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第四章

039:クラン始動と瀬那のレベル上げ

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「よし、それじゃあ今日からダンジョンに潜って、本格的にハンター活動を始動させよう!」


 俺と黒衣、そして瀬那は俺が2階層目以上ソロで進むことが出来なかった低ランク向けのダンジョンの前に立っていた。


「またハンター活動ができるなんて夢にも思わなかったわ」


 高校生の頃、同級生と一緒にハンター活動をしていた瀬那は懐かしそうに、ダンジョンの入り口を見ていた。
 今の瀬那は霊装で人間の姿に具現化されているのだが、驚くことにチップまで具現化されていたのだ。
 つまり、瀬那は今でも正式にハンターとして活動が出来るということになる。

 気になるレベルだが、アプレイザルを見るとレベルはリセットされているようで、数値が1になっていたようだ。
 しかし、当時はレベル5くらいだったらしいので、本人的にはあまり気にしてなさそうだった。


「私も詩庵様と一緒にダンジョンに潜って、冒険できるのがとても楽しみです」


 現代に生きていなかった黒衣には、当然チップが埋め込まれていなかった。
 しかし、瀬那にチップが埋め込まれているならワンチャンいけるのではと凛音が思い付き、試しにチップを黒衣の頭に入れてみることになったのだ。


(それにしてもチップを入れるの普通に恐怖映像だよな……)


 チップは病院に行って、細い注射器のようなモノを使用して頭にプスッと刺す。
 チップを入れられる側は、痛みどころかチクリともしないので、いつチップを入れられたか気付かないことがほとんどだ。
 しかし、傍から見ているこちら的には、頭に針が刺さる光景は恐怖でしかない。

 施術の結果、無事にチップを黒衣に入れることは出来たけど、実際に動くかはまた別問題になる。
 その後凛音の家にお邪魔させてもらった俺たちは、お茶を頂戴しながら実際にチップを起動できたのか確認をすることにした。


「どうだ? チップ動いてるか?」

「はい! ですが、使い方が全然分かりません……」

「じゃあ、私が今から私のチップをディスプレイに映すから、それを見ながら使い方を覚えようよ」


 そういうと、凛音はチップの映像をディスプレイに映し出した。
 チップの中は個人情報の塊なので、他の人には見せないのが一般的なのだが、こんなに堂々と見せて大丈夫なのか聞いてみると、「見られちゃいけないのは隠してるから平気だよ」と笑顔を浮かべている。
 その笑顔からは、「それ以上は聞くなよ」という気配をプンプンと感じたので、俺は本能で本当に触れてはいけないところだと直感した。

 結果から言うと、黒衣はチップを普通に使えるレベルまで上達をして、無事にハンターギルドにも登録することが出来た。
 しかし、本来であるとハンターギルドに登録するには、日国で暮らしているという証――つまり戸籍が必要になってくるのだが、黒衣にそんなものはない。
 ではどうやってハンターギルドに登録したかというと、恐ろしいことに凛音がなんとかしてしまったのだ。

 凛音が「ちょっと交渉するね」と言って誰かとやり取りを始めると、10分程度で「黒衣ちゃんの戸籍出来たよ」と言ってきたのだ。
 これには凛音以外の全員が驚くしかなかった。


「ちょ、ちょっと待って戸籍を作ったってどういうこと?」

「うん。私、ちょっと頑張ってみました」


 なんか可愛い笑顔で言ってるけど、この子本当に何をしたんだろう。
 これ以上は怖くて聞くことが俺には出来ないよ……。
 俺はこの時、凛音のことは絶対に怒らせないようにしようと心に誓ったのだった。


「あと、瀬那ちゃんも戸籍なかったと思うから、一緒に作っといたよ。2人はこれからしぃくんの従姉妹の姉妹って感じでお願いします! あと苗字は2人とも神楽って名乗ってもらうことになりました。瀬那ちゃんは苗字が変わるの寂しいかもだけど、勝手にごめんね」

「ううん、全然大丈夫だよ! 色々とありがと」


 瀬那はそういうと、ニヤニヤと頬を緩めながら「うふふふ。私も神楽になっちゃったのね」と呟きながら笑っていた。
 まぁ、瀬那が喜んでるならそれでいいかと思い、俺は特にそのことについて突っ込むのはやめた。


「あっ、そういえば瀬那のハンターギルドの名前とかどうなってるの?」


 元々瀬那は死亡扱いになっていたので、名前などの情報はブランクになっていると聞いていた。
 これはハンターギルドが戸籍情報と同期されるために起きる現象だった。


「あっ、新しい情報になってる! 私の年齢も17歳になってるわ」


 同期のスピードが半端なく早い!
 つか、瀬那の情報と戸籍の情報の同期までこの短時間で行えるってどういうことなのさ?


「あとは、黒衣ちゃんだね。ハンターギルドに登録するには、マイナンバーカードの番号と本人確認書が必要になるんだけど、原本は今作ってるからデータだけ送るね。それを使って登録しちゃいましょう」


 そういうと、黒衣はあれよあれよの間にハンターギルドの登録が済んでしまった。
 あとは審査次第にはなるのだが、凛音のことだからそれも大丈夫なのだろう。

 ちなみに黒衣は俺と凛音の一個下で、今年高校一年生の15歳という設定だった。
 実際には高校には通っていないし、1200歳超えなんだけどね。

 まぁそれは良いとして、黒衣にチップを入れて一番驚いたのが、アプレイザルのレベル表記が「83」になっていたことだった。
 普通入れた状態が1になるはずなのに、すでにレベルが83あるってどういうことなんだろう?
 こればかりはさすがの凛音もよく分からないとのことだった。



 ―



「俺たちのクランのデビュー戦なんだが、今日は一つ俺の我儘を聞いてくれないか?」

「うん? どうしたの?」

「私は詩庵様でしたら、どんな理不尽なことでも受け入れますのでご安心下さい」


 黒衣よ、俺のことを一体何だと思っているんだ……。
 神に誓って俺は黒衣に理不尽なことを言った覚えはない。

 ――だからそんな目で俺を見ないでくれ、瀬那。


「い、いや。みんな知ってると思うけど、俺はこのダンジョンでずっともがき苦しんでたんだよ。だから、このダンジョンだけは俺の力だけで踏破したいと思ってるんだ」

「そういうことか。うん、私は問題ないわよ」

「私もです」

「みんな、ありがとな。――じゃあ、行くか」


 ダンジョンの中に入ると、「うんうん。ダンジョンってこんな感じだったな」と瀬那が楽しそうに周りを見ている。
 俺もここに戻ってくるのは本当に久しぶりだ。
 以前は毎週土日は必ずダンジョンに潜っていたのに、黒衣に出会ってからここには来ていないので4ヶ月振りってことになるのか。

 瀬那ほどではないが、俺もどこか懐かしい気分になるのだが、決してそれは楽しいと思えるものではなかった。
 正直このダンジョンで俺は何度辛酸を嘗めたか分からないのだから。

 もちろんレベルが上がった今の俺なら、低ランク向けダンジョンを踏破するのは問題ないだろう。
 しかし、それでも俺はこのダンジョンを一人で挑む必要がある。
 そうじゃないと、本当の意味で俺はハンターとして前に進むことは出来ないと思ったのだ。

 1階層目はレベル1のときでも簡単ではなかったが先に進むことは出来た。
 そして、2階層目から俺はソロで先に進むことが出来なかったのだ。
 何度も挫折を味わった場所なので少し緊張したものの、呆気なく3階層目まで進むことが出来た。


(本当に俺は強くなれたんだな)


 今までどれだけ足掻いても進むことが出来なかった3階層目に足を踏み入れて俺はようやく実感した。


「おめでとうございます!」

「ここからがスタートだね」


 今まで俺の後ろを黙ってついてきてくれた2人が、笑顔を見せながら駆け寄ってくる。


「ありがとな、2人とも」


 そこからの展開はとても早かった。
 怪の国で2等級の怪を倒した俺のレベルは16になっているので、当然ではあるのだが10階層まであるこの低ランク向けダンジョンを気付けば1時間経たずに踏破してしまったのだ。

 そして、ダンジョンの入り口に戻った俺たちは、備え付けられているベンチに座りながら今後のことについて話し合うことにした。


「これからは、週末はクランのランクを上げて、平日は怪の国で瀬那のレベル上げをしたいと思うんだ」


 俺の考えはこうだ。
 まず優先することは個人としてのランク上げとクランのランク上げをすることだ。
 これをするためには、数多くのダンジョンに潜って踏破する必要がある。

 だがここで問題になるのが、瀬那のレベルである。
 ダンジョンで地道にレベル上げるのも良いのだが、神器となった瀬那は怪の国でより強い魂を持っている霊獣と戦った方がレベルの上がりが間違いなく良いだろう。
 とはいえ、魔獣とは違って霊獣の場合は、止めを刺した霊装の持ち主のみに魂が注がれるので、ギリギリまで俺が戦って最後は瀬那に倒してもらう必要がある。
 まぁ、レベルが上がったら自分自身の力で戦ってもらおうと思ってはいるが。


「わ、私に霊獣と戦うことできるのかしら?」

「俺が必ず守るから大丈夫。俺たちを信頼してくれ」


 隣で黒衣も大きく頷いている。
 瀬那は俺たちの顔を見渡して、「うん。それじゃあ頑張ってみるわね」と両手を胸の前まで上げて小さくガッツポーズをした。



 ―



「ダメ。絶対にあんなのと戦えないわよ……」


 平日になり怪の国に来た俺たちの目の前にいるのは、俺が初めて霊獣と戦ったときと同じ、ゴリラの化け物みたいな霊獣だった。


「瀬那。その気持ちめちゃくちゃ分かるよ……」


 俺は「うんうん」と頷きながら、瀬那の肩にポンッと手を置くと、プルプルと小刻みに震えながら俺の顔を涙目で見つめてくる。
 ちょっと可哀想だな、って思ったけど、実際には瀕死の状態まで俺が追い詰めて、最後の最後で瀬那が止めを刺すという感じなので、実際に危険はほとんどないと言えるのだ。
 それでも瀬那は、両手で持った刀をカタカタと震わせながら「うぅ~」と唸っている。

 今瀬那が手にしているのは、『はやて』という号の刀だ。
 これは天斬の刀を貞治さんから、かなりの格安で購入させて頂いた一振りで、とても軽く女性でも使いやすいの特徴である。
 だが、切れ味は申し分なく、実際に霊装を纏った状態でアダルガイドも斬ることができた。

 颯を振ってアダルガイドを斬ったのは、もちろん瀬那自身だ。
 彼女は俺が葬送神器をした状態での霊装制御の修行をしている隣で、ずっと刀を振るっていたのでそれなりに見えるまでにはなっていた。
 もちろん純粋な剣士としての腕前はまだまだ駆け出しなのだが、レベルを上げて霊装を纏った状態になったら、恐らく剣道の有段者にも余裕で勝てるのではないかと思う。


「じゃあ、呼んだら俺のところまで来てくれな」


 そういうと、俺はゴリラの霊獣の四肢を斬って、身動きの取れない状態にしてから死なない程度痛めつける。
 息も絶え絶えになった霊獣を見て、頃合いだと思った俺は瀬那のことを呼んだ。
 瀬那はまだちょっと怖がっていたが、「大丈夫。瀬那が止めを刺した仇の怪よりも弱いよ」と言うと勇気が出てきたのか目に力が出てきたのが分かった。


「練習した通り、肩の力を抜いてから刀を振り上げて、一気に振り抜いてみてくれ」

「うん。やってみる」


 瀬那はダンジョンで足手纏いにならないように、毎日影の中でも素振りを繰り返しているらしい。
 刀の使い方は黒衣に教えてもらっているので問題はないだろう。
 しかし、影の中に実在する武器は入れることが出来ないので、霊装で具現化した颯を振っているとのことだった。

 刀を振り上げた瀬那は、自分を落ち着かせるために、目を瞑りながら大きく息を吐いた。
 そして、目を開けて一気に刀を振り下ろす。


「ぎゃおぉぉぉおおん!!」


 ゴリラのような霊獣の首が落ちたと思ったら、粒子となって瞬く間に消えてしまった。
 すると「ぐっ、うぁ……」と瀬那が苦しそうな声を上げる。


「大丈夫だから落ち着いて。これはレベルが上がった時の反動だよ。すぐに治まるからゆっくり呼吸して」


 やっと落ち着いてきた瀬那に「レベルはどんな感じ?」と聞くと、「えっ!? 一気に9まで上がったよ!」と驚きながらも嬉しそうにしている。

 ってレベル9まで上がったのかよ!
 俺がゴリラの霊獣を倒したときの3倍じゃねぇか!
 やっぱり俺のレベルって本当に上がりにくいんだな……。

 けど、やっぱり霊獣でレベル上げるのは良さそうだな。
 あとは、レベル9になった瀬那がどれくらい強いか、だよな。
 一人で戦ってもらって強さを見たい気もするけど、もっとレベルを上げてからの方がいいな。


「じゃあ、また同じように俺がダメージを与えてから、瀬那が止めってパターンを何回かやろう」

「うん! 詩庵、それに黒衣ちゃんもありがとね」

「全然だよ。俺たちで最強のクラン作ろうな!」

「詩庵様を見下した奴らに目にもの見せてやりましょう!」

「そうね、黒衣ちゃん。詩庵の凄さをみんなに知らしめなきゃ!」


 黒衣は俺のことを馬鹿にしたクラスメイトたちのことがどうしても許せないらしく、たまに過激な発言をすることがあるのだが、事情を聞いた瀬那も感化されて結構過激派になってきていた。
 この会話してる時の2人の目が結構怖いんだよな……。


「2人のお陰で結構レベル上がったわ!」


 あれから3体の霊獣に止めを刺したことで、13までレベルを上げた瀬那は、ゴリラよりも若干劣る霊獣と1人で戦って勝利を収めることができたのだ。
 そして、最終的なレベルが15になったところで今日は終了することにした。
 恐らく今日一日で瀬那は中堅クラスのハンターにも勝てるくらいの力を手に入れたのではないだろうか。
 オーラと霊装のレベルでは、得られる力が段違いに違うのだから。


「霊装って凄いのね! なんか幽霊だった頃よりも身軽になった気がするわ」

「瀬那の動き本当に凄かったぞ! あんな動きを初見でされたら、俺は対応できる自信がないよ」

「ふふっ、詩庵にそう言ってもらえると嬉しいわね」

「明日はもっと奥に行ってみましょう。その前に瀬那の地竜も捕らえないといけませんね」


 瀬那のレベル上げがスムーズに行った俺たちは、そのテンションのまま「おー!」と拳を高らかに掲げて気合いを入れた。
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