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第18話 幕間・鬼将軍(2)

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 王都の広場に集められた降伏した民たち。
 武器を没収されて縛られている騎士団たちも入れれば、この数は相当なもの。
 実際のところ、誰かが民衆の心に火をつけて決起すれば、数の力でまだ挽回できる可能性もあった。
 しかし、ほとんどの者たちがアッサリと降伏。
 吾輩の軍の者たちも少々肩透かしをしたようだった。


「な、なぜ、ワシがこのような……ワシは王だぞ! この国の国王だぞ! 選ばれた人間であるワシがどうしてこのようなことに!?」


 王でありながら、民を置いて真っ先に逃げようとした。
 そしてもはや完全に王国は敗北したというのに、見苦しく喚きたてる。

「いやだぁぁあああ、俺は、俺は生きるべきなんだ! お、おい、誰か助けろぉ、この俺を、助けろぉおお! 俺は王になる男だぁあ!」

 そして同じく見苦しい、今回の元凶の一人でもあり、この国が亡ぶきっかけを作った男もまた喚いている。
 だが、それを誰も助けることもなく、やがてその喚きも直ぐに無くなった。


 敵国の大将首と黒幕を「オーガ裂きの刑」にして首を晒すことで―――



 
 そして、トワレット王女は……

「いやぁ! お願いしますお願いしますお願いします! もう二度としませんから、おとうさま、おかあさま! いやぁ、シスゥ、助けてぇ! 姉である私が間違ってたから! 私はビトレイのバカに唆されただけよぉ! 助けてぇ、勇者テラ様あああああ!」

 そして最後の最後までビトレイ以上に醜く喚く王女については……

「ぶひ……こいつかわいい……ぶひ♪ 大将軍……こいつ、オデたちがもらっていいが?」

 吾輩が抱えている軍の中でも破壊力抜群の特攻部隊。
 しかし、常に手綱を引いていなければ、降伏した民たちにまで手を出す悩ましいオーク部隊。
 
「……いずれ死んだほうがマシだと思う命運でよければ……」

 ある程度の発散は考慮すべきと考え、どうせ処刑にするならばと、王女の身柄は奴らに委ねる。

「おめー、オデたちの便所」
「へ……? ちょ、いや、なんで!? せめてエルセに……ひ、いやぁ! 汚い、臭い! オーク何て絶対に――――!」

 本来であれば捕虜となった王の処刑など、配下や騎士団たちが決死隊になってでも救いにくるようなものだが、もはやこの国にそんな忠誠心や誇りを持った骨のあるやつは存在しなかった。
 そういう連中も恐らく先の大戦でテラと共に死んだのだろう。魔王軍、そして味方であるはずの帝国の手によって。
 だからこそここまで楽になった。
 ならば、楽になった分、せいぜい利用させてもらおう。


「もう終わりだ……この国はもう……俺たちも殺されるんじゃ……」

「で、でもよ、降伏したら助けてくれるって……」

「相手は魔族。しかもあの六煉獄将よ……私たちは皆……」

「うぅ……せめて……子供たちだけでも」


 恐怖と絶望に項垂れ、中には怯えて震える女子供もいる。
 それに対して吾輩は……


「怯えるな。獲るべき首は獲った以上、もはや戦は終わった。王族と黒幕以外、約束通り降伏した者たちにまで危害を加えるようなことは、大魔王様、そしてクローナ姫に代わってこのキハクがさせはしない」

「「「「ッッ!!??」」」」

「とはいえ、そなたら全員を捕虜や奴隷として置いておくわけにもゆかぬ。そのため、そなたらにはこのまま王都の門から外へと出て行ってもらおう。近隣の都市や他国に身を寄せるもよし、どこへでも行くがよい。他所に生きたくないなどという者は今よりも悲惨な奴隷の身分として捕虜とすることになる」

「「「「…………え!!??」」」」
 

 皆殺しにされる恐怖もあったのだろうが、降伏した者たちは一様に驚いた様子。
 魔族の奴隷になるか、死ぬか、それともこの地を捨てて他所に保護されることどちらが良いかと問われて迷うはずもない。


「あ、あの……ほ、本当に、そ、それだけなのですか!?」


 そして流石に異常だと思ったのだろう。
 王都を陥落して王を粛清した魔王軍の将のこの対応に。
 民衆の中から一人の男が立ち上がった。

「不服か?」
「い、いえ、そのようなことは……娘たちが凌辱されたりすることもなく、命まで見逃していただけるなど……」

 当然の疑問。
 さて、これに対して吾輩も柄ではないのだが……


「それは、姫様を通じてそのような寛大な慈悲を懇願した……エルセに感謝をすることだな……あやつはもう貴様らの前に立つことはないだろうがな」

「「「「ッッ!!??」」」」


 あやつはそんなことは言ってはいない。
 まぁ、態度からして「国は滅ぼしていいが、降伏した者たちには……ただし王とビトレイはダメだ」という感じだった。
 姫様もそれを承知したからこそ、吾輩にも耳打ちした。
 なので、嘘は言っていない。

「そ、そんな……エルセくんが……」
「うそ……私たちはあんなひどいことをしたのに……」
「じゃあ、エルセは……俺たちを見捨てたわけじゃないのか?」
「それなのに……それなのに私たちは……謝っても許してもらえないだろうけど、それでも……」

 そして、吾輩の言葉をアッサリと信じた単純な民衆は一人一人が心を抉られたように涙を流している。
 なるほど、これほど単純な国民だからこそ、アッサリと扇動されてしまったわけか。


「吾輩としては悩ましいところではあるが、しかし、貴様ら人間の中にテラのことを知る者が誰も居なくなるのは、最大の宿敵であった吾輩も避けたかった」

「え……テラ……くんの?」

「バカな王や貴族の所為で目を曇らされたはずだが、そなたらはテラの敗北の真実を知った。ならば、戦犯勇者として世界に名を遺すことになってしまったテラの汚名を晴らすことはそなたらにしかできぬ。無論、帝国の非道さもな……そうでなければ永遠にテラは浮かばれぬ……死ぬべきでなかったシス姫も……そしてテラと共に戦った兵たちも浮かばれぬであろう?」


 さて、こういう言い方をすればどうなるだろうか?
 すると、吾輩は呆れるしかなかった。
 何故ならば……

「お、俺は、俺は言うぞ! これから移る先の、街でも村でも他国でも……親戚とかダチとかにも言いふらす! 今回のこと!」
「わ、ワシもじゃ! どうしてワシらの国が滅んだのかの理由も伝えねばならぬ! ただ魔王軍にやられたからだけではないということを……」
「そうよ! エルセくんとジェニちゃんにもシス姫にも私たちはもう謝っても許されないなら……うん!」
「おう、皆で叫べばよ、どんどん広がるんじゃねえか?」

 嗚呼……この場にあの弟妹が居たら、絶望していただろうな……


「やるぞ! 俺たちでテラくんの真実を語るんだーッ!!!!」

「「「「オオオオーーーーーーッ!!!!!」」」」


 こんな簡単に世論というものはアッサリ移るのかと……いい加減なものだと……


「大将軍……大丈夫ですかね?」

「ふっ……数万人いる。一人や二人が叫んでも噂はすぐに消える……が、何万人もが各地で広めれば、ある程度の効果はあるであろう」


 そう……効果はあるはずだ。
 八勇将テラの死と何万人以上もの犠牲者を出した戦争は、実は帝国による工作だった。
 そのことを広めていけば、いずれ人類連合軍の結束に大きなヒビと疑心暗鬼を生み出すはず。
 本来、フェイクを入れたりの情報工作などは吾輩の主義ではないのだが……全て真実の情報であれば話は別だ。


「では、民衆を外へ出すよう指示を。民衆全てが王都から出たのを確認したら……この地を全て燃やし尽くせ。完全にな」

「はっ!」


 さて、どうなるかしばらく様子を見させてもらおう。
 ただ、一つ誤算だったのだが……


「あ、あの……一ついいですか?」

「むっ? ……なんだ? 人間の娘よ」


 そのとき、決起する民衆たちの中で違う行動をとる娘「たち」が前へ出て……


「エルセとジェニは……その……クローナ姫とこれから暮らすと……」

「ん? まぁ……そうだが……」

「……なら……それなら!」


 そして吾輩の前で土下座して……


「私たちを二人の奴隷にしてもらうことはできないでしょうか? ……なんでもします……それで少しでも直接エルセに償いたくて……」

「……な……ナンダト?」


 相手を指名して自ら奴隷になりたいと言われるとは思わなかった。
 これもまた少し想定外だった。

 
 しかし、エルセはこやつらをいらんと思うが……
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