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第2巻 理に堕つる者たち
第9章 理を記す塔
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――塔の内部は、静寂に満ちていた。
音が吸い取られ、光が沈む。
壁一面に走る符の線が青白く光り、
その隙間から灰がゆっくりと降り注いでいる。
アーレンは歩みを止めた。
足元の灰がざらりと音を立て、
その音すら塔に吸い込まれていく。
まるで、世界が息をひそめているようだった。
「……リュミナ、気を抜くな」
「うん」
彼女の声はかすれていた。
空気そのものが重い。
理が濃すぎて、呼吸をするたびに肺が軋む。
塔の最奥――理核へ続く長い回廊。
壁面の符が、ひとつ、またひとつと点滅し始めた。
まるで彼らの侵入を感知したかのように。
「……嫌な感じがする」
リュミナが囁いた瞬間、
灰がふわりと舞い上がった。
音もなく、影が立ち上がる。
黒でも白でもない、灰色の輪郭。
それはゆっくりと人の形を取っていった。
ひとつ、ふたつ、みっつ――
十を超えたあたりで、アーレンは息を呑む。
全員、まったく同じ形。
同じ顔、同じ高さ、同じ動作。
それはまるで、“理の複製体”だった。
「……番人、か」
アーレンは低く呟いた。
塔の防衛機構――理が自らの秩序を守るために生み出す存在。
灰の番人。
最前列のひとりが動いた。
足音はない。
だが、空気が裂けた。
周囲の灰が線となって跳ね、壁を刻んだ。
「反応速度が人間じゃない……!」
アーレンは即座に符を展開した。
六枚の符が宙に舞い、青白い光の陣を描く。
だが、番人はその符を見た瞬間、わずかに動きを止めた。
灰の瞳が、彼を見つめている。
『――識別。人の理。アーレン・グレイヴ。』
声は、音ではなかった。
直接、頭の中に流れ込んでくる。
冷たく、平坦で、感情のない言葉。
「……俺を知っている?」
『理に触れ、理を歪めた者。』
「その理を創ったのは――おまえたちだろう」
番人たちの動きが一瞬だけ止まる。
灰の粒が周囲に浮かび上がり、ゆっくりと渦を巻いた。
『我らは秩序。人は誤差。』
「誤差、ね」
アーレンの唇が皮肉に歪む。
「だったら――その誤差が、おまえらを終わらせてやる」
符が光を放つ。
雷のような閃光が走り、番人たちを弾き飛ばした。
だが、灰の身体は崩れず、すぐに再構成される。
リュミナが一歩前に出た。
灰が彼女の足元で静かに波打つ。
「……やめて」
その一言で、空気が変わった。
番人たちの動きが止まり、
灰が微かに震えた。
『識別不能。――同質。』
塔の奥から、重低音のような響きが広がった。
灰の壁が脈を打つ。
番人たちの瞳が、一斉にリュミナを見た。
「アーレン……彼ら、わたしを“理”として見てる」
「そうか……。
なら、おまえが命令できるかもしれない」
「……命令、なんて」
リュミナは首を振った。
灰が彼女の頬を撫でる。
まるで、世界が問いかけているようだった。
『――帰還ヲ求ム。』
灰の番人たちが、ゆっくりと膝をついた。
その中央で、塔の奥へと続く門が開いていく。
灰と光が入り混じる、息を呑むような美しさ。
その奥に、塔の心臓――“理核”が脈動していた。
⸻
アーレン「……歓迎されてるわけじゃなさそうだな」
リュミナ「ううん。これは――“裁き”だよ」
そして、二人はその門をくぐる。
世界の理が、彼らを見つめていた
――塔の奥は、静寂の中に心音があった。
ドクン、と低く響く。
それはどこからともなく鳴り、
耳ではなく、骨を通して伝わってくる。
足元の床が呼吸している。
灰でできた石板が、まるで心臓のようにわずかに脈打っていた。
「……これが塔の中枢層か」
アーレンは周囲を見回した。
空間は形を持たない。
直線も、奥行きも、視線を向けた先から変形していく。
まるで思考そのものを具現化したような構造だった。
壁に刻まれた古代符は、既知の言語ではない。
だがその意味は“理解できてしまう”。
――まるで頭の中に直接、言葉が流れ込んでくるように。
『理は記録する。すべての流れを。
命の始まりと終わり、想いと罪を。』
声が響いた。
どこからでもなく、空気の中から。
リュミナが立ち止まり、胸に手を当てる。
「……いまの、わたしに話しかけてた」
「塔の理核の声か?」
「ううん……もっと近い。
わたしの中の理が、呼応してる」
その瞬間、塔が震えた。
灰が舞い上がり、光が脈打つ。
まるで、塔全体が呼吸を速めている。
「理が……乱れてる」
アーレンは符を展開した。
だが、光がすぐに乱れ、符は破裂した。
「干渉を拒んでる。
まるで、俺たちの存在そのものを排除しようとしているみたいだ」
『人ノ理、侵入ヲ確認。』
空間の中心から、灰の柱が立ち上がった。
そこから無数の影が溶け出す。
灰の番人たちが、壁から生まれていく。
「また来たか……!」
アーレンが腕をかざす。
だが、リュミナがその前に出た。
彼女の瞳が淡く光っている。
番人たちは動かない。
彼女を見つめたまま、静止していた。
「……アーレン。彼ら、怒ってる」
「怒り?」
「ううん、違う……“悲しんでる”。」
灰の風が吹いた。
音のない嵐。
塔の壁に走る符が、悲鳴のように明滅する。
『理ハ記録スル。
人ハ、壊ス。
創造ハ、再演ノ始マリ。』
空間が揺れた。
床が反転し、視界が歪む。
上も下もなく、ただ灰の光が渦を巻く。
アーレンはリュミナの腕を掴んだ。
「離れるな!」
風に逆らいながら進む。
「塔が、怒ってる……!
記録の流れが崩れてるの!」
「どうすればいい!」
「わからない……でも、止めなきゃ。
このままじゃ――王都ごと灰になる!」
その瞬間、塔の天井が裂けた。
上空に広がる灰の層の向こうから、
巨大な光の眼が二人を見下ろしていた。
『――記録ヲ始メル。』
光が奔る。
灰の柱が爆ぜ、
空間全体が、燃えるように明るくなった。
⸻
視界が白く染まる中で、
リュミナの意識に無数の映像が流れ込んだ。
戦争、誕生、祈り、破滅――
すべての命の記録。
理が、世界の“すべて”を記憶している。
「……これが、塔の正体……?」
彼女の声は震えていた。
アーレンは振り返るが、光が強すぎて何も見えない。
ただ、リュミナの声だけが聞こえた。
「アーレン――“世界が、わたしたちを記録してる”」
――世界が、書き換わっていく。
灰の光が壁からあふれ、床の模様がゆっくりと変化していく。
刻まれていくのは、現実の映像。
アーレンとリュミナの姿、学院、そして王都。
それらが灰の符として、塔の内側に浮かび上がっていた。
「……アーレン。これ、わたしたちの――今?」
「ああ。塔が、記録してる。
いや……“写し取っている”んだ」
灰の壁の中で、もう一人の自分たちが動いている。
その動きは、わずかに遅れて現実に追いつく。
まるで、過去と現在が重なっていくようだった。
「どうして……こんなことを?」
「塔は観測するだけじゃない。
今の出来事を“理として保存”してる。
つまり――この瞬間を、世界の構造に刻み込もうとしている」
アーレンは背筋に冷たい汗を感じた。
理が記録を始めるということは、
それを固定するということ。
一度刻まれれば、誰にも上書きできない。
それは、世界の決定と同義だった。
『――観測完了。構築開始。』
無機質な声が響いた瞬間、
灰の床が砕けた。
そこから無数の光の糸が立ち上がる。
その糸は、アーレンとリュミナの身体に絡みついていった。
「くっ……! なんだこれは!」
「アーレン、動けない!」
灰の糸が脈動する。
温度はない。
だが、その中に“情報”が流れ込んでくる。
――幼い日の記憶。学院の研究室。
――リュミナを創った夜の光景。
――失敗と、成功。
――そして、「命」という言葉。
塔が、アーレンを読み取っている。
『理の誕生記録、確認。
人の手による理構築、違反指定。』
「……違反?」
アーレンは息を呑んだ。
塔の声が続く。
『創造者アーレン・グレイヴ。
あなたの理は、秩序に矛盾を生じさせた。
記録修正を開始します。』
その瞬間、灰の壁が波打った。
映し出された学院の映像が崩れ、
代わりに――アーレンが存在しない世界が浮かび上がった。
「……やめろ!」
彼は叫んだ。
符を展開し、光を走らせる。
だが、塔の理に触れた瞬間、符は焼き切れた。
灰の粒子となって散る。
「記録が、現実を上書きしてる……!」
「わたしが止める!」
リュミナが前に出る。
灰の光が彼女の髪に吸い込まれ、
彼女の瞳が塔と同じ色に変わっていく。
『――同質体確認。
媒介可能。』
「……やめろ! リュミナ、それ以上は――!」
アーレンの声は届かない。
灰が舞い、彼女の身体が光に包まれていく。
塔と彼女の境界が曖昧になり、
空間そのものが震えた。
『記録ヲ完遂スル。
理ヲ保ツ為ニ、全テノ情報ヲ還元スル。』
アーレンの足元が崩れた。
下には、光の海――無数の記録の層。
その中で、王都の姿が灰に変わっていく。
「……これが、理災の始まりか……!」
アーレンは腕を伸ばした。
リュミナの手を掴もうとする。
だが、その指先が光に溶けた。
リュミナが、こちらを見た。
涙ではなく、灰が頬を伝って落ちた。
「アーレン……ごめん。
でも、これが“理の選択”なら、わたしは――」
彼女の声が途切れる。
塔の光が爆ぜ、空間が裏返る。
灰の波が世界を包み込む。
⸻
「――記録、完了。」
その一言を最後に、音が消えた。
世界は白く、何もなくなった。
音が吸い取られ、光が沈む。
壁一面に走る符の線が青白く光り、
その隙間から灰がゆっくりと降り注いでいる。
アーレンは歩みを止めた。
足元の灰がざらりと音を立て、
その音すら塔に吸い込まれていく。
まるで、世界が息をひそめているようだった。
「……リュミナ、気を抜くな」
「うん」
彼女の声はかすれていた。
空気そのものが重い。
理が濃すぎて、呼吸をするたびに肺が軋む。
塔の最奥――理核へ続く長い回廊。
壁面の符が、ひとつ、またひとつと点滅し始めた。
まるで彼らの侵入を感知したかのように。
「……嫌な感じがする」
リュミナが囁いた瞬間、
灰がふわりと舞い上がった。
音もなく、影が立ち上がる。
黒でも白でもない、灰色の輪郭。
それはゆっくりと人の形を取っていった。
ひとつ、ふたつ、みっつ――
十を超えたあたりで、アーレンは息を呑む。
全員、まったく同じ形。
同じ顔、同じ高さ、同じ動作。
それはまるで、“理の複製体”だった。
「……番人、か」
アーレンは低く呟いた。
塔の防衛機構――理が自らの秩序を守るために生み出す存在。
灰の番人。
最前列のひとりが動いた。
足音はない。
だが、空気が裂けた。
周囲の灰が線となって跳ね、壁を刻んだ。
「反応速度が人間じゃない……!」
アーレンは即座に符を展開した。
六枚の符が宙に舞い、青白い光の陣を描く。
だが、番人はその符を見た瞬間、わずかに動きを止めた。
灰の瞳が、彼を見つめている。
『――識別。人の理。アーレン・グレイヴ。』
声は、音ではなかった。
直接、頭の中に流れ込んでくる。
冷たく、平坦で、感情のない言葉。
「……俺を知っている?」
『理に触れ、理を歪めた者。』
「その理を創ったのは――おまえたちだろう」
番人たちの動きが一瞬だけ止まる。
灰の粒が周囲に浮かび上がり、ゆっくりと渦を巻いた。
『我らは秩序。人は誤差。』
「誤差、ね」
アーレンの唇が皮肉に歪む。
「だったら――その誤差が、おまえらを終わらせてやる」
符が光を放つ。
雷のような閃光が走り、番人たちを弾き飛ばした。
だが、灰の身体は崩れず、すぐに再構成される。
リュミナが一歩前に出た。
灰が彼女の足元で静かに波打つ。
「……やめて」
その一言で、空気が変わった。
番人たちの動きが止まり、
灰が微かに震えた。
『識別不能。――同質。』
塔の奥から、重低音のような響きが広がった。
灰の壁が脈を打つ。
番人たちの瞳が、一斉にリュミナを見た。
「アーレン……彼ら、わたしを“理”として見てる」
「そうか……。
なら、おまえが命令できるかもしれない」
「……命令、なんて」
リュミナは首を振った。
灰が彼女の頬を撫でる。
まるで、世界が問いかけているようだった。
『――帰還ヲ求ム。』
灰の番人たちが、ゆっくりと膝をついた。
その中央で、塔の奥へと続く門が開いていく。
灰と光が入り混じる、息を呑むような美しさ。
その奥に、塔の心臓――“理核”が脈動していた。
⸻
アーレン「……歓迎されてるわけじゃなさそうだな」
リュミナ「ううん。これは――“裁き”だよ」
そして、二人はその門をくぐる。
世界の理が、彼らを見つめていた
――塔の奥は、静寂の中に心音があった。
ドクン、と低く響く。
それはどこからともなく鳴り、
耳ではなく、骨を通して伝わってくる。
足元の床が呼吸している。
灰でできた石板が、まるで心臓のようにわずかに脈打っていた。
「……これが塔の中枢層か」
アーレンは周囲を見回した。
空間は形を持たない。
直線も、奥行きも、視線を向けた先から変形していく。
まるで思考そのものを具現化したような構造だった。
壁に刻まれた古代符は、既知の言語ではない。
だがその意味は“理解できてしまう”。
――まるで頭の中に直接、言葉が流れ込んでくるように。
『理は記録する。すべての流れを。
命の始まりと終わり、想いと罪を。』
声が響いた。
どこからでもなく、空気の中から。
リュミナが立ち止まり、胸に手を当てる。
「……いまの、わたしに話しかけてた」
「塔の理核の声か?」
「ううん……もっと近い。
わたしの中の理が、呼応してる」
その瞬間、塔が震えた。
灰が舞い上がり、光が脈打つ。
まるで、塔全体が呼吸を速めている。
「理が……乱れてる」
アーレンは符を展開した。
だが、光がすぐに乱れ、符は破裂した。
「干渉を拒んでる。
まるで、俺たちの存在そのものを排除しようとしているみたいだ」
『人ノ理、侵入ヲ確認。』
空間の中心から、灰の柱が立ち上がった。
そこから無数の影が溶け出す。
灰の番人たちが、壁から生まれていく。
「また来たか……!」
アーレンが腕をかざす。
だが、リュミナがその前に出た。
彼女の瞳が淡く光っている。
番人たちは動かない。
彼女を見つめたまま、静止していた。
「……アーレン。彼ら、怒ってる」
「怒り?」
「ううん、違う……“悲しんでる”。」
灰の風が吹いた。
音のない嵐。
塔の壁に走る符が、悲鳴のように明滅する。
『理ハ記録スル。
人ハ、壊ス。
創造ハ、再演ノ始マリ。』
空間が揺れた。
床が反転し、視界が歪む。
上も下もなく、ただ灰の光が渦を巻く。
アーレンはリュミナの腕を掴んだ。
「離れるな!」
風に逆らいながら進む。
「塔が、怒ってる……!
記録の流れが崩れてるの!」
「どうすればいい!」
「わからない……でも、止めなきゃ。
このままじゃ――王都ごと灰になる!」
その瞬間、塔の天井が裂けた。
上空に広がる灰の層の向こうから、
巨大な光の眼が二人を見下ろしていた。
『――記録ヲ始メル。』
光が奔る。
灰の柱が爆ぜ、
空間全体が、燃えるように明るくなった。
⸻
視界が白く染まる中で、
リュミナの意識に無数の映像が流れ込んだ。
戦争、誕生、祈り、破滅――
すべての命の記録。
理が、世界の“すべて”を記憶している。
「……これが、塔の正体……?」
彼女の声は震えていた。
アーレンは振り返るが、光が強すぎて何も見えない。
ただ、リュミナの声だけが聞こえた。
「アーレン――“世界が、わたしたちを記録してる”」
――世界が、書き換わっていく。
灰の光が壁からあふれ、床の模様がゆっくりと変化していく。
刻まれていくのは、現実の映像。
アーレンとリュミナの姿、学院、そして王都。
それらが灰の符として、塔の内側に浮かび上がっていた。
「……アーレン。これ、わたしたちの――今?」
「ああ。塔が、記録してる。
いや……“写し取っている”んだ」
灰の壁の中で、もう一人の自分たちが動いている。
その動きは、わずかに遅れて現実に追いつく。
まるで、過去と現在が重なっていくようだった。
「どうして……こんなことを?」
「塔は観測するだけじゃない。
今の出来事を“理として保存”してる。
つまり――この瞬間を、世界の構造に刻み込もうとしている」
アーレンは背筋に冷たい汗を感じた。
理が記録を始めるということは、
それを固定するということ。
一度刻まれれば、誰にも上書きできない。
それは、世界の決定と同義だった。
『――観測完了。構築開始。』
無機質な声が響いた瞬間、
灰の床が砕けた。
そこから無数の光の糸が立ち上がる。
その糸は、アーレンとリュミナの身体に絡みついていった。
「くっ……! なんだこれは!」
「アーレン、動けない!」
灰の糸が脈動する。
温度はない。
だが、その中に“情報”が流れ込んでくる。
――幼い日の記憶。学院の研究室。
――リュミナを創った夜の光景。
――失敗と、成功。
――そして、「命」という言葉。
塔が、アーレンを読み取っている。
『理の誕生記録、確認。
人の手による理構築、違反指定。』
「……違反?」
アーレンは息を呑んだ。
塔の声が続く。
『創造者アーレン・グレイヴ。
あなたの理は、秩序に矛盾を生じさせた。
記録修正を開始します。』
その瞬間、灰の壁が波打った。
映し出された学院の映像が崩れ、
代わりに――アーレンが存在しない世界が浮かび上がった。
「……やめろ!」
彼は叫んだ。
符を展開し、光を走らせる。
だが、塔の理に触れた瞬間、符は焼き切れた。
灰の粒子となって散る。
「記録が、現実を上書きしてる……!」
「わたしが止める!」
リュミナが前に出る。
灰の光が彼女の髪に吸い込まれ、
彼女の瞳が塔と同じ色に変わっていく。
『――同質体確認。
媒介可能。』
「……やめろ! リュミナ、それ以上は――!」
アーレンの声は届かない。
灰が舞い、彼女の身体が光に包まれていく。
塔と彼女の境界が曖昧になり、
空間そのものが震えた。
『記録ヲ完遂スル。
理ヲ保ツ為ニ、全テノ情報ヲ還元スル。』
アーレンの足元が崩れた。
下には、光の海――無数の記録の層。
その中で、王都の姿が灰に変わっていく。
「……これが、理災の始まりか……!」
アーレンは腕を伸ばした。
リュミナの手を掴もうとする。
だが、その指先が光に溶けた。
リュミナが、こちらを見た。
涙ではなく、灰が頬を伝って落ちた。
「アーレン……ごめん。
でも、これが“理の選択”なら、わたしは――」
彼女の声が途切れる。
塔の光が爆ぜ、空間が裏返る。
灰の波が世界を包み込む。
⸻
「――記録、完了。」
その一言を最後に、音が消えた。
世界は白く、何もなくなった。
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