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第16話 トイレの性能

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 失恋と引き換えに入手したトイレを持ち帰り、神人は母とヨレヨレになって帰宅した父と家族会議をしていた。

「わたしいの能力はあ、水洗。体内の毒素や不要なものどころか、その気になれば生気や栄養だって吸い込んで流しちゃうのおん。でもお、おトイレとして普通に使用するのだって当然可能よおん。ウォシュレットにビデに乾燥機能もついてるのおん。でもお、お坊ちゃまにはビデは必要ないわねえん。それとオナニー用の肉便器機能もついてるわぁん!」

 新たな家電として八百万家の一員となった、トイレの神様・イレット。しかし、八百万家ではなく、今度からは神人専用便所になると宣言し、父と母を呆れさせた。

「中古の女だろうが、安心しろ。歯ブラシも世界によっては靴だって磨くし、トイレだって磨く。御子様が体を預けられるぐらいピカピカにしてやる」
「ああん、ブラシィ、ありがっ、ああん、そんなとこ、磨いちゃ、んん、ダメええ!」

 ホームセンターのトイレだったという中古品であるために、ブラシィが具現化した歯ブラシでイレットの肌を磨いていく。
 ブラシィの歯ブラシとしての能力を最大限に活用するのならばキスをすることなのだが、キスは神人専用ということもあるので、このようなやり方をした。
 半裸状態で喘ぐイレットをくすぐる様に歯ブラシで隅から隅まで磨いていく。
 イレットはその快感にも似た心地よさにアヘっとした表情を浮かべていた。

「しかし、ホームセンターの事件は大変だったな。大事にならないといいが……」
「うん。話を聞いた限りだと、イレットに力を水洗された人たちも、時間をおけば回復するみたいだけど、さすがにあんなメチャクチャにしたら……」
「ねえ、イレットちゃん、それにブラシィちゃんたちも。こういう時、神様たちってどうしろとかっていう決まりはあるの?」

 イレットを受け入れることに、父も母も特に反対はなかったが、それでもあのホームセンターの騒ぎをどうすればよいのかと頭を抱えていた。

「俺、すっかり顔を覚えられたと思う。当然、ブラシィたちも。もうあのホームセンターにはいけないと思うし……っていうか、そこそこ大きな声で、『八百万』って名前も飛び交っていたし」

 しかし、そんな悩みを、イレットは歯ブラシプレイをしながらも、ちゃっかりと答えた。


「大丈夫ですうん。私の能力は水に流したり吸い込む能力うん。だからあ、既にィ、『問題あったけどどうでもいいや』って人に思わせるうん、『問題を水に流す』って能力使っちゃいましたあん!」

「えっ! そ、そんなすごいことまで出来るの? もう、トイレ関係ないじゃん!」

「そうよおん。坊ちゃまたちに出会えるまでの何年間も耐え抜いた神にだけ使える、上級の力あん。早々に出会えたブラシィたちには使えないわあん」


 神としてのスキルはブラシィたちをも上回っているとアピールするイレット。確かによくよく考えれば、一対一でイレットと戦えば、ブラシィたちは勝てなかっただろう。
 それをブラシィたちも理解しているからこそ、ムッとした顔をしても、反論をしなかった。

「じゃあ、問題ない……って考えていいのかな?」
「ええ、旦那さまあん。でもお、一つだけ……『どうしても流しきれない問題』っていうのもこの世にあってえ、それは強い強い重たい想い。それはつまっちゃってえ、私ぃでも流せないのおん。そう、あの場で、一つだけえ、私にも流せない問題があったわあん」

 神の力でも消すことの出来ない想い。そんなものがあの場にあったのかと、神人が首を傾げると……

「お坊ちゃまの、ハニーよおん」
「あちゃ~~~~~」

 それがあったと、神人は頭を抱えて項垂れた。

「神人くん?」
「お、おい、神人、ま、まさか、お前……あの、初めて出来たって彼女と……」
「うん。嫌われちゃったと思う……」

 両親が恐る恐る尋ねると、神人も落ち込んだ様子でガックリと項垂れた。

「あの場で、この子たちは、俺の歯ブラシで、ボディタオルで、掛け布団で、そんでイレットに、今日から俺のトイレになってくれとか言ったし……」

 まあ、無理だろう。
 正直な話、このことが噂になって学校中から嫌われることだって考えられる。
 弥美には当然悪いことをしたという罪悪感があるが、これからの生活を考えると、憂鬱で仕方が無かった。


「だ、大丈夫だ、御子様。恋人が居ようが居まいが、歯磨きでいつだって御子様をリフレッシュさせてやる!」

「終わったことをクヨクヨしてんじゃないわよ! その、きょ、今日は特別に、マットを使って、ローションゴシゴシしてあげるんだから、我慢しなさい!」

「どのようなツライ想いがされても、坊や様が快適な眠りが出来るよう、このアンファが体を使って精一杯癒します」

「お坊ちゃまァ、嫌な想いは全部流して上げるうん。スペシャルなウォシュレットで、もう、人間の女なんかじゃ満足できない御奉仕してあげるうん♪」


 そんな神人に体を精一杯押し付けてアピールする神々。
 優しく、いやらしく、官能的に神人を慰めようと誰もが体を張る気満々だった。

「ちょっとぉ! まだ、神人くんは高校生なのよ? その、あまり、その、ねえ? あなたからも言ってあげて!」

 あまり過激なものは控えてくれと母が顔を赤くして注意するが、そんな中で父には一つ気になることがあった。


「一つだけ……どうしても気になることがあるんだが……もし……もし、万が一だけど……君たちと神人に何かあったとして……その、それによって何かが変わるのかい?」

「「「「????」」」」

「だからその、た、例えば、……子供が出来ちゃうとか……」

「「「「子供というより、娘がデキます」」」」

「ッ、ま、まじ……あ、いや……そうか、子供が……娘は確定? でも、その子供も歯ブラシだったり、ゴシゴシタオルだったりするわけだけど……それってどういうことになるのかな?」

「「「「…………母娘どんぶりで、奉仕効果は倍になりますけれど?」」」」


 子供が出来るのは当たり前でしょう? 物が二つになったら、効果も倍になるのは当たり前だろう? それが何か?
 そんな冷静に返答する神々たちに、父も母も、そして神人も顔を真っ赤にして絶句した。


「御子様、きっと素敵だぞ? 私と娘が同時に御子様の歯をゴシゴシすれば、御子様の歯は人類史に名を残すほどの清潔な白い歯になるはずだ! フィンランド人も裸足で逃げ出すぞ?」

「私に娘が生まれたら、母娘サンドイッチという伝説の奥義ができるわ! 孕むのは嫌だけど、効果があがるんなら仕方が無いわ。だから、その……、いっぱいゴシゴシしてやるんだから!」

「母と娘と坊や様の三人で寝台に……でも、私には実は娘が既に……ふふふ、あの子はどうしているかしら?」

「ふふふふ、母娘揃っておぼっちゃまの便器いん! でも、娘は私と違って新品便器としてお坊ちゃまの便器になるわけだからあん、ちょっと羨ましいわあん!」


 っていうか、娘生む気満々とばかりに、既に娘が居ることを想定した事態に、神人はもう立ち上がれないぐらい恥ずかしくて顔を手で覆った。

「ん? あれ? アンファ……娘って……」
「ええ。私は神界に居た頃、『分裂出産』という方法で娘を生み出したことがあるのです」
「そ、そうなんだ……」
「ふふふ、ご安心ください。私が交わった殿方は坊や様だけですから♪」

 だが、そんな日常が冗談ではなくこれからも続いていくと考えただけど、本当に今後どうすべきなのかと悩まずには居られない神人であった。

「でも、かわいそうね……愛全さんって娘(こ)……神人くんのこと……多分、本気だったと思うから……」

 そんな中で、母親が切なそう表情を浮かべて、弥美のことを口にした。
 それは、神人も分かっている。ファーストキスまで捧げて、今日は本気で一線越える予定だったのだ。
 それを全て裏切るようなことをしてしまったのだから、何度謝っても誤り足りないものだろう。
 だが、神人はまだ分かっていなかった。

 愛全弥美が、どれだけ本気なのか。

 神人は、その本気を見誤っていた。

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