には言ったか?』
「うん」
『ならいい。それで?お前はこれからどうするんだ?』
「帰るよ……」
『どこに?』
「自分の家に決まってるじゃない!」
『そうか、せっかく今日はお前が泣くのを許してやろうと思ったが、残念だな。って事で明日までには川田を忘れて俺だけを考えろよ』
言う事を言って電話を切ろうとしたので、加奈は「待って!」と言って明人を止めた。
『なんだ?』
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『言ってみろ』
「いろいろあって……その、罪悪感があります。懺悔したいので明人の家に行って泣いてもよろしいでしょうか?」
『許可する……』
電話を切った加奈は明人のマンションへと向かった。自分で相手を振っていながら堂々と新しい彼氏の家に行くなど、不謹慎極まりない気もしたが、今は一人で泣きたくなかった。
その日の明人はとても優しく、加奈が泣き止むまでずっと側にいてくれた。
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