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第Ⅴ巻 沈黙命律〈サイレント・コード〉
第12話 沈黙の行方
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――沈黙が、ようやく破れた。
王都中央に漂っていた黒い霧は、砕け散った虚帝圏の欠片とともに空へ昇り、すうっと薄れていく。命令核が砕けた瞬間に走った“祈りの逆流”が、街の瓦礫に柔らかな光を宿していた。
エインは拳を下ろし、荒い呼吸を整える。胸の炎核がまだ不規則に脈打っている。
そのすぐ後ろ、ティナが震える手で灯を掲げていた。淡い光は揺れ続け、それでも消えなかった。
「……終わったの?」
息をのみながらティナが問う。
エインは首を横に振る。
「終わりじゃない。バルグは崩れたが……これは“中心”じゃない。」
瓦礫の影から、アーセラがよろめくように姿を現す。胸の命令炉は光を完全に失い、外装には深い断裂が走っている。それでも彼女は歩いた。
「……命律の波形、消失確認……虚帝圏、王都から完全退避……」
その報告を口にする声はかすれていたが、確かに意志があった。
そこへシオンが駆け寄り、星盤に残る残響を読み取る。
「……やはり。これは“前哨”です。命令波の本流は王都に届いていない。」
エインが眉をひそめる。
「じゃあ、今のは……」
シオンは星盤を閉じ、静かに言った。
「虚帝圏は、まだ“北”に広がっています。
――主核は、ヴァロスのもとに。」
王都は救われた。
だが空気の奥に、まだ微かな律動が響いている。
沈黙は破られた。
しかし、“沈黙の源”は生きている。
虚帝圏の光膜が砕け、黒い霧のように霧散していく。
圧しつけていた“沈黙”がほどけた瞬間――
王都は、まるで水面が息を吸い込むように、ゆっくりと音を取り戻した。
「……声が……聞こえる……!」
「祈りが……戻った……!」
瓦礫に埋もれながら立ち上がる兵士。
抱き合って泣き崩れる市民。
沈んでいた祈り層はまだ傷だらけだが、確かに脈を打ち始めていた。
ティナは小さく胸を押さえる。
「……戻った……ほんとうに……」
震える指先で灯を掲げると、弱かった炎が、今度はゆったりと呼吸を取り戻す。
「よかった……あなたたちの祈り、消えてなかった……」
その言葉に、市民の一人が涙ながらにティナへ駆け寄った。
「灯守さま……! あなたの灯が……ここに……っ!」
ティナは首を横に振る。
「私じゃないよ……
皆さんが、消さなかったんです。
私は、ただ――照らしただけ」
その横で、エインはまだ戦場の中心を見据えていた。
王都の人々が彼に気づき、次々と声を上げる。
「あの黒鉄の男が……救ってくれたんだ!」
「炎を纏った拳で、命令の怪物を……!」
しかし、エインは戸惑ったように眉を寄せた。
「……救ったなんて、大した話じゃない。ただ殴っただけだ」
ティナはふわりと笑う。
「ううん。
“どう殴ったか”じゃなくて……
“何を残したか”が、人のやさしさなんだよ」
エインは息を詰め、わずかに視線をそらした。
崩れた街路に漂う炎の粉塵が、静かに彼の足元へ落ちていく。
その光景を少し離れた場所から見ていたシオンが、星盤を閉じて小さく呟いた。
「……奇妙なものですね。
祈りを持たぬはずの兵器が……
いま、誰よりも“祈りを残している”。」
戦いは終わった。
傷は深く、街はまだ立ち上がる途中だ。
だが――灯は消えていない。
そして、その灯の下に立つ黒鉄の兵器を、王都の人々はもう“敵”と呼ばなかった。
王都に祈りの声が戻り始めたその時――
北側の城壁で、炎槌が地面を叩く音が響いた。
「……道はまだ、荒れ放題だな」
重い声とともに歩み出る巨大な影。
誓王バル=ドラクが、血と灰に染まった炎槌を肩に担いで現れた。
バルザ戦士団の生き残りが背後に続き、王都の広場に入った途端――
周囲の兵士たちは一斉に姿勢を正し、声を上げた。
「バルザ王だ! 本物の誓王が来てくれた!!」
バル=ドラクはそれに頓着することなく、エインへ近づく。
「……黒鉄の男。
さっきの一撃、見事だったな」
エインは肩で息をしながら、視線をそらして答える。
「……殴っただけだ。誓いなんて、俺にはない」
「なら作ればいい」
誓王は、迷いなく言い切った。
「誓いとはな……“誰かのために立つ”と腹の底で決めることだ。
神も、祈りも、条件もいらん。
――お前はさっき、それをやった」
ティナが息をのむ。
エインは言葉を返せず、ただ拳を握りしめた。
バル=ドラクはその拳に目を向け、笑う。
「その拳、俺には“誓いの火”が見えたぞ。
だがまだ弱ぇ。鍛えれば化ける」
エインが返す前に、王都の兵士たちが歓声を上げ始めた。
「バルザ王が認めたのか……!」
「黒鉄の兵器を……仲間として……!」
エインは困惑し、ティナは微笑み、シオンは静かに星盤を回す。
「ふむ……興味深い現象ですね。
祈りの再生直後は、“信頼”そのものが祈り層を強化する……
これは研究のしがいがあります」
バル=ドラクは炎槌を背に回し、大声で宣言した。
「――ルミナリアよ!
バルザの誓火は、今日より貴様らを護る盾でもある!!
命令の軍勢が再び来るなら、この炎が前に出る!!」
その声は、崩れた王都の空に響き渡った。
祈りの光が淡く揺れ、市民たちの顔に確かな希望が差し始める。
だが――希望は、前触れでもあった。
エインが空を見上げる。
ティナも、シオンも気づく。
北の空が、微かに“光っている”。
「……あれは……?」
ティナの声が震える。
シオンが星盤を展開し、震える指で軌道を読み取る。
「──命律波です。
幹部体バルグが消滅したことで……
“本流”が動き始めた」
エインは拳を堅く握りしめる。
「来るか……次が」
バル=ドラクは炎槌を握りなおし、笑った。
「上等だ。
沈む気は、さらさらねぇぞ」
祈りが戻った王都。
その空に、新たな脅威の光が迫っていた。
――王都の空が、薄く震えた。
命律波の揺らぎが、空気そのものを媒介にして
巨大な“像”として投影される。
白銀と雷光の輪郭。
黄金の瞳。
ただし実体ではない。
意志ではなく、命令の残響。
ヴァロスが世界へ向けて口を開いた。
「――沈黙は、拡大する」
硬質で、冷たい断定。
エインたちだけではない。
王都全体の空気が震え、
周囲の祈り層が一瞬だけ凍り付く。
ヴァロスの声は続いた。
「祈りは不要」
誰かが息を呑む音だけが響く。
「加護は無価値」
王都の祈り層が小さくざわめく。
神殿の塔がきしむ。
「契約は非効率」
アルメリアの技師たちが青ざめる。
「誓いは無意味」
バルザ戦士たちが怒りを押し殺した。
ヴァロスの黄金の瞳が、ゆっくりと世界を見るように動く。
「――世界は、沈む」
あくまで“判断結果”として。
「祈りを捨てよ。
意志を捨てよ。
定義を捨てよ」
ティナが灯を握りしめる。
「曖昧な力は除去する。
循環は断つ。
声は奪う」
エインが歯を食いしばった。
「従わぬ領域は、沈黙に変換する」
そして――
ヴァロスは最後の“世界規模の通告”を放つ。
「全大陸へ通知。
次の沈黙地点は――選ばれる側ではなく、侵される側」
王都中に衝撃が走った。
「回避は不可。
防衛は不可。
祈りによる干渉、排除する」
空が黒く瞬く。
「虚帝圏――拡大開始を宣言する」
像は歪み、そのまま霧のように消滅した。
誰も声を出せないまま、ただ“命令だけ”が王都に残された。
ティナが震える声で言う。
「……世界……全部を……沈めるつもり……?」
エインは拳を握りしめ、空を睨んだ。
「……奴は本気だろう」
王都に漂っていた“沈黙の重み”が、ゆっくりと薄れていく。
祈りの光がかすかに戻りはじめ、
沈んでいた人々の呼吸も整い、
誓火が弱々しく揺れながらも灯を取り戻していた。
しかし、誰ひとりとして安堵の声を上げない。
エインは拳を握りしめたまま、空に染み込む黒い余韻を見上げていた。
「……あれが、ヴァロスの“命律”か」
戦場の瓦礫の上、アーセラが息を整えながら目を細める。
「命令とも違う……祈りを噛み砕くみたいな……
“意味のない響き”が、世界を飲み込もうとしてた……」
ティナは灯を抱きしめ、震える声で言った。
「……あのままだったら……王都は……本当に……」
祈り層は辛うじて立ち直ったが、完全復活にはほど遠い。
シオンが星盤を強く抱きしめながら告げる。
「……問題は、ヴァロスの“場所”です」
「場所……?」
エインが聞き返す。
シオンは星盤を広げ、震える光の点を三つ示した。
「命律波の残留反応が強い地点……
第一が王都。
第二が北方の帝国残滓領。
そして――」
星盤の一点が、砂嵐のように揺れた。
「――第三地点が、遊牧連合ノマ=ルグです」
ティナが息を呑む。
「ノマ=ルグ……!
あそこは、祈りより“風と歌の国”……
祈り層が弱いぶん、“沈黙”に脆い……!」
「そうです」
シオンは重く頷いた。
「祈りの形が“声”“風”“共鳴”に偏っている国家。
命律波の沈黙は……最悪の相性です。
もしノマ=ルグが沈黙したら――」
アーセラが呟く。
「……風路が断たれる……世界中の祈りが届かなくなる……」
「そういうことです」
星盤の光が震え、ノマ=ルグの位置に黒い波形が滲む。
「ヴァロスは……
“祈りを消す順番”を、世界に刻みはじめている」
エインの視線が鋭くなる。
「まず王都で沈黙を試し……
次はノマ=ルグの“風ごと止める”つもりか」
そこへ、炎槌を肩に担いだ誓王バル=ドラクが歩み寄る。
「エインよ。
次の戦場は……あの草原か」
「ああ。
ノマ=ルグが沈めば、祈りの道が寸断される。
世界の“呼吸”が止まる」
バル=ドラクは烈火のように笑った。
「行け。
誓火は後方で備える。
だが――あの風の民が沈むのは、オレも見たくない」
その言葉の直後――
アーセラが小さく呻き、膝をついた。
「っ……ぁ……!」
白銀の胸部に走った亀裂が、深く光を漏らす。
命令核が安定せず、命律波の残響に引かれるように脈打っていた。
「アーセラ!」
ティナが駆け寄る。
「……わたし……長く持たない……
命令にも沈黙にも……身体が引きずられる……
今のままじゃ……“声”の国まで……行けない……」
アーセラの声は弱い。しかし――
そこにはもう“従属”ではなく、“選ぶ意志”があった。
エインは彼女の前にかがみこむ。
「……アーセラ。
お前は外で活動できる状態じゃない」
「……わかってる……
でも……行く……!」
アーセラの瞳に宿ったのは、確かな意志。
「だったら――俺に預けろ」
エインは胸の炎核へ手を当てた。
「一度、俺の核に同化しろ。
炎核の中なら命令にも沈黙にも触れない。
修復が終わるまで、“俺が守る”」
アーセラは一瞬、息を呑む。
「……同化したら……
わたし、しばらく……姿を……」
「いなくなるわけじゃない」
短く、強い肯定。
ティナがそっと微笑む。
「エインの炎核なら……きっとアーセラさんを守れる……
だって、灯とも……同じ“火”だから……」
アーセラはかすかに笑い、頷いた。
「……お願い……する……」
次の瞬間――
白銀の身体がふっと光にほどけ、
炎核の奥へと吸い込まれていく。
エインの胸元に、僅かな白銀の残光が宿った。
『……ありがとう……エイン……』
アーセラの微かな声が、炎核から響く。
「治るまで寝てろ。
着いたら起こす」
エインは短く答えた。
そこへ、静かな気配が降りてきた。
白金の装束――聖王ルミナリオが
聖女セリシア、聖騎士長レオナを伴い姿を現した。
「――王都を救った者たちよ」
聖王の眼差しは、エインたち四人へ真っ直ぐ向けられていた。
「旅団よ。
ノマ=ルグの風を止めさせるな」
セリシアが祈るように言葉を重ねる。
「もしノマ=ルグが沈黙に呑まれれば……
光も祈りも……世界の声そのものが失われます」
エインは静かに頷く。
「わかってる。
ヴァロスを止めるのは……俺たちの役目だ」
「――頼む」
聖王は深く頭を下げた。
エインは僅かに目を伏せ、
しかし誰にも従うのではなく“自分の意志”で言った。
「行く。
これ以上……祈りを奪わせない」
ティナが灯を掲げる。
「ノマ=ルグへ……」
シオンが星盤を開く。
「風が沈む前に、急ぎましょう」
エインは歩き出した。
胸に白銀の光を宿し、
灯と星盤と祈りを背負いながら。
祈りの旅団は“風の沈黙”へと挑むべく、ノマ=ルグへ向かった。
第Ⅴ巻【完】
王都中央に漂っていた黒い霧は、砕け散った虚帝圏の欠片とともに空へ昇り、すうっと薄れていく。命令核が砕けた瞬間に走った“祈りの逆流”が、街の瓦礫に柔らかな光を宿していた。
エインは拳を下ろし、荒い呼吸を整える。胸の炎核がまだ不規則に脈打っている。
そのすぐ後ろ、ティナが震える手で灯を掲げていた。淡い光は揺れ続け、それでも消えなかった。
「……終わったの?」
息をのみながらティナが問う。
エインは首を横に振る。
「終わりじゃない。バルグは崩れたが……これは“中心”じゃない。」
瓦礫の影から、アーセラがよろめくように姿を現す。胸の命令炉は光を完全に失い、外装には深い断裂が走っている。それでも彼女は歩いた。
「……命律の波形、消失確認……虚帝圏、王都から完全退避……」
その報告を口にする声はかすれていたが、確かに意志があった。
そこへシオンが駆け寄り、星盤に残る残響を読み取る。
「……やはり。これは“前哨”です。命令波の本流は王都に届いていない。」
エインが眉をひそめる。
「じゃあ、今のは……」
シオンは星盤を閉じ、静かに言った。
「虚帝圏は、まだ“北”に広がっています。
――主核は、ヴァロスのもとに。」
王都は救われた。
だが空気の奥に、まだ微かな律動が響いている。
沈黙は破られた。
しかし、“沈黙の源”は生きている。
虚帝圏の光膜が砕け、黒い霧のように霧散していく。
圧しつけていた“沈黙”がほどけた瞬間――
王都は、まるで水面が息を吸い込むように、ゆっくりと音を取り戻した。
「……声が……聞こえる……!」
「祈りが……戻った……!」
瓦礫に埋もれながら立ち上がる兵士。
抱き合って泣き崩れる市民。
沈んでいた祈り層はまだ傷だらけだが、確かに脈を打ち始めていた。
ティナは小さく胸を押さえる。
「……戻った……ほんとうに……」
震える指先で灯を掲げると、弱かった炎が、今度はゆったりと呼吸を取り戻す。
「よかった……あなたたちの祈り、消えてなかった……」
その言葉に、市民の一人が涙ながらにティナへ駆け寄った。
「灯守さま……! あなたの灯が……ここに……っ!」
ティナは首を横に振る。
「私じゃないよ……
皆さんが、消さなかったんです。
私は、ただ――照らしただけ」
その横で、エインはまだ戦場の中心を見据えていた。
王都の人々が彼に気づき、次々と声を上げる。
「あの黒鉄の男が……救ってくれたんだ!」
「炎を纏った拳で、命令の怪物を……!」
しかし、エインは戸惑ったように眉を寄せた。
「……救ったなんて、大した話じゃない。ただ殴っただけだ」
ティナはふわりと笑う。
「ううん。
“どう殴ったか”じゃなくて……
“何を残したか”が、人のやさしさなんだよ」
エインは息を詰め、わずかに視線をそらした。
崩れた街路に漂う炎の粉塵が、静かに彼の足元へ落ちていく。
その光景を少し離れた場所から見ていたシオンが、星盤を閉じて小さく呟いた。
「……奇妙なものですね。
祈りを持たぬはずの兵器が……
いま、誰よりも“祈りを残している”。」
戦いは終わった。
傷は深く、街はまだ立ち上がる途中だ。
だが――灯は消えていない。
そして、その灯の下に立つ黒鉄の兵器を、王都の人々はもう“敵”と呼ばなかった。
王都に祈りの声が戻り始めたその時――
北側の城壁で、炎槌が地面を叩く音が響いた。
「……道はまだ、荒れ放題だな」
重い声とともに歩み出る巨大な影。
誓王バル=ドラクが、血と灰に染まった炎槌を肩に担いで現れた。
バルザ戦士団の生き残りが背後に続き、王都の広場に入った途端――
周囲の兵士たちは一斉に姿勢を正し、声を上げた。
「バルザ王だ! 本物の誓王が来てくれた!!」
バル=ドラクはそれに頓着することなく、エインへ近づく。
「……黒鉄の男。
さっきの一撃、見事だったな」
エインは肩で息をしながら、視線をそらして答える。
「……殴っただけだ。誓いなんて、俺にはない」
「なら作ればいい」
誓王は、迷いなく言い切った。
「誓いとはな……“誰かのために立つ”と腹の底で決めることだ。
神も、祈りも、条件もいらん。
――お前はさっき、それをやった」
ティナが息をのむ。
エインは言葉を返せず、ただ拳を握りしめた。
バル=ドラクはその拳に目を向け、笑う。
「その拳、俺には“誓いの火”が見えたぞ。
だがまだ弱ぇ。鍛えれば化ける」
エインが返す前に、王都の兵士たちが歓声を上げ始めた。
「バルザ王が認めたのか……!」
「黒鉄の兵器を……仲間として……!」
エインは困惑し、ティナは微笑み、シオンは静かに星盤を回す。
「ふむ……興味深い現象ですね。
祈りの再生直後は、“信頼”そのものが祈り層を強化する……
これは研究のしがいがあります」
バル=ドラクは炎槌を背に回し、大声で宣言した。
「――ルミナリアよ!
バルザの誓火は、今日より貴様らを護る盾でもある!!
命令の軍勢が再び来るなら、この炎が前に出る!!」
その声は、崩れた王都の空に響き渡った。
祈りの光が淡く揺れ、市民たちの顔に確かな希望が差し始める。
だが――希望は、前触れでもあった。
エインが空を見上げる。
ティナも、シオンも気づく。
北の空が、微かに“光っている”。
「……あれは……?」
ティナの声が震える。
シオンが星盤を展開し、震える指で軌道を読み取る。
「──命律波です。
幹部体バルグが消滅したことで……
“本流”が動き始めた」
エインは拳を堅く握りしめる。
「来るか……次が」
バル=ドラクは炎槌を握りなおし、笑った。
「上等だ。
沈む気は、さらさらねぇぞ」
祈りが戻った王都。
その空に、新たな脅威の光が迫っていた。
――王都の空が、薄く震えた。
命律波の揺らぎが、空気そのものを媒介にして
巨大な“像”として投影される。
白銀と雷光の輪郭。
黄金の瞳。
ただし実体ではない。
意志ではなく、命令の残響。
ヴァロスが世界へ向けて口を開いた。
「――沈黙は、拡大する」
硬質で、冷たい断定。
エインたちだけではない。
王都全体の空気が震え、
周囲の祈り層が一瞬だけ凍り付く。
ヴァロスの声は続いた。
「祈りは不要」
誰かが息を呑む音だけが響く。
「加護は無価値」
王都の祈り層が小さくざわめく。
神殿の塔がきしむ。
「契約は非効率」
アルメリアの技師たちが青ざめる。
「誓いは無意味」
バルザ戦士たちが怒りを押し殺した。
ヴァロスの黄金の瞳が、ゆっくりと世界を見るように動く。
「――世界は、沈む」
あくまで“判断結果”として。
「祈りを捨てよ。
意志を捨てよ。
定義を捨てよ」
ティナが灯を握りしめる。
「曖昧な力は除去する。
循環は断つ。
声は奪う」
エインが歯を食いしばった。
「従わぬ領域は、沈黙に変換する」
そして――
ヴァロスは最後の“世界規模の通告”を放つ。
「全大陸へ通知。
次の沈黙地点は――選ばれる側ではなく、侵される側」
王都中に衝撃が走った。
「回避は不可。
防衛は不可。
祈りによる干渉、排除する」
空が黒く瞬く。
「虚帝圏――拡大開始を宣言する」
像は歪み、そのまま霧のように消滅した。
誰も声を出せないまま、ただ“命令だけ”が王都に残された。
ティナが震える声で言う。
「……世界……全部を……沈めるつもり……?」
エインは拳を握りしめ、空を睨んだ。
「……奴は本気だろう」
王都に漂っていた“沈黙の重み”が、ゆっくりと薄れていく。
祈りの光がかすかに戻りはじめ、
沈んでいた人々の呼吸も整い、
誓火が弱々しく揺れながらも灯を取り戻していた。
しかし、誰ひとりとして安堵の声を上げない。
エインは拳を握りしめたまま、空に染み込む黒い余韻を見上げていた。
「……あれが、ヴァロスの“命律”か」
戦場の瓦礫の上、アーセラが息を整えながら目を細める。
「命令とも違う……祈りを噛み砕くみたいな……
“意味のない響き”が、世界を飲み込もうとしてた……」
ティナは灯を抱きしめ、震える声で言った。
「……あのままだったら……王都は……本当に……」
祈り層は辛うじて立ち直ったが、完全復活にはほど遠い。
シオンが星盤を強く抱きしめながら告げる。
「……問題は、ヴァロスの“場所”です」
「場所……?」
エインが聞き返す。
シオンは星盤を広げ、震える光の点を三つ示した。
「命律波の残留反応が強い地点……
第一が王都。
第二が北方の帝国残滓領。
そして――」
星盤の一点が、砂嵐のように揺れた。
「――第三地点が、遊牧連合ノマ=ルグです」
ティナが息を呑む。
「ノマ=ルグ……!
あそこは、祈りより“風と歌の国”……
祈り層が弱いぶん、“沈黙”に脆い……!」
「そうです」
シオンは重く頷いた。
「祈りの形が“声”“風”“共鳴”に偏っている国家。
命律波の沈黙は……最悪の相性です。
もしノマ=ルグが沈黙したら――」
アーセラが呟く。
「……風路が断たれる……世界中の祈りが届かなくなる……」
「そういうことです」
星盤の光が震え、ノマ=ルグの位置に黒い波形が滲む。
「ヴァロスは……
“祈りを消す順番”を、世界に刻みはじめている」
エインの視線が鋭くなる。
「まず王都で沈黙を試し……
次はノマ=ルグの“風ごと止める”つもりか」
そこへ、炎槌を肩に担いだ誓王バル=ドラクが歩み寄る。
「エインよ。
次の戦場は……あの草原か」
「ああ。
ノマ=ルグが沈めば、祈りの道が寸断される。
世界の“呼吸”が止まる」
バル=ドラクは烈火のように笑った。
「行け。
誓火は後方で備える。
だが――あの風の民が沈むのは、オレも見たくない」
その言葉の直後――
アーセラが小さく呻き、膝をついた。
「っ……ぁ……!」
白銀の胸部に走った亀裂が、深く光を漏らす。
命令核が安定せず、命律波の残響に引かれるように脈打っていた。
「アーセラ!」
ティナが駆け寄る。
「……わたし……長く持たない……
命令にも沈黙にも……身体が引きずられる……
今のままじゃ……“声”の国まで……行けない……」
アーセラの声は弱い。しかし――
そこにはもう“従属”ではなく、“選ぶ意志”があった。
エインは彼女の前にかがみこむ。
「……アーセラ。
お前は外で活動できる状態じゃない」
「……わかってる……
でも……行く……!」
アーセラの瞳に宿ったのは、確かな意志。
「だったら――俺に預けろ」
エインは胸の炎核へ手を当てた。
「一度、俺の核に同化しろ。
炎核の中なら命令にも沈黙にも触れない。
修復が終わるまで、“俺が守る”」
アーセラは一瞬、息を呑む。
「……同化したら……
わたし、しばらく……姿を……」
「いなくなるわけじゃない」
短く、強い肯定。
ティナがそっと微笑む。
「エインの炎核なら……きっとアーセラさんを守れる……
だって、灯とも……同じ“火”だから……」
アーセラはかすかに笑い、頷いた。
「……お願い……する……」
次の瞬間――
白銀の身体がふっと光にほどけ、
炎核の奥へと吸い込まれていく。
エインの胸元に、僅かな白銀の残光が宿った。
『……ありがとう……エイン……』
アーセラの微かな声が、炎核から響く。
「治るまで寝てろ。
着いたら起こす」
エインは短く答えた。
そこへ、静かな気配が降りてきた。
白金の装束――聖王ルミナリオが
聖女セリシア、聖騎士長レオナを伴い姿を現した。
「――王都を救った者たちよ」
聖王の眼差しは、エインたち四人へ真っ直ぐ向けられていた。
「旅団よ。
ノマ=ルグの風を止めさせるな」
セリシアが祈るように言葉を重ねる。
「もしノマ=ルグが沈黙に呑まれれば……
光も祈りも……世界の声そのものが失われます」
エインは静かに頷く。
「わかってる。
ヴァロスを止めるのは……俺たちの役目だ」
「――頼む」
聖王は深く頭を下げた。
エインは僅かに目を伏せ、
しかし誰にも従うのではなく“自分の意志”で言った。
「行く。
これ以上……祈りを奪わせない」
ティナが灯を掲げる。
「ノマ=ルグへ……」
シオンが星盤を開く。
「風が沈む前に、急ぎましょう」
エインは歩き出した。
胸に白銀の光を宿し、
灯と星盤と祈りを背負いながら。
祈りの旅団は“風の沈黙”へと挑むべく、ノマ=ルグへ向かった。
第Ⅴ巻【完】
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そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
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異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
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俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
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王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
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『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
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イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
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俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
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6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
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気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
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気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
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