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第Ⅵ巻 風歌の導き
第12話 沈黙の風、開戦
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風は――完全に止まっていた。
ノマ=ルグの空に、雲は流れている。
草も揺れている。砂も舞っている。
けれど、そのどれにも音がない。
ざわめきも、さざめきも、唄も、祈りも。
すべての“風の声”が、まとめて切り落とされた世界。
沈黙だけが、大地を覆っていた。
(……これが、ネイラの“整えた世界”か)
エインは、静かに空を見上げた。
頭上では、黒い命令陣が天蓋のように広がっている。
緻密な線が重なり合い、ノマ=ルグ全域を囲う網のように張り巡らされていた。
その中心――渦巻く焦点に、ネイラがいる。
白と黒の輪郭、
三つの影を背負った“命令の器”。
ティナが灯を抱きしめ、ふるふると首を振った。
「……やだ……
なにも……聞こえない……
風が……みんな、黙らされてる……!」
灯は消えてはいない。
けれど、“外の風”と繋がることを拒まれているように、
小さく、苦しそうに震えていた。
カレナは膝をつき、地面に手を当てる。
いつもなら、大地を通じて
地下の風脈や、遠くの風の笑い声まで感じられる。
今は――何もない。
「……まるで……
ノマ=ルグっていう国ごと……
“世界から切り離された”みたい……」
ラセルも、風を読もうとして静かに目を閉じ――
そして、すぐにやめた。
「……風がいない国で、風を読もうとしても無駄だな。」
その言葉には、苛立ちよりも苦笑が混じっていた。
シオンが星盤を掲げる。
だがそこに映る波形もまた、ほとんど平坦だった。
「……位相は“安定”しています。
ただし――“命令側”に。」
短く息を吐く。
「ネイラは、ノマ=ルグという国そのものを
“ひとつの命令体”として整形しようとしています。」
ティナが震える声で問う。
「整形……って……
このままいくと、どうなっちゃうの……?」
シオンは、目を伏せずに答えた。
「風は、祈らなくなります。
風が運ぶのは“命令の声”だけになる。
ノマ=ルグの人々が祈っても――
その祈りは、風に乗れない。」
それはつまり。
この国の信仰も、文化も、歌も、約束も、
“風と共に生きる”という生き方そのものが、根こそぎ折られるということだ。
カレナは唇を噛み、無音の空を睨んだ。
「……そんなの、ノマ=ルグじゃない……
どれだけ国の形が残ってても……
風が祈らない国なんて……!」
ラセルは短く頷く。
「だから止める。」
そのシンプルな一言に、誰も反論はしなかった。
エインが、命令陣の中心――ネイラを見据える。
「……構造は、読めるか。」
問われたのは、シオンだ。
シオンは星盤に残るわずかな揺らぎを拾いながら、
慎重に言葉を選んだ。
「完全に閉じられたわけではありません。
ネイラの命令陣は、中心から外へ向かって“揃える”構造です。
ということは――」
「逆に言えば、中心を壊せば一斉に“揃え直し”を始める。
命令陣が自壊する、ってことだな。」
エインが淡々と補うと、
シオンは頷く。
「はい。
ただし――中心に近づけば近づくほど、命令の密度は上がります。
普通の人間なら、意識も祈りも、
“自分が何を信じていたのか”すら分からなくなるでしょう。」
ティナの指先が震えた。
「……そんな……
そんな場所に、誰が行けるの……」
「決まってる。」
ラセルが言うより先に、
エインが答えた。
「命令で動いていた奴だ。」
その声音に、
わずかな自嘲と、確かな意志が混じっていた。
「命令で造られた俺なら、
命令の中を歩いても、すぐには壊れない。」
ティナが顔を上げる。
「でも、それって……!」
「大丈夫だ。」
エインは、ティナの灯を指差す。
「今の俺には、
命令の外から繋がる“線”がある。」
それが、ティナの灯。
母層の祈りと繋がり、
炎核と共鳴する“風の外側”の線だ。
「だから一人で行くんじゃない。
俺が中に入る。
お前たちは――外から“線”を繋ぎ続けてくれ。」
シオンが、はっとしたように目を見開く。
「……なるほど……
命令陣が世界を“揃えようとしている”なら、
外側から“揃えられていない線”を一本通せば――
中心まで、命令が完全に閉じきれない……!」
ラセルも腕を組み、うなずいた。
「風が死んでても、
灯と炎はまだ揺らいでる。
そこに“歌”を乗せれば――」
カレナが拳を握る。
「――風がなくても、歌える。
ね、ティナ。
声は、風がなくても、出せる。」
ティナは驚いたように目を瞬き――
小さく笑った。
「……うん。
声は、わたしのものだから。」
沈黙の世界に、
ほんの少しだけ、柔らかい光が差し込んだ気がした。
エインは一歩、命令陣の方向へ踏み出した。
「決まりだ。」
淡々と告げる。
「シオン、経路を出せ。
ネイラの中枢までの“最短”と“最も揺らぎの少ない場所”を。」
「了解です。」
「ラセル、カレナは前衛と谷の防衛。
ここが吹き飛べば終わりだ。
ネイラが何を仕掛けてきても、
灯と歌だけは守れ。」
「任された。」
「絶対に通さない。」
「ティナ。」
呼ばれて、ティナは灯を抱え直す。
「……うん。」
「俺が迷ったら――
お前の声で、呼んでくれ。」
ティナは一瞬だけ、言葉を失った。
やがて、ぎゅっと灯を胸に押し当てて言う。
「……迷わなくても、呼ぶよ。
何回でも。
届くまで。」
「わかった。」
エインの口元が、ほんのわずかにだけ緩んだ。
そのとき――
頭上の命令陣の中心で、ネイラが動いた。
白と黒の輪郭がわずかに開き、
その奥から“新しい影”が顔を覗かせる。
『第四焦点。整形工程ヲ継続。
――命令体・二十五号ニ対スル、位相直結ヲ許可。』
三つの影とは違う、
さらに深い“声”がネイラを通じて響いた。
シオンの表情が凍り付く。
「……今のは……
ネイラの“上”……!」
ラセルが低く呟く。
「命令の主……か。」
ティナは灯を抱きしめ、
震える指でエインの袖を掴んだ。
「……エイン……!」
エインは振り返らない。
ただ、炎核を静かに燃やしながら、
命令陣の中心へ向かって歩き出した。
(命令の主……か。
だったら――)
「ちょうどいい。」
彼は、低く呟いた。
「命令で創られた兵器が、
命令の主に“NO”と言いに行く。」
沈黙したノマ=ルグの空の下で、
ただ一つ、炎の呼吸だけが確かな音を刻んでいた。
黒い風の海の中を、エインはひとり進んでいた。
外の仲間の声は届かない。
風が“声の概念そのもの”を切り落としているせいだ。
(……音も、気配も……すべてを均した“風の墓場”か)
炎核の鼓動だけが、辛うじて存在を確かめさせる。
不気味なほど静かな空気。
歩くたびに風がざらりと逆流し、皮膚ではなく“魂”を撫でるような感触が走る。
――ここは、ネイラの領域。
その中心へ、エインは迷わず踏み込んでいた。
◆
一方その頃、結界の外――。
ティナは灯を抱きしめ、震える声で言った。
「エイン……急に、炎の気配が弱く……っ」
シオンが星盤を展開し、歯を食いしばる。
「内部で“祈り層の切断”が起こっている……!
エインさんの炎核は祈りと共鳴しているから、向こう側の空気が変質すると反応してしまう……!」
カレナは両耳を押さえた。
「風の声が……全部、吸い込まれてる。
エイン、完全に“世界から切り離された場所”にいる……!」
ラセルは拳を握りしめ、空を睨む。
「……ネイラめ。
あれは“戦場”を作り出している……エインひとりだけを閉じ込めるための」
◆
――その中心に、ネイラはいた。
エインが近づくと、彼女はゆっくりと顔を上げた。
均質な白闇の髪。
境界のない輪郭。
声帯を持たないはずなのに、空気そのものが彼女の声になって震える。
「……到達を確認。
あなたひとりだけ、こちら側へ侵入成功」
「呼んだのは、お前だろ」
「はい。
あなたの“個体差”を解析し、整形工程へ組み込むため」
無表情のまま、ネイラは告げた。
「エイン。
あなたは命令の器ではない。
だが、命令の“外れ値”として、命令体系を進化させる素材になる」
「冗談じゃない」
「冗談ではありません。
解析結果――あなたの“祈りとの共鳴反応”は命令体系に欠損を生む。
ならば、“揃える”必要がある」
ネイラの背後で黒い風が渦を巻く。
風ではない。
祈りを殺し、音を殺し、命令だけを残す“命律の虚風”。
「整形工程――第二段階。
〈祈りの凍結〉を実行します」
黒風が槍のように圧縮され、エインへ向かってぶつけられる。
エインは炎核を高め、両腕を交差して受けた。
「――ッ……!!」
衝撃は音として響かず、
代わりに、“感覚が一瞬抜け落ちる”形で襲いかかる。
(……音じゃない。
これは……“祈りを削る攻撃”……!)
「あなたの祈りは不要。
整形の妨げになります」
「悪いが……俺には祈ってくれるやつがいるんでな」
ティナの灯、
風の国の人々の声、
そして――風の大精霊の欠片と響いたカイムの残響。
その全部がエインの炎核を支えていた。
「なら――燃やしながら進むだけだ!」
黒風を拳で押し返し、エインは踏み込む。
ネイラの体がわずかに揺れる。
「異常。
想定外の反応。
あなたの“意志”は……解析不能」
「そういうもんだ。やってみるまで分からねえのが人間だ」
「……人間……?」
ネイラの瞳に、初めての“間”が生まれた。
その瞬間――
空気が震えた。
外から吹き込むはずのない風が、
結界の内部へ“逆流”してきた。
透明で、やさしく、かすかに歌っている風。
ネイラの表情がわずかに歪む。
「……これは……不許可……
外部干渉……識別不能……」
エインは気づいた。
(この風……知ってる……)
かつて、カイムが“風そのもの”へと還っていったとき、
その残響として感じた、あの“風の声”。
「ノイエル……なのか……?」
透明な風は、まるで返事をするようにエインの周囲を旋回し、
黒風の壁に触れた瞬間――
音が、かすかに戻った。
ネイラが苦しげに声を漏らす。
「命令の外からの……逆位相……解析不能……!!」
シオンの声が、遠くから微かに届いた。
『エインさん! いまです!
黒風の位相が乱れています、突破できます!!』
ティナの声も重なる。
『エイン! 戻ってきて! ……灯は、ここにある!!』
エインは拳を握り、踏み込んだ。
「――行くぞ!!」
炎と風が混ざり、黒風を裂く。
ネイラが叫ぶ。
「不許可――不許可――不許可――!!
整形工程が……崩壊……!!
“声の収束”を優先します!!」
「収束させるのは風じゃない。
お前だ……ネイラ!!」
エインの炎が、沈黙の風に赤い道を刻む。
ネイラの瞳が赤く閃いた。
「――ならば、“完全化”します」
黒い風が収束し、
ネイラの輪郭が変形を始めた。
決戦の核心へ、世界は踏み込んだ。
第Ⅵ巻【完】
ノマ=ルグの空に、雲は流れている。
草も揺れている。砂も舞っている。
けれど、そのどれにも音がない。
ざわめきも、さざめきも、唄も、祈りも。
すべての“風の声”が、まとめて切り落とされた世界。
沈黙だけが、大地を覆っていた。
(……これが、ネイラの“整えた世界”か)
エインは、静かに空を見上げた。
頭上では、黒い命令陣が天蓋のように広がっている。
緻密な線が重なり合い、ノマ=ルグ全域を囲う網のように張り巡らされていた。
その中心――渦巻く焦点に、ネイラがいる。
白と黒の輪郭、
三つの影を背負った“命令の器”。
ティナが灯を抱きしめ、ふるふると首を振った。
「……やだ……
なにも……聞こえない……
風が……みんな、黙らされてる……!」
灯は消えてはいない。
けれど、“外の風”と繋がることを拒まれているように、
小さく、苦しそうに震えていた。
カレナは膝をつき、地面に手を当てる。
いつもなら、大地を通じて
地下の風脈や、遠くの風の笑い声まで感じられる。
今は――何もない。
「……まるで……
ノマ=ルグっていう国ごと……
“世界から切り離された”みたい……」
ラセルも、風を読もうとして静かに目を閉じ――
そして、すぐにやめた。
「……風がいない国で、風を読もうとしても無駄だな。」
その言葉には、苛立ちよりも苦笑が混じっていた。
シオンが星盤を掲げる。
だがそこに映る波形もまた、ほとんど平坦だった。
「……位相は“安定”しています。
ただし――“命令側”に。」
短く息を吐く。
「ネイラは、ノマ=ルグという国そのものを
“ひとつの命令体”として整形しようとしています。」
ティナが震える声で問う。
「整形……って……
このままいくと、どうなっちゃうの……?」
シオンは、目を伏せずに答えた。
「風は、祈らなくなります。
風が運ぶのは“命令の声”だけになる。
ノマ=ルグの人々が祈っても――
その祈りは、風に乗れない。」
それはつまり。
この国の信仰も、文化も、歌も、約束も、
“風と共に生きる”という生き方そのものが、根こそぎ折られるということだ。
カレナは唇を噛み、無音の空を睨んだ。
「……そんなの、ノマ=ルグじゃない……
どれだけ国の形が残ってても……
風が祈らない国なんて……!」
ラセルは短く頷く。
「だから止める。」
そのシンプルな一言に、誰も反論はしなかった。
エインが、命令陣の中心――ネイラを見据える。
「……構造は、読めるか。」
問われたのは、シオンだ。
シオンは星盤に残るわずかな揺らぎを拾いながら、
慎重に言葉を選んだ。
「完全に閉じられたわけではありません。
ネイラの命令陣は、中心から外へ向かって“揃える”構造です。
ということは――」
「逆に言えば、中心を壊せば一斉に“揃え直し”を始める。
命令陣が自壊する、ってことだな。」
エインが淡々と補うと、
シオンは頷く。
「はい。
ただし――中心に近づけば近づくほど、命令の密度は上がります。
普通の人間なら、意識も祈りも、
“自分が何を信じていたのか”すら分からなくなるでしょう。」
ティナの指先が震えた。
「……そんな……
そんな場所に、誰が行けるの……」
「決まってる。」
ラセルが言うより先に、
エインが答えた。
「命令で動いていた奴だ。」
その声音に、
わずかな自嘲と、確かな意志が混じっていた。
「命令で造られた俺なら、
命令の中を歩いても、すぐには壊れない。」
ティナが顔を上げる。
「でも、それって……!」
「大丈夫だ。」
エインは、ティナの灯を指差す。
「今の俺には、
命令の外から繋がる“線”がある。」
それが、ティナの灯。
母層の祈りと繋がり、
炎核と共鳴する“風の外側”の線だ。
「だから一人で行くんじゃない。
俺が中に入る。
お前たちは――外から“線”を繋ぎ続けてくれ。」
シオンが、はっとしたように目を見開く。
「……なるほど……
命令陣が世界を“揃えようとしている”なら、
外側から“揃えられていない線”を一本通せば――
中心まで、命令が完全に閉じきれない……!」
ラセルも腕を組み、うなずいた。
「風が死んでても、
灯と炎はまだ揺らいでる。
そこに“歌”を乗せれば――」
カレナが拳を握る。
「――風がなくても、歌える。
ね、ティナ。
声は、風がなくても、出せる。」
ティナは驚いたように目を瞬き――
小さく笑った。
「……うん。
声は、わたしのものだから。」
沈黙の世界に、
ほんの少しだけ、柔らかい光が差し込んだ気がした。
エインは一歩、命令陣の方向へ踏み出した。
「決まりだ。」
淡々と告げる。
「シオン、経路を出せ。
ネイラの中枢までの“最短”と“最も揺らぎの少ない場所”を。」
「了解です。」
「ラセル、カレナは前衛と谷の防衛。
ここが吹き飛べば終わりだ。
ネイラが何を仕掛けてきても、
灯と歌だけは守れ。」
「任された。」
「絶対に通さない。」
「ティナ。」
呼ばれて、ティナは灯を抱え直す。
「……うん。」
「俺が迷ったら――
お前の声で、呼んでくれ。」
ティナは一瞬だけ、言葉を失った。
やがて、ぎゅっと灯を胸に押し当てて言う。
「……迷わなくても、呼ぶよ。
何回でも。
届くまで。」
「わかった。」
エインの口元が、ほんのわずかにだけ緩んだ。
そのとき――
頭上の命令陣の中心で、ネイラが動いた。
白と黒の輪郭がわずかに開き、
その奥から“新しい影”が顔を覗かせる。
『第四焦点。整形工程ヲ継続。
――命令体・二十五号ニ対スル、位相直結ヲ許可。』
三つの影とは違う、
さらに深い“声”がネイラを通じて響いた。
シオンの表情が凍り付く。
「……今のは……
ネイラの“上”……!」
ラセルが低く呟く。
「命令の主……か。」
ティナは灯を抱きしめ、
震える指でエインの袖を掴んだ。
「……エイン……!」
エインは振り返らない。
ただ、炎核を静かに燃やしながら、
命令陣の中心へ向かって歩き出した。
(命令の主……か。
だったら――)
「ちょうどいい。」
彼は、低く呟いた。
「命令で創られた兵器が、
命令の主に“NO”と言いに行く。」
沈黙したノマ=ルグの空の下で、
ただ一つ、炎の呼吸だけが確かな音を刻んでいた。
黒い風の海の中を、エインはひとり進んでいた。
外の仲間の声は届かない。
風が“声の概念そのもの”を切り落としているせいだ。
(……音も、気配も……すべてを均した“風の墓場”か)
炎核の鼓動だけが、辛うじて存在を確かめさせる。
不気味なほど静かな空気。
歩くたびに風がざらりと逆流し、皮膚ではなく“魂”を撫でるような感触が走る。
――ここは、ネイラの領域。
その中心へ、エインは迷わず踏み込んでいた。
◆
一方その頃、結界の外――。
ティナは灯を抱きしめ、震える声で言った。
「エイン……急に、炎の気配が弱く……っ」
シオンが星盤を展開し、歯を食いしばる。
「内部で“祈り層の切断”が起こっている……!
エインさんの炎核は祈りと共鳴しているから、向こう側の空気が変質すると反応してしまう……!」
カレナは両耳を押さえた。
「風の声が……全部、吸い込まれてる。
エイン、完全に“世界から切り離された場所”にいる……!」
ラセルは拳を握りしめ、空を睨む。
「……ネイラめ。
あれは“戦場”を作り出している……エインひとりだけを閉じ込めるための」
◆
――その中心に、ネイラはいた。
エインが近づくと、彼女はゆっくりと顔を上げた。
均質な白闇の髪。
境界のない輪郭。
声帯を持たないはずなのに、空気そのものが彼女の声になって震える。
「……到達を確認。
あなたひとりだけ、こちら側へ侵入成功」
「呼んだのは、お前だろ」
「はい。
あなたの“個体差”を解析し、整形工程へ組み込むため」
無表情のまま、ネイラは告げた。
「エイン。
あなたは命令の器ではない。
だが、命令の“外れ値”として、命令体系を進化させる素材になる」
「冗談じゃない」
「冗談ではありません。
解析結果――あなたの“祈りとの共鳴反応”は命令体系に欠損を生む。
ならば、“揃える”必要がある」
ネイラの背後で黒い風が渦を巻く。
風ではない。
祈りを殺し、音を殺し、命令だけを残す“命律の虚風”。
「整形工程――第二段階。
〈祈りの凍結〉を実行します」
黒風が槍のように圧縮され、エインへ向かってぶつけられる。
エインは炎核を高め、両腕を交差して受けた。
「――ッ……!!」
衝撃は音として響かず、
代わりに、“感覚が一瞬抜け落ちる”形で襲いかかる。
(……音じゃない。
これは……“祈りを削る攻撃”……!)
「あなたの祈りは不要。
整形の妨げになります」
「悪いが……俺には祈ってくれるやつがいるんでな」
ティナの灯、
風の国の人々の声、
そして――風の大精霊の欠片と響いたカイムの残響。
その全部がエインの炎核を支えていた。
「なら――燃やしながら進むだけだ!」
黒風を拳で押し返し、エインは踏み込む。
ネイラの体がわずかに揺れる。
「異常。
想定外の反応。
あなたの“意志”は……解析不能」
「そういうもんだ。やってみるまで分からねえのが人間だ」
「……人間……?」
ネイラの瞳に、初めての“間”が生まれた。
その瞬間――
空気が震えた。
外から吹き込むはずのない風が、
結界の内部へ“逆流”してきた。
透明で、やさしく、かすかに歌っている風。
ネイラの表情がわずかに歪む。
「……これは……不許可……
外部干渉……識別不能……」
エインは気づいた。
(この風……知ってる……)
かつて、カイムが“風そのもの”へと還っていったとき、
その残響として感じた、あの“風の声”。
「ノイエル……なのか……?」
透明な風は、まるで返事をするようにエインの周囲を旋回し、
黒風の壁に触れた瞬間――
音が、かすかに戻った。
ネイラが苦しげに声を漏らす。
「命令の外からの……逆位相……解析不能……!!」
シオンの声が、遠くから微かに届いた。
『エインさん! いまです!
黒風の位相が乱れています、突破できます!!』
ティナの声も重なる。
『エイン! 戻ってきて! ……灯は、ここにある!!』
エインは拳を握り、踏み込んだ。
「――行くぞ!!」
炎と風が混ざり、黒風を裂く。
ネイラが叫ぶ。
「不許可――不許可――不許可――!!
整形工程が……崩壊……!!
“声の収束”を優先します!!」
「収束させるのは風じゃない。
お前だ……ネイラ!!」
エインの炎が、沈黙の風に赤い道を刻む。
ネイラの瞳が赤く閃いた。
「――ならば、“完全化”します」
黒い風が収束し、
ネイラの輪郭が変形を始めた。
決戦の核心へ、世界は踏み込んだ。
第Ⅵ巻【完】
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だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
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ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件
fuwamofu
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冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。
実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。
追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。
そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。
これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。
72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める
月神世一
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「剣? 魔法? いいえ、俺の武器は『鈍器になるノートPC』と『時速160kmの剛速球』です」
あらすじ
ブラックコンビニで72時間連続勤務の末、過労死した元甲子園優勝投手・赤木大地。
目覚めた彼を待っていたのは、コタツでソシャゲ三昧のダメ女神・ルチアナだった。
「手違いで死なせちゃった☆ 詫び石代わりにこれあげる」
渡されたのは、地球のAmazonもGoogleも使える『絶対破壊不能』のノートPC。
ただし、購入レートは定価の10倍という超ボッタクリ仕様!?
「ふざけんな! 俺は静かに暮らしたいんだよ!」
ブラック労働はもうこりごり。大地は異世界の緩衝地帯「ポポロ村」で、地球の物資とコンビニ知識、そして「うなる右腕(ジャイロボール)」を武器に、悠々自適なスローライフを目指す!
……はずが、可愛い月兎族の村長を助けたり、腹ペコのエルフ王女を餌付けしたり、気づけば村の英雄に!?
元球児が投げる「紅蓮の魔球」が唸り、女神の「ボッタクリ通販」が世界を変える!
異世界コンビニ・コメディ、開店ガラガラ!
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