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第四章

044:マッドティーパーティー

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「2階層目からはEランクの魔獣が出てきます。あなたたちよりもランク高い魔獣だけど私たちがやりますか?」


 優吾たちに確認をしたのは、『マッドティーパーティー』のアリスさんだ。
 背が低く可愛らしい顔立ちをしているが、パーティをBランクまで引き上げた実力者である。
 噂によると某企業の社長令嬢らしいのだが、そんな彼女がハンターをやっている理由は分からない。


「俺たちもそろそろEランクに上がります。なのでやらせてください」


 優吾は自分たちの実力を示して、上位ランクのパーティから協会へ後押ししてもらい、飛び級させてもらおうと目論んでいるのだろう。
 そのためか積極的に魔獣との戦いを要望していた。

 アリスさん曰く、2階層目に出てくる魔獣はカーバンクルとのことだった。
 カーバンクルはリスみたいな見た目をしているので、外面は相当可愛いのだがとてつもなく獰猛らしい。
 しかも単独ではなく集団で襲ってくるので、実力不足のハンターは速攻で返り討ちにされてしまう恐ろしい魔獣だ。

 だが、ハンターからはカーバンクルが出現するダンジョンは人気がある。
 その理由は、カーバンクルの額に埋まっている、真っ赤な宝石のような物質にあった。
 この物質はカーバンクルを倒すと消滅してしまうのだが、稀に残ったままになることがあるのだ。
 ドロップ率はかなり低いのだが、運よく手に入れることができたらそれだけで大金を獲得することができる。
 なので、一攫千金狙いでEランクまで頑張ってランクを上げるハンターもいるくらいだった。

 だが、優吾たちに関してはそんなことはないだろう。
 彼らは俺に対する接し方こそ歪んでいるが、Sランクになるという目標は本気だということは、パーティを組んだ時から感じていた。


「分かりました。サポートはするので頑張ってくださいね」


 優吾たちは頷くと、第2階層に進む階段を降っていった。



 ―



 ダンジョンには2パターンがある。
 それは、階層ごとに別世界のようになるか、ダンジョン全体が統一された世界観なのかということだ。
 低ランクのダンジョンは、世界観が統一されたダンジョンが多いのだが、高ランクになるほどそれぞれの階層に出てくる魔獣に最適化された世界が広がるのだ。
 そして、この虚無もそれぞれの階層が魔獣に最適化された世界になっていた。


「ダンジョンって本当に不思議だよな」


 そう呟いたのは、『猪突猛進』副リーダーのまみるさん。
 スラッとしたモデル体型で、美しい顔をしているにも関わらず、口を開くと昔のヤンキーみたいな話し方をする人だった。
 しかし、意外と乙女な一面もあるので、隠れファンが意外と多い女性ハンターだ。


「何がですか?」


 俺はまみるさんの唐突な呟きに反応する。


「え? 普通に不思議だろ? なんで階層ごとで景色が変わるのか、なんで階層には一種類の魔獣しか出ないのか。不思議なことしかないわ」

「お偉い学者さんでも分からないみたいですからね」

「そうなんだよな。だからダンジョンにはロマンが詰まってると思ってるんだよ! 今はよ、まだAランク止まりで未踏破ダンジョンを最初に踏破したことはないけどよ、いつか誰も成し得なかったことをやり遂げてぇって思ってるんだわ」

「まみるさんの気持ちめっちゃ分かります! 俺もハンター目指した動機も同じですもん。いつか嚥獄も踏破したいですよね!」

「嚥獄……か」


 嚥獄の名前を聞いて話に入ってきたのは、猪新さんの2人だった。


「俺たちは一度『紅蓮』と合同で嚥獄に潜ったことがあるんだよな」

「そうだったんですか?」

「あぁ、けどガチでヤバかったな。まだAランクになりたてってこともあったが、2階層目で尻尾巻いて逃げる羽目になったよ」


 猪新さんは苦虫を噛んだような表情を浮かべていた。
 そのときのことを思い出してしまったのだろう。


「命からがら嚥獄から脱出したと思ったら、猪新のやつ急に「悔しい~」とか言いながら号泣しやがんだよ。あのときは宥めんのが大変だったぜ」

「お、おまっ! そういうことを言うんじゃねぇよ!」


 俺たちは「あはははは」と笑い声を上げる。
 緊張感がないわけではないのだが、まだ低階層ということもあってみんなにはまだ余裕があるのだ。


「カーバンクルがいます! 数は……12体」


 先頭からアリスさんの声が聞こえてきた。
 その瞬間俺たちの空気はピリッとする。


 炎夏さんは優吾たちの方を見て「本当に行けるのか?」と確認をすると、「任せてください」と力強く頷く。
 優吾がパーティメンバーを見渡して一度頷くと、『龍の灯火』は隊列を組んでから一斉に走り出した。

 カーバンクルは集団で襲っては来るし獰猛なのだが、個体としては大して強くはない。
 なので、優吾たちはここも余裕で抜けることだろう。
 あいつらは力もあるし、連携も優れているからな。

 そして、その予想通り優吾たちはあっさりとカーバンクルの群れを倒して、階層をドンドンと降って行った。
 その後も『龍の灯火』のみが戦って5階層まで行ったのだが、6階層目にDランクアラクネが現れると負けはしないものの、先ほどまでの余裕はなくなって来たので、万が一を考えて『マッド』がメインで戦うことになった。

 優吾たちは悔しそうな顔をしていたが、「お前たちならDランクでも問題なさそうだよ」と言われると少し嬉しそうな顔をしていた。
 もし優吾たちがDランクに上がると、中堅ハンターくらいの位置になる。
 高2でFランクにいるだけでも優秀なのに、Dランクになったら快挙とも言えるだろう。



 ―



 優吾たちから変わって戦闘をメインで行っている『マッド』の皆さんは、はっきり言って個人の強さもパーティの練度も『龍の灯火』より全然凄かった。
 確かに『龍の灯火』も練度が高かったが、『マッド』の動きを見てしまうと霞んでしまう。
 Bランクパーティでこのレベルだったら、Aランク、そしてSランクのパーティやクランはどうなってしまうのだろうか。

 ぶっちゃけ黒天を使用しないノーマルモードの俺が、一人で『マッド』と戦っても負けはしないし、苦戦もしないだろう。
 だからこそ、『マッド』の戦い方は学ぶことが多い。

 それを実感することが出来たのが、9階層目に出現したAランクダンジョンに生息するアルゴスが出てきてからだった。

 アルゴスとは、身体中に100個の目があるといわれている気持ち悪い魔獣だ。
 元はゴリラだと言われているだけあって力がある上に、目が100個あるので不意打ちが一切できないという恐ろしい化け物である。
 それでも『マッド』は、見事な連携でアルゴスを倒して、俺たちを10階層目に続く階段まで導いてくれた。

 ダンジョンとは不思議なもので、10階の区切りでボスと呼ばれる魔獣が1体だけ現れるのだ。
 そして、そのボスを倒すと約3時間は復活しないのだが、ボス自体が貴重なので引き渡し金額はかなり高額になる。
 そのため、前のパーティがボスを倒していたら、そのまま10階層の階段でリポップするのをのんびりと待つ場合が多い。

 しかし、たった1体とはいえその力は相当なものがある。
 そのため、ボスと戦って命を落とすハンターは比較的多いのだ。


「順調にボス前まで来れたな。じゃあ、今日のところはこれで終わりにしよう。『龍』と『清澄』はここに拠点を作ってくれ。他のパーティは魔獣狩りをしよう」


 ダンジョン内でキャンプをする際に、魔獣から襲われないように安全性を確保する必要がある。
 そのために、結界石と呼ばれる鉱石を配置して拠点作りを行って、その中にテントなどを設置するのだ。
 この結界石を約1m間隔で置くと、その内部の魔素は浄化されるので、魔獣が中に入って来れなくなるという優れ物。

 今回は総勢23人が集まっているので、それなりに大きな拠点が必要になってくる。
 なので結界石の配置やテントの設営など、ポーターがやることは結構多い。
 ちなみに、俺たち『清澄の波紋』がダンジョン内で拠点を作るのは初めてのことだった。

 というのも、休憩したくなったら黒衣にマッピングしてもらい、一度怪の国を経由してから我が家に戻れば良いからだ。
 なので、なんかキャンプしてる気分でワクワクしてしまう。
 そんな気分になっているのは俺だけではないようで、黒衣や瀬那もなんか楽しそうに作業をしていた。

 拠点が作り終わると、次は夕食作りだ。
 俺は徐にロックアップを取り出すと、出力ボタンを押してキッチン道具を取り出した。
 実は魔獣を閉じ込める用途以外にも、荷物を収納するために開発されたロックアップもあるのだ。
 そのため俺たちハンターは、軽装でダンジョンに潜ることができるので、魔獣との戦闘に集中することができる。

 ちなみに1ヶ月以上はダンジョンの中で生活できるくらいの食材もロックアップに入れているし、飲み水の他に生活用水だって確保している。
 つくづくロックアップって本当に神アイテムだと思う。
 これがないダンジョン生活なんで想像することできないよ!

 料理作りが終わった頃になると、魔獣狩りをしていた3つのパーティも戻ってきた。
 この魔獣狩りに一番積極的だったのは、現在Bランクの『マッド』の皆さんだった。
 というのも、安全な拠点があって油断さえしなければ倒すことができる、Aランクの魔獣と戦うことで自分たちの大幅なレベルアップが期待できるからだ。
 頑張った結果は上々だったのか、『マッド』の皆さんは全員ホクホク顔をしている。

 この日の晩御飯は、黒衣特製のハンバーグカレーだ。
 カレーは前日大量に鍋で作って寝かせていたので、コクが出てとても美味しい。

 どうやら優吾たちのパーティには、料理が得意なメンバーがいないらしいので、主に黒衣が担当することになりそうだった。
 というより、黒衣にやらせてもらいたい。
 ダンジョンの中で不味いご飯を食べさせられるのは、正直それだけでテンションが落ちてしまう。
 やはり、美味しい料理を食べるからこそ、明日も頑張るぞという気持ちになるというものだ。

 俺が言うことでもないのだが、これからも『灯火』がガチでダンジョンに潜るなら料理担当がいないとキツそうだな……。
 また、これに関しては、トップランクの皆様も同じことを思ったらしく、優吾たちに助言をしていた。
 特にBランク以降のダンジョンは、階層がCランクまでよりも遥かに深くなるらしく、踏破するのに結構時間を要するらしい。
 そのため、高ランクのパーティやクランは、料理担当が最低でも1人は必ずいるのが当たり前とのことだった。

 それにしても、花咲さんって見た目はとても料理とか作れそうなのに、全然だっていうのは意外だったな。
 俺がそんなことをぼんやり思っていると、何かを察知したのか花咲さんから睨まれてしまった。
 これが女の勘ってやつなのだろうか?
 こええ……。

 食事が終わると、俺たちは黒衣が入れてくれたコーヒーや紅茶を飲んでゆっくりと寛いでいた。
 結界石の外側では、魔獣がたまに歩いているのが見える。

 そして、俺は外の景色からチラリと横に目線をズラすと、『マッド』の皆様が優雅にティーパーティーをしていた。
 アリスさんはもちろんなんだけど、副リーダーの白ウサギさんをはじめ、みんなに気品が漂っている。
 まぁ、ハンター名だけはどうにかならなかったのだろうか、と思わざるを得ないのだが。

 明日は10階層目のボス戦か……。
 ボス戦では『マッド』だけではなく、『紅蓮』と『猪突猛進』の2パーティも一緒に戦うことになっている。
 一度『マッド』だけで勝利したといっても、体力を使い切ってしまっては意味がないからだ。

 やっとAランクパーティの実力を見ることが出来るのか。
 憧れていたトップランクパーティの戦いが見れるのはとても嬉しいことだった。
 そして、自分たちの実力が、日国内でどれくらいまでになっているかも分かることだろう。
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