異世界の女騎士と女奴隷が俺の家に住むことになったがポンコツだった件

コペルニクス

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レベル51.女騎士と女奴隷と日常②

13.女騎士と女奴隷と学祭①

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「さて、そろそろですね」

 ブラインドの隙間を指で押し開け、外の様子をじーっと見つめるは、毎度同じみ木村渚女史。
 
 ここは岩倉大学部室棟の一角、第二文化研究部部室。
 かつて俺はこのサークルに所属している幽霊部員だった。今まではこの部屋にだって寄りもしなかったけれど、色々合ってリファとクローラ、渚や未來などが新しく入部。それから授業の合間や昼休みなど、暇な時にはここに入り浸るようになっていた。まぁ体のいい駄弁り場だ。

 で、本日は渚の招集によってメンバーがこの場に勢揃い。
 いつもはわいわいと楽しくトランプしたりお昼ご飯食べたりしているが、今日はいつにもましてシリアスな雰囲気に。
 
「あのー、そろそろって……何?」
 
 俺が挙手して質問すると、渚はバチンとブラインドを指で弾くとこちらをジト目で見つめてきた。
 
「馬鹿ですかセンパイ!? この時期でそろそろっつったらアレしかないでしょう……」
「だからアレってなんだよ?」
「そんなもの決まってます!」

 彼女は近くにあったホワイトボードの近くまで移動すると、水性ペンを手にとった。
 そしてキュッキュッと素早く何かをそこに書きなぐった後、それを俺達に見せつけた。


「学祭っすよ!!」

 
 学祭。
 はぁ……学祭っすか。
 俺はそう冷めたリアクションだけを返す。

「リファさん、がくさいってなんでしょう?」
「よくわからんが、多分白菜の親戚かなんかだろ」

 クローラとリファはそんなボケたリアクション。
 はぁー、と大仰に渚はため息を吐いた。

「あのねぇ。あんたらそれでも第二文化研究部!? うちらサークル部員よ!? 学祭っつったら最大にして唯一の活動アピールの場なのよ!?」
「かつどう……」
「あぴーる?」

 そう力説されてもちんぷんかんぷんな二人は揃って小首を傾げるばかり。
 仕方がない、ここはちゃちゃっと手短に説明してあげますか。

「学祭っていうのは学校主体でやるお祭りのこと。こないだの夏祭りの学校バージョンだと思えばいい」
「おお、お祭りか!」
「さーくる、だけでなくお祭りまで? なんだか本当に色んな事を行うのですね、この世界の学校というのは」
  
 彼女達が住んでいた異世界であるワイヤードの学校は、絵に描いたような学問特化型。座学以外にやることはほぼなかったそうだ。だから部活動とかの課外活動が豊富にあることに、最初は非常に驚かれたものだ。

「でも、さーくるとやらは同じ趣味を持つ方々のコミュニティとお聞きしました。それを発表するというのはどういうことなのでしょう? ましてやお祭りでそれをやる意味は?」

 もっともな疑問だ。
 趣味なんて自分が楽しければそれでいい。そう思う人は少なくない。
 だけど、身内だけでやる楽しみというのは大なり小なり限界があるというのもまた事実。

「じゃあクローラ、例えばお前がキカイを作るサークルに入ってたとして……実際に色々完成させたら後はどうしたい?」
「どうしたいって……それはもちろん人に使ってもらったりとか……」
「そう、それだよ」
 
 俺は腰掛けていたパイプ椅子を前後に揺らしながら首の後で手を組んだ。

「趣味は趣味でも、成果を上げて形にしたものってやっぱり他の人に見てもらったり知ってもらったりしたいじゃん? それで初めて意味を持つものってあると思うし、その方が頑張るモチベーションにもなると思うんだ」
「なるほど……それもそうですね」

 大きく二度三度頷いて納得するクローラ。
 するとその隣に座っていたリファが、テーブルに顎を乗せながら訊いてきた。

「で、その発表の機会というのが学祭なのかマスター?」
「ああ。夏祭りみたいに食べ物の屋台とか出すところもあるけど、大体のサークルはこれまでの活動を展示したり公演したりするね」
「そう。そしてこの第二文化研究部も当然それに参加するから、今日はその打ち合わせのために呼んだってわけ」

 テーブルに両手を付きながら渚は柄にもなく深刻そうな表情で言った。

「まぁ今までここは幽霊サークルだったし、そもそもあたしは部員ですらなかったわけだから、いきなりこんなこと言い出すのも変だろうけど……これはれっきとした部の存続に関わる問題なのよ」
「存続?」
「どういうことです?」
「サークルをやるには色々制約があるんだよ」
 
 戸惑う異世界コンビに、俺はスマホをいじりながら簡潔に補足した。

「学校から公認されてるサークルには部室もあてがわれるし、部費だって工面してもらえる。だけどそのためには二つの条件がある。一つは最低でも五人以上の部員が所属していること。個人が一人で勝手にサークル乱立しまくったらキリがないからな。まぁこれは俺達でまかなえてるからクリア済み」
「じゃあ、もう一つは?」
「それが今回渚が躍起になっている理由……『活動実態の証明と提出』だ」

 基本的に年一回、各サークルは学生課に「これこれこういう活動をやってこういう成果を上げました」的なことをサマリーした書類を提出しなければならない。
 運動部だったら大会に出場しました、文化系だったらコンクールに出場しました、などなど。
 んでもって学生課にこれでOKというお墨付きを頂いた場合のみ、来年度も活動が続行できるというわけである。まともに活動しないお遊びサークルを排斥するための、極めて合理的な制度である。

「要するに先ほどの『発表』が言わば義務化されているというわけか」
「そういうこと。うちみたいなサークルはいわばこの学祭がその活動実績を残せる数少ない機会だってわけ」
「ていうか、センパイ。この第二文化研究部って今まで何やってたんですか?」

 渚がペンで耳の後ろを掻きながらうんざりした様子で訊いてきた。

「もし本当に何もやってないのであれば、今頃とっくに廃部になっててもおかしくない。なのに今日まで続いてるってことは、なにかしら学生課にうまいこと言ってごまかしたり――」
「それは僕から説明するよ」

 ひょいっ、とそんな声がして誰かが挙手した。
 是認がその人物の方向を向き、目を細める。
 
「……乃愛さん」

 細身で長身な体躯に、長い茶髪を束ねて肩から前に垂らしている。
 極めて中性的な外見をした、色白の男性。
 岩倉大学三年生にして、木村渚の兄。木村乃愛であった。
 知り合って以降、たまに一緒にお昼を食べたり授業を受けたりすることはあるが……何故彼までこの部室に?
 ということを尋ねてみると、乃愛さんはニコニコと笑って答えた。

「ああ、実は僕もこのサークルの部員なんだよ」
「マジっすか!?」

 驚いた、彼も同じ部員だったとは……いや、ありえない話でもないか。
 この部のメンバーは、元々俺みたいな数合わせのための幽霊部員ばっかりだったそうだ。だから部員同士の顔を知らないという人がほとんどだったのだ。

「一年生の頃新歓コンパで誘われてね。だけど、まともに活動してる人がほとんどいなくてさ、入部一年目でほぼ廃部は確定だったんだ」
「はぁ……」
「まぁ僕自身、ここは結構居心地が良かったし……何もせずにここを手放すのはどうかなぁと思ってさ。一人でいろいろやってた」
「一人で……ですか?」
「ああ。まぁ地域のボランティアに参加したりとか、あとは色々な学会に出たりとかね。で、それをまとめて学祭で展示してた」
「えぇ……」

 ここにきてまさかの新事実発覚。
 このお遊びサークルが今日まで存続できたのは他ならぬこの人のおかげだったとは……。

「なんか、すみません……お手伝いとかもできませんで」
「別にいいよ。こっちも好きでやってただけだし……逆に言えば、それくらいで学校には実績ありって認めてもらえるんだから安いもんだ」
「安いもん……なんですかね」

 ボランティアとか学会とか、授業のカリキュラムで連行されるならまだしも、自主的にやるなんて普通の学生じゃまず考えもしないぞ?
 だが、どうする? 学祭までもう一ヶ月もない。その間に色々行って、まとめて、なんて時間はほとんどないぞ?
  
「だーから、こうしてみんなでこの学祭をどう乗り切るかを考えようって言ってんじゃないすか」

 カツカツとペンを机に打ち付けながら渚が言う。
 
「とにかく、みんなにはこれから案を出してもらうっす。学祭でやる発表内容――要は出し物で何をやるか。リーズナブルで手っ取り早くできるもんでよろしく! はい!」

 パンパンと手を叩いて彼女は急かしてくるけど、いきなりそういうこと言われてもなぁ。
 リーズナブルで手っ取り早く……ねぇ。

「まぁ内容はどうするかは置いておいてさ。ひとまず学祭では今までやってたように、展示会みたいな形にするのがいいんじゃないかと思――」

 バシコーン!!
 と言い終わらないうちに俺の額にペンが投げつけられた。皮膚が切れるかってくらいの激痛に悶た俺は当然その投擲者に抗議。

「何しやがんでぃ!!」
「バカですかセンパイは! センパイはバカですか!? バカセンパイっすか!? 略してバイっすか!?」
「ノーマルだよ!!」
「うるっさい!! ぬぁぁぁぁにが展示会よ! 今どきそんなもんで『これ』取れると思ってんすかぁぁぁぁぁ!?」

 と激昂しながら渚は人差し指と親指で輪っかを作って見せつけてくる。
 それが指し示すものなど、わざわざ言うまでもないだろう。
 
「いいっすか!? 学祭ってのは外部から客が来るんすよ! 雰囲気楽しむためにゃあ多少の出費は惜しくねぇーぜってカモがわんさかと! そーゆう間抜け共から徹底的に搾り取らないでどーすんですかこの両刀がぁ!!」
「だからノーマルだよ!!!」

 バンバンと平手でテーブルを叩きながら、渚はそれこそバカみたいに怒り狂っている。

「出し物一つやるにもそれなりの時間と出費が必要なんですよ! そんな生ぬるい案で相応の利益が回収できるとでも思ってんのぉ!? ままごとなら家でやってろファッキン! ていうかあたしと今すぐ籍入れてリアルおままごとしやがれゴラァ!!」
「終着駅を一駅進むごとに変更するんじゃないよ!」

 まったく、頭の中超資本主義国家かよ。
 目的はあくまで部としての成果を出すことだろー。多少のコストは覚悟しておくべきじゃないのかねぇ。

「あのーそれなら」

 と、次に挙手したのは我が家の愛奴、クローラちゃん。
 彼女はおずおずと鼻息荒い渚に向かってこう提案した。

「商売要素を入れろ、ということでしたら……その、喫茶店などが良いかと」
「喫茶店! おお、いいねぇ喫茶店!」

 ぱちんと指を鳴らして渚はケロッとさっきの不機嫌そうな表情を消すと、ウキウキしながらホワイトボードに「喫茶店」と綴った。

「私達も喫茶店で働いているし、いろいろ活かせる部分はあるかもしれないと思うんです」
「うんうん、いいこと言うじゃなーいクロちゃん。確かにあたしらみたいなかわい子ちゃんが揃ってれば集客もそれなりに見込めそうだし、儲けもガッポガッポと。よっし、まずは有力候補その一ね……ってかもうこれで決定でよくね? ね?」
「それは無理だよ、渚」

 意気揚々と言っていた渚のセリフを、乃愛さんが静かに否定した。
 一変、また露骨に不快そうな顔に戻ったギャルは実兄に喰ってかかる。

「どーゆう意味よ」
「どういうもこういうも、それ第二文化研究部の活動とどう結びつくのさ? 学祭で喫茶店やりましたーって言って学生課に報告するつもりかい?」
「うっ」

 ごもっとも。何の関係もないことやったって意味がない。
 あくまでも学祭で活動する目的は部を存続させるため。それができなくちゃ本末転倒だ。

「むぅ……じゃあどうしろってのよ? 言っとくけど利益が出せるようにしないのでなきゃ、部長権限で認めないからね!」

 いつからテメェは部長になったんだよ。得てもいない職権を濫用してんじゃねーっつのまったく。

「そ、それでは渚殿っ! このリファレンスからも提案させていただく!」
「よぅし、パツキンマン。言ってみれ」

 こほん、と女騎士は軽く咳払いをすると、自慢げに言い放った。

「漫画喫茶というのはどうだろうか!」
「……まんが」
「きっさ……?」

 全員がぽかんと呆けている中、リファだけは鼻高々にその概要をペラペラと喋り始める。

「漫画喫茶とは、その名の通り茶を嗜みながら好きなように漫画が読める夢のような空間だ。前にマスターに連れて行ってもらったことがあるが、あそこほど客入りが良さげな店もないぞ?」
「はぁ……」
「それに漫画は、この世界の最も誇るべき文化の一つであると私は考える。色んな漫画を展示して、好きなように読めるようにして、色んな人に漫画の素晴らしさを知ってもらう……というものだ。それなら活動実績としても申し分ないだろう。そのついで喫茶店も併設しておけばそれなりの収入も期待できると思うし。どうだ?」

 演説を終え、リファはキラキラした目を向けて俺達の反応を伺った。
 が、結果は誰もが肩を軽く竦めるだけ。

「まぁ方針自体は悪くないと思うけど……やはり部の活動としては認められないだろうね」
「なんで!?」

 露骨にショックを受けたような表情で女騎士は叫ぶが、理由は言わずもがな。
 まずそもそもとして、商業で流通している商品をそのまま展示の内容もしくは販売品として使用することは、学祭ルールで禁止されている。売るにしろ発表するにしろ、自分達で作ったものでなくてはならないのは大原則だ。
 
「色々な漫画を置いたところで、それはあたしらが描いたもんじゃないからね。文化を研究し、それについての理解を深めるというこのサークルのコンセプトとは噛み合わないよ」
「うぅ……」
「でもさ」
 
 青菜に塩という言葉がぴったりなくらいしおれてしまった彼女に、俺は助け舟を出した。

「漫画の素晴らしさを理解してもらいたいなら……それを研究して発表すればいいんじゃない?」
「けんきゅう?」
「ああ。例えば漫画の歴史とか、あとはリファが一番オススメの漫画について調べて、それについてまとめたものを展示するの。それなら多分クリアできると思う」
「……なるほど。でも、そんな学者みたいなことできるかな……私、元騎士なのに」
「できるさ。好きこそものの上手なれって言うだろ? 余裕余裕」

 ポン、と肩を叩いて俺はまだ不安げな彼女を元気づけてやった。
 それを聞いていた渚は、ペンをくるくる回しながらつまらなそうに言う。

「まぁそれならいいんじゃない? 展示会なんて、誰も寄り付かない出し物の定番だけど……漫画がテーマならそれなりに興味持つ人もいるだろうし。それもある意味漫画喫茶、か。まぁオタサー共の内容とあんま変わらん気がするけど……しゃぁないか」

 完全に乗り気ではなさそうだけれど、一応は賛同してくれたみたいだ。
 他のメンバーも概ね反対ではなさそうである。

「うん、悪くないと思うよ。それなら喫茶店の方は、漫画に出てくるキャラクターの格好をしてみるとかすればいいんじゃないかな?」
「ですです。メイド喫茶ならぬ『こすぷれ喫茶』ですね。この前ぐーぐる先生に教わりました!」
「よし、じゃあ決まりだな。今回の第二文化研究部の学祭発表は『漫画(研究発表)喫茶』ってことで――」

 と、そこまで言いかけたときである。
  

「邪魔するわよぉーー!」


 バァン!
 と、そんな声とともに部室のドアが勢いよく開け放たれた。そりゃもう蝶番ごと吹っ飛びそうなくらいに。

「ふーん、ここが第二文化研究部……聞いてた通りお粗末なところねぇ。部屋も、そこにいる人種も」

 明らかに見下したような口調で言いながら、突然の訪問者はズカズカと部室内に侵入してくる。
 銀色の髪をカールの巻いたツインテールに、瞳は血のような真紅。コテコテのゴスロリ服を着込んだ、痛々しいという言葉の擬人化といってもおかしくない人物。
 
 エイリアス・プロキシ・スプーフィングであった。

「貴様ぁ! 何しに来た!」

 彼女を不倶戴天の敵として認知しているリファはその姿を見るなり、牙を剥き出して、腰に携えた100均ソードを抜く。
 だがエリアはそんなことなど歯牙にもかけないというように華麗にスルー。勧められてもいないのに勝手に椅子に座って、レースのニーソを履いた足を組む。

「いきなりご挨拶ね。ワイヤードの帝王たるこのあたしが直々に赴いてやったというのに」
「そんなこと誰が頼んだ!」
「それより、客人に茶の一杯も出さないわけここは? 本当、気の利かない連中だこと」
「そうかそうか、なら貴様の血をカップに注いでやる!」

 抜刀して今にも斬りかかりそうなリファ。俺は慌てて彼女とエリアの間に立って仲裁する。
 
「まぁまぁ落ち着けよ。……エリア、ここに来た理由はなんだ? ってかなんで俺達がここにいるってわかった?」
「そんな事決まってるでしょ、あいつよ」

 エリアは腰のホルダーからいつもの分厚い書物、通称「予知書」をペラペラとめくりながら興味なさそうに答えた。
 彼女の言う「あいつ」ときたら、該当する人物は一人しかないない。
 八越未來。俺の後輩にして、この部活のメンバー。そして異世界人であるこのエリアを同じ部屋に住まわせている同居人である。

「今日はあいつ、忙しくてここ来れないらしいの。だから代わりに様子見といて、ですって」
「忙しい? ……ああ、メイド喫茶か」

 未來は俺のバイト先「Hot Dog」というカフェで働いているが、それと兼業で八王子駅近くのメイド喫茶でも働いている。そこはエリアの勤め先でもあり、一人で働かせるには何かと不安だからとしかたなく同じ職場を選んだそうだ。
 だがまさかこいつを差し向けてくるとは予想だにしてなかったが。

「あたしもそんなくだらない余興の集まりなんか来るつもりなかったわよ」

 エリアは心底面倒臭そうに言いながら、わざとらしく肩をぐるぐると回してみせる。

「だけどまぁ、我が婿もいるし、なんか漫画喫茶とか話してたし、漫画喫茶とか話してたし、漫画喫茶とか話してたし……ちょいとくらいなら暇つぶしにでもなるかなぁと思って寄ってやったってわけ」
「……」

 Oh?

「さ、時間がもったいないわ。さっさと続きに移りなさいな。漫画喫茶がなんだって?」

 全員がぽかんとしているのを尻目に、彼女は気取ったように先を促す。
 ……こいつ、もしかして。

「? なによ我が婿? 私の顔にキレイなお花でも付いてるのかしら?」
「……漫画喫茶、興味あんのか?」

 ぼそっとさり気なく訊いてみた途端。
 ドサッと彼女のてから滑り落ちた予知書が床に落ちた。

「……なっ、ななななななななななーに言ってんのよ! そんなわけないでしょ!? 帝王であるあたしが!? 漫画なんて、そんなものに興味? 冗談きついわよ我が婿?」

 ……わかりやすく取り乱してらぁ。
 だが本人はまだうまくごまかせてると思ってるらしい。

「いいこと? 高貴でエレガンスなこのエイリアス・プロキシ・スプーフィングは、嗜好品だって一流なものしか嗜まないのよ! そんじょそこいらの一般ピーポーと一緒にしないで頂戴!」
「ほーお、そうかそうか」

 すると後ろのリファがすごーい意地の悪い笑みを浮かべて、歩み寄ってきた。
 いつもはポンコツな彼女にしては珍しい、マウントを取って勝利を確信している顔だ。
 そして慌てふためくエリアを鼻で笑い、指さした。

「『でもお前なんだか……その本の千切ったページとか武器にして戦いそうな顔してるよな(笑)』」

 一瞬、沈黙。
 一見、意味不明なセリフ。
 一転、エリアさん涙目で大激怒。

「なんっ…でそこまで! 的確に人を傷つける台詞が言えるのよあんたはあああああっ!!」

 ……。
 …………。
 ………………。

「あっ……」

 赤面したときには後の祭り。目の前の既に満面の笑みを浮かべたリファが。
 不慮の事故エンカウンターも、大嘘憑きオールフィクションで無かったことにはできやしない。
 この条件反射、マジモンのオタクじゃねーかよ。いや薄々予感はしてたけどさ。
 彼女のセリフの端々には必ずと言っていいほど漫画キャラのセリフが混じってる。
 初見で戦いを挑まれた時、叫んだ必殺技の名前も誰もが知ってるやつだった。
 メイド喫茶に勤めてるということもあって、やっぱりリファと同じくサブカル系には興味あるんだな。

「あ、あーそーよ悪い!? 漫画読んで何がいけないっての!? そんなことでバカにされる筋合いないわよ!」
「ふん、開き直ったか。見苦しい」

 彼女にしては反撃のつもりだろうが、むしろリファのスマイル度を上昇させる結果しか生まない。
 まぁ突然色々起こったが、おそらくさっきから外で彼女は俺らの話を立ち聞きしていたんだろう。微塵も興味はなかったけど、漫画喫茶という単語を耳にして介入することに決めた、と。まとめるとそういうことか。

「つーかセンパイ。その変な人誰っすか? 入部希望者なら帰ってもらってくださいよ。そんなサブカルクソ女うちじゃお呼びじゃないんで」
「いいからさっさと教えなさいよ! 漫画喫茶ってなんなのよ!?」
「まぁ教えてやらんこともないが……だったら二度と私のマスターに近寄らないでもらおうか? あと二度と我が婿などと呼ぶんじゃない、斬るぞ?」
「むきぃー! んならいいわよもう! 我が婿に直接聞けばいい話だしぃ! ほら我が婿! このエリアが命じるわ! さっさと事の次第を釈明なさい!」
「あのー、お茶入りましたけど……」
「あぁ!? 何よ今更、ホント仕事の遅いメイドだこと……ってなんなのこれ! 虫が入ってるじゃないのぉ!」

 あーもうめちゃくちゃだよ。
 カオスとしか言いようのない空間に俺は頭を抱えた。
 

 ○

「――というわけ」
「ふん、なるほどそういうわけね。想像してたのとはだいぶ違ったけど」

 俺はなんとかしてみんなをまとめ、一つ一つ状況を整理して説明し、ようやく調和を取り戻すことに成功した。
 まったくこいつらの相手をしてたら、215本全部の骨が折れそうだ。

「まぁなんだか知らないけど……漫画好きならじゃああんた達二人で研究発表やれば?」
「「は!?」」

 くわっ、と目を見開いて二人はとんでもない提案をした渚に詰め寄った。

「どういうことだ渚殿っ!?」
「どーもこーもないわよぅ。今回の漫画喫茶は、漫画班と喫茶班の二つに必然的に分担して作業することになる。だったら漫画の研究はあんたらみたいなオタクに任せたほうが効率がいいでしょーに」
「「だからってなんでこんなのと一緒に!!」」

 ビシッ! とリファとエリアは同時に互いを指差す。
 息ピッタリだ。同じ趣味の者同士は行動のシンクロ率も高いのだろうか。

「とにかく私はまっぴらごめんだ。研究だろうが喫茶の仕事だろうがどっちでも良いが、やるならこいつとは別のグループにしてもらう」
「はっ! こっちこそ願い下げよ! ていうかそもそもあたしはこのサークルの仕事を手伝う義理すらないんですけど!? 帝王に雑用を任せるとか片腹痛いってのよ。あんたら下民共の指図なんて誰が受けるもんですか」
「……はぁ」
 
 と指示役の渚は、頬付けを付きながらまた大仰にため息。
 まぁ今回ばかりは共感するよ。こんなポンコツ二人を処理しなくちゃならないのは気が滅入るというものだ。
 だがまぁポンコツはポンコツなりに単純な面もあってだね。ちょっとしたことで思い通りに動いてくれたりしちゃうのである。

「よーし、わかったわかった。じゃあこうしよう」

 俺は二人の間に立ち、小さく咳払い。
 そして、すまし顔で短く言った。
 今この喧嘩している二人を揃って黙らせ、対立する意見を揃え、物事を穏便に成功まで持っていくセリフを。


「漫画研究……俺がやるわ」
「私もやる!!」
「あたしもっ!!」

 ……。
 …………。
 ………………。

「「あっ」」

 気がついたときにはもう遅い。
 ワイヤードの元騎士も、元帝王も、磁石のS極とN極みたいな反発する関係だ。だが漫画が好きという以外にもう一つ共通部分がある。
 それが、俺に対して非常に固執しているという点だ。
 だからこそ、その俺が動けば彼女達も足並み揃えて同じ方向に動き出す。
 見事に争いは無血で終了した。

「ぐぬぬぬぬぬ……」
「む~っ……」

 しこりはめちゃくちゃ残ってるけど……そこまで責任は持てない。ていうか持つつもりもない。
 渚は俺の意図を読み取ったのか、はたまた厄介事が回避できればどうでもいいと思っているのか、小さく肩を竦めて言った。

「わかりました。じゃあ全体的なスケジュールを立てるところからお願いします。できたらあたしに提出で」
「あいよ」
「じゃあクロちゃん、あたし、兄貴……あとミクミクは喫茶店部分を担当ってことで。それじゃこれでいきましょー!」
「「「おー!」」」
「「……」」

 乃愛さん、クローラ、俺が元気よくそう声を上げ、エリアとリファは苦虫を噛み潰したような表情で黙りこくっていた。

 そんなこんなで、学祭に向けての準備のための火蓋は切って落とされた。
 一体どんなことになるのやら、ていうかそもそも成功はするのだろうか。
 異世界人達の目に、学祭というのはどういうふうに映るのだろうか。
 先行きは不安だけれど、俺の胸には確かにそれ以上の期待や興奮が脈打っていた。


 学祭まで、あと三十日。
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