上 下
71 / 91

71

しおりを挟む
 それから幾度か体を重ねたフェリシアとマルディアスだが、マルディアスの中から彼の想い人が消える事がない。どうすればいいのか頭を悩ませていた時、フェリシアと婚約者の間で結婚の日取りが決定した。
 このままでは望みもしない相手との結婚をさせられる。どうにかしてマルディアスの心に入り込みたい。その思いがフェリシアの心に悪魔を宿した。
(そうだわ……子供。子供さえ出来てしまえば……)
 自分とマルディアスの間に子供がいれば、マルディアスは自分と結婚するはずだと思った。だがマルディアスがあの秘密サロンに来るのは不定期だ。次いつ会えるかわからない。急いたフェリシアはある行動をとった。それはこの際マルディアスとの子供でなくともいい。子供が出来たという既成事実があればいいのだと思い、マルディアスでない男に抱かれた。
 それは見事に実となる。誰の子供かもわからない。その真実はフェリシアにしかわからない。そして秘密サロンで久々に再会したマルディアスに妊娠を告げた。
 それからの流れは早かった。フェリシア自身両親にマルディアスとの子を身籠った。こんなふしだらな自分では婚約者と結婚など出来ない。破棄したいと言った。もちろん相手の両親も自分の両親は大激怒しフェリシアはほぼ勘当状態になった。そのタイミングでマルディアスとの結婚が決まった。
 全ては自分の思い通りだ。フェリシアはマルディアスと見事結婚し、それからしばらくして子供が産まれた。この子供は血は違えど自分とマルディアスの子だ。決して知られず育てなくてはいけない。


 何もかもがうまくいっていたフェリシアの思惑。だが困った事はいくつかあった。子を出産して以後、マルディアスは自分を抱く事もなければ子供を見る事もあまりない。自分から誘ってみた事もあったが、すげなく断られた。
 まだマルディアスの心には過去の女がいて、自分との事は後悔だと思っているのか。
 そんな折に現れたのかその過去の女。
 たまたまその日はマルディアスを迎えに行った。そしてマルディアスが馬車を捉まえようと停留所に向かった時、マルディアスはエリサと再会したのだ。それを少し離れた場所からフェリシアは見ていた。
(あれがマルディアス様の想い人……)
 すぐにわかった。そして同時にフェリシアの心には嫉妬の炎が灯った。
「初めまして。妻のフェリシアです」
 相手を牽制するようにエリサに名を告げたフェリシア。それを聞いてエリサは動揺していた。どうやらエリサもまたマルディアスに未練を残しているのではと女の勘が働く。
 それからしてもう一度エリサとは出会った。やはり気に食わない。マルディアスは今や自分のものだ。二人の間には子供までいるのだ。
 だが再会したあの日以降、マルディアスはさらにフェリシアを避けるようになった。まるでそこにフェリシアがいる事など気が付かないかのように。時折庭園で薔薇を摘んではどこかへ贈っている。それがエリサの元へと贈っているのはすぐに気が付いた。
 あの時エリサと出会わなければ自分達は家族として成り立っていた。それをいとも簡単に壊されたのだ。
しおりを挟む

処理中です...