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 全紙一面をその話題で飾ったのは、フリークとマルディアスが会談した数日後の出来事だった。

「レーエンスブルク家事業縮小。役員の総入れ替え」
「レーエンスブルク家お家騒動。当主交代により決着か?」
「汚職発覚!一部役員逮捕に向け捜査入る」

 見出し自体は様々ではあるが、書いてある内容は大方同じものだ。
 あの後、レーエンスブルク家が手掛ける事業の規模縮小による手続きや、第三者委員による役員の取り調べ、税理士による監査などを踏まえると、フリークの予想したように汚職や賄賂などが次々と発覚する。それらも叩けば叩くほど出てくるので、なんだか面白いくらいだ。
 それらを引っ提げてフリークは父親や一族の集まる場で当主交代を迫った。これだけ前代未聞の不祥事を起こしている。父親や一族は否定する事は出来なかった。
「お前はレーエンスブルクを潰す気なのか?」
 激高気味の者がそうフリークに言うが、フリークは「どうせ放って置いてもつぶれるなら、私が再生させるだけだ」と言いのけた。だが当主交代と役員の入れ替えなどで事を終わらせるわけにはいかない。このまま雲隠れしようなどさせるわけもない。
 逮捕される者はまだいい。圧をかけて逃げようとする者は、財産の差し押さえを行った。これで名実ともに文無しで、レーエンスブルクを追放されたも同じだ。
 ここまでの事をわずかな期間でやってのけたフリークは、もちろん寝るのも惜しんで働いたようなものだ。むしろそれが心地よくも感じた。フリークの住む屋敷も売りに出され、本人は近くのアパートメントで過ごしていた。


 フリークが奮起する中で、エリサ自身はレーエンスブルクの屋敷に戻らず、ルディア―ス家にも戻っていなかった。
 エリサは姉セリカの好意によって実家であるエデンワース家に戻っていた。それはエリサの妊娠が発覚した二日後の事だった。
 事実を知ったセリカは何も言わずにいた。実家にはもちろん両親もいるのだが、両親も一切の事を責めず、話せる時に話すようにと言ったのだ。
 何故エリサがルディア―ス家にも戻らなかったのかは、戻れなかったという単純な答えだった。もちろんこの事実はオルカを初め、セリカと、両親しか知らない。マルディアスには「しばらく実家でお世話になります」という文を送った。マルディアスは「わかりました。またいつでも戻って来て下さい」と、強制的に戻るような促し方などはしなかった。
 そうしてフリークとも、マルディアスとも距離を置いていたエリサだったが、レーエンスブルク家の事業についてなどが書かれた記事を目にしたのはそれから数日後の事だった。
「フリーク様が当主に……それに屋敷も売りに?」
 自分の知らない所でいろいろな事が進んでいる。これで自分の帰る場所はどこにもなくなったのでは。そんな風にいろいろな事が頭の中で巡っている時だった。両親から呼ばれた。
「フリーク氏からお前へ……離縁の申し出だ」
「えっ?」
 そこには離婚の申告書と、エリサ宛への手紙が一枚入ってあった。
「全く……何の説明もなく次から次へと……これほどにまで我が家を馬鹿にするとは!」
 もちろんこの事に関してもそうだが、それまでの不祥事からレーエンスブルク家の事まで、何の説明も謝罪もない事に父親は怒っていた。しかしエリサはそれよりもフリークからの手紙に衝撃を受けていた。
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