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レベル3.異世界の女奴隷が俺の家に住むことになったがポンコツだった件
5.女奴隷とお風呂
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三人でテレビの亡骸を泣く泣く片付けること数時間。
ようやく作業を終えた俺達は既に汗まみれだった。
「うぅ~、なんでこんなことに」
「自業自得だ。少しは反省したらどうなのだ、まったく」
簀巻きの件ですっかりご機嫌が斜めになってしまったリファは、吐き捨てるようにそう言う。
反対にクローラはもうさっきから何十回と謝罪を繰り返して、正直耳にタコができそうだ。
「も、申し訳ございませんご主人様……良かれと思って……」
「もういいってば……俺にも軽率だった点はあるし」
いや、ぶっちゃけ俺が九割型悪い。いくら食材を買いに行かなきゃならなかったとはいえ、これはれっきとした監督不行き届きだ。反省せねば。
ゴミ袋をまとめて部屋の隅にまとめてひとまず応急処置完了。あとは本日はサボる予定だった掃除もやることにした。色んな破片がまだ床に散らばってるし、うっかり踏んで怪我したら大変だからな。
「ご主人様……それは?」
俺がクローゼットから取り出した掃除道具のうちの一つを見て、クローラは小さく首を傾げた。
棒の先端に、中が空洞の円柱が横向きに取り付けられているもの。
「ああこれ? コロコロっていうこの世界の掃除道具」
名前の通り、コロコロと床を転がして粘着テープにゴミをくっつけていくアレだ。
掃除機なんて大層なもんは必要ない。うるさいし、電気は食うし、こっちの方がよほど合理的だし経済的だ。
「このローラーの部分で床のゴミを取っていくわけ。やってみる?」
「……」
恐る恐るそれを受け取ると、彼女は言われたとおりにコロコロをフローリングに付けて前後に動かす。
「そうそう、まんべんなく隅から隅まで……おーうまいうまい。その調子」
こういうところでも飲み込みが早く、すぐにクローラは使い方の基本をマスターしてしまった。
「で、いっぱいゴミか付いてきたらこうやって……シートを剥がすと――」
「なるほど、そういう仕組みでしたか。シンプルですが、非常に効率的な道具ですね」
「でしょ。でも、ワイヤードの掃除ってどんな感じでやってたの?」
「基本的に雑巾で水拭きが主でしょうか。風や水のエレメントを使ったりもしますし。城などの大きな建物では、掃除用のキカイが用いられることもあります」
「ふぅん」
どうやら掃除に関する技術レベルはこっちと大差なさそうだな。掃除用のキカイってのが少々気になるけど。掃除機と同じような形なのかなぁ。
「でもでも、これはエレメントにもキカイにも頼らずに、簡単にゴミ取りができる画期的な発明だと思います。それに、なんだかやってて楽しいですし」
「おやそれは良かった。じゃあこれから掃除はクローラにお願いしようかな」
「ほ、ホントですか!?」
そう依頼した途端、彼女は目を輝かせてこちらを振り返った。
仕事を任せてもらえるというのがよほど嬉しかったのだろうか、今にも踊りだしそうな足踏みで小さく彼女は飛び跳ねた。
「ま、任せてください! この家の奴隷として、精一杯掃除に努めてまいりますので。ワイヤードでも掃除は私の十八番でしたし!」
「おお、そうだったんだ。そりゃちょうどいい配役だな。なら頼むよ、掃除のエキスパートさん」
「はい、がんばります! 私にかかれば、家に蔓延るゴミなど全部――いいえ、ゴミどころか家具や住民……むしろ家ごと消し飛ばしてキレイにしてみせますっ!」
「わぁ本末転倒」
と、そんな冗談はさておき。クローラはコロコロ、リファと俺は雑巾がけをしばらく実行すること三十分。
三人でやるとだいぶ効率が良いのか、短時間でいつも以上に部屋の中はピッカピカになった。
「ふぅ、こんなもんだろ」
「ふふ……お掃除をした後ってすごく気分がいいですね、ご主人様」
わかる。普段は掃除なんてめんどくせー、だりー、やるだけ無駄ー、とか思うものだけど。実際にやり始めるとなかなか止めらんないし、片付け終えると大袈裟なくらいの達成感がするんだよな。
「ったく、なんで私までこんな雑務を……」
その達成感ではなく、苦汁を味わったような反応を示したのがリファレンス女史。彼女は汚れた雑巾をバケツに放り込むと、手でパタパタと自分を仰いだ。
「汗でびしょびしょだ。早く風呂に入ろう」
確かにリファの額や首元にはびっしょりと汗が浮き出ている。もちろんそれは俺達とて同じであり、早いとこ湯で流してさっぱりする必要があった。
「お風呂……ですか」
「ん。あー、そっか。お前は初体験だったな、この世界の風呂」
「……ええ。ワイヤードのものとは、違うのでしょうか」
「色々とね。そのへんも含めて教えとかないとな……っとおいリファ」
髪留めを解いてタオルと着替えを持ち、浴室へと急ごうとする彼女を俺は呼び止めた。
なんだ、と若干イラつき気味にこちらを振り返った彼女に俺は言った。
「風呂入んなら、クローラも一緒に――」
「断 る ッ ッ !!」
マイナス一秒で即答。まーそうなるわな、ダメ元ではあったけど。
「ふざけるな。奴隷と一緒になど誰が入るか! 穢れる!」
「でも、シャワーとかシャンプーの使い方とか色々――」
「断ると言っとろうが! 絶対に嫌だからな、マスターの命令でも御免こうむる! 騎士としてのプライドが許さんのだ!」
はいはいそーですか、そりゃどーも悪ぅござんした。
「それにっ!」
ビシッとヒステリーを起こしている女騎士は女奴隷に人差し指を突きつけ、ガンを飛ばす。
女奴隷は震えて俺の背後に高速で隠れた。
「その奴隷からは……嫌な臭いがする」
「は?」
嫌な、臭い……?
謎の言葉に俺が眉をひそめていると、リファはその言葉の真意を語ることもなく、風呂場へとズンドコ入っていった。
「――嫌な過去をほじくり返されそうな臭いだ」
そんな捨て台詞を残して。
バタン、とドアが閉まり、リビングには静けさが訪れた。
なんだよ嫌な過去って……。
もしかしてワイヤードで死んだ時のことか? こいつをかばって殺されたってやつ。
気持ちはわからんでもないけど、クローラに罪はないだろ……完全に八つ当たりじゃねぇか。大人げないやっちゃなぁ。
「あ、あの……」
そう思っていると、後ろのクローラがオドオドと声をかけてきた。今のリファの気迫に怯えきってしまっている。この先こんなんでやっていけるのかな……。
「大丈夫だよ。あいつも突然のことでちょっと気が立ってるだけだから。そんな怖がることないよ」
「いえ、それはどうでもよくて……」
どうでもいいんだ。メンタル強ぇなオイ。
「その……お風呂のことなのですが、私は結構ですので」
「はい?」
「私みたいな奴隷が、主の湯に入るなど……恐れ多すぎますゆえ」
「いやいや、そういうわけにもいかないでしょ」
そう言っても、クローラはふるふると首を横に振る。
「先程『穢れる』とあの騎士の方は仰っておりましたが、まさにその通りです。私などが浴槽に入ってしまっては台無しになってしまいます。私には構わず、ご主人様だけでお入りになってきてくださいませ」
「……」
また始まったよ自分が奴隷だから理論。これで何度目だ?
「クローラ。風呂に入るのは何のためだ?」
「え? それはもちろん、身体を清めるため……」
「清めないとどうなる?」
「清めないとって……穢れたままですが」
「だろ? お前が風呂に入らないままだと、穢れた身体のままでいるってことだぞ。そんな状態で俺の傍に置いてくれとか言う気か?」
「それは……」
至極当然な事実を言われたため、言葉に詰まるクローラさん。
「不潔だって自覚があんなら、洗う努力くらいしてくれ。そもそも風呂だって汚れを落とすためのもんなんだから、そんな心配するだけ野暮だろ」
「しかし……」
「この家で暮らすなら、せめて清潔でいてくれ。そのままでいるほうがよほど穢れが移るってもんだ。別にお前の存在がどうとかって話じゃない。共同生活を送る上でのマナーってこと」
「……はい」
と、クローラは面目ないというような表情で、再び正座して頭を下げた。
風呂に入らせるのにここまで手間がかかるとは……子供の風呂嫌いの方がまだマシかもしれないな。
「あの……先程この世界のお風呂はワイヤードと違うと仰っていたのは……」
「あーそれな」
そうだった、こっちの弊害がまだ未解決だった。風呂は向こうの世界にも当然存在するものだが、こっちの世界と異なる点もあるだろう。その違いについても詳しく知らない以上、一人で入らせるわけにもいかない。
リファを初めて浴室に入れた時は、シャワーにびっくりしたり、ガスが入ってなくて冷水浴びることになったり、そりゃもうてんやわんやだった。だから同じ失敗はしないように、きっちり教えておく必要がある。同じ女同士なら、あいつを世話係にしておけばなんとかなるだろと思ってたが、あてが外れたな。かといって、このまま風呂に入らせないわけにもいかないし……。
……。
…………。
……………………。
背に腹は代えられない、か。
俺は二、三回深呼吸して乱れそうになる気を落ち着けると、目の前の女奴隷を正面から見据えた。
「クローラ」
「はい、なんでございましょう?」
相変わらずの純情無垢な瞳で見つめ返してくる。そんないたいけな少女に向かって、こんな言葉を投げかけねばならないとは心苦しい。善意のはずなのに、とてつもなくあくどいことをしてそうな気分になるよ。
だが、迷ってる場合じゃない。俺はこの娘の同居人。これはれっきとしたチュートリアルのレクチャーなんだから。
さぁ勇気を出して言うんだ、俺!
「その……風呂、一緒に入るか?」
○
「認めんぞ! なんでマスターがそんな奴と一緒に入浴なんか!!」
聞くなり黙っちゃいないのがリファさんだ。
風呂上がりのため、頭から湯気がモヤモヤ立ち込めている中で怒りまくるその姿は、まるでゆでダコのよう。
「そもそも男女で風呂に入るということ自体いかがわしいことこの上ないというのに! よりにもよって、こんな奴隷と……! 不埒だ! 不潔だ! 不快だ! 絶対に許さんからな!」
「うるせーな! 何度も言ってんだろ、クローラは転生して初日なんだから色々教えておかないといけないんだよ」
「だ、だがっ! なんでマスターである必要があるんだ!」
「お 前 が 断 っ た か ら だ !」
一喝したところでようやく猛獣の沈静化に成功した。だが今度は下唇を噛み締めていじけ虫ピー太郎モードに移行。
「……私の時は一人で入らせたくせに」
「あれは悪かったよ。その結果室内大嵐になったわけだし。だから今度は同じ過ちを繰り返さないようにマン・ツー・マンを徹底してだね……」
素直に謝って釈明してもなおもブツブツと文句を垂れるリファ女史。
女は一度不機嫌になると本当に手がつけらんないから困るよホントに。
「私だって……マスターと入りたかったのに……ずるい」
「え? なんだって?」
「マスターのを削ぎ落としたかったと言っただけだっ!」
「何をだよ!?」
なんでこう物騒なことを平然と言えるのよ、騎士ってみんなこうなの? 圧政もいいとこだろ、怖いなもう……。
それに俺まで裸になるわけじゃないし。一通り器具の説明とかし終えて、ちょっと身体洗ってやったらすぐ出てくるよ。浴槽に浸かるとこまで監督する必要はないからな。泥んこになった犬や猫を相手する感じでやるだけだから、そんな深く考えんなって話。
○
「わぁ……」
そんなに広くもない浴室内を見て、クローラはうっとりとした声を漏らした。
なんだか今までで一番驚いてそうなリアクションだな。ただ風呂見ただけなのに
「すごくきれいですね……なんだか、身体を洗うのがもったいないくらい……」
「お褒めの言葉どーも。さ、早く服脱いで」
「は、はい」
そう言って、彼女はエプロンの紐を後ろでに解いていく。
シュルシュルという衣擦れの音がして、彼女の前面を隠していた布きれが床に落ちていく。白い裸体を再び晒す彼女に、俺は少しだけドキッとしてしまう。
もともと裸同然の格好だったというのに、脱ぐ姿はどうしてこうも色っぽく見えるのだろうか。
んだよ……さっきまでずっと素っ裸だったじゃねーか。何を今更動揺してんだ俺は……。
「ご、ご主人様……どうかされましたか?」
「え? あ、いや……改めて見るとキレイな肌してるなーって」
「そ、そうでしょうか……?」
彼女は自分の素肌をまじまじと見ながら謙遜めいたことを言う。
でも冗談抜きで本当にキレイだし、ホクロ一つ見当たらない。スタイルは肉付きのいい方ではないが、ほっそりしていて、スリーサイズも非常にバランスの取れている体型だ。
きっと触ってみたらすべすべしてるんだろうな……それにモッチリとした弾力もありそうだし……。
って、いかんいかん。俺はそんな目的のために風呂に連れ込んだんじゃないっつの。しっかりしなくちゃ。
○
「――で、これがシャワー。このノズルをひねると自動でお湯が出る」
「ふゃっ!?」
勢いよく温水が吹き出すのを見て、クローラは予想通りビクッと全身を震わせた。
「これは……エレメント? でも、詠唱もしてないし……これもキカイなのです?」
「まぁそんなとこだね。浄化と同じようなものかな。あれと比べれば威力低いけど」
「あ、ご主人様もそれはご存知なのですね」
「一回やったことあるもんでな。正直二度と試したくないけど」
「お気に召さなかったのですか……ワイヤードでは一般的な洗浄方法なのですが」
「マジかよ」
まるで洗濯機に頭から突っ込まれたような感じがするあれが? いや確かに汚れは落ちそうだけどさ……。
「あ、人に向けて使うことはないですよ? 主に衣類とかの洗濯に用いられるものですから」
比喩表現まんまじゃねーか畜生。
リファの奴そのこと知っててやりやがったってことかよ。なんだ、俺が服に着られてそうな奴だから問題ねーってか? 冗談じゃねーよ、キルラキルぞこの野郎。
悪態を心の中でつきつつ、俺は彼女を椅子に座らせると、シャンプーを適量手に手にとって泡立たせる。
「ほら、目つぶってろ」
「わひゃ」
びっくりするクローラのくせっ毛ボブの髪を、マッサージするように揉みしだいていく。
人の、それも女の子の頭を洗う経験なんて全く無かったけど、こういう感じでいいよな?
「髪を洗う時はこのボトルに入っているシャンプーってのを使え。今日は俺が洗ってやるけど、次からは自分でやりな」
「あ、ありがとうございます……」
髪質は結構ゴワゴワしてるな。洗いにくくはないけど、リファのサラサラ具合とはえらい違いだ。きっと手入れする暇なんてなかったんだろうな。こういうところにも身分の差が出てくるってことか。
「あの、ご主人様?」
「んー?」
「さっきは、すみませんでした」
クローラは椅子の上で縮こまるようにすると、小さくそう言った。
「私、他の人に穢れが移るといけないからと思っていたのですが……ご主人様の言う通り、先程お傍にいさせて欲しいとお願いしたばかりなのに……これじゃあダメですよね」
「……ワイヤードでは毎日風呂とか入ってなかったのか?」
何気なく訊くと、彼女は静かに首を横に振った。
「毎日なんてそんな……何日に、いえ、十何日に一度くらいでしょうか。前のご主人様に『臭い』『汚い』そう言われた時です。もちろん主のお風呂なんて入らせてもらえないものですから……公衆浴場などに行って……といった感じです」
……そっか。だから俺んちの風呂に入りたがらなかったのか。
でも、だからって十何日も放置はひどすぎる。毎日顔合わせてれば一日やそこらで入浴が必要なことくらい気づくはずなのに。
そう俺が言うと、クローラは苦笑気味に答えた。
「そもそも……あまり私と前のご主人様はお顔を合わせない毎日でしたので」
「え?」
「基本的に、私はずっと一人でした。物置や馬小屋などに引っ込んで、なるべくご主人様の前に姿を現さないようにするのが決まりです。用もなく本館に入ったりすると、叩かれてしまいますゆえ」
「……」
「会うことができるのは、ご主人様から用事を言いつけられた時だけ。掃除、洗いもの、買い物の荷物持ち……」
俺の彼女を洗う手が、少しずつ遅くなっていく。やりきれないというか、やるせない気持ちになってきたからだ。奴隷という言葉で何となく生活の様は想像できてたはずなのに……。
「あ、でも誤解しないでください。私はそれでもよかったんです」
「え?」
「こんな私でも、誰かに必要とされている。私にも価値を見出してくれている。それだけでも嬉しかった。誰にも相手にされず、何にも恵まれず、一人のたれ死ぬより……ずっといいです」
「クローラ……」
「だけど……例え奴隷として使われていても、まともに顔も合わせてくれない、名前も呼んでくれない、近くにいることすら許されない。そんなふうに、まるでいないもののように振る舞われると……ちょっと不安になる時があるのです」
自分の手をじっと見つめながら、彼女は弱々しい声で言った。その手は、少しだけ震えている。
「私は本当にここにいるのかなって。私は人間じゃないんじゃないのかなって。もしかしてご主人様が使っているのは、ただのキカイではないのかなって。自分のことを、人間だと思い込んでる、ただのキカイ……。そのおかげで、あまり前のご主人様の顔を思い出すことが出来なくて。おかしいですよね。つい最近までお仕えしていたはずなのに」
「……」
「だから……一度死んで生まれ変わったら……。奴隷でも構わない、ただお仕えするのであれば、傍に置いてくれるご主人様がいい。私を……見てくれる人がいい。そう願ったんです」
――どうかクローラをお傍においてください。
――どうか私を見捨てないでください。
頑なにクローラが俺にそう懇願した理由がやっとわかった。
奴隷でも一人の人間だ。だから人間として扱え。私はキカイなんかじゃない。
そんな彼女の心の叫びが、胸を刺すように伝わってきた。
「あの……ご主人様?」
ふと気がつくと、鏡越しにクローラが俺を見つめてきていた。その目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「ご主人様は……私を見てくれますか」
「……」
「木村さんは言っていました。貴方の望みを叶えられる人間が一人だけいると。ずっと私を見て、ずっと傍に居てくれて……ずっと私の手を握ってくれる人だと」
……あの野郎。
ふっ、と俺は思わず鼻で笑った。小さく彼女の髪についていた泡が、シャボン玉となってふわふわと舞う。
「それさえ叶えてくれる方なら、クローラは何も望みません。なんでも喜んでします。どんな労働でもいたします。牛馬のように働きます。ですから――」
「もういい」
俺は静かに彼女の頭部に右手を置いて、そっと撫でた。
「ご主人、様……?」
「もういいって。心配しなくても、俺はお前の傍にいる。これからはずっと一緒だ」
「……っ。こんな私でも……ですか?」
「ああ」
「奴隷でも、ですか?」
「ああ」
「穢れていても、ですか……?」
「……ああ」
だって俺らは――
「同居人、だろ?」
そのへんで堰が切れそうになったのか、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちていった。でも彼女は泣きそうになるのを必死にこらえている。主の前で泣くなんてみっともないとでも思っているんだろう。こんな時でも律儀な奴だ。
「ず、ずみばぜん……私……私……」
「ほらほら、目ェ擦るなよ。しみるぞ」
「うっ、うっ……」
「ほら、今度は身体洗うから……流すね」
嗚咽を漏らし続ける彼女に、シャワーの温度を確かめながら当てて、シャンプーを落としていく。
あまりクローラの顔は見ないようにしておいた。きっと、彼女自身も見られたくないはずだったから。
スポンジで石鹸を泡立てて、その小さな背中を強すぎず弱すぎずの力で洗う。
「ま、こんな感じでやってってくれ。前とか手足は自分でできる?」
「は、はい」
スポンジを受け取り、せっせとクローラは自分を洗浄していく。
穢れてるとか、風呂にあんま入れないとか言ってたけど……別にそこまで汚くないと思うけどな、俺。さっきも描写したけど、彼女の肌は白くてキレイだ。荒れてもいるわけでもなければ、でき物ができてるわけでもない。不潔にしてる人間の身体とは思えねーけどな。
「じゃ、流すよ」
「は、はい……」
洗体を終えた彼女に、再び俺はシャワーで流水を掛けてやる。
瞬間。
俺は息を呑んだ。。
彼女を洗い流し、水色のタイルをつたって、排水口に流れるその泡と湯を見て。
穢れ。
一言で表現するならそれだった。
真っ白なはずの泡。無色透明なはずの湯。
その全てが……どす黒い色に染まっていた。
茶色なんてレベルじゃない。墨汁をそのまま垂れ流していると言われても十分納得できる。
見ているだけで気持ち悪くなるようなその不浄を目の当たりにした俺は、そのまま全身が硬直してしまう。
何だよこれ……クローラの身体から……? だって、汚れなんてこれっぽっちもなかったじゃんか……。臭いもしない。垢もスポンジにはついてない。潔癖そのものと言ってもいいくらいなのに……。
ごくり、と俺は唾を飲み下す。額を、頬を、顎を、生暖かい汗がつたう。
これは……一体……。
「ご主人様……? どうかされましたか?」
「え? い、いやっ! なんでもない!」
俺は急いでシャワーでそれらを排水口の奥へと流し飛ばす。
消えろ……さっさと……見えないところへ……。そう強く念じながら。
数秒ほどそうやっていると、その穢れは消え、普通の湯が流れるようになった。
これで……大丈夫だよな?
焦っているのをクローラに悟られないように呼吸を整え、俺は小さく息を吐く。
落ち着け……きっと俺の気のせいだ。穢れとか汚れとか言ってるから、それで意識しちゃってあんなふうに見えちまっただけかもしれない。多少汚れていたとしても、常識的に考えてあれはあり得ないって。深く気にしちゃダメだ……平常心、平常心。
「えっと、まぁこんなところかな。あとは浴槽に入って温まればいい」
蓋を開けて、バスタブに張られた湯の中に手を突っ込んで温度確認する。ちょっと熱めだけど、こんくらいなら別にいいか……。
「ほら、入んな」
「わ、わかりました……」
恐る恐る片足を上げ、クローラは震えるつま先をそっと水面に付けた。
途端。
つるっ、と。彼女の身体が前のめりになった。
「「えっ!?」」
何が起きたのか理解するまでに一秒かかった。
彼女の足元。そこには先程スポンジを泡立てるのに使用した石鹸がコロコロと転がっている。何かのはずみで床に落ちていたのを踏んづけたらしい。
しまった。これじゃあバランスを崩して……ってか崩してるなう!
「あー」
そんな状況確認をしている間にも、女奴隷の身体は傾きつつあり、頭からドボンといきそうになる。まずい、最悪大怪我してしまう。転生後最初の風呂でそんなことになったら第一印象最悪。本当に風呂嫌いになってしまうかもしれない。
くそっ、間に合え!
俺は急いで手を伸ばし、彼女の胴体を支えようとしたのだが……コンマ一秒遅かった。
どばしゃあああああんん!!
と、大きな音を立てて二人共々浴槽にダイブすることになった。
「いてて……」
「あぅぅ……はっ、ご主人様!? 大丈夫ですか!?」
事の惨状に気づいたクローラは大慌てで俺を気遣ってくる。
ぶっちゃけ少し頭を打ったのと、着ていた服がびしょ濡れになったことくらいしか被害はない。
彼女自身は、俺が下になったおかげで別段大したことにはなっていないようだ。あーよかった。
「大丈夫。こっちは平気だから」
「も、ももも申し訳ございませんっ! 体を洗っていただいたにもかかわらず、仇で返すような真似を……!」
「いいって、事故だろ事故」
俺は言いながらゆっくりと身体を起こす。
ちなみに今の体勢、俺が仰向けで、クローラがそれに覆いかぶさるようになっている。
つまり、ちょっと見上げればすぐそこに湯気にあてられた美女の紅潮した顔が。
そしてわかってると思うが、彼女は全裸。視線を下に動かせば、あんなところやこんなところが全部丸見えという状態。
おおう、これは……絶景だ……。
「あ、あの……ご主人様……」
なんて見入っていると、クローラが少し恥ずかしそうにして声をかけてきた。やっべ、ちょっとジロジロ見すぎたか。
いやーでも、こんなエロハプニングが起こるとは夢にも思いませんでしたわ。エロ漫画ならここからもうなんだかんだで向こうが発情して誘ってきて、竿役が野獣と化して云々って流れだけど……ここは現実だからしゃぁない。この辺でお開きや。
「ご主人様……あの、抱いてくださいませんか?」
「わかってるわかってる。今どくって……」
……Oh?
ごめん、今なんつった?
どいて、じゃなくて、抱いて?
聞き間違いじゃないよね? 俺こないだ耳掃除したばっかだから聞き間違いじゃないよね?
いや、聞き間違えてた方がいいよな? どいて、の方が話の筋的に正しいもんな? ここで抱いてっていくらなんでも現実と妄想を混同しすぎ……。
ってとこでちらっ、とクローラを見ると……。
「ご主人様……」
めっちゃ発情してた。
てかもう目と鼻の先にいた。こっちがちょっとでも動けば鼻先、いや唇同士が触れ合うくらいまで。
よくよく考えてみればさ、どくべきなのって向こうだよね。だって彼女が俺に覆いかぶさってんだもん。だから「どいて」も筋的におかしいんだよ。
いやいやいや、だとしても何で「抱いて」になるんだよ! さっきも言ったがエロ漫画ワールドじゃねーんだぞ! 全年齢向けやぞこれ!
お開きって言ったのに別のとこ御開帳するつもりかよ! R-18的にくぱぁ、するつもりかよ何考えてんだこんな時に!
「先程ご主人様、仰いましたよね? 私を傍に置いていただけると」
「い、言ったけどそれが?」
「それはとても嬉しいのですが……その、ご主人様の方は大丈夫なのかなって……」
俺が大丈夫? ど、どーゆーこと? 何かの負担になるとか思ってるなら別に気にしなくてもいいけど……。
「そうではありません」
ふるふる、と首を横に振ってクローラは否定した。
じゃあどういう意味なんだよ、と問うと、彼女はますます俺との距離を縮めてきた。暑い吐息がダイレクトに俺の顔に吹きかかる。まさにそれが生み出す効果は麻薬に等しく、理性を次第に麻痺させていく。
「傲慢に聞こえるかもしれませんが、私は女です。そして……どっちかといえば、まだ若いです……ですので……その……傍に置いておくと、色々と困るところも出てくるのではないかと」
「えぇ~」
またその話題かよ……。さっきも言ったばっかじゃん。出会って初日でいきなりそういうのはダメだって……。
「でも、これからずっと何もしないまま、というわけにもいきませんよね?」
「それは……」
「私はいつでも構いません。それに……初めて私をこんなにまで受け入れてくれたことが嬉しいのです」
「はい?」
クローラは自分の胸にそっと手を当てると、湯あたりでもしたかのように更に顔を赤くさせる。
「今日が初対面ではありますが……。私はまるで……ずっと前から貴方様に出会うことを夢見ていたように感じて……。傍にいてくれると言われて、すごく……胸が苦しくて。どうしてでしょう……私が望んだことなのに……」
「……」
「だからこれは……ご主人様へのご奉仕でもあれば……クローラの意思でもあるのです」
俺の両肩に自分の両手を添えると、そっとクローラは身を預けてきた。
服越しに、彼女の柔肌が身体全体に押し付けられる。湯に浸かって温まりつつあった俺の体が更に火照っていく。
やばい……さっき賢者タイムになったばっかなのに……このままじゃ本当に獣化しちまうよ。
この場には俺とクローラしかいない。そして彼女の口から出た言葉「クローラの意思でもある」。つまり向こうもしたがってるってことに他ならない。
それすなわち、俺は据え膳を目の前にして選択を迫られているということか。
どうする。どうする俺? ここで一般向け主人公を貫き通すのか、R-18主人公にジョブチェンジするのか!
俺は……俺は……。
「おいどうしたマスター! すごくでかい音がしたのだが!」
ガララっ。
という音がして浴室の扉が開き、乱入者侵入。
金髪の長いサラサラ髪に紺碧の瞳を持つ凛々しくも美しい女騎士。その名もリファレンス・ルマナ・ビューア様。
「まったく、一体何があっt……え?」
そして一秒と待たずにフリーズ。
そりゃそうでしょ。あんだけいかがわしいことなんてしないしなーい、って言っておいて、浴槽の中で男女が今にも事に及ぼうだなんてさ。
あー、こりゃ終わったわ。ってかあれか、ここまでエロ漫画展開続いたんならワンちゃんこのままこいつも混ぜて3Pコースとかない? ないか……ないない、それはさすがにねーわ。うん、ごめん。
そんじゃまぁ、全年齢対象作品っぽく締めますか。
はいじゃぁいくよー。せーの……。
「きゃー!!! のび太さんのエッチ!!」
「こっちの台詞だこの変態クソマスターがぁぁぁ! 喰らえ我が裁きの刃! 聖十字燼滅斬!!!」
「きゃー!!! のび太さんのHELLTHING!!」
†エイメン†
ようやく作業を終えた俺達は既に汗まみれだった。
「うぅ~、なんでこんなことに」
「自業自得だ。少しは反省したらどうなのだ、まったく」
簀巻きの件ですっかりご機嫌が斜めになってしまったリファは、吐き捨てるようにそう言う。
反対にクローラはもうさっきから何十回と謝罪を繰り返して、正直耳にタコができそうだ。
「も、申し訳ございませんご主人様……良かれと思って……」
「もういいってば……俺にも軽率だった点はあるし」
いや、ぶっちゃけ俺が九割型悪い。いくら食材を買いに行かなきゃならなかったとはいえ、これはれっきとした監督不行き届きだ。反省せねば。
ゴミ袋をまとめて部屋の隅にまとめてひとまず応急処置完了。あとは本日はサボる予定だった掃除もやることにした。色んな破片がまだ床に散らばってるし、うっかり踏んで怪我したら大変だからな。
「ご主人様……それは?」
俺がクローゼットから取り出した掃除道具のうちの一つを見て、クローラは小さく首を傾げた。
棒の先端に、中が空洞の円柱が横向きに取り付けられているもの。
「ああこれ? コロコロっていうこの世界の掃除道具」
名前の通り、コロコロと床を転がして粘着テープにゴミをくっつけていくアレだ。
掃除機なんて大層なもんは必要ない。うるさいし、電気は食うし、こっちの方がよほど合理的だし経済的だ。
「このローラーの部分で床のゴミを取っていくわけ。やってみる?」
「……」
恐る恐るそれを受け取ると、彼女は言われたとおりにコロコロをフローリングに付けて前後に動かす。
「そうそう、まんべんなく隅から隅まで……おーうまいうまい。その調子」
こういうところでも飲み込みが早く、すぐにクローラは使い方の基本をマスターしてしまった。
「で、いっぱいゴミか付いてきたらこうやって……シートを剥がすと――」
「なるほど、そういう仕組みでしたか。シンプルですが、非常に効率的な道具ですね」
「でしょ。でも、ワイヤードの掃除ってどんな感じでやってたの?」
「基本的に雑巾で水拭きが主でしょうか。風や水のエレメントを使ったりもしますし。城などの大きな建物では、掃除用のキカイが用いられることもあります」
「ふぅん」
どうやら掃除に関する技術レベルはこっちと大差なさそうだな。掃除用のキカイってのが少々気になるけど。掃除機と同じような形なのかなぁ。
「でもでも、これはエレメントにもキカイにも頼らずに、簡単にゴミ取りができる画期的な発明だと思います。それに、なんだかやってて楽しいですし」
「おやそれは良かった。じゃあこれから掃除はクローラにお願いしようかな」
「ほ、ホントですか!?」
そう依頼した途端、彼女は目を輝かせてこちらを振り返った。
仕事を任せてもらえるというのがよほど嬉しかったのだろうか、今にも踊りだしそうな足踏みで小さく彼女は飛び跳ねた。
「ま、任せてください! この家の奴隷として、精一杯掃除に努めてまいりますので。ワイヤードでも掃除は私の十八番でしたし!」
「おお、そうだったんだ。そりゃちょうどいい配役だな。なら頼むよ、掃除のエキスパートさん」
「はい、がんばります! 私にかかれば、家に蔓延るゴミなど全部――いいえ、ゴミどころか家具や住民……むしろ家ごと消し飛ばしてキレイにしてみせますっ!」
「わぁ本末転倒」
と、そんな冗談はさておき。クローラはコロコロ、リファと俺は雑巾がけをしばらく実行すること三十分。
三人でやるとだいぶ効率が良いのか、短時間でいつも以上に部屋の中はピッカピカになった。
「ふぅ、こんなもんだろ」
「ふふ……お掃除をした後ってすごく気分がいいですね、ご主人様」
わかる。普段は掃除なんてめんどくせー、だりー、やるだけ無駄ー、とか思うものだけど。実際にやり始めるとなかなか止めらんないし、片付け終えると大袈裟なくらいの達成感がするんだよな。
「ったく、なんで私までこんな雑務を……」
その達成感ではなく、苦汁を味わったような反応を示したのがリファレンス女史。彼女は汚れた雑巾をバケツに放り込むと、手でパタパタと自分を仰いだ。
「汗でびしょびしょだ。早く風呂に入ろう」
確かにリファの額や首元にはびっしょりと汗が浮き出ている。もちろんそれは俺達とて同じであり、早いとこ湯で流してさっぱりする必要があった。
「お風呂……ですか」
「ん。あー、そっか。お前は初体験だったな、この世界の風呂」
「……ええ。ワイヤードのものとは、違うのでしょうか」
「色々とね。そのへんも含めて教えとかないとな……っとおいリファ」
髪留めを解いてタオルと着替えを持ち、浴室へと急ごうとする彼女を俺は呼び止めた。
なんだ、と若干イラつき気味にこちらを振り返った彼女に俺は言った。
「風呂入んなら、クローラも一緒に――」
「断 る ッ ッ !!」
マイナス一秒で即答。まーそうなるわな、ダメ元ではあったけど。
「ふざけるな。奴隷と一緒になど誰が入るか! 穢れる!」
「でも、シャワーとかシャンプーの使い方とか色々――」
「断ると言っとろうが! 絶対に嫌だからな、マスターの命令でも御免こうむる! 騎士としてのプライドが許さんのだ!」
はいはいそーですか、そりゃどーも悪ぅござんした。
「それにっ!」
ビシッとヒステリーを起こしている女騎士は女奴隷に人差し指を突きつけ、ガンを飛ばす。
女奴隷は震えて俺の背後に高速で隠れた。
「その奴隷からは……嫌な臭いがする」
「は?」
嫌な、臭い……?
謎の言葉に俺が眉をひそめていると、リファはその言葉の真意を語ることもなく、風呂場へとズンドコ入っていった。
「――嫌な過去をほじくり返されそうな臭いだ」
そんな捨て台詞を残して。
バタン、とドアが閉まり、リビングには静けさが訪れた。
なんだよ嫌な過去って……。
もしかしてワイヤードで死んだ時のことか? こいつをかばって殺されたってやつ。
気持ちはわからんでもないけど、クローラに罪はないだろ……完全に八つ当たりじゃねぇか。大人げないやっちゃなぁ。
「あ、あの……」
そう思っていると、後ろのクローラがオドオドと声をかけてきた。今のリファの気迫に怯えきってしまっている。この先こんなんでやっていけるのかな……。
「大丈夫だよ。あいつも突然のことでちょっと気が立ってるだけだから。そんな怖がることないよ」
「いえ、それはどうでもよくて……」
どうでもいいんだ。メンタル強ぇなオイ。
「その……お風呂のことなのですが、私は結構ですので」
「はい?」
「私みたいな奴隷が、主の湯に入るなど……恐れ多すぎますゆえ」
「いやいや、そういうわけにもいかないでしょ」
そう言っても、クローラはふるふると首を横に振る。
「先程『穢れる』とあの騎士の方は仰っておりましたが、まさにその通りです。私などが浴槽に入ってしまっては台無しになってしまいます。私には構わず、ご主人様だけでお入りになってきてくださいませ」
「……」
また始まったよ自分が奴隷だから理論。これで何度目だ?
「クローラ。風呂に入るのは何のためだ?」
「え? それはもちろん、身体を清めるため……」
「清めないとどうなる?」
「清めないとって……穢れたままですが」
「だろ? お前が風呂に入らないままだと、穢れた身体のままでいるってことだぞ。そんな状態で俺の傍に置いてくれとか言う気か?」
「それは……」
至極当然な事実を言われたため、言葉に詰まるクローラさん。
「不潔だって自覚があんなら、洗う努力くらいしてくれ。そもそも風呂だって汚れを落とすためのもんなんだから、そんな心配するだけ野暮だろ」
「しかし……」
「この家で暮らすなら、せめて清潔でいてくれ。そのままでいるほうがよほど穢れが移るってもんだ。別にお前の存在がどうとかって話じゃない。共同生活を送る上でのマナーってこと」
「……はい」
と、クローラは面目ないというような表情で、再び正座して頭を下げた。
風呂に入らせるのにここまで手間がかかるとは……子供の風呂嫌いの方がまだマシかもしれないな。
「あの……先程この世界のお風呂はワイヤードと違うと仰っていたのは……」
「あーそれな」
そうだった、こっちの弊害がまだ未解決だった。風呂は向こうの世界にも当然存在するものだが、こっちの世界と異なる点もあるだろう。その違いについても詳しく知らない以上、一人で入らせるわけにもいかない。
リファを初めて浴室に入れた時は、シャワーにびっくりしたり、ガスが入ってなくて冷水浴びることになったり、そりゃもうてんやわんやだった。だから同じ失敗はしないように、きっちり教えておく必要がある。同じ女同士なら、あいつを世話係にしておけばなんとかなるだろと思ってたが、あてが外れたな。かといって、このまま風呂に入らせないわけにもいかないし……。
……。
…………。
……………………。
背に腹は代えられない、か。
俺は二、三回深呼吸して乱れそうになる気を落ち着けると、目の前の女奴隷を正面から見据えた。
「クローラ」
「はい、なんでございましょう?」
相変わらずの純情無垢な瞳で見つめ返してくる。そんないたいけな少女に向かって、こんな言葉を投げかけねばならないとは心苦しい。善意のはずなのに、とてつもなくあくどいことをしてそうな気分になるよ。
だが、迷ってる場合じゃない。俺はこの娘の同居人。これはれっきとしたチュートリアルのレクチャーなんだから。
さぁ勇気を出して言うんだ、俺!
「その……風呂、一緒に入るか?」
○
「認めんぞ! なんでマスターがそんな奴と一緒に入浴なんか!!」
聞くなり黙っちゃいないのがリファさんだ。
風呂上がりのため、頭から湯気がモヤモヤ立ち込めている中で怒りまくるその姿は、まるでゆでダコのよう。
「そもそも男女で風呂に入るということ自体いかがわしいことこの上ないというのに! よりにもよって、こんな奴隷と……! 不埒だ! 不潔だ! 不快だ! 絶対に許さんからな!」
「うるせーな! 何度も言ってんだろ、クローラは転生して初日なんだから色々教えておかないといけないんだよ」
「だ、だがっ! なんでマスターである必要があるんだ!」
「お 前 が 断 っ た か ら だ !」
一喝したところでようやく猛獣の沈静化に成功した。だが今度は下唇を噛み締めていじけ虫ピー太郎モードに移行。
「……私の時は一人で入らせたくせに」
「あれは悪かったよ。その結果室内大嵐になったわけだし。だから今度は同じ過ちを繰り返さないようにマン・ツー・マンを徹底してだね……」
素直に謝って釈明してもなおもブツブツと文句を垂れるリファ女史。
女は一度不機嫌になると本当に手がつけらんないから困るよホントに。
「私だって……マスターと入りたかったのに……ずるい」
「え? なんだって?」
「マスターのを削ぎ落としたかったと言っただけだっ!」
「何をだよ!?」
なんでこう物騒なことを平然と言えるのよ、騎士ってみんなこうなの? 圧政もいいとこだろ、怖いなもう……。
それに俺まで裸になるわけじゃないし。一通り器具の説明とかし終えて、ちょっと身体洗ってやったらすぐ出てくるよ。浴槽に浸かるとこまで監督する必要はないからな。泥んこになった犬や猫を相手する感じでやるだけだから、そんな深く考えんなって話。
○
「わぁ……」
そんなに広くもない浴室内を見て、クローラはうっとりとした声を漏らした。
なんだか今までで一番驚いてそうなリアクションだな。ただ風呂見ただけなのに
「すごくきれいですね……なんだか、身体を洗うのがもったいないくらい……」
「お褒めの言葉どーも。さ、早く服脱いで」
「は、はい」
そう言って、彼女はエプロンの紐を後ろでに解いていく。
シュルシュルという衣擦れの音がして、彼女の前面を隠していた布きれが床に落ちていく。白い裸体を再び晒す彼女に、俺は少しだけドキッとしてしまう。
もともと裸同然の格好だったというのに、脱ぐ姿はどうしてこうも色っぽく見えるのだろうか。
んだよ……さっきまでずっと素っ裸だったじゃねーか。何を今更動揺してんだ俺は……。
「ご、ご主人様……どうかされましたか?」
「え? あ、いや……改めて見るとキレイな肌してるなーって」
「そ、そうでしょうか……?」
彼女は自分の素肌をまじまじと見ながら謙遜めいたことを言う。
でも冗談抜きで本当にキレイだし、ホクロ一つ見当たらない。スタイルは肉付きのいい方ではないが、ほっそりしていて、スリーサイズも非常にバランスの取れている体型だ。
きっと触ってみたらすべすべしてるんだろうな……それにモッチリとした弾力もありそうだし……。
って、いかんいかん。俺はそんな目的のために風呂に連れ込んだんじゃないっつの。しっかりしなくちゃ。
○
「――で、これがシャワー。このノズルをひねると自動でお湯が出る」
「ふゃっ!?」
勢いよく温水が吹き出すのを見て、クローラは予想通りビクッと全身を震わせた。
「これは……エレメント? でも、詠唱もしてないし……これもキカイなのです?」
「まぁそんなとこだね。浄化と同じようなものかな。あれと比べれば威力低いけど」
「あ、ご主人様もそれはご存知なのですね」
「一回やったことあるもんでな。正直二度と試したくないけど」
「お気に召さなかったのですか……ワイヤードでは一般的な洗浄方法なのですが」
「マジかよ」
まるで洗濯機に頭から突っ込まれたような感じがするあれが? いや確かに汚れは落ちそうだけどさ……。
「あ、人に向けて使うことはないですよ? 主に衣類とかの洗濯に用いられるものですから」
比喩表現まんまじゃねーか畜生。
リファの奴そのこと知っててやりやがったってことかよ。なんだ、俺が服に着られてそうな奴だから問題ねーってか? 冗談じゃねーよ、キルラキルぞこの野郎。
悪態を心の中でつきつつ、俺は彼女を椅子に座らせると、シャンプーを適量手に手にとって泡立たせる。
「ほら、目つぶってろ」
「わひゃ」
びっくりするクローラのくせっ毛ボブの髪を、マッサージするように揉みしだいていく。
人の、それも女の子の頭を洗う経験なんて全く無かったけど、こういう感じでいいよな?
「髪を洗う時はこのボトルに入っているシャンプーってのを使え。今日は俺が洗ってやるけど、次からは自分でやりな」
「あ、ありがとうございます……」
髪質は結構ゴワゴワしてるな。洗いにくくはないけど、リファのサラサラ具合とはえらい違いだ。きっと手入れする暇なんてなかったんだろうな。こういうところにも身分の差が出てくるってことか。
「あの、ご主人様?」
「んー?」
「さっきは、すみませんでした」
クローラは椅子の上で縮こまるようにすると、小さくそう言った。
「私、他の人に穢れが移るといけないからと思っていたのですが……ご主人様の言う通り、先程お傍にいさせて欲しいとお願いしたばかりなのに……これじゃあダメですよね」
「……ワイヤードでは毎日風呂とか入ってなかったのか?」
何気なく訊くと、彼女は静かに首を横に振った。
「毎日なんてそんな……何日に、いえ、十何日に一度くらいでしょうか。前のご主人様に『臭い』『汚い』そう言われた時です。もちろん主のお風呂なんて入らせてもらえないものですから……公衆浴場などに行って……といった感じです」
……そっか。だから俺んちの風呂に入りたがらなかったのか。
でも、だからって十何日も放置はひどすぎる。毎日顔合わせてれば一日やそこらで入浴が必要なことくらい気づくはずなのに。
そう俺が言うと、クローラは苦笑気味に答えた。
「そもそも……あまり私と前のご主人様はお顔を合わせない毎日でしたので」
「え?」
「基本的に、私はずっと一人でした。物置や馬小屋などに引っ込んで、なるべくご主人様の前に姿を現さないようにするのが決まりです。用もなく本館に入ったりすると、叩かれてしまいますゆえ」
「……」
「会うことができるのは、ご主人様から用事を言いつけられた時だけ。掃除、洗いもの、買い物の荷物持ち……」
俺の彼女を洗う手が、少しずつ遅くなっていく。やりきれないというか、やるせない気持ちになってきたからだ。奴隷という言葉で何となく生活の様は想像できてたはずなのに……。
「あ、でも誤解しないでください。私はそれでもよかったんです」
「え?」
「こんな私でも、誰かに必要とされている。私にも価値を見出してくれている。それだけでも嬉しかった。誰にも相手にされず、何にも恵まれず、一人のたれ死ぬより……ずっといいです」
「クローラ……」
「だけど……例え奴隷として使われていても、まともに顔も合わせてくれない、名前も呼んでくれない、近くにいることすら許されない。そんなふうに、まるでいないもののように振る舞われると……ちょっと不安になる時があるのです」
自分の手をじっと見つめながら、彼女は弱々しい声で言った。その手は、少しだけ震えている。
「私は本当にここにいるのかなって。私は人間じゃないんじゃないのかなって。もしかしてご主人様が使っているのは、ただのキカイではないのかなって。自分のことを、人間だと思い込んでる、ただのキカイ……。そのおかげで、あまり前のご主人様の顔を思い出すことが出来なくて。おかしいですよね。つい最近までお仕えしていたはずなのに」
「……」
「だから……一度死んで生まれ変わったら……。奴隷でも構わない、ただお仕えするのであれば、傍に置いてくれるご主人様がいい。私を……見てくれる人がいい。そう願ったんです」
――どうかクローラをお傍においてください。
――どうか私を見捨てないでください。
頑なにクローラが俺にそう懇願した理由がやっとわかった。
奴隷でも一人の人間だ。だから人間として扱え。私はキカイなんかじゃない。
そんな彼女の心の叫びが、胸を刺すように伝わってきた。
「あの……ご主人様?」
ふと気がつくと、鏡越しにクローラが俺を見つめてきていた。その目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「ご主人様は……私を見てくれますか」
「……」
「木村さんは言っていました。貴方の望みを叶えられる人間が一人だけいると。ずっと私を見て、ずっと傍に居てくれて……ずっと私の手を握ってくれる人だと」
……あの野郎。
ふっ、と俺は思わず鼻で笑った。小さく彼女の髪についていた泡が、シャボン玉となってふわふわと舞う。
「それさえ叶えてくれる方なら、クローラは何も望みません。なんでも喜んでします。どんな労働でもいたします。牛馬のように働きます。ですから――」
「もういい」
俺は静かに彼女の頭部に右手を置いて、そっと撫でた。
「ご主人、様……?」
「もういいって。心配しなくても、俺はお前の傍にいる。これからはずっと一緒だ」
「……っ。こんな私でも……ですか?」
「ああ」
「奴隷でも、ですか?」
「ああ」
「穢れていても、ですか……?」
「……ああ」
だって俺らは――
「同居人、だろ?」
そのへんで堰が切れそうになったのか、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちていった。でも彼女は泣きそうになるのを必死にこらえている。主の前で泣くなんてみっともないとでも思っているんだろう。こんな時でも律儀な奴だ。
「ず、ずみばぜん……私……私……」
「ほらほら、目ェ擦るなよ。しみるぞ」
「うっ、うっ……」
「ほら、今度は身体洗うから……流すね」
嗚咽を漏らし続ける彼女に、シャワーの温度を確かめながら当てて、シャンプーを落としていく。
あまりクローラの顔は見ないようにしておいた。きっと、彼女自身も見られたくないはずだったから。
スポンジで石鹸を泡立てて、その小さな背中を強すぎず弱すぎずの力で洗う。
「ま、こんな感じでやってってくれ。前とか手足は自分でできる?」
「は、はい」
スポンジを受け取り、せっせとクローラは自分を洗浄していく。
穢れてるとか、風呂にあんま入れないとか言ってたけど……別にそこまで汚くないと思うけどな、俺。さっきも描写したけど、彼女の肌は白くてキレイだ。荒れてもいるわけでもなければ、でき物ができてるわけでもない。不潔にしてる人間の身体とは思えねーけどな。
「じゃ、流すよ」
「は、はい……」
洗体を終えた彼女に、再び俺はシャワーで流水を掛けてやる。
瞬間。
俺は息を呑んだ。。
彼女を洗い流し、水色のタイルをつたって、排水口に流れるその泡と湯を見て。
穢れ。
一言で表現するならそれだった。
真っ白なはずの泡。無色透明なはずの湯。
その全てが……どす黒い色に染まっていた。
茶色なんてレベルじゃない。墨汁をそのまま垂れ流していると言われても十分納得できる。
見ているだけで気持ち悪くなるようなその不浄を目の当たりにした俺は、そのまま全身が硬直してしまう。
何だよこれ……クローラの身体から……? だって、汚れなんてこれっぽっちもなかったじゃんか……。臭いもしない。垢もスポンジにはついてない。潔癖そのものと言ってもいいくらいなのに……。
ごくり、と俺は唾を飲み下す。額を、頬を、顎を、生暖かい汗がつたう。
これは……一体……。
「ご主人様……? どうかされましたか?」
「え? い、いやっ! なんでもない!」
俺は急いでシャワーでそれらを排水口の奥へと流し飛ばす。
消えろ……さっさと……見えないところへ……。そう強く念じながら。
数秒ほどそうやっていると、その穢れは消え、普通の湯が流れるようになった。
これで……大丈夫だよな?
焦っているのをクローラに悟られないように呼吸を整え、俺は小さく息を吐く。
落ち着け……きっと俺の気のせいだ。穢れとか汚れとか言ってるから、それで意識しちゃってあんなふうに見えちまっただけかもしれない。多少汚れていたとしても、常識的に考えてあれはあり得ないって。深く気にしちゃダメだ……平常心、平常心。
「えっと、まぁこんなところかな。あとは浴槽に入って温まればいい」
蓋を開けて、バスタブに張られた湯の中に手を突っ込んで温度確認する。ちょっと熱めだけど、こんくらいなら別にいいか……。
「ほら、入んな」
「わ、わかりました……」
恐る恐る片足を上げ、クローラは震えるつま先をそっと水面に付けた。
途端。
つるっ、と。彼女の身体が前のめりになった。
「「えっ!?」」
何が起きたのか理解するまでに一秒かかった。
彼女の足元。そこには先程スポンジを泡立てるのに使用した石鹸がコロコロと転がっている。何かのはずみで床に落ちていたのを踏んづけたらしい。
しまった。これじゃあバランスを崩して……ってか崩してるなう!
「あー」
そんな状況確認をしている間にも、女奴隷の身体は傾きつつあり、頭からドボンといきそうになる。まずい、最悪大怪我してしまう。転生後最初の風呂でそんなことになったら第一印象最悪。本当に風呂嫌いになってしまうかもしれない。
くそっ、間に合え!
俺は急いで手を伸ばし、彼女の胴体を支えようとしたのだが……コンマ一秒遅かった。
どばしゃあああああんん!!
と、大きな音を立てて二人共々浴槽にダイブすることになった。
「いてて……」
「あぅぅ……はっ、ご主人様!? 大丈夫ですか!?」
事の惨状に気づいたクローラは大慌てで俺を気遣ってくる。
ぶっちゃけ少し頭を打ったのと、着ていた服がびしょ濡れになったことくらいしか被害はない。
彼女自身は、俺が下になったおかげで別段大したことにはなっていないようだ。あーよかった。
「大丈夫。こっちは平気だから」
「も、ももも申し訳ございませんっ! 体を洗っていただいたにもかかわらず、仇で返すような真似を……!」
「いいって、事故だろ事故」
俺は言いながらゆっくりと身体を起こす。
ちなみに今の体勢、俺が仰向けで、クローラがそれに覆いかぶさるようになっている。
つまり、ちょっと見上げればすぐそこに湯気にあてられた美女の紅潮した顔が。
そしてわかってると思うが、彼女は全裸。視線を下に動かせば、あんなところやこんなところが全部丸見えという状態。
おおう、これは……絶景だ……。
「あ、あの……ご主人様……」
なんて見入っていると、クローラが少し恥ずかしそうにして声をかけてきた。やっべ、ちょっとジロジロ見すぎたか。
いやーでも、こんなエロハプニングが起こるとは夢にも思いませんでしたわ。エロ漫画ならここからもうなんだかんだで向こうが発情して誘ってきて、竿役が野獣と化して云々って流れだけど……ここは現実だからしゃぁない。この辺でお開きや。
「ご主人様……あの、抱いてくださいませんか?」
「わかってるわかってる。今どくって……」
……Oh?
ごめん、今なんつった?
どいて、じゃなくて、抱いて?
聞き間違いじゃないよね? 俺こないだ耳掃除したばっかだから聞き間違いじゃないよね?
いや、聞き間違えてた方がいいよな? どいて、の方が話の筋的に正しいもんな? ここで抱いてっていくらなんでも現実と妄想を混同しすぎ……。
ってとこでちらっ、とクローラを見ると……。
「ご主人様……」
めっちゃ発情してた。
てかもう目と鼻の先にいた。こっちがちょっとでも動けば鼻先、いや唇同士が触れ合うくらいまで。
よくよく考えてみればさ、どくべきなのって向こうだよね。だって彼女が俺に覆いかぶさってんだもん。だから「どいて」も筋的におかしいんだよ。
いやいやいや、だとしても何で「抱いて」になるんだよ! さっきも言ったがエロ漫画ワールドじゃねーんだぞ! 全年齢向けやぞこれ!
お開きって言ったのに別のとこ御開帳するつもりかよ! R-18的にくぱぁ、するつもりかよ何考えてんだこんな時に!
「先程ご主人様、仰いましたよね? 私を傍に置いていただけると」
「い、言ったけどそれが?」
「それはとても嬉しいのですが……その、ご主人様の方は大丈夫なのかなって……」
俺が大丈夫? ど、どーゆーこと? 何かの負担になるとか思ってるなら別に気にしなくてもいいけど……。
「そうではありません」
ふるふる、と首を横に振ってクローラは否定した。
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「傲慢に聞こえるかもしれませんが、私は女です。そして……どっちかといえば、まだ若いです……ですので……その……傍に置いておくと、色々と困るところも出てくるのではないかと」
「えぇ~」
またその話題かよ……。さっきも言ったばっかじゃん。出会って初日でいきなりそういうのはダメだって……。
「でも、これからずっと何もしないまま、というわけにもいきませんよね?」
「それは……」
「私はいつでも構いません。それに……初めて私をこんなにまで受け入れてくれたことが嬉しいのです」
「はい?」
クローラは自分の胸にそっと手を当てると、湯あたりでもしたかのように更に顔を赤くさせる。
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「……」
「だからこれは……ご主人様へのご奉仕でもあれば……クローラの意思でもあるのです」
俺の両肩に自分の両手を添えると、そっとクローラは身を預けてきた。
服越しに、彼女の柔肌が身体全体に押し付けられる。湯に浸かって温まりつつあった俺の体が更に火照っていく。
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4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
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