異世界の女騎士と女奴隷が俺の家に住むことになったがポンコツだった件

コペルニクス

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レベル5.女騎士と女奴隷と告白

5.女奴隷と穢れ

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 ぱちぱちぱち……。

 そんな乾いた拍手で彼はセンパイと二番目に賞賛を送った。

「見事だねぇ。ここまで見事な発言はそうそう聞けるもんじゃないよ」

 もっとも、それを「皮肉」以外に受け取る者はまずいないだろう。当然本人だってそのつもりで言ってるのだろうし。
 あたしは人間ではない。
 だからなぜ本音を直接口にせず、そんな回りくどい言い方をわざわざ選ぶのかわからない。聞いてる人間はどんなふうに捉えるのだろうか。
 そう思って、あたしはちらりとその「聞いてる人間」を一瞥する。

 彼の隣にへたりこんで、遠く離れたところで仲良く口吻けを交わす二人組を見ている女性を。
 黒髪に付けられた髪留めの飾りであるアネモネが、月明かりを反射して鈍く光っている。

 アネモネの花言葉は――儚い恋。見捨てられた。潰えた希望。
 まさに今の彼女……一番目を表しているようだ。

 今どんな表情でいるんだろう、と様子をうかがってみようとしたが、髪で顔が隠れてよく見えない。
 悔しいのか、切ないのか、一体この状況下で人はどんな感情を抱くのか。

「ねぇ、君はどう思う?」

 敢えて直接訊くのを避けていたのに、彼の方がわざわざ質問した。
 一番目は答えない。答えられるような状態ではないことは十分わかってるはずなのに。無粋とはこういうことをいうのだろうか。
 まぁ、彼女をここに連れてきたあたしが言えたことではないが。
 これも計画のうち。
 最初に一番目とセンパイを二人きりにさせて十分な幸せを与えた。
 次に、二番目にその様子が見えるよう引き合わせて絶望を与える。

 幸せと絶望の等価交換。

 一番目が幸せを感じることで、その分今までの絶望が溢れ出し、二番目に傷として刻まれる。
 逆に二番目が絶望を感じた分だけ、彼女の幸せが一番目へと還元される。

 今回の一件でかなりの量の「穢れ」が一番目から落とされた。概ね成功と見ていい成果だ。
 だとすれば、「この状況」は逆効果だと言われても仕方ない。
 だって、今絶望しているのはここにいる一番目で、幸せを感じているのは二番目の方なんだから。

 不可解。
 理解不能。
 あのままにしておけばよかったものを、なぜまた元に戻すような真似をするのか。

「……とでも思ってるんじゃないのかい? ナギちゃん」

 あたしの思考をそのまま感じ取ったかのように、彼は何の感情もこもってないような声でそう言った。
 お見通しならいちいち訊いてくるなよ、と言う代わりに小さく舌打ちで返事を返す。
 だがそんな反応すらも面白がるように彼は両肩を小刻みに上下させた。

「よく言うよ、だったら彼をそのまま足止めしておけばよかったじゃないか。二番目のところに行かせたら、こうなることくらい君もわかってたはずだろ?」
「あんたの指示なので逆らえなかっただけですが?」
「指示が出てない範囲なら好き勝手やっていいみたいな言い草だね」

 一瞬彼の目の端が怪しく光った。
 強気に出たつもりだったが、予想外の反撃を食らってしまった。やはりこの人間は隙というものが一切ない。
 近くの電柱に寄りかかって気づかないフリをすると、彼は鼻で笑って会話の相手を一番目へと移した。

「で、もう一度訊くけど、君はどう思うかな?」

 一番目は答えない。
 唇が僅かに動いた気がしたが、遠くで打ち上がる花火の音の方が遥かにでかい。
 聞き取ったのか聞き取っていないのかわからないが、彼はどっちでもよさそうに続けた。

「君はリファちゃんの元に行こうとする彼にこう言った。『行かないで』『傍にいて』と」
「……」
「それでもバイト君が彼女を探すと言い出した時……君はなんて言ったかな」

 一番目は答えず、花がしおれるように顔を落とす。
 そんな彼女を一目も見ないで、彼はパチンと指を鳴らした。

「ああ、そうそう。『戻ってきてくださいね』だったね」

 思い出したように言うが、そのすべてがわざとらしさで包まれていた。

「そしてバイト君はその問いかけに笑顔でうなずいた。だから君もそれ以上引き止めずに送り出した。その結果が……これだ」
「……」
「悔しいかい? 悲しいかい? それとも憎いかい? せっかく君が勇気を出して想いを打ち明けたというのに、こんな仕打ちをした彼に。そして彼を安い涙と卑屈で奪ったリファちゃんに、君はどんな感情を向けるんだい?」

 彼女にターンを渡した瞬間に、沈黙が訪れた。
 闇夜を薄く照らす花火の光が、時折一番目の姿を照らす。
 彼も彼なら、彼女も彼女だ。一体何を考えてるのか、底が知れない。
 一般的な人間であれば、これを裏切り以外の何に捉えるというのだろう。そして憎しみや悲しみ以外の何の感情を抱くというのだろう。

 あたしにはわからない。
 人間というものをデータでしか知らないあたしには……それ以上のことがわからないのだ。

「悲しい? 憎い? ……ふふ、何を言ってるんですか」 

 だからこそ、面倒くさい。
 データにはない、常にこちらの予想の斜め上を攻めてくるような行動を取ってくる奴には。

「クローラは、ご主人様と一緒にいられれば……それでいいんです」

 数多のデータを元にしたプログラムで動くあたしは、そういう予期せぬ事態が起きるたびにフリーズを起こしかける。
 どれだけアップデートを重ねても、人間の情報はそれを遥かに上回るスピードであたしに襲いかかるのだ。

「だってああ言ってるじゃないですか。『私を拒絶してリファさんだけと一緒にいようなんて思ってない』って。それって結局、私のところにまた戻ってきてくれるということではないですか?」
「……」
「私のことをちゃんと覚えていてくれた。私が想いを打ち明けた事実を、忘れないでいてくれた。それだけで私は幸せなのです」

 そう言って一番目は……顔を上げて隣の男性を見上げた。

「っ!」

 瞬間に彼は目をそらす。
 彼女の方を決して見るまいと、足元に視線を固定して拳を握る。

「たとえご主人様が他の誰を見ようが、誰を愛そうが……。彼の心の中には、クローラ・クエリという存在がいる。たとえどれだけちっぽけでも、ずっとずっと……私を感じてくれている。どうしてそんな心優しいお方を恨むことなどできましょうか」

 歪んでる。
 何もかもが歪んでる。
 そうとしか思えないような狂った言葉を、彼女はその口で紡ぎ続ける。

 もはやここまで来ると、こいつは人以外の何かだと言われたほうが幾分納得がいく。
 それを証明するかのように、一番目の姿はおよそ「生きた人の姿」とは程遠い外見をしていた。

 死骸。

 一言で言い表すならそれだ。
 干からびて、腐り落ちて、朽ち果てそうなその身体。
 今までその状態で立って、話して、食べて、そして笑ってきたのだから余計に不可解だ。
 こんな状態でなぜまだ人でいられるんだ、と。

「そうだね……君はそう思ってるんだよね。決して彼を否定なんかしないよね」

 四角眼鏡を震える指先で押し上げながら、彼はおどけた調子で返した。
 そう。一番目はセンパイを責めたりなどしない。彼に負の感情を抱くことなどありえない。たとえ何をされようが、どんな仕打ちを受けようが、彼女は笑ってそれを受け入れるだろう。

 理由は三つ。

 一つ。彼女はこの世界に転生する前に極限状態まで追い込まれて「幸せの基準値」が下がっている。食事ができる。対等に接してもらえる。傷つけないでもらえる。それだけで彼女は「恵まれている」と錯覚する。

 二つ。彼女は傷つくことで自分を偽っている。本当はそんな地獄など脱したい。本来抱くはずの怒りや憎しみを解き放ちたい。そんな心を押し殺してしまい、常に今いる境遇が最も幸せであると思い込もうとする。

 三つ。それは……。


「彼が起こす行動全ては……『君が望むこと』だからだ」


 ぴくり、と一番目のこめかみがひくついた。
 彼女の姿が見えなくなるように、彼は一歩前に出て空を見上げる。

「バイト君は一見、君とリファちゃんで二股をかけるクソ野郎に見える。でもそれは君がそうさせたからなんだよ・・・・・・・・・・・・・

 ポケットに手を突っ込んで、憂うような視線を二番目とセンパイに向けて彼は続けた。

「君がそんな歪んだ認識でい続ける限り、彼もそれに応え続ける。君がさっき彼のことが好きだという本音をぶつけて、バイト君はそれを受け入れた。それはもちろん、君が彼に受け入れられたいと願ったからだ」
「……」
「そして今、彼は君ではなく別の女性と抱き合い、唇を重ね合っている。それも……君がそうしてほしいという願いを彼が聞き届けたに過ぎない」
「どういう、ことですか」
「どういうもこういうもないさ。言っただろう。ここはワイヤードとは違う、『君の願いが叶う世界』。そしてバイト君は『君の願いを叶える人物』」

 そう。一番目も二番目も、この世界に来て彼と暮らすことは半ば必然だった。
 通常、死者処理事務局はまず転生者にどのような生き方を望むかを選ばせ、それに見合った同居人パートナーをあてがう。
 だが今回のケースはイレギュラー中のイレギュラー。たとえ二人がどんな人生設計を考えていようと、センパイ一人の元に生まれ落ちるのは決まっていたことだ。

 私達が計画を進めるために、ではない。
 本心で一番目は彼の傍にいたがっていたからこそである。
 そう、この世界に来るより前から・・・・・・・・・・・・

 先にこの世界に投入されたのは二番目だが、これも理由は同じ。一番目がそう願っていたから。つまり彼女の転生時の職業選択にも意味はなかった。
 なぜなら、一番目と二番目を共にいさせることが今回の計画に必要不可欠だったのだから。

 三角関係。
 これほど一方が幸せを掴み、一方が絶望を味わうシチュエーションがあろうか。

 そして二人ともセンパイのことが好きという感情を最初から持って・・・・・・・生まれ落ちた。そのため、三人仲良くできる時間などすぐに終わる。だから現にこうなっているのだ。
 これも必然。ここまではデータからして計算できていた。
 はずなのに。それが根底から突き崩されようとしている。

「それ故に理解できないんだよ……なぜ君がこんなことを望むのかってね」

 一番目は答えない。そりゃそうだろう。自分が当たり前だと思っていることを「なぜ」と訊かれたって返答に困るに決まってる。
 だが彼は止めない。さらなる追求を彼女にぶつける。

「君は素直に気持ちを吐き出したろう。だったらもう本音を出すことに躊躇はないはずだ、なのになぜ……なぜ君はまだそんなに歪んでいるのさ・・・・・・・?」 

 苛ついたように、沸き立つ怒りを必死で抑えているように、彼は静かに叫ぶ。
 困惑している女奴隷の目には、さぞ一人で勝手にヒステリーを起こしているようにしか見えていまい。
 進まない会話。一方的な会話。無意味な会話。
 埒が明かないこの状況にしびれを切らしたのか、彼はとうとう打って出た。

「質問を変えようか」

 そう言って……とうとう後ろを振り返った。
 自分を見上げる一番目を……直視した。

 目が見開かれ、顔がこわばり、全身が硬直しているのがはっきりわかる。
 それでもなお、腰を落として目線を合わせるところまでやってのけた。暗くくぼんだ、木のうろのような彼女の目を真っ直ぐ見つめ、彼は小さく息を吐く。

 嫌な予感がした。
 なにをする気だ。

 危機意識が働いたあたしは急いで止めに入ろうとするが、時すでに遅し。
 すでにトリガーは、引かれていた。
 たった一言。単純すぎる質問によって。



「君はなぜ死んだんだい?」



 ドクン!!!
 と、大きく一番目の身体が痙攣した。
 同時にうずくまってうめき始める。頭を抱え、まるで死にかけのセミのようにのたうち回る。

「あぁ……あっ! ああぁぁ……あがっ!」
「クロちゃん!」

 まずい。 
 あたしは直感して彼女を落ち着かせようとするが、救いの手は乱暴に払いのけられてしまう。

「私は……? 死んだ? ……なぜ? ……嘘……違う……」

 明らかに正気を失っている彼女を、目の前の彼は冷ややかに見つめるだけだ。
 くそ、やりやがったこいつ……。

 彼女の曖昧な記憶。
 本来であれば、この世界で暮らす中で少しずつ繋ぎ合わせ、パズルのピースを埋めるように思い出していくべきもの。
 それを今、彼は無理矢理引き出した。
 そうなったら錯乱状態に陥いることは想定済みだったはずなのに、迂闊だった。まさかここでやるとは。
 苦しそうに髪を振り乱し、一番目の呻き声はやがて叫び声へと変わる。

「あぁぁぁ……うわああああああああああ!!!」

 断末魔とも思えるようなその甲高い叫びが、闇夜の静寂を貫いた。

 瞬間。
 彼女の全身から……何かが噴出した。

 黒い粘着性の液体。毛穴を押し広げて溢れ出てくる……膿のような物質。
 穢れ。
 あたしは直感した。
 おびただしいほどのそれは一秒と立たぬうちに彼女を中心として大きな黒い水たまりとなる。

 そしてその中から、音を立てて何かが這い出てきた。
 色は池と同じように黒くて、小さくて、蠢いている。間違いなく、生き物であった。
 そんなものが次から次へと。十、百、千、万……それ以上か。

 見た瞬間にあたしは立ち上がってその場所から退避する。
 浴衣に、肌に、髪に、そのうちの何匹かが引っ付き、細い節足を動かして這い回る。

「うっ!」

 反射的にあたしはその穢れをはたき落とす。
 が、水たまりはどんどん広がり、もはや池と化していた。その間にも、絶えずその生き物は生まれ続け、津波のように周囲に分散していく。
 くそ、キリがない!
 あたしは高くジャンプし、電柱のてっぺんに着地して事なきを得るが、それもつかの間。
 生き物たちはその電柱すら手中に収めようと、わらわらと群れて這い上がってくる。

「詰めが甘いんだよ、ナギちゃんは」

 そんな中、一人その黒い池のほぼ中心部分にいた彼はあたしを見上げて笑いかけてきた。

「あんな程度で穢れが落とせるわけないだろう。やるならもっと徹底的にやらなくちゃ駄目じゃないか。いつまでちんたらやってるつもりだい?」
「あんた……」

 まさか、最初からこれが目的で!?
 あたしが顔をこわばらせたのを確認すると、彼は肩をすくめた。

「さっきの質問、まだ答えてなかったよね」
「はぁ!?」
「なぜわざわざバイト君と二番目をまた引き合わせたのか。そしてその場に一番目このこを連れてきたのか」
「その答えがこれだというんですか!!」

 あたしは大声で攻め立てるように言うが、彼は表情一つ変えない。
 それどころか、余裕ぶったように自分の足元に群がる生き物の一匹をつまみ上げ、しげしげと見つめる始末。

「見てご覧よ。これが穢れだよ。これでもまだほんの一部だけどね」
「……っ!?」
「彼女の痛み、悲しみ、憎しみ、そして切ないほどの恋心……。どれだけこの子が苦しんできたかわかるかい? 毎日毎日、地獄のような日々を繰り返していたんだよ……」

 ぶちゅり。
 と、彼は生き物を指先ですり潰す。

こんなもので飢えを満たさなければならないほどにね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」


 その言葉には確かな重みがあった。
 涼しい顔の裏に、どれだけ煮えたぎった感情が隠されているのか。

 焦り。
 あたしが即時に達した結論はそれだった。
 彼はとてつもなく焦っている。だからこそ、禁じ手を使ってまで彼女からこれほどまでの穢れを引き剥がした。

「でも安心していいよ。傷は必ず癒える。あの時もそう言ったろう?」

 いつの間にか会話の対象は一番目に移っていた。

「大丈夫……今度こそ僕が君を救ってみせるよ……」

 悲鳴を上げながら黒い池に浸かる女奴隷は、当然そんな言葉など聞いてはいない。
 それでも彼は優しく語りかける。今にも壊れそうなヘラヘラ顔で。



「それが……かつて君を見捨てた僕の償いだからさ」



 そう言って、彼はそっと右手を上げる。
 それが一つの司令と認識したのか、その黒い生き物達は一斉に動きを止める。
 怖いくらいの統制。まるで一匹一匹が意識を共有してるかのような整列ぶり。
 ごくり、とあたしは口内に溜まった生ぬるい唾液を嚥下した。

「『誰かを弾くことで得られる幸せなどない』……か。大層な言い分だ」
「?」
「慈悲などでなく、心から同居人パートナーの痛みや苦しみを受け入れたいというのなら……見せてもらおうじゃないか、その器を」

 彼は片目をつむり、そっと背後を振り返る。
 その視線の先にあるのは……センパイと、二番目リファっち
 やばい……これはさすがに……。 
 あたしはそう思い、止めに入ろうとした。
 下の惨状など厭わずに、電柱の側面を蹴るようにして急降下。
 彼女に修復処置を施そうとしたのだが。
 すんでのところで邪魔が入った。

「させないよ」

 地面に降り立った瞬間。いつの間にか、彼があたしの目の前に立ちふさがっていた。
 何かアクションを起こす前に、あたしの首は彼のその細身の体躯からは想像もできないような力で締め上げられていた。

「指示が出てない範囲なら好き勝手やってもいい……ってこのことかい?」

 息ができないことによる苦しみは全く感じなかったので、彼の声はその分はっきりと聞き取れる。
 四角眼鏡の奥にうっすらと見えるその瞳をあたしは睨み返す。

「こんなこと……計画にはなかったはずです!」
「臨機応変って言葉を少し学んだほうがいいね君は。与えられたパターンでしか動けないようじゃ、とても人なんか救えやしない」
「……でもっ!」
「あのさぁ」

 反論すら許さない。そう言うように彼は、あたしの首を骨ごとへし折ろうとするかのように腕に入れる力を強くする。

「君はどっちの味方なのさ?」
「……っ」
「いいから黙って見てなよ。彼女のためにもね」

 そう言って、再度彼はフリーな方の腕を上げ……。
 第二の司令を下した。

 ぱちり、という指を鳴らす音。
 それを合図に、生き物たちが一斉に行動を起こす。
 背中に格納された薄羽を広げ、舞い上がる。
 ずぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ!
 と、そんな不快極まりない音を立てて。
 無数に連なる黒い生き物たちは、一つの巨大な波となって大空を泳ぎ始める。
 月や星の淡い輝きも、花火の光や音すらもそれによって覆い隠され、周囲を真の暗闇が支配する。
 八の字を書くように旋回するその姿はまるで蛇、いや……竜。それをあたしは唖然として見ているしかなかった。

「さぁ、それじゃあお手合わせ願おうか……バイト君……そして二番目」

 その漆黒の天の川の下で、彼は静かに言った。
 暗くてもはや表情どころか姿すらまともに確認できなかったけど……その口調からはどことなく哀愁を感じた。声だけ聞くと顕著になるものだな。いかに表情でそれをごまかしてきたかがよくわかる。

 それでも彼は、その悲しさを心の奥底へ押さえ込む。
 いつものチャラくて、気さくで、脳天気な箱根店長という偽りの自分を演じる。



 そして彼は……そんなどこまでも軽い調子で。
 天空を舞う怪物の姿を成す、無数のゴキブリ達へ……命令を出した。




「痛いの痛いの飛んでいけ」
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