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第2章 隠された真実
第5話 夜の蛇行
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夜の桐ノ宮市。
国道21号バイパスは昼間の喧騒を忘れたように静まり返り、ネオンの光が途切れ途切れに路面を照らしていた。
トラックが遠くへ唸りを上げ、深夜営業のコンビニやファミレスがぽつんと光を放っている。
「321、西條・加瀬、篠原台バイパスを南進中」
「交機隊了解」
無線を終えると、加瀬が片手で顎を撫でた。
「夜の国道は一見静かだが、こういう時に限って厄介なのが出る」
「確かに……昼間よりも違反は目立つ気がします」
「真面目だな、キャリア様」
「からかわれてるのは分かってます」
軽口を交わしたその時、二人の視線が一点に釘付けになった。
黒の高級セダンが、車線をはみ出しながら蛇のように車体を振っていた。
前を走っていた軽自動車が慌ててハザードを点け、避けるように路肩へ退いた。
「危険運転だな……!」
美由紀がアクセルを踏み込み、赤色灯を点けた。
「321、蛇行運転車両を確認。追跡開始する」
「交機隊了解」
サイレンが夜の街を切り裂く。
セダンは加速し、スピードを上げた。
「止まりなさい!」
美由紀が拡声器で呼びかけるが、セダンは応じない。
加瀬が右から追い込み、美由紀が左から並走する。
「逃げる気か……」
「加瀬さん、挟み込みます!」
呼吸を合わせ、二台の白バイが一気にセダンの前へ出る。
進路を制限され、ついにセダンはブレーキを鳴らして停車した。
夜の空気に焦げたタイヤの匂いが立ちこめた。
運転席から降りてきたのは二十代半ばの男だった。
仕立てのいいスーツにブランド時計。
どこか不遜な笑みを浮かべ、口調は乱暴だった。
「何だよ、俺は急いでるんだ!」
「免許証を確認します」
美由紀が冷静に言うと、男は舌打ちしながら差し出した。
――名前を見た加瀬が小さく鼻を鳴らす。
「……地元じゃ有名な建設会社の倅だ」
男は胸を張り、ふてぶてしく笑った。
「俺に違反切符切れると思ってんのか? 親父に言いつけるぞ」
酒の匂いはなかった。
検知器でも反応は出ず、飲酒ではない。
だが運転の危険性は明白だった。
「蛇行運転は重大な違反です」
美由紀が毅然と告げる。
「ふざけんな! 事故ってねえだろ!」
男の怒鳴り声に、近くの住民が窓から顔を出し始めた。
ざわめきが広がる中、美由紀は静かにペンを取り出した。
「違反切符を切ります」
スラスラと違反内容を記載し、男に手渡す。
男は顔を真っ赤にし、紙を握り潰そうとした。
「無駄です。記録は残ります」
淡々と告げる美由紀の声に、男は一瞬言葉を失った。
署に戻ると、やはり秘書や弁護士が駆け込んできた。
「蛇行といっても未遂に過ぎない」
「事故を起こしていない以上、行政処分で十分だろう」
副隊長は黙って煙草を揉み消し、短く言った。
「処理は淡々とやる。ただし、揉み消しはしない」
有力者側の思惑は空振りに終わった。
その夜。
詰所に残った美由紀は、窓の外を眺めた。
静かな国道に、遠く一台のパトカーの赤色灯が瞬いていた。
「未然に防ぐこと……それもまた、守るってことだ」
心の中で呟く。
事故が起きてからでは遅い。
今日救えた命があったかもしれない。
赤色灯の残光が、静かに胸に刻まれた。
国道21号バイパスは昼間の喧騒を忘れたように静まり返り、ネオンの光が途切れ途切れに路面を照らしていた。
トラックが遠くへ唸りを上げ、深夜営業のコンビニやファミレスがぽつんと光を放っている。
「321、西條・加瀬、篠原台バイパスを南進中」
「交機隊了解」
無線を終えると、加瀬が片手で顎を撫でた。
「夜の国道は一見静かだが、こういう時に限って厄介なのが出る」
「確かに……昼間よりも違反は目立つ気がします」
「真面目だな、キャリア様」
「からかわれてるのは分かってます」
軽口を交わしたその時、二人の視線が一点に釘付けになった。
黒の高級セダンが、車線をはみ出しながら蛇のように車体を振っていた。
前を走っていた軽自動車が慌ててハザードを点け、避けるように路肩へ退いた。
「危険運転だな……!」
美由紀がアクセルを踏み込み、赤色灯を点けた。
「321、蛇行運転車両を確認。追跡開始する」
「交機隊了解」
サイレンが夜の街を切り裂く。
セダンは加速し、スピードを上げた。
「止まりなさい!」
美由紀が拡声器で呼びかけるが、セダンは応じない。
加瀬が右から追い込み、美由紀が左から並走する。
「逃げる気か……」
「加瀬さん、挟み込みます!」
呼吸を合わせ、二台の白バイが一気にセダンの前へ出る。
進路を制限され、ついにセダンはブレーキを鳴らして停車した。
夜の空気に焦げたタイヤの匂いが立ちこめた。
運転席から降りてきたのは二十代半ばの男だった。
仕立てのいいスーツにブランド時計。
どこか不遜な笑みを浮かべ、口調は乱暴だった。
「何だよ、俺は急いでるんだ!」
「免許証を確認します」
美由紀が冷静に言うと、男は舌打ちしながら差し出した。
――名前を見た加瀬が小さく鼻を鳴らす。
「……地元じゃ有名な建設会社の倅だ」
男は胸を張り、ふてぶてしく笑った。
「俺に違反切符切れると思ってんのか? 親父に言いつけるぞ」
酒の匂いはなかった。
検知器でも反応は出ず、飲酒ではない。
だが運転の危険性は明白だった。
「蛇行運転は重大な違反です」
美由紀が毅然と告げる。
「ふざけんな! 事故ってねえだろ!」
男の怒鳴り声に、近くの住民が窓から顔を出し始めた。
ざわめきが広がる中、美由紀は静かにペンを取り出した。
「違反切符を切ります」
スラスラと違反内容を記載し、男に手渡す。
男は顔を真っ赤にし、紙を握り潰そうとした。
「無駄です。記録は残ります」
淡々と告げる美由紀の声に、男は一瞬言葉を失った。
署に戻ると、やはり秘書や弁護士が駆け込んできた。
「蛇行といっても未遂に過ぎない」
「事故を起こしていない以上、行政処分で十分だろう」
副隊長は黙って煙草を揉み消し、短く言った。
「処理は淡々とやる。ただし、揉み消しはしない」
有力者側の思惑は空振りに終わった。
その夜。
詰所に残った美由紀は、窓の外を眺めた。
静かな国道に、遠く一台のパトカーの赤色灯が瞬いていた。
「未然に防ぐこと……それもまた、守るってことだ」
心の中で呟く。
事故が起きてからでは遅い。
今日救えた命があったかもしれない。
赤色灯の残光が、静かに胸に刻まれた。
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