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レベル4.女騎士と女奴隷と日常①
42.女騎士と女奴隷と夏祭り(後編)
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「さーてっ、どこから行きますか! みんなはどっか行きたいとことかある?」
大手を振って歩きながら渚が俺達の希望を訊いてきた。
だがリファもクローラも即座に「はいここがいいです」と回答できるわけもなく。
「あ、特にない? じゃああたし今お腹空いててさー、食べ物系優先的に回ってくって感じでいい?」
という渚の希望が通ることになる。
クローラのホットドッグたかったり、屋台の商品さんざんつまみ食いしといてよく言うよ。まぁ俺も腹は減ってるから別に異論はないけど。
異世界転生コンビは食べ物がどうとかいうことよりも、その様々な屋台自体が気になるらしい。常に目と首をキョロキョロとさせていた。
そういや訊いてなかったけど、ワイヤードにもこういうお祭りってあったのだろうか。さすがに異世界とはいえ、催し物くらい普通にあるとは思うけど。
純粋に気になったので、渚に聞こえないように小声で二人に尋ねてみて返ってきた答えが以下。
「あることにはあるぞ。基本的に何かめでたいことがあった日に行われるものだな」
「例えば敵国との戦争に勝った時とか、新たな帝王が即位した時とか……私達が知っているものといえばそれくらいでしょうか」
「へぇ、なんか記念日的な時にはやったりしないの?」
「記念日?」
「ほら、めでたいことがあったらこれから毎年この日に祝い事をやりましょう……みたいな」
小首をかしげて異世界人二人は頭上にはてなを浮かべた。
「まいとし? よくわからんが、それ以降も定期的にやるということか? なぜそんなことを?」
「なぜって……なんていうか、そういうことがあったよーってことを後世に伝えるためにとか」
「そういうのは本などの資料で十分役割を果たせそうな気はしますけど。それじゃだめなんでしょうか?」
どちらも真顔で訊き返してくる。
だめじゃないけど……めでたさを全員で共有する機会はあってもいいんじゃないかとは思うんだが。
「めでたさを感じるのはその出来事が起きた時だけだ。それを後になっていつまでも引っ張るというのはどうなんだ?」
「ですです。例えば子供が生まれた時はそれこそ家族総出で祝うでしょうけど、その後『今日であなたが生まれてから何日目よ』なんて言っていちいちご馳走を用意したりはしないと思いますし」
誕生日全否定かよオイ。
どうやらワイヤードにとってのお祭りとは、その日その時間に起きた特別な出来事を祝う催しということらしい。
確かに記念日っつったって、その日自体は特に何か起きたわけでもないしねぇ。
「過ぎた出来事は所詮過去としてでしか扱われない。二度とそれは訪れない日でもある。だからこそみんなが一緒になって祝う……お祭りってそういうものではないですか?」
「言われてみればそうかもな」
たった一度きりのイベントだからこそ、祝う価値がある。催す意味がある。
何回もやったりすればそれだけ「特別性」は薄れる。
子供の頃はこういう年一回しか無いイベントを今か今かと心待ちにしていたもんだが、今になっては「またやってきたか」程度にしか思わなくなってきてるもんな。たとえ別な都合で満喫できなかったとしても「次がある」ってなるわけだし。
「もしかしてこの祭りも、何か祝うべきことが起きたのではなく、『記念日』とやらだからやっているものなのか?」
「まぁ何か事件が起きたわけではないね。もっと言うと記念日ですらないんだけど」
「そうなのだったのです!?」
「では尚更何でこんな大規模なことを……」
心底不思議そうに二人は問い詰めてくるが、俺は苦笑してこう言うしかなかった。
「さぁ? よくわかんね」
「は?」
「これも含めて、毎年色んな所で色んな祭り事があるけど、始まったきっかけを全員理解して参加してるわけじゃないんだ。俺もこの花火大会が何で始まったかなんて知らないし、ぶっちゃけここにいる殆どの参加者も同じだと思う」
「分かってないのに……え? じゃあなぜこんな大勢で集まってるのだ?」
「何か目的があってこんなことをしているわけではないと? 特別なこともなく、記念でもないとなると……ますますこのお祭りをやる意義がわからないといいますか……」
「お祭りに来るのにそんな大層な理由なんかいるわけないでしょ~?」
前を歩いていた渚が道を挟んで向かい合う出店を見渡しながら口を挟んできた。
「みんな何かと『楽しみ』が欲しいだけなんだよ。ハロウィンにせよ、クリスマスにせよ。そんなものはただの口実に過ぎないの」
「こうじつ……ですか」
「そう、こういうイベントがあれば誰かと遊んだり騒いだりできるきっかけになるでしょ。だから注目すべきは『なんでそれをやってるか』じゃなく『それで何をするか』だよ」
飄々と語りながら渚は近くの屋台に近づいていく。しばしの後、チョコバナナを両手に二本ずつ携えて戻ってきた。
「例えばあたしらはこーやって美味しいもんを食べたり、後でやる花火を観て盛り上がれる。それが目的でここに来てる。でしょ?」
と言いながら、彼女はそのうちの二本を差し出してきた。
「はいお二方。どーぞ」
「か、かたじけない」
「ありがとうございます」
「じゃあセンパイ」
「お、サンキュ」
「リファっちとクロちゃん一本ずつと、あたし二本の計四本で1500円です」
「あの世への渡し賃にしてやろうか?」
異世界人達はしげしげと受け取った熱々のチョコレートソースでコーティングされたバナナを見た後、ゆっくりと口に運ぶ。
濃厚なチョコの甘みと、完熟したバナナの香りが見事にベストマッチ。頬が落ちそうな美味しさに思わず舌鼓を打つ。
「とろけるぅー♡」
「おー、美味い」
「至福のひとときです……」
「ねー、これだけでも来てよかったって思えない?」
ニカッと笑って渚にそう言われると、異世界人達も首肯せざるを得ない。
「どれだけ高尚な目的で催されることだって、楽しめなきゃ退屈な時間にしかならない。どこぞの国の偉い人の誕生日だからめでたいです、とかただ言われても正直微妙っしょ? だって関係ないもん、あたしら」
「関係ない……ですか」
「うん。特別な日ったって、本当にその日が『特別』なのはごく一部の人だけだと思うよ。いろいろあったっぽいけど、それであんた達の暮らしが劇的に変わったりしたことあった?」
「いや……次の日にはまたいつもの生活に戻るだけだが」
「だっしょ~? ホントはあんた達『お偉方がめでたいって言ってるからめでたいんだろう』みたいな雰囲気に流されたりしてた節あるんじゃなーい?」
「っ!?」
言われた途端、ビクッと二人の身体が震えた。どうやら図星のようだな。
だがそれは今言われて気づいたことであるだけで、少なくとも転生する前はその感覚を疑わなかったに違いない。
国にとってのめでたい出来事は、国民にとってもめでたいものである。
今の日本じゃあまり実感わかないかもしれないけど、ワイヤードのような厳格で一体感が強いところではそういう傾向があると思う。
でも戦争に勝ったと言われても、新しい帝王が即位しても、結局部外者には他人事でしかない。それをめでたいと思うかどうかは個人の価値観に委ねられるわけだ。
確固たる自分の意志を持て。他人に流されるようなことがあってはならない。
これはワイヤードの掟だが、今の二人が他人事と認めつつもそれを祝ってきたのであれば、やはり国民は上に倣えという暗黙のルールはあるのかもしれない。
祝わなければ非国民扱いされるとか、酷い仕打ちが待ってるのかもしれないし。でなきゃ帝政なんて続くわけないからな。
「まーまー、そんな表情しなさんなって。逆にいい機会になって良かったじゃん。これでどんな祭りだろうと、楽しめりゃ何でもアリって思えるようになればいいんだから」
ひらひらと手を振りながら渚は慌てて付け加えた。
が、自分のこれまでの生き方のおかしさをモロに突かれた二人は黙りこくってしまう。言い返す言葉がないのをバナナを頬張ることでごまかすように。
「楽しめれば、なんでもあり……」
「そうそう。そーゆーんでも別にいいと思うけどなぁあたし」
「でも、それだとなんていうか……ただそれにあやかってるだけのようになってしまうような」
「です……まるでご馳走目当てで他人の披露宴に紛れ込んでくる物乞いみたい……」
聞いた途端、渚は盛大に吹き出した。
口内のバナナのかけらとチョコソースが唾液とともに俺に降りかかる。きったねぇなオイ。
「ぷっ、くくく……なかなか秀逸な表現……マジウケる。センスあるねぇクロちゃん」
「え?」
「わーったよ。あんたらにとっては、特別な日でもないのに催される祭りも、何がめでたいかわかってないのにただ享楽で参加するのも納得いかないってわけね。うんうん了解了解。そんなら……」
ぴん、と一本人差し指を立てて渚は食べかけのバナナを二人に向けた。
「自分達で祝う理由を作っちゃえばいいんだよ」
「「へ?」」
「何でもいいから今日だけ起きた出来事を何か一つ思い浮かべてみて。で、それがあった今日を祝うべき『特別な日』にするの。このお祭りはそのためにあると思えばいい」
「……はぁ」
わかるようなわからないような。リファとクローラはいまいち解せない面持ちでいた。
ただ言わんとしてることはわかる。
別にそのお祭りが万人にとっての祝い事でなくてもいいだろ、ってことだ。
よく今日は~記念日とかやるよな? それと同じ。自分だけの、自分達だけの、特別な日。それを今日にしてしまえばいいんだ。
しばらく考えてようやくその意図が掴めたのか、リファがポツリとつぶやいた。
「特別な日だから祝うんじゃない、祝うために今日を特別な日にする……」
「そゆこと。それじゃ納得できない?」
「……」
二人はしばらく考えこみ、同時に俺に目配せしてきた。
どうやら決断までのあと一押しを求めてきているらしい。
俺は軽く肩をすくめてこう言った。
「いいんじゃない? 国に決められたものよりも、自分で決めたものの方がよほど祝い甲斐があるだろうし」
「マスター……」
「ご主人様……」
「それに、ワイヤードの掟を守るのならなおさらだ。他人に流されずに自分の意志をしっかり持つ。だったら祝うべきものも自分で決めるべきだと思うな、俺は」
それが決め手となったのか、一瞬だけ互いに目を合わせると二人は笑顔で頷いた。
「ああ、マスターの言う通りだ」
「はい。クローラも異論はありません」
「よっしゃ、はいけってーい」
パンパンと嬉しそうに手をたたく渚に、リファはすかさず疑問を投げかける。
「でも、今日だけ起きた出来事というのは……具体的にどのような?」
「何でもいいよっていったでしょ。どれだけ些細なことでも、それは全て『その日その時でしか起こらなかったこと』なんだから。毎日をしっかり生きてれば気づけるはずだよ」
それは言えてる。
毎日が同じことの繰り返しとか言ってる奴いるけど、それはただそいつが変化に疎いだけだからな。
「今日しかなかった、こと……」
「特別な日にできる……何か……」
リファもクローラも、慣れないことを提案されたからか、必要以上に難しく考えてしまっているようだ。
ぱっと思いつくものでいいのにな、と言おうとしたが、口に出さないでおいた。
しまいには腕組みまでして、頭の中で真剣に理由を探し回っている異世界転生コンビだったが。
「「あ」」
と、全く同じタイミングで何かを思いついたようだった。
「なんか思いついたか?」
「「!!」」
何気なく訊いてみると、何故か二人はキョドったように肩を震わせた。
そしてまた何故か、今度は顔を赤らめてもじもじし始める。一体どうしたんだろう。
「……お前も同じか、クローラ?」
「……おそらく」
「? なになに、どったの?」
聞き出そうとする渚に、二人は無言で手招き。
近づいてきた彼女に、両側から静かに耳打ちした。
瞬間。再び渚が吹き出した。どうやらよほど面白いことだったらしい。余計気になる。
「何だよ、何? 俺にも言えよ」
と、催促してみたのだが。
「こ、これは重要機密事項だ。マスターといえど、話すわけにはいかんのだ」
「申し訳ありませんご主人様……クローラの口からはちょっと恥ずかしいので、言えません」
リファはツン、としたようにそっぽを向いて。クローラは両手でほっぺたを抑えながら本当に恥ずかしそうに、それぞれ回答する。
何で俺だけ……仲間はずれとかひどくない? 女子って内緒話好きだけど、こうも堂々とされるとちょっと傷つくんだけど。
「女の子が秘密っつってんだから、そこはあえて引き下がるべきでしょー。デリカシーないなセンパイは」
「鏡見てもの言え」
引き下がるどころか食い下がりたい気持ちだったが、そうはさせんぞとばかりにリファが俺に背を向けた。
「さ、そろそろ行こうではないか。時間が勿体無い」
「そ、そうですね。行きましょうご主人様」
クローラも焦るように俺のシャツの袖を軽く引っ張ってそう言ってくる。
ごまかしきろうと必死なのがミエミエだ。そんなに言いたくないのか。
「リファっちの言うとおりっすよ。花火始まるまでにきちんと楽しまにゃ損損!」
「へいへい」
渚に背中を押されながら俺は投げやりに返した。
まぁいいか、気にはなるけどこいつらにとって特別な日ができたのなら、それはそれで。
○
「しかし、本当に店がたくさん出てるのだな。以前にもこの公園には来たことがあるが、その時とはえらい違いだ」
「はい。人がいっぱいいるだけでこんなにも変わるものなのですね。それにじゃが、ばたー? とか、ちゅろす? とか…聞いたこともない料理がいっぱい……」
二人は相変わらず終始落ち着かない様子。目を皿のようにして周りの風景を観察していた。
「ねぇねぇセンパイ、今度はたこ焼き食べましょーよ。やっぱお祭りっつったらたこ焼きっしょ!」
渚はこんな感じでさっきから喰ってばっか。
お祭りのテンションとしてはこれが正しいんだろうけど、どうにも疲れるんだよなぁ。
「おっとそうだ。忘れていた」
ぽん、とリファは何かを思い出したようにぽんと手を叩いた。
どうした? と軽く尋ねると、リファは帯に挟んでいた常用装備の100均ソードの柄を軽く叩いた。
通常時では異質に見える取り合わせだが、こういう玩具が横行してる場だと逆に普通だな。
「これだけ人が多いと、何が起きるかわからん。それにどんな賊が紛れ込んで悪事を働くかもしれない。用心するに越したことはないぞ」
「え?」
「私はマスターの警備隊。マスターをお守りするのが私の使命だ。こういう時こそきちんと己の責務を果たさんとな」
普段は果たしてない自覚があったとでも言いたげな口調ですねぇ。まぁあったらあったで普段の任務もちゃんとやれよということになるわけだが。
だがこういう場に危険が潜んでるというのは間違いじゃないし、むしろ大当たりだ。
スリだのなんだの、人が多いところじゃ面倒事のリスクも決まって高くなる。彼女の言う通り気をつけないと。
「く、クローラも! ご主人様のお世話をするのが役目……な、何か入り用がありましたらご遠慮無く!」
負けじと躍起になってクローラは俺に詰め寄ってくる。
対して俺はたじろぐばかり。何もこんなところで世話なんてしてもらうことないと思うけど。
「みんなー、あっちにたこ焼き屋あったよ! こっちこっちー!」
すると一人でさっさと進んでいってしまっていた渚が大声で俺達を呼んだ。
まったく、はしゃぎすぎてはぐれたりするなよな。そう思いながら、急いで後を追う。
「おっちゃん! たこ焼き四人前!」
「へいよ。六個入り700円が四つだから2800円な!」
「だそうですよセンパイ」
「等価交換の法則って知ってる?」
「こんなにかわいい女子と一緒にたこ焼きを食べられるだけで対価としては十分っすよ」
「買い叩かれる年上の威厳」
そんな最中、リファは鉄板の上でおっちゃんが転がしているそれを注意深く見ていた。
「たこ焼き? とな」
「タコっていう魚介類を小麦粉の生地で包んで焼いたようなもの。あんな感じに」
「タコ?」
「無数の触手で素早く獲物をとっ捕まえる恐ろしいモンスターだよリファっち」
「ダニィ!? そんな危険なものマスターに喰わせられるかぁぁぁぁ!」
やめよう印象操作。
「ご主人様ご主人様!」
たこ焼きを買って戻ろうとすると、今度はクローラが俺を呼んできた。
振り返ってみると、女奴隷は道沿いに設置してあったベンチに座っていた。自分の隣をぺしぺしと叩いて「ここ空いてますよ」のジェスチャー。
おや、これはありがたい。この混雑具合でよくそんなベストスペースを見つけられたな。
「既に座ってる方々がいたのですが、執拗に『立ち退くまで後どれくらいかかりますか?』って訊いてたらご親切に数秒でどいてくださいました」
親切ってのは奪うものじゃないんだよなぁ。
「奴隷ゆえ、こういうのも努めでございますので!」
えへん、と胸を張って彼女はドヤ顔。
ごめんなさい前に座ってた人。
罪悪感に苛まれつつも、俺達はその四人がけのベンチに左からクローラ、俺、リファ、渚の順で腰掛け、念願のたこ焼きタイム。
「で、ではご主人様。私めがお口に運んで差し上げますね!」
「は!?」
何を言い出したかと思ったら、彼女は既に爪楊枝でぶっ刺したたこ焼きを俺に近づけてきていた。
「ご主人様に何一つ徒労をかけさせないのが奴隷というもの。これくらいのことはさせてくださいまし」
「いや、いいよそんな……自分で食べられるって」
「ですが……」
流石にこの年で衆人環視の中あーんして食べさせてもらうとか、恥ずいってマジ。
だがこのまま断り続けるのも、せっかく気を使ってくれた彼女に悪い気がするし、どうしたもんか。
「えいっ!」
ぱくっ!
と、突然リファが横から顔を伸ばしてくると、大口を開けてたこ焼きを横取りした。
俺もクローラもいきなりの行動に目を丸くする。
「おまっ、何やってんだよ?」
「毒見だ」
女騎士は口内でたこ焼きを転がしながらモゴモゴとそう答えた。
「ほこぞの者とも知れんやはらがつくったもほを、ほうやふやふとふひにするな。へいはいひんがはひんぞ」
「ヘーホンホヘホハイがどうしたって?」
「ひはふっ! ひゃかさふにきけこのあほますたー!」
「何でもいいけど、ちゃんとよく噛んで飲み込んでから喋れ。みっともない」
「ったく……」
不服そうにしながらもリファは俺の言うとおりにすべく、まだ形を保ったままのたこ焼きを噛み砕いた。
瞬間。
「だーーっ!! あっちゃちゃちゃちゃ!!!」
超悶絶して超絶叫。きっと中の灼熱の具材の仕業に違いない。
食感も味も感じる暇もなし。俺が手渡したペットボトル入りの水をひったくると、それを逆さまにして一気に飲み干す。
ようやく苦しみから解放され、ゼーゼーと肩で息をする女騎士。まったく、警戒心がないのはどっちなんだか。
「な、なんなのだこれは! 口に入れた瞬間に熱湯を流し込まれたような……死ぬかと思ったぞ!」
「ちゃんと冷まして食べないからそうなるんだよー。こうやってふーふー、ってやらないと」
ケラケラ笑いながら渚は美味しそうに自分の分のたこ焼きを頬張るが、リファは案の定聞いちゃいない。
すでに彼女のたこ焼きの印象は最悪。その熱さに押し上げられるかのように、自身の怒りも沸点に達する。
「こ、こんな危険なものを平然と売るとは許すまじ! あの店主……さては賊の刺客か何かに違いない! 食べ物を使って、それも毒ではない方法で仕留めに来るとは味な真似をしてくれるな!」
「リファ」
「今回は被害が私だけで済んだからよかったものの、もしマスターがこのたこやきとやらの餌食になってたら、即斬首の刑だぞあのハゲめ……」
「リファ!」
「なんだ? ていうかマスターも少し冷静すぎるぞ。こんな恐るべき食べ物の形をした小型兵器を渡されておきながらーー」
イライラをノンストップで蓄積させていくリファだったが、キッと俺を睨みつけた途端に、出しかけた矛を収めた。
なぜなら。
「ふーふー」
と、俺が彼女のたこ焼きを爪楊枝で持ち上げ、それに息を吹きかけていたのだから。
内部まできちんと届くように、複数穴を空けたりして丹念に冷ましていく。
十分に食べられるくらいの温度になったのを見計らって、それを彼女の口に持っていく。
「ほれ、あーんしろ」
「ふぇ?」
さっきの鬼のような形相は嘘のように立ち消え、キョトンと呆けた表情に変わる。
やれやれ、まさか「する側」になるとはな。まぁ背に腹は変えられん。せっかくのたこ焼きなのにこのまま悪印象抱かせるのもアレだしな。
「あの、マスター?」
「食っとけって。多分これで大丈夫なはずだから」
小さくため息をつくと、俺は彼女のサファイアのような碧眼をまっすぐ見据えて言った。
「ちゃんと役目は果たせよ、毒見役」
「……」
言われたリファはまた熱さで火がついたかのように真っ赤になる。だが今度は悶絶も絶叫もせず、コクリと頷いただけだった。
そして若き女騎士は自らの務めを果たすべく、目を閉じて小さく口を開け、俺がフーフーしたたこ焼きを口に含んだ。
注意深く舌で温度を確かめながら、ゆっくりと咀嚼する。どうやら大丈夫みたいだ。
ふんわりとした生地と、その中でたどり着く歯ごたえのあるタコを、ソースとマヨネーズが奏でるマイルドな風味と共に味わう。
じっくりと初めてのたこ焼きを堪能し終え、彼女はそれらをすべて飲み込んだ。
「どうよ?」
「……ん。美味しかった」
「そうかい」
毒味の結果報告としてはいかがなものかと思うが、美味しいと思ってもらえたなら何よりだよ。
俺が素直にそう伝えると、リファはまだ物欲しそうな目でこちらを見ていた。
「何?」
「その……まだ毒見は終わってないぞ」
「へ?」
彼女は顔の赤らみを保持したまま、自分のたこ焼きのパックをこちらに差し出した。
「まだ後五個もある。全部食べきるまでは安心できん」
「……」
……まったくこいつは。
俺はフッと鼻で笑うと、再び残りのたこ焼きに爪楊枝を刺し、息を吹きかける。
「はいよ。姫騎士様」
「ん」
やれやれ、これじゃどっちが従者だかわかんないや。
周囲の面々は既にそんな光景をチラチラ見て笑っていたが、俺達はむしろ開き直るように、二人の世界に閉じこもるように、たこ焼きを食べさせ合っていた。
「……」
チクリ、と。
投げかけられる視線の中に一つだけ、痛みのあるものが混じっていたけど。
それが誰のものなのか、俺は気にも留めなかった。
○
「いやーもうお腹いっぱいだわー! センパイマジゴチっす!」
少し膨れたお腹をタヌキみたいにぽんぽこ叩きながら渚は満足そうに言った。
あれから本当にたくさんのものを食べた。渚だけでなく、俺も空腹だったからだ。昼飯抜いてぶっ通しで出店のしごとやってきたのが裏目に出るとはな。
だが、リファとクローラは遠慮しがちというか、あまりねだってはこなかった。
毒見で喰う分で十分だから、自分の分はいらないとまで言い出す始末。大丈夫かな、具合悪いとかでなければいいけど。
「二人はまだ食べたいものとかある?」
「え? いやいや! 私はそんなに……」
「クローラも、大丈夫です」
「そうかぁ、めったにない機会なんだし、遠慮しないでいいのに」
「心遣いはありがたいのだがマスター、少し気になることが」
「何よ」
リファは言いにくそうにしていたが、俺の傍まで寄ってくると小さく耳元で囁いた。
「どうもここらの店……高額ではないか?」
「え?」
「マスター達が色々買うたびにその値段を観察していたのだが……、どれも大した量でもないのに七百、八百、ひどければ千円と。さすがの私でもそれが割りに合ってないことくらいわかる」
「なんだ、そんなこと気にしてたの」
俺は思ったより単純な理由に拍子抜けした。
「そんなことで済む問題か? これはもしかしたらマスターから金をあの手この手で搾り取ろうとする、集団での経済攻撃なのかもしれんのだぞ! いや絶対そうだ! 兵糧攻めとは小賢しい真似を……警備隊としてこういうのも見過ごすわけにはいかない!」
「仕方ないさ。ここは祭りで多くの人が集まる。そして多くの人が食べたり飲んだりする。つまり普通より店の需要がぐんと高まるんだから」
「じゅよう……?」
「そうそう。祭りに来てる以上、半ばそこを利用せざるを得なくなるからな。だから多少高くしてもこうやってどこも売れてるわけ」
「それはまさに足元を見られてるということではないか!」
不服そうにリファは強く言ってきた。
なるほど、あまり食べてないのはそういうことだったのか。
「でもいいんだよ、それはそれで」
「え?」
「確かに足元を見られてるのはそうかもしれない。けど、値段とかをいちいち気にしてたら楽しめるものも楽しめない。そのへんは割り切っておいた方がいいよってこと」
「……」
俺は渚を呼び止めて、近くの屋台で牛串を三本購入。
一本五百円というバカにならない出費に、またリファが苦い顔をする。
クローラは小さく礼を言って差し出されたそれを受け取ったが、女騎士の方は渋っていた。また余計な出費をさせてしまったとか考えてるんだろう。
「こういう普段食べられないようなものを普段とは違うシチュで食べる。特別感を出す意味ではこういうのもありだと思うぜ、俺。細かいことは今はナシナシ」
「なんだかますます連中の思う壺になってるような……」
「だったら料金分楽しめばいいだけの話だ」
「え? ――はむっ!?」
ぽかんと開いた口に、俺は肉汁たっぷりの牛串を押し込んだ。
「確かに単純に考えれば損かもしれない。でも思う存分楽しめば、そんなこと気にならなくなるはずさ。むしろ安いくらいになるぜ」
「そういうものか?」
「ああ。現に――」
俺も自分の分の牛肉を一切れ噛みちぎると、ガラにもなくニカっと笑ってみせた。
「俺はとっても楽しいぜ? こうしてお前らとお祭り一緒に回るの」
「……」
リファの目が大きく見開かれるのがわかった。
ドン引きされたかな? と一瞬不安になったが、別にそんなことはなく。
ただ小さく視線をそらして、聞き取りづらい声で何かを喋った。
「……私も楽しくないわけではない。べつに……こんな日だけでじゃなくても、ますたーといっしょなら……」
「は? ごめん最後の方ちょっとよく聞こえんかったんだけど。こんな日だけじゃなくても、何?」
「……なんでもない」
と言った後、「毒見だから」とその後は無言でパクパク焼き肉を頬張ったリファレンスであった。
そんな様子を見て、俺はやれやれと肩をすくめた。素直じゃないんだから、ホントに。
ズキリ。と。
またどこかから痛みのある視線が刺さったようだが。
気のせいだろう。
○
「よっしゃー! 食後の運動がてら、今度は射的行くっすよオラァ!!」
意気揚々と叫ぶ渚。こいつのエネルギーの源は何なんだろうね一体。
「射的って運動になるか? さしてそんな身体動かさねぇだろ」
「お? お? 何すか何すか? それはもしかしてこんなお遊びより腰を重点的に動かして最後はあたしの膣奥狙って乱射する方の射的へのお誘いっすか?」
「お前が思いっきり回答から狙い外してることは確かだな」
「おお、確かに。狙うのは的じゃなくて排卵日っすからね!」
「着弾地点をストライクゾーンに後から塗り替えるスタイルやめろ」
そんなわけでやってきました射的屋さん。
豪華な景品が揃い踏み。最新のゲーム機や玩具などが目を引く見事な光景。
これもまたワイヤード人には初めてなものであるからか、リファは物珍しそうにそれに見入っている。
「食べ物屋だけではなかったのだな」
「そだよー。ってかそれだけだったら腹膨れた時点ですぐ楽しみ終わっちゃうじゃん! こーいう純粋なアトラクションがあってこそのお祭りだっちゅーの」
渚は拳を鳴らしながら、店主のオヤジに挑戦を挑む。
一回五百円の四発勝負。その弾丸で景品を落とせば勝利だ。
「ほれセンパイ金!」
「お前同じこと親にも言ってんじゃねぇだろうな」
「まさか。こんなことするのセンパイだけっすよ♡ヤキモチ妬いちゃって可愛いなもう♡」
ああ嫉妬してるよ。お前にまともに接してもらえてるご両親にな。
「これは、銃……なのですか?」
ちらっ、とクローラが渚が弾込めしている様子を見ながら尋ねてきた。
彼女は一応買い与えたモデルガンを武器に愛用している。使う機会はリファほどじゃないけど、メンテ等はちょこちょこやってる。
「レプリカだよ。これで色々棚にあるやつを的代わりにして撃ってくの。落とせばそれを手に入れられる。簡単だろ?」
「なるほど……人を殺す武器がこんな娯楽にもなるのですね……興味深いです」
「よーしよしよし、準備おっけぃ」
装填を終えた渚は舌なめずりしながら片目をつむって照準を合わせる。
「何狙ってんの?」
「まぁテキトーに。コンドームでもあれば狙うついでにこの銃弾で穴開けてやるところですけど」
「目が節穴の奴が何言ってんだよ」
スコポンスコポン、と軽い音がして圧縮された空気で押し出されたゴム弾が射出される。
距離もそう遠くないので全て命中したものの、景品は倒れず。結局一回戦は成果なしだった。
「くっそぅ。守り固すぎだってマジ。あれ絶対守備力3000以上あるっしょ……」
歯ぎしりしながら渚は、ハズレた人用のお菓子(飴)を舐めながらそう負け惜しみを言って悔しがる。
飽きっぽいのか、興が削がれたのか、再度挑戦することはなく俺達に振ってきた。
「リファっちとクロちゃんはどう? やる?」
問われて最初に手を小さく上げたのはクローラだった。
「あの……」
「お、やっちゃうクロちゃん? いいねぇー。あたしのリベンジも兼ねてガツンといっちゃって!」
「や、私は……ただ……」
渚に背中を押され、クローラはやや強引に射的台に立たされる。
店主のおっちゃんに料金を払い、レクチャーを受けながら弾丸を装填。たどたどしい動きで構えを取る。
さて、一体彼女は何を狙うのだろうか。
そう思って銃口の先を目で追ってみると……。
「髪留め?」
「ふゃっ!?」
驚きのあまり狙いがそれたのか、弾はあらぬ方向へと飛んでいってしまった。
一発目、失敗……。
狙っていたのは髪留めの入った箱。黒一色でシンプルなデザインをしている。他のものより小さいから目立たなくて気づかなかった。
「あ、ごめん……」
「い、いえ……大丈夫です。私が狼狽しただけなので」
クローラは俺の方を見ずに二弾目を込める。
髪留めかぁ。そういやクローラお洒落とか全然しないからな。リファは初日に買ってやった簪をいつも付けてるけど、あれっきりだし。
俺が男だからか、あんまりそういった気遣いしてこなかったけど、彼女もああいうのを付けてみたいって思ってるってことだろう。
「……えい」
今度は命中。重量もそんなにないためか、少しぐらついた。いい感じだ。
「……んっ」
パコンっ。
と、三発目でついに倒れた。おお、と渚も俺もリファも小さく拍手。
テレテレとするクローラだったが、店主のおっちゃんは首を横に振った。
「悪いねじょーちゃん。これ倒すだけじゃなくて、下の方まで落とさないと駄目なんだ。残念だけどやり直しね」
と言って箱を立て直してしまう。
俺はあーやっぱりかー、程度にしか思わなかったが、クローラのショックは大きいだろう。せっかく意中の品を射止めたってのに、こう上げて落とされるようなことされちゃあさ。
だがそれ以上に納得せず抗議の声を上げたものが約一名。
「おい店主! どういうことだ! せっかく倒したのに品を寄越さないとは!」
やはりというかなんというか、リファレンスさんでした。
まるで自分が受けた仕打ちであるかのごとく、顔を真赤にして店主に当たる。
「いやどういうもなにも、ほらここの張り紙に書いてあるでしょ。『下に落とさなきゃ無効』って」
「何を言ってる! その景品がおいてある棚、奥行きどれだけあると思ってるんだ! そんなのどう考えたって無理に決まってるだろ!」
「いや無理かわかんないだろう! やってもないのに」
あーあ、とうとうクレーマー化しちゃったよ。そりゃこういうとこはどこもアコギ商売だろうから気持ちはわかるけど。
「おいマスター! これもやはり賊の仕業臭いぞ! こうやって詐欺めいた真似をして人々から搾取していく……これが悪事でなくてなんなんだ!? 即刻取り締まらねば!」
「まぁまぁ落ち着けって。こういうのも割り切るのが重要で――」
「落ち着けるか! マスターの所持金をあいつが奪ったも同然なんだぞ!」
「どうどうリファっち」
荒ぶる女騎士をギャルが羽交い締めにした。グッジョブ渚。
ジタバタ暴れる彼女に、渚は落ち着き払った声で言う。
「わかる、わかるよー。あたしも初めて射的やった時はその悔しさに何度も打ちひしがれたし。でも、ここであーだこーだ喚いたって何にもならない。でしょ?」
「し、しかしっ! こんな辱めを受けたまま引き下がれるか! 泣き寝入りなぞ騎士のプライドが許さん!」
「それもよぉくわかってますとも。だから、今からいい方法教えてあげる。確実に、あの店の商品をなんでもゲットできちゃうウ・ラ・ワ・ザ」
ぴたっ、とそこでリファが暴走を止めた。
中二病心をくすぐられるようなそのワードに、怒りを忘れたのだろうか。興味津々に女騎士は背後の渚に目を向ける。
「な、なんだ? ウラワザとは……」
「とあるものがこの店にあるんだけど、それさえ落とせばいいの。そして難易度は他の景品よりよっぽど低い。一発で仕留められるから」
「それは一体……」
にやり、とギャルは白い歯を覗かせて、周囲の人間が息を呑む中、端的に答えた。
「店主の命」
「人生にオチをつけようとするんじゃないよ」
スコポン!
と、そんなおっかない漫才をやってる外で突如そんな音が響いた。
空気砲の音だが、今までよりちょっと大きい。その場にいた誰もが注目するくらいに。
一体なんだろうと思って見てみると。
「……落ちました」
最後の一発を放ったクローラと、奥の床に落ちた髪留めの箱があった。
○
「まったく、もうちょい自重しろよお前ら」
景品を受け取り、射的屋から逃げるように退散した俺達。荒い息を吐きながら俺はうんざりしたようにトラブルメーカー達に説教した。
渚はいつものようにおちゃらけた感じで「さーゃせぇーん」と軽い謝罪。
「だって……マスターをお守りするのが私の役目だもん……」
リファはブツブツとまだ文句を垂れている。さっきからそればっかりだなこいつは。
「あのなぁリファ。今日は俺達楽しむために来てんだぞ? その意味分かる?」
「? どういう……」
「仕事をしに来てるわけじゃないってこと」
はっきり言うと、リファは少し黙った。
そのうちに俺は続けて伝えるべきことを口に出す。
「お前もクローラも、俺を守るためとか、俺の世話をしなきゃとか。そういうことばっか考えてて、自分が楽しむっていう目的忘れてるだろ? 公私混同してるからそうなるんだよ」
「……」
「俺のことはしばらくはいい。たまには自分を優先しなよ。んでもっとこう……なんていうか、上手く言えないけど――」
俺は首の後ろをバリバリ掻きながら言葉を探した。
二人を納得させるのに最適な言葉……えっと……何かないか……。
と、悩みに悩んだ結果。出てきたのがこれ。
「――そう、普通の女の子みたいに振る舞えばいいんだよ」
ズキン!!
と、今度ははっきりと、痛みを感じた。
どこからか来る、その刺すような視線の痛みを。
気のせいじゃない。今、絶対に俺は誰かからそれを向けられた。
その「誰か」は……。
俺は恐る恐る背後の三人を振り返ろうとする。
リファ、クローラ、渚。
一体……誰だ?
「まーまーセンパイ! お説教はそんくらいにしときましょ! でないと本当に楽しめなくなっちゃいますよっ!」
振り返った時には、渚が二人の肩を抱いて引き寄せ、屈託の無い笑みを浮かべていた。
リファもクローラも、彼女にハグされて複雑な顔をしている。
俺はそれでも今の妙な感覚が忘れられず、その事に言及しようとしたのだが、渚のマシンガントークがそれを許さなかった。
「そーだ忘れてた! もうすぐ花火始まっちゃうんだった! 急いで場所確保しに行かないと! とりあえず二手に分かれて穴場探しましょ! あたしはリファっちと! センパイはクロちゃんとでヨロです!」
「え? いやあの……」
「じゃあ見つけたらお互いにLINE飛ばす感じで! ほらっ、急がないと間に合わなくなるよリファっち!」
と、渚は有無を言わせずにリファの首根っこを引っ掴むと、猛スピードで走り去っていった。
「あ、おい! 待てよ!」
遅れて俺も少し後を走って追ったが、既に彼女達の姿は人混みに紛れてしまっていた。
ったく、なんなんだよいきなり。人の話も聞かずに……。
でもま、話そうとして内容も、「話したところで何になる」程度のことだしなぁ。現実味もないし、呆れられて終了かもしれない。
しゃぁない。これは一旦保留にして俺達も花火見る場所探そうか。
と気持ちを切り替え、クローラと同行を開始しようとしたのだが。
「あれ? おいクローラ?」
さっきまで傍にいたはずの彼女の姿が、ない。
どこにも。半径数メートルの範囲にすら、いない。
え? おい、嘘だろ?
もしかして逃げる渚に目を取られた隙に? んな馬鹿な、ほんの数秒だぞ? いや、でもこの人混みならありえない話じゃないか。
悪いことに、クローラはスマホを持っていない。つまり、連絡も取れない。
迷子になったら最後……落ち合うのは困難を極めることになる。
「マジかよ……」
気が気でなくなった俺は、人々を押しのけて彼女を探した。
くそ、俺が注意を欠いたばかりに。迂闊だった。
「クローラ、クローラ!」
名前を叫びながら右往左往するも、それらしき姿は見当たらない。
時間が経てば経つほど状況は悪くなる。早く見つけないと。
「そうだ、渚達を呼び戻さなきゃ」
花火の席取りなんてしてる場合じゃない。手分けして捜索しよう。
俺がポケットからスマホを取り出して、彼女に電話をかけようとしたその時である。
「――ねぇねぇいいじゃん。俺らと花火見よーよ」
「――そうそう。あっちにめっちゃ涼しかった場所あるからめっちゃ涼しいよ! 一緒に行こうぜ」
道脇で、チャラそうな若者二人が、誰かを取り囲んで馴れ馴れしく話しかけていた。
会話の内容からしてどうもナンパっぽい。
不審に思って、彼らに言い寄られている人物を見て、俺は思わず安堵の息を吐いた。
「あ、あの……えと……」
異世界人にして我が家の女奴隷、クローラさんであった。
はぐれてオロオロしていたところを狙われたのだろう。見つかってよかったものの、新たな問題が同時に発生した模様。
「お、なにそれ? 髪留め? かわいいね~。俺が付けたげようか」
「……これは」
先刻射的で見事手に入れた髪留めの箱を庇うように両手で抱えながらクローラは一歩後ずさった。
怯えている。ひと目見て分かる仕草だった。
だがそれすら気づかない様子で、ナンパ野郎どもは勝手にべらべらと喋る口を止めない。
「あー、ごめんごめん。自己紹介がまだだったね。ごほん、では俺から。てぇんさい物理学者である俺がいる八王子の街で、謎の怪人が市民を脅かしていた! そこに現れたのは、我らがヒーロー――」
「自分で天才とかヒーローとか痛いんだよ。ただの記憶喪失のおっさんだろ」
「うるっさいよ! そーゆうこいつは刑務所を脱走した殺人犯の――」
「俺は殺しも脱走もしてねぇ!」
「そう言ってワンワン泣いてすがるもんだから――」
「泣いてねーし!」
「ツッコみ早ぇんだよ」
……見てらんねぇ。
俺はこめかみを抑えてその現場に向けて歩を進めていった。
とりあえず無難に「そいつ俺の連れなんでー、すみません」と言って速やかに立ち去ろう。あとは揉め事にならないのを祈るだけだ
そう頭で計画を立て、いざクローラ救出作戦開始と行こうとした。
が。
パニック寸前のクローラが俺の姿を目に捉えた瞬間。
その事件は起きた。起きてしまった。
「あ、あなたっ!」
……え?
今、なんて?
その場にいた誰もが思考を強制的に一時停止させられる。
そんな中、クローラだけは幸せそうな笑顔で、こちらに駆け寄ってきていた。
そしてあろうことか、自分の両手を俺の腕に絡ませて身体を密着させてきた。
「!!?」
「ごめんねっ。ちょっと道に迷っちゃってたみたいで」
「ほぁ?」
「心配賭けちゃってゴメンね? 今度は離れないように、ちゃんとこうやっていようね?」
唖然呆然大仰天。
なになに? 何? 何なの? 俺の処理能力を遥かに上回るスピードで物事が進んでいってるんですけど!
当然それはナンパ野郎どもも同じであり、引きつったような表情をしながら片言で、
「あ、あの……君?」
「な、なんだよそいつ……」
そう言われたクローラはますます俺に腕を絡ませると、彼らに向かって言い放った。
「この人……あたしの恋人だから!」
しっかりと、はっきりと、きっぱりと。
まるで宣言するみたいに、力強く。
そこでようやく理解できた。奴等を欺くために芝居を打つってわけだ。
なるほど、そういうことでしたか。ま、普通に考えてそうだよね。
「さ、行きましょ。あなた」
俺を上目遣いで見ながら、クローラはそう言ってくる。
不覚にもそれにドキッとしてしまった俺だが、急いで冷静さを取り戻す。
落ち着け、これは演技……演技だ。合わせないと、彼女がごまかそうとしてるのがバレちまう!
「そ、そうだね……じゃ、行こうか」
「うん! 花火すっごく楽しみ。絶対に二人で一緒に見ようね!」
そう嬉しそうに彼女は頷いて、俺をリードするように早足で移動を開始した。
「……最悪だ。……無理だから、彼氏持ちとかそういうの先生ホント無理だからやめてくださいね! マジでそれで非処女とか? ホント無理だから!」
「今の俺は、ヤレる気がしねぇぇぇーっ!!!」
ナンパコンビが見事に地団駄を踏んで悔しがる声が背後で聞こえてくる。どうやら大事にはならずに済んだみたいだ。よかった。
クローラはまだ安心できないのか、人を押しのけるようにしてずんずんと進んでいく。
俺は彼女に引っ張られながら、彼女の表情が確認できそうでできない横顔を眺めていた。
しっかし驚いたなぁ。一瞬誰かと思ったよ、さっきの口調。一人称も「あたし」になってたし、キャラ変ってレベルじゃないって。
でも……あれはあれでいいかも。さばさばしてるっていうか、フレンドリーっていうか。何か、すごく親近感の湧きそうな感じだった。
いつもご主人様って呼んで敬語で話しかけてくる間柄だったから、余計にその距離が縮まった気分になったんだろう。
普段からそうあってくれてもいいんだけどね。……なんて。
そんなことを考えてるうちに、公園奥地の広場に出た。そこでやっとクローラは足を止めた。ここまでくればもう大丈夫でしょ。一件落着だ。
でもこの後、必死で謝ってくるんだろうな。
「彼らを欺くためとはいえ、ご無礼を働いたことをお赦しください~っ!」とか言って。
こっちは全然気にしてないし、むしろちょっといいものが見られたとか思ってるくらいなんだけど。
さて、どう来るか……。と少し身構えたのだが。
いつまで経っても、彼女は俺の腕を解放しようとしなかった。
まるでロックされた錠前の如く、がっちりと掴んで離さない。
「あの、クローラ?」
「……」
うつむいたまま、彼女は返事もしない。
どうしちゃったんだろう。もうあいつらはここにはいないし、無理してそんなフリを続けなくても……。
「……普通の、女の子……特別な日……」
「え?」
呪文のような言葉を、周囲のざわめきでかき消されそうな声でつぶやいた。
それが俺に向けてのものだったのか。それとも独り言だったのか。今となってはわからない。
なぜなら、それを尋ねようとした瞬間。彼女が動き出していたのだから。
ようやく今まで見せなかった顔を、俺に向けた。
晴れやかで、でもどこか無理しているような、恥ずかしいような。
そして……悲しげな面影を残したその笑顔を。
「ねぇ、もうちょっと色んなところ見て回らない?」
……え?
再び俺の頭が真っ白になる。
ちょっと待って、だってもう……。
「大丈夫だよ。場所なんて回ってるうちに見つかると思うし。それにあたし、もっとあなたとこうしていたいの!」
「クローラ……」
俺が何か返そうとしたのを力技で封じ込めるように、彼女は続ける。
すごく、すごく必死に。
それを表すように、彼女の俺を掴む腕は……かすかに震えていた。
「だから、お願い!」
今にも泣き出してしまいそうなほどの、強い懇願。まさに一生の頼みという表現が妥当なくらい。
何が起きてるかわからない。何で彼女がこんなことをしているのかもわからない。
はっきりしていることは一つだけ。
彼女が、クローラ・クエリという女性が……今、俺を求めているということ。
その選択を、俺は迫られている。
どう答えるのがいいんだろう。単純にYESかNOで分けられるものじゃない。かといって濁すようなものでもない。
俺はどうするべきなんだろう。こんな、まだ落ち着いてもいない状態なのに。
一体俺は……彼女の懇願になんて返せばいい?
……いや、違うな。
どうするべきか、じゃない。
俺がどうしたいか、だ。
道理とか理屈とかじゃなく、自分の気持ちに素直になって、心のままを表せばいいだけなんだ。
なら、答えは一つだ。
「いいよ。もちろん」
「……っ!」
答えた途端、クローラの瞳が少し潤んだ。
今にも決壊しそうなのを、懸命にこらえてるのがはっきり分かる。
「一緒に回ろう、二人で」
「……うん。うん!」
心の底から楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに彼女はそう何度も頷いた。
渚とリファには悪いけど、ちょっと寄り道くらいはいいだろ。
僅かな時間だけど、このささやかなひとときを過ごすのをどうか許してほしい。
「それじゃあ行きましょう、あなた」
「ああ」
こうして、俺達は歩き出す。
また賑やかな祭りの中へと。
恋人のように、腕を組んで。
二人だけの時間が始まる。
花火の時間まで、あと三十分。
大手を振って歩きながら渚が俺達の希望を訊いてきた。
だがリファもクローラも即座に「はいここがいいです」と回答できるわけもなく。
「あ、特にない? じゃああたし今お腹空いててさー、食べ物系優先的に回ってくって感じでいい?」
という渚の希望が通ることになる。
クローラのホットドッグたかったり、屋台の商品さんざんつまみ食いしといてよく言うよ。まぁ俺も腹は減ってるから別に異論はないけど。
異世界転生コンビは食べ物がどうとかいうことよりも、その様々な屋台自体が気になるらしい。常に目と首をキョロキョロとさせていた。
そういや訊いてなかったけど、ワイヤードにもこういうお祭りってあったのだろうか。さすがに異世界とはいえ、催し物くらい普通にあるとは思うけど。
純粋に気になったので、渚に聞こえないように小声で二人に尋ねてみて返ってきた答えが以下。
「あることにはあるぞ。基本的に何かめでたいことがあった日に行われるものだな」
「例えば敵国との戦争に勝った時とか、新たな帝王が即位した時とか……私達が知っているものといえばそれくらいでしょうか」
「へぇ、なんか記念日的な時にはやったりしないの?」
「記念日?」
「ほら、めでたいことがあったらこれから毎年この日に祝い事をやりましょう……みたいな」
小首をかしげて異世界人二人は頭上にはてなを浮かべた。
「まいとし? よくわからんが、それ以降も定期的にやるということか? なぜそんなことを?」
「なぜって……なんていうか、そういうことがあったよーってことを後世に伝えるためにとか」
「そういうのは本などの資料で十分役割を果たせそうな気はしますけど。それじゃだめなんでしょうか?」
どちらも真顔で訊き返してくる。
だめじゃないけど……めでたさを全員で共有する機会はあってもいいんじゃないかとは思うんだが。
「めでたさを感じるのはその出来事が起きた時だけだ。それを後になっていつまでも引っ張るというのはどうなんだ?」
「ですです。例えば子供が生まれた時はそれこそ家族総出で祝うでしょうけど、その後『今日であなたが生まれてから何日目よ』なんて言っていちいちご馳走を用意したりはしないと思いますし」
誕生日全否定かよオイ。
どうやらワイヤードにとってのお祭りとは、その日その時間に起きた特別な出来事を祝う催しということらしい。
確かに記念日っつったって、その日自体は特に何か起きたわけでもないしねぇ。
「過ぎた出来事は所詮過去としてでしか扱われない。二度とそれは訪れない日でもある。だからこそみんなが一緒になって祝う……お祭りってそういうものではないですか?」
「言われてみればそうかもな」
たった一度きりのイベントだからこそ、祝う価値がある。催す意味がある。
何回もやったりすればそれだけ「特別性」は薄れる。
子供の頃はこういう年一回しか無いイベントを今か今かと心待ちにしていたもんだが、今になっては「またやってきたか」程度にしか思わなくなってきてるもんな。たとえ別な都合で満喫できなかったとしても「次がある」ってなるわけだし。
「もしかしてこの祭りも、何か祝うべきことが起きたのではなく、『記念日』とやらだからやっているものなのか?」
「まぁ何か事件が起きたわけではないね。もっと言うと記念日ですらないんだけど」
「そうなのだったのです!?」
「では尚更何でこんな大規模なことを……」
心底不思議そうに二人は問い詰めてくるが、俺は苦笑してこう言うしかなかった。
「さぁ? よくわかんね」
「は?」
「これも含めて、毎年色んな所で色んな祭り事があるけど、始まったきっかけを全員理解して参加してるわけじゃないんだ。俺もこの花火大会が何で始まったかなんて知らないし、ぶっちゃけここにいる殆どの参加者も同じだと思う」
「分かってないのに……え? じゃあなぜこんな大勢で集まってるのだ?」
「何か目的があってこんなことをしているわけではないと? 特別なこともなく、記念でもないとなると……ますますこのお祭りをやる意義がわからないといいますか……」
「お祭りに来るのにそんな大層な理由なんかいるわけないでしょ~?」
前を歩いていた渚が道を挟んで向かい合う出店を見渡しながら口を挟んできた。
「みんな何かと『楽しみ』が欲しいだけなんだよ。ハロウィンにせよ、クリスマスにせよ。そんなものはただの口実に過ぎないの」
「こうじつ……ですか」
「そう、こういうイベントがあれば誰かと遊んだり騒いだりできるきっかけになるでしょ。だから注目すべきは『なんでそれをやってるか』じゃなく『それで何をするか』だよ」
飄々と語りながら渚は近くの屋台に近づいていく。しばしの後、チョコバナナを両手に二本ずつ携えて戻ってきた。
「例えばあたしらはこーやって美味しいもんを食べたり、後でやる花火を観て盛り上がれる。それが目的でここに来てる。でしょ?」
と言いながら、彼女はそのうちの二本を差し出してきた。
「はいお二方。どーぞ」
「か、かたじけない」
「ありがとうございます」
「じゃあセンパイ」
「お、サンキュ」
「リファっちとクロちゃん一本ずつと、あたし二本の計四本で1500円です」
「あの世への渡し賃にしてやろうか?」
異世界人達はしげしげと受け取った熱々のチョコレートソースでコーティングされたバナナを見た後、ゆっくりと口に運ぶ。
濃厚なチョコの甘みと、完熟したバナナの香りが見事にベストマッチ。頬が落ちそうな美味しさに思わず舌鼓を打つ。
「とろけるぅー♡」
「おー、美味い」
「至福のひとときです……」
「ねー、これだけでも来てよかったって思えない?」
ニカッと笑って渚にそう言われると、異世界人達も首肯せざるを得ない。
「どれだけ高尚な目的で催されることだって、楽しめなきゃ退屈な時間にしかならない。どこぞの国の偉い人の誕生日だからめでたいです、とかただ言われても正直微妙っしょ? だって関係ないもん、あたしら」
「関係ない……ですか」
「うん。特別な日ったって、本当にその日が『特別』なのはごく一部の人だけだと思うよ。いろいろあったっぽいけど、それであんた達の暮らしが劇的に変わったりしたことあった?」
「いや……次の日にはまたいつもの生活に戻るだけだが」
「だっしょ~? ホントはあんた達『お偉方がめでたいって言ってるからめでたいんだろう』みたいな雰囲気に流されたりしてた節あるんじゃなーい?」
「っ!?」
言われた途端、ビクッと二人の身体が震えた。どうやら図星のようだな。
だがそれは今言われて気づいたことであるだけで、少なくとも転生する前はその感覚を疑わなかったに違いない。
国にとってのめでたい出来事は、国民にとってもめでたいものである。
今の日本じゃあまり実感わかないかもしれないけど、ワイヤードのような厳格で一体感が強いところではそういう傾向があると思う。
でも戦争に勝ったと言われても、新しい帝王が即位しても、結局部外者には他人事でしかない。それをめでたいと思うかどうかは個人の価値観に委ねられるわけだ。
確固たる自分の意志を持て。他人に流されるようなことがあってはならない。
これはワイヤードの掟だが、今の二人が他人事と認めつつもそれを祝ってきたのであれば、やはり国民は上に倣えという暗黙のルールはあるのかもしれない。
祝わなければ非国民扱いされるとか、酷い仕打ちが待ってるのかもしれないし。でなきゃ帝政なんて続くわけないからな。
「まーまー、そんな表情しなさんなって。逆にいい機会になって良かったじゃん。これでどんな祭りだろうと、楽しめりゃ何でもアリって思えるようになればいいんだから」
ひらひらと手を振りながら渚は慌てて付け加えた。
が、自分のこれまでの生き方のおかしさをモロに突かれた二人は黙りこくってしまう。言い返す言葉がないのをバナナを頬張ることでごまかすように。
「楽しめれば、なんでもあり……」
「そうそう。そーゆーんでも別にいいと思うけどなぁあたし」
「でも、それだとなんていうか……ただそれにあやかってるだけのようになってしまうような」
「です……まるでご馳走目当てで他人の披露宴に紛れ込んでくる物乞いみたい……」
聞いた途端、渚は盛大に吹き出した。
口内のバナナのかけらとチョコソースが唾液とともに俺に降りかかる。きったねぇなオイ。
「ぷっ、くくく……なかなか秀逸な表現……マジウケる。センスあるねぇクロちゃん」
「え?」
「わーったよ。あんたらにとっては、特別な日でもないのに催される祭りも、何がめでたいかわかってないのにただ享楽で参加するのも納得いかないってわけね。うんうん了解了解。そんなら……」
ぴん、と一本人差し指を立てて渚は食べかけのバナナを二人に向けた。
「自分達で祝う理由を作っちゃえばいいんだよ」
「「へ?」」
「何でもいいから今日だけ起きた出来事を何か一つ思い浮かべてみて。で、それがあった今日を祝うべき『特別な日』にするの。このお祭りはそのためにあると思えばいい」
「……はぁ」
わかるようなわからないような。リファとクローラはいまいち解せない面持ちでいた。
ただ言わんとしてることはわかる。
別にそのお祭りが万人にとっての祝い事でなくてもいいだろ、ってことだ。
よく今日は~記念日とかやるよな? それと同じ。自分だけの、自分達だけの、特別な日。それを今日にしてしまえばいいんだ。
しばらく考えてようやくその意図が掴めたのか、リファがポツリとつぶやいた。
「特別な日だから祝うんじゃない、祝うために今日を特別な日にする……」
「そゆこと。それじゃ納得できない?」
「……」
二人はしばらく考えこみ、同時に俺に目配せしてきた。
どうやら決断までのあと一押しを求めてきているらしい。
俺は軽く肩をすくめてこう言った。
「いいんじゃない? 国に決められたものよりも、自分で決めたものの方がよほど祝い甲斐があるだろうし」
「マスター……」
「ご主人様……」
「それに、ワイヤードの掟を守るのならなおさらだ。他人に流されずに自分の意志をしっかり持つ。だったら祝うべきものも自分で決めるべきだと思うな、俺は」
それが決め手となったのか、一瞬だけ互いに目を合わせると二人は笑顔で頷いた。
「ああ、マスターの言う通りだ」
「はい。クローラも異論はありません」
「よっしゃ、はいけってーい」
パンパンと嬉しそうに手をたたく渚に、リファはすかさず疑問を投げかける。
「でも、今日だけ起きた出来事というのは……具体的にどのような?」
「何でもいいよっていったでしょ。どれだけ些細なことでも、それは全て『その日その時でしか起こらなかったこと』なんだから。毎日をしっかり生きてれば気づけるはずだよ」
それは言えてる。
毎日が同じことの繰り返しとか言ってる奴いるけど、それはただそいつが変化に疎いだけだからな。
「今日しかなかった、こと……」
「特別な日にできる……何か……」
リファもクローラも、慣れないことを提案されたからか、必要以上に難しく考えてしまっているようだ。
ぱっと思いつくものでいいのにな、と言おうとしたが、口に出さないでおいた。
しまいには腕組みまでして、頭の中で真剣に理由を探し回っている異世界転生コンビだったが。
「「あ」」
と、全く同じタイミングで何かを思いついたようだった。
「なんか思いついたか?」
「「!!」」
何気なく訊いてみると、何故か二人はキョドったように肩を震わせた。
そしてまた何故か、今度は顔を赤らめてもじもじし始める。一体どうしたんだろう。
「……お前も同じか、クローラ?」
「……おそらく」
「? なになに、どったの?」
聞き出そうとする渚に、二人は無言で手招き。
近づいてきた彼女に、両側から静かに耳打ちした。
瞬間。再び渚が吹き出した。どうやらよほど面白いことだったらしい。余計気になる。
「何だよ、何? 俺にも言えよ」
と、催促してみたのだが。
「こ、これは重要機密事項だ。マスターといえど、話すわけにはいかんのだ」
「申し訳ありませんご主人様……クローラの口からはちょっと恥ずかしいので、言えません」
リファはツン、としたようにそっぽを向いて。クローラは両手でほっぺたを抑えながら本当に恥ずかしそうに、それぞれ回答する。
何で俺だけ……仲間はずれとかひどくない? 女子って内緒話好きだけど、こうも堂々とされるとちょっと傷つくんだけど。
「女の子が秘密っつってんだから、そこはあえて引き下がるべきでしょー。デリカシーないなセンパイは」
「鏡見てもの言え」
引き下がるどころか食い下がりたい気持ちだったが、そうはさせんぞとばかりにリファが俺に背を向けた。
「さ、そろそろ行こうではないか。時間が勿体無い」
「そ、そうですね。行きましょうご主人様」
クローラも焦るように俺のシャツの袖を軽く引っ張ってそう言ってくる。
ごまかしきろうと必死なのがミエミエだ。そんなに言いたくないのか。
「リファっちの言うとおりっすよ。花火始まるまでにきちんと楽しまにゃ損損!」
「へいへい」
渚に背中を押されながら俺は投げやりに返した。
まぁいいか、気にはなるけどこいつらにとって特別な日ができたのなら、それはそれで。
○
「しかし、本当に店がたくさん出てるのだな。以前にもこの公園には来たことがあるが、その時とはえらい違いだ」
「はい。人がいっぱいいるだけでこんなにも変わるものなのですね。それにじゃが、ばたー? とか、ちゅろす? とか…聞いたこともない料理がいっぱい……」
二人は相変わらず終始落ち着かない様子。目を皿のようにして周りの風景を観察していた。
「ねぇねぇセンパイ、今度はたこ焼き食べましょーよ。やっぱお祭りっつったらたこ焼きっしょ!」
渚はこんな感じでさっきから喰ってばっか。
お祭りのテンションとしてはこれが正しいんだろうけど、どうにも疲れるんだよなぁ。
「おっとそうだ。忘れていた」
ぽん、とリファは何かを思い出したようにぽんと手を叩いた。
どうした? と軽く尋ねると、リファは帯に挟んでいた常用装備の100均ソードの柄を軽く叩いた。
通常時では異質に見える取り合わせだが、こういう玩具が横行してる場だと逆に普通だな。
「これだけ人が多いと、何が起きるかわからん。それにどんな賊が紛れ込んで悪事を働くかもしれない。用心するに越したことはないぞ」
「え?」
「私はマスターの警備隊。マスターをお守りするのが私の使命だ。こういう時こそきちんと己の責務を果たさんとな」
普段は果たしてない自覚があったとでも言いたげな口調ですねぇ。まぁあったらあったで普段の任務もちゃんとやれよということになるわけだが。
だがこういう場に危険が潜んでるというのは間違いじゃないし、むしろ大当たりだ。
スリだのなんだの、人が多いところじゃ面倒事のリスクも決まって高くなる。彼女の言う通り気をつけないと。
「く、クローラも! ご主人様のお世話をするのが役目……な、何か入り用がありましたらご遠慮無く!」
負けじと躍起になってクローラは俺に詰め寄ってくる。
対して俺はたじろぐばかり。何もこんなところで世話なんてしてもらうことないと思うけど。
「みんなー、あっちにたこ焼き屋あったよ! こっちこっちー!」
すると一人でさっさと進んでいってしまっていた渚が大声で俺達を呼んだ。
まったく、はしゃぎすぎてはぐれたりするなよな。そう思いながら、急いで後を追う。
「おっちゃん! たこ焼き四人前!」
「へいよ。六個入り700円が四つだから2800円な!」
「だそうですよセンパイ」
「等価交換の法則って知ってる?」
「こんなにかわいい女子と一緒にたこ焼きを食べられるだけで対価としては十分っすよ」
「買い叩かれる年上の威厳」
そんな最中、リファは鉄板の上でおっちゃんが転がしているそれを注意深く見ていた。
「たこ焼き? とな」
「タコっていう魚介類を小麦粉の生地で包んで焼いたようなもの。あんな感じに」
「タコ?」
「無数の触手で素早く獲物をとっ捕まえる恐ろしいモンスターだよリファっち」
「ダニィ!? そんな危険なものマスターに喰わせられるかぁぁぁぁ!」
やめよう印象操作。
「ご主人様ご主人様!」
たこ焼きを買って戻ろうとすると、今度はクローラが俺を呼んできた。
振り返ってみると、女奴隷は道沿いに設置してあったベンチに座っていた。自分の隣をぺしぺしと叩いて「ここ空いてますよ」のジェスチャー。
おや、これはありがたい。この混雑具合でよくそんなベストスペースを見つけられたな。
「既に座ってる方々がいたのですが、執拗に『立ち退くまで後どれくらいかかりますか?』って訊いてたらご親切に数秒でどいてくださいました」
親切ってのは奪うものじゃないんだよなぁ。
「奴隷ゆえ、こういうのも努めでございますので!」
えへん、と胸を張って彼女はドヤ顔。
ごめんなさい前に座ってた人。
罪悪感に苛まれつつも、俺達はその四人がけのベンチに左からクローラ、俺、リファ、渚の順で腰掛け、念願のたこ焼きタイム。
「で、ではご主人様。私めがお口に運んで差し上げますね!」
「は!?」
何を言い出したかと思ったら、彼女は既に爪楊枝でぶっ刺したたこ焼きを俺に近づけてきていた。
「ご主人様に何一つ徒労をかけさせないのが奴隷というもの。これくらいのことはさせてくださいまし」
「いや、いいよそんな……自分で食べられるって」
「ですが……」
流石にこの年で衆人環視の中あーんして食べさせてもらうとか、恥ずいってマジ。
だがこのまま断り続けるのも、せっかく気を使ってくれた彼女に悪い気がするし、どうしたもんか。
「えいっ!」
ぱくっ!
と、突然リファが横から顔を伸ばしてくると、大口を開けてたこ焼きを横取りした。
俺もクローラもいきなりの行動に目を丸くする。
「おまっ、何やってんだよ?」
「毒見だ」
女騎士は口内でたこ焼きを転がしながらモゴモゴとそう答えた。
「ほこぞの者とも知れんやはらがつくったもほを、ほうやふやふとふひにするな。へいはいひんがはひんぞ」
「ヘーホンホヘホハイがどうしたって?」
「ひはふっ! ひゃかさふにきけこのあほますたー!」
「何でもいいけど、ちゃんとよく噛んで飲み込んでから喋れ。みっともない」
「ったく……」
不服そうにしながらもリファは俺の言うとおりにすべく、まだ形を保ったままのたこ焼きを噛み砕いた。
瞬間。
「だーーっ!! あっちゃちゃちゃちゃ!!!」
超悶絶して超絶叫。きっと中の灼熱の具材の仕業に違いない。
食感も味も感じる暇もなし。俺が手渡したペットボトル入りの水をひったくると、それを逆さまにして一気に飲み干す。
ようやく苦しみから解放され、ゼーゼーと肩で息をする女騎士。まったく、警戒心がないのはどっちなんだか。
「な、なんなのだこれは! 口に入れた瞬間に熱湯を流し込まれたような……死ぬかと思ったぞ!」
「ちゃんと冷まして食べないからそうなるんだよー。こうやってふーふー、ってやらないと」
ケラケラ笑いながら渚は美味しそうに自分の分のたこ焼きを頬張るが、リファは案の定聞いちゃいない。
すでに彼女のたこ焼きの印象は最悪。その熱さに押し上げられるかのように、自身の怒りも沸点に達する。
「こ、こんな危険なものを平然と売るとは許すまじ! あの店主……さては賊の刺客か何かに違いない! 食べ物を使って、それも毒ではない方法で仕留めに来るとは味な真似をしてくれるな!」
「リファ」
「今回は被害が私だけで済んだからよかったものの、もしマスターがこのたこやきとやらの餌食になってたら、即斬首の刑だぞあのハゲめ……」
「リファ!」
「なんだ? ていうかマスターも少し冷静すぎるぞ。こんな恐るべき食べ物の形をした小型兵器を渡されておきながらーー」
イライラをノンストップで蓄積させていくリファだったが、キッと俺を睨みつけた途端に、出しかけた矛を収めた。
なぜなら。
「ふーふー」
と、俺が彼女のたこ焼きを爪楊枝で持ち上げ、それに息を吹きかけていたのだから。
内部まできちんと届くように、複数穴を空けたりして丹念に冷ましていく。
十分に食べられるくらいの温度になったのを見計らって、それを彼女の口に持っていく。
「ほれ、あーんしろ」
「ふぇ?」
さっきの鬼のような形相は嘘のように立ち消え、キョトンと呆けた表情に変わる。
やれやれ、まさか「する側」になるとはな。まぁ背に腹は変えられん。せっかくのたこ焼きなのにこのまま悪印象抱かせるのもアレだしな。
「あの、マスター?」
「食っとけって。多分これで大丈夫なはずだから」
小さくため息をつくと、俺は彼女のサファイアのような碧眼をまっすぐ見据えて言った。
「ちゃんと役目は果たせよ、毒見役」
「……」
言われたリファはまた熱さで火がついたかのように真っ赤になる。だが今度は悶絶も絶叫もせず、コクリと頷いただけだった。
そして若き女騎士は自らの務めを果たすべく、目を閉じて小さく口を開け、俺がフーフーしたたこ焼きを口に含んだ。
注意深く舌で温度を確かめながら、ゆっくりと咀嚼する。どうやら大丈夫みたいだ。
ふんわりとした生地と、その中でたどり着く歯ごたえのあるタコを、ソースとマヨネーズが奏でるマイルドな風味と共に味わう。
じっくりと初めてのたこ焼きを堪能し終え、彼女はそれらをすべて飲み込んだ。
「どうよ?」
「……ん。美味しかった」
「そうかい」
毒味の結果報告としてはいかがなものかと思うが、美味しいと思ってもらえたなら何よりだよ。
俺が素直にそう伝えると、リファはまだ物欲しそうな目でこちらを見ていた。
「何?」
「その……まだ毒見は終わってないぞ」
「へ?」
彼女は顔の赤らみを保持したまま、自分のたこ焼きのパックをこちらに差し出した。
「まだ後五個もある。全部食べきるまでは安心できん」
「……」
……まったくこいつは。
俺はフッと鼻で笑うと、再び残りのたこ焼きに爪楊枝を刺し、息を吹きかける。
「はいよ。姫騎士様」
「ん」
やれやれ、これじゃどっちが従者だかわかんないや。
周囲の面々は既にそんな光景をチラチラ見て笑っていたが、俺達はむしろ開き直るように、二人の世界に閉じこもるように、たこ焼きを食べさせ合っていた。
「……」
チクリ、と。
投げかけられる視線の中に一つだけ、痛みのあるものが混じっていたけど。
それが誰のものなのか、俺は気にも留めなかった。
○
「いやーもうお腹いっぱいだわー! センパイマジゴチっす!」
少し膨れたお腹をタヌキみたいにぽんぽこ叩きながら渚は満足そうに言った。
あれから本当にたくさんのものを食べた。渚だけでなく、俺も空腹だったからだ。昼飯抜いてぶっ通しで出店のしごとやってきたのが裏目に出るとはな。
だが、リファとクローラは遠慮しがちというか、あまりねだってはこなかった。
毒見で喰う分で十分だから、自分の分はいらないとまで言い出す始末。大丈夫かな、具合悪いとかでなければいいけど。
「二人はまだ食べたいものとかある?」
「え? いやいや! 私はそんなに……」
「クローラも、大丈夫です」
「そうかぁ、めったにない機会なんだし、遠慮しないでいいのに」
「心遣いはありがたいのだがマスター、少し気になることが」
「何よ」
リファは言いにくそうにしていたが、俺の傍まで寄ってくると小さく耳元で囁いた。
「どうもここらの店……高額ではないか?」
「え?」
「マスター達が色々買うたびにその値段を観察していたのだが……、どれも大した量でもないのに七百、八百、ひどければ千円と。さすがの私でもそれが割りに合ってないことくらいわかる」
「なんだ、そんなこと気にしてたの」
俺は思ったより単純な理由に拍子抜けした。
「そんなことで済む問題か? これはもしかしたらマスターから金をあの手この手で搾り取ろうとする、集団での経済攻撃なのかもしれんのだぞ! いや絶対そうだ! 兵糧攻めとは小賢しい真似を……警備隊としてこういうのも見過ごすわけにはいかない!」
「仕方ないさ。ここは祭りで多くの人が集まる。そして多くの人が食べたり飲んだりする。つまり普通より店の需要がぐんと高まるんだから」
「じゅよう……?」
「そうそう。祭りに来てる以上、半ばそこを利用せざるを得なくなるからな。だから多少高くしてもこうやってどこも売れてるわけ」
「それはまさに足元を見られてるということではないか!」
不服そうにリファは強く言ってきた。
なるほど、あまり食べてないのはそういうことだったのか。
「でもいいんだよ、それはそれで」
「え?」
「確かに足元を見られてるのはそうかもしれない。けど、値段とかをいちいち気にしてたら楽しめるものも楽しめない。そのへんは割り切っておいた方がいいよってこと」
「……」
俺は渚を呼び止めて、近くの屋台で牛串を三本購入。
一本五百円というバカにならない出費に、またリファが苦い顔をする。
クローラは小さく礼を言って差し出されたそれを受け取ったが、女騎士の方は渋っていた。また余計な出費をさせてしまったとか考えてるんだろう。
「こういう普段食べられないようなものを普段とは違うシチュで食べる。特別感を出す意味ではこういうのもありだと思うぜ、俺。細かいことは今はナシナシ」
「なんだかますます連中の思う壺になってるような……」
「だったら料金分楽しめばいいだけの話だ」
「え? ――はむっ!?」
ぽかんと開いた口に、俺は肉汁たっぷりの牛串を押し込んだ。
「確かに単純に考えれば損かもしれない。でも思う存分楽しめば、そんなこと気にならなくなるはずさ。むしろ安いくらいになるぜ」
「そういうものか?」
「ああ。現に――」
俺も自分の分の牛肉を一切れ噛みちぎると、ガラにもなくニカっと笑ってみせた。
「俺はとっても楽しいぜ? こうしてお前らとお祭り一緒に回るの」
「……」
リファの目が大きく見開かれるのがわかった。
ドン引きされたかな? と一瞬不安になったが、別にそんなことはなく。
ただ小さく視線をそらして、聞き取りづらい声で何かを喋った。
「……私も楽しくないわけではない。べつに……こんな日だけでじゃなくても、ますたーといっしょなら……」
「は? ごめん最後の方ちょっとよく聞こえんかったんだけど。こんな日だけじゃなくても、何?」
「……なんでもない」
と言った後、「毒見だから」とその後は無言でパクパク焼き肉を頬張ったリファレンスであった。
そんな様子を見て、俺はやれやれと肩をすくめた。素直じゃないんだから、ホントに。
ズキリ。と。
またどこかから痛みのある視線が刺さったようだが。
気のせいだろう。
○
「よっしゃー! 食後の運動がてら、今度は射的行くっすよオラァ!!」
意気揚々と叫ぶ渚。こいつのエネルギーの源は何なんだろうね一体。
「射的って運動になるか? さしてそんな身体動かさねぇだろ」
「お? お? 何すか何すか? それはもしかしてこんなお遊びより腰を重点的に動かして最後はあたしの膣奥狙って乱射する方の射的へのお誘いっすか?」
「お前が思いっきり回答から狙い外してることは確かだな」
「おお、確かに。狙うのは的じゃなくて排卵日っすからね!」
「着弾地点をストライクゾーンに後から塗り替えるスタイルやめろ」
そんなわけでやってきました射的屋さん。
豪華な景品が揃い踏み。最新のゲーム機や玩具などが目を引く見事な光景。
これもまたワイヤード人には初めてなものであるからか、リファは物珍しそうにそれに見入っている。
「食べ物屋だけではなかったのだな」
「そだよー。ってかそれだけだったら腹膨れた時点ですぐ楽しみ終わっちゃうじゃん! こーいう純粋なアトラクションがあってこそのお祭りだっちゅーの」
渚は拳を鳴らしながら、店主のオヤジに挑戦を挑む。
一回五百円の四発勝負。その弾丸で景品を落とせば勝利だ。
「ほれセンパイ金!」
「お前同じこと親にも言ってんじゃねぇだろうな」
「まさか。こんなことするのセンパイだけっすよ♡ヤキモチ妬いちゃって可愛いなもう♡」
ああ嫉妬してるよ。お前にまともに接してもらえてるご両親にな。
「これは、銃……なのですか?」
ちらっ、とクローラが渚が弾込めしている様子を見ながら尋ねてきた。
彼女は一応買い与えたモデルガンを武器に愛用している。使う機会はリファほどじゃないけど、メンテ等はちょこちょこやってる。
「レプリカだよ。これで色々棚にあるやつを的代わりにして撃ってくの。落とせばそれを手に入れられる。簡単だろ?」
「なるほど……人を殺す武器がこんな娯楽にもなるのですね……興味深いです」
「よーしよしよし、準備おっけぃ」
装填を終えた渚は舌なめずりしながら片目をつむって照準を合わせる。
「何狙ってんの?」
「まぁテキトーに。コンドームでもあれば狙うついでにこの銃弾で穴開けてやるところですけど」
「目が節穴の奴が何言ってんだよ」
スコポンスコポン、と軽い音がして圧縮された空気で押し出されたゴム弾が射出される。
距離もそう遠くないので全て命中したものの、景品は倒れず。結局一回戦は成果なしだった。
「くっそぅ。守り固すぎだってマジ。あれ絶対守備力3000以上あるっしょ……」
歯ぎしりしながら渚は、ハズレた人用のお菓子(飴)を舐めながらそう負け惜しみを言って悔しがる。
飽きっぽいのか、興が削がれたのか、再度挑戦することはなく俺達に振ってきた。
「リファっちとクロちゃんはどう? やる?」
問われて最初に手を小さく上げたのはクローラだった。
「あの……」
「お、やっちゃうクロちゃん? いいねぇー。あたしのリベンジも兼ねてガツンといっちゃって!」
「や、私は……ただ……」
渚に背中を押され、クローラはやや強引に射的台に立たされる。
店主のおっちゃんに料金を払い、レクチャーを受けながら弾丸を装填。たどたどしい動きで構えを取る。
さて、一体彼女は何を狙うのだろうか。
そう思って銃口の先を目で追ってみると……。
「髪留め?」
「ふゃっ!?」
驚きのあまり狙いがそれたのか、弾はあらぬ方向へと飛んでいってしまった。
一発目、失敗……。
狙っていたのは髪留めの入った箱。黒一色でシンプルなデザインをしている。他のものより小さいから目立たなくて気づかなかった。
「あ、ごめん……」
「い、いえ……大丈夫です。私が狼狽しただけなので」
クローラは俺の方を見ずに二弾目を込める。
髪留めかぁ。そういやクローラお洒落とか全然しないからな。リファは初日に買ってやった簪をいつも付けてるけど、あれっきりだし。
俺が男だからか、あんまりそういった気遣いしてこなかったけど、彼女もああいうのを付けてみたいって思ってるってことだろう。
「……えい」
今度は命中。重量もそんなにないためか、少しぐらついた。いい感じだ。
「……んっ」
パコンっ。
と、三発目でついに倒れた。おお、と渚も俺もリファも小さく拍手。
テレテレとするクローラだったが、店主のおっちゃんは首を横に振った。
「悪いねじょーちゃん。これ倒すだけじゃなくて、下の方まで落とさないと駄目なんだ。残念だけどやり直しね」
と言って箱を立て直してしまう。
俺はあーやっぱりかー、程度にしか思わなかったが、クローラのショックは大きいだろう。せっかく意中の品を射止めたってのに、こう上げて落とされるようなことされちゃあさ。
だがそれ以上に納得せず抗議の声を上げたものが約一名。
「おい店主! どういうことだ! せっかく倒したのに品を寄越さないとは!」
やはりというかなんというか、リファレンスさんでした。
まるで自分が受けた仕打ちであるかのごとく、顔を真赤にして店主に当たる。
「いやどういうもなにも、ほらここの張り紙に書いてあるでしょ。『下に落とさなきゃ無効』って」
「何を言ってる! その景品がおいてある棚、奥行きどれだけあると思ってるんだ! そんなのどう考えたって無理に決まってるだろ!」
「いや無理かわかんないだろう! やってもないのに」
あーあ、とうとうクレーマー化しちゃったよ。そりゃこういうとこはどこもアコギ商売だろうから気持ちはわかるけど。
「おいマスター! これもやはり賊の仕業臭いぞ! こうやって詐欺めいた真似をして人々から搾取していく……これが悪事でなくてなんなんだ!? 即刻取り締まらねば!」
「まぁまぁ落ち着けって。こういうのも割り切るのが重要で――」
「落ち着けるか! マスターの所持金をあいつが奪ったも同然なんだぞ!」
「どうどうリファっち」
荒ぶる女騎士をギャルが羽交い締めにした。グッジョブ渚。
ジタバタ暴れる彼女に、渚は落ち着き払った声で言う。
「わかる、わかるよー。あたしも初めて射的やった時はその悔しさに何度も打ちひしがれたし。でも、ここであーだこーだ喚いたって何にもならない。でしょ?」
「し、しかしっ! こんな辱めを受けたまま引き下がれるか! 泣き寝入りなぞ騎士のプライドが許さん!」
「それもよぉくわかってますとも。だから、今からいい方法教えてあげる。確実に、あの店の商品をなんでもゲットできちゃうウ・ラ・ワ・ザ」
ぴたっ、とそこでリファが暴走を止めた。
中二病心をくすぐられるようなそのワードに、怒りを忘れたのだろうか。興味津々に女騎士は背後の渚に目を向ける。
「な、なんだ? ウラワザとは……」
「とあるものがこの店にあるんだけど、それさえ落とせばいいの。そして難易度は他の景品よりよっぽど低い。一発で仕留められるから」
「それは一体……」
にやり、とギャルは白い歯を覗かせて、周囲の人間が息を呑む中、端的に答えた。
「店主の命」
「人生にオチをつけようとするんじゃないよ」
スコポン!
と、そんなおっかない漫才をやってる外で突如そんな音が響いた。
空気砲の音だが、今までよりちょっと大きい。その場にいた誰もが注目するくらいに。
一体なんだろうと思って見てみると。
「……落ちました」
最後の一発を放ったクローラと、奥の床に落ちた髪留めの箱があった。
○
「まったく、もうちょい自重しろよお前ら」
景品を受け取り、射的屋から逃げるように退散した俺達。荒い息を吐きながら俺はうんざりしたようにトラブルメーカー達に説教した。
渚はいつものようにおちゃらけた感じで「さーゃせぇーん」と軽い謝罪。
「だって……マスターをお守りするのが私の役目だもん……」
リファはブツブツとまだ文句を垂れている。さっきからそればっかりだなこいつは。
「あのなぁリファ。今日は俺達楽しむために来てんだぞ? その意味分かる?」
「? どういう……」
「仕事をしに来てるわけじゃないってこと」
はっきり言うと、リファは少し黙った。
そのうちに俺は続けて伝えるべきことを口に出す。
「お前もクローラも、俺を守るためとか、俺の世話をしなきゃとか。そういうことばっか考えてて、自分が楽しむっていう目的忘れてるだろ? 公私混同してるからそうなるんだよ」
「……」
「俺のことはしばらくはいい。たまには自分を優先しなよ。んでもっとこう……なんていうか、上手く言えないけど――」
俺は首の後ろをバリバリ掻きながら言葉を探した。
二人を納得させるのに最適な言葉……えっと……何かないか……。
と、悩みに悩んだ結果。出てきたのがこれ。
「――そう、普通の女の子みたいに振る舞えばいいんだよ」
ズキン!!
と、今度ははっきりと、痛みを感じた。
どこからか来る、その刺すような視線の痛みを。
気のせいじゃない。今、絶対に俺は誰かからそれを向けられた。
その「誰か」は……。
俺は恐る恐る背後の三人を振り返ろうとする。
リファ、クローラ、渚。
一体……誰だ?
「まーまーセンパイ! お説教はそんくらいにしときましょ! でないと本当に楽しめなくなっちゃいますよっ!」
振り返った時には、渚が二人の肩を抱いて引き寄せ、屈託の無い笑みを浮かべていた。
リファもクローラも、彼女にハグされて複雑な顔をしている。
俺はそれでも今の妙な感覚が忘れられず、その事に言及しようとしたのだが、渚のマシンガントークがそれを許さなかった。
「そーだ忘れてた! もうすぐ花火始まっちゃうんだった! 急いで場所確保しに行かないと! とりあえず二手に分かれて穴場探しましょ! あたしはリファっちと! センパイはクロちゃんとでヨロです!」
「え? いやあの……」
「じゃあ見つけたらお互いにLINE飛ばす感じで! ほらっ、急がないと間に合わなくなるよリファっち!」
と、渚は有無を言わせずにリファの首根っこを引っ掴むと、猛スピードで走り去っていった。
「あ、おい! 待てよ!」
遅れて俺も少し後を走って追ったが、既に彼女達の姿は人混みに紛れてしまっていた。
ったく、なんなんだよいきなり。人の話も聞かずに……。
でもま、話そうとして内容も、「話したところで何になる」程度のことだしなぁ。現実味もないし、呆れられて終了かもしれない。
しゃぁない。これは一旦保留にして俺達も花火見る場所探そうか。
と気持ちを切り替え、クローラと同行を開始しようとしたのだが。
「あれ? おいクローラ?」
さっきまで傍にいたはずの彼女の姿が、ない。
どこにも。半径数メートルの範囲にすら、いない。
え? おい、嘘だろ?
もしかして逃げる渚に目を取られた隙に? んな馬鹿な、ほんの数秒だぞ? いや、でもこの人混みならありえない話じゃないか。
悪いことに、クローラはスマホを持っていない。つまり、連絡も取れない。
迷子になったら最後……落ち合うのは困難を極めることになる。
「マジかよ……」
気が気でなくなった俺は、人々を押しのけて彼女を探した。
くそ、俺が注意を欠いたばかりに。迂闊だった。
「クローラ、クローラ!」
名前を叫びながら右往左往するも、それらしき姿は見当たらない。
時間が経てば経つほど状況は悪くなる。早く見つけないと。
「そうだ、渚達を呼び戻さなきゃ」
花火の席取りなんてしてる場合じゃない。手分けして捜索しよう。
俺がポケットからスマホを取り出して、彼女に電話をかけようとしたその時である。
「――ねぇねぇいいじゃん。俺らと花火見よーよ」
「――そうそう。あっちにめっちゃ涼しかった場所あるからめっちゃ涼しいよ! 一緒に行こうぜ」
道脇で、チャラそうな若者二人が、誰かを取り囲んで馴れ馴れしく話しかけていた。
会話の内容からしてどうもナンパっぽい。
不審に思って、彼らに言い寄られている人物を見て、俺は思わず安堵の息を吐いた。
「あ、あの……えと……」
異世界人にして我が家の女奴隷、クローラさんであった。
はぐれてオロオロしていたところを狙われたのだろう。見つかってよかったものの、新たな問題が同時に発生した模様。
「お、なにそれ? 髪留め? かわいいね~。俺が付けたげようか」
「……これは」
先刻射的で見事手に入れた髪留めの箱を庇うように両手で抱えながらクローラは一歩後ずさった。
怯えている。ひと目見て分かる仕草だった。
だがそれすら気づかない様子で、ナンパ野郎どもは勝手にべらべらと喋る口を止めない。
「あー、ごめんごめん。自己紹介がまだだったね。ごほん、では俺から。てぇんさい物理学者である俺がいる八王子の街で、謎の怪人が市民を脅かしていた! そこに現れたのは、我らがヒーロー――」
「自分で天才とかヒーローとか痛いんだよ。ただの記憶喪失のおっさんだろ」
「うるっさいよ! そーゆうこいつは刑務所を脱走した殺人犯の――」
「俺は殺しも脱走もしてねぇ!」
「そう言ってワンワン泣いてすがるもんだから――」
「泣いてねーし!」
「ツッコみ早ぇんだよ」
……見てらんねぇ。
俺はこめかみを抑えてその現場に向けて歩を進めていった。
とりあえず無難に「そいつ俺の連れなんでー、すみません」と言って速やかに立ち去ろう。あとは揉め事にならないのを祈るだけだ
そう頭で計画を立て、いざクローラ救出作戦開始と行こうとした。
が。
パニック寸前のクローラが俺の姿を目に捉えた瞬間。
その事件は起きた。起きてしまった。
「あ、あなたっ!」
……え?
今、なんて?
その場にいた誰もが思考を強制的に一時停止させられる。
そんな中、クローラだけは幸せそうな笑顔で、こちらに駆け寄ってきていた。
そしてあろうことか、自分の両手を俺の腕に絡ませて身体を密着させてきた。
「!!?」
「ごめんねっ。ちょっと道に迷っちゃってたみたいで」
「ほぁ?」
「心配賭けちゃってゴメンね? 今度は離れないように、ちゃんとこうやっていようね?」
唖然呆然大仰天。
なになに? 何? 何なの? 俺の処理能力を遥かに上回るスピードで物事が進んでいってるんですけど!
当然それはナンパ野郎どもも同じであり、引きつったような表情をしながら片言で、
「あ、あの……君?」
「な、なんだよそいつ……」
そう言われたクローラはますます俺に腕を絡ませると、彼らに向かって言い放った。
「この人……あたしの恋人だから!」
しっかりと、はっきりと、きっぱりと。
まるで宣言するみたいに、力強く。
そこでようやく理解できた。奴等を欺くために芝居を打つってわけだ。
なるほど、そういうことでしたか。ま、普通に考えてそうだよね。
「さ、行きましょ。あなた」
俺を上目遣いで見ながら、クローラはそう言ってくる。
不覚にもそれにドキッとしてしまった俺だが、急いで冷静さを取り戻す。
落ち着け、これは演技……演技だ。合わせないと、彼女がごまかそうとしてるのがバレちまう!
「そ、そうだね……じゃ、行こうか」
「うん! 花火すっごく楽しみ。絶対に二人で一緒に見ようね!」
そう嬉しそうに彼女は頷いて、俺をリードするように早足で移動を開始した。
「……最悪だ。……無理だから、彼氏持ちとかそういうの先生ホント無理だからやめてくださいね! マジでそれで非処女とか? ホント無理だから!」
「今の俺は、ヤレる気がしねぇぇぇーっ!!!」
ナンパコンビが見事に地団駄を踏んで悔しがる声が背後で聞こえてくる。どうやら大事にはならずに済んだみたいだ。よかった。
クローラはまだ安心できないのか、人を押しのけるようにしてずんずんと進んでいく。
俺は彼女に引っ張られながら、彼女の表情が確認できそうでできない横顔を眺めていた。
しっかし驚いたなぁ。一瞬誰かと思ったよ、さっきの口調。一人称も「あたし」になってたし、キャラ変ってレベルじゃないって。
でも……あれはあれでいいかも。さばさばしてるっていうか、フレンドリーっていうか。何か、すごく親近感の湧きそうな感じだった。
いつもご主人様って呼んで敬語で話しかけてくる間柄だったから、余計にその距離が縮まった気分になったんだろう。
普段からそうあってくれてもいいんだけどね。……なんて。
そんなことを考えてるうちに、公園奥地の広場に出た。そこでやっとクローラは足を止めた。ここまでくればもう大丈夫でしょ。一件落着だ。
でもこの後、必死で謝ってくるんだろうな。
「彼らを欺くためとはいえ、ご無礼を働いたことをお赦しください~っ!」とか言って。
こっちは全然気にしてないし、むしろちょっといいものが見られたとか思ってるくらいなんだけど。
さて、どう来るか……。と少し身構えたのだが。
いつまで経っても、彼女は俺の腕を解放しようとしなかった。
まるでロックされた錠前の如く、がっちりと掴んで離さない。
「あの、クローラ?」
「……」
うつむいたまま、彼女は返事もしない。
どうしちゃったんだろう。もうあいつらはここにはいないし、無理してそんなフリを続けなくても……。
「……普通の、女の子……特別な日……」
「え?」
呪文のような言葉を、周囲のざわめきでかき消されそうな声でつぶやいた。
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なぜなら、それを尋ねようとした瞬間。彼女が動き出していたのだから。
ようやく今まで見せなかった顔を、俺に向けた。
晴れやかで、でもどこか無理しているような、恥ずかしいような。
そして……悲しげな面影を残したその笑顔を。
「ねぇ、もうちょっと色んなところ見て回らない?」
……え?
再び俺の頭が真っ白になる。
ちょっと待って、だってもう……。
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「……っ!」
答えた途端、クローラの瞳が少し潤んだ。
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「一緒に回ろう、二人で」
「……うん。うん!」
心の底から楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに彼女はそう何度も頷いた。
渚とリファには悪いけど、ちょっと寄り道くらいはいいだろ。
僅かな時間だけど、このささやかなひとときを過ごすのをどうか許してほしい。
「それじゃあ行きましょう、あなた」
「ああ」
こうして、俺達は歩き出す。
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