祓い屋稼業も楽じゃない~凸凹コンビは今宵も現世を駆け抜ける~

市瀬瑛理

文字の大きさ
13 / 19

第13話 狙われた柊也

しおりを挟む
 これまでとは一変した光景。
 夜闇に包まれた公園では、巨大化した妖魔が鋭い双眸そうぼうを柊也たち三人に向けていた。

「優海さん!」

 柊也は、悲鳴を上げその場に座り込んでしまった優海を反射的に後ろに庇う。

「何ですか、あれは……!?」

 両手で口を覆った優海が目を見開き、震えた声で問う。
 今の優海には妖魔の声だけでなく、姿も認識できているらしい。

「優海さんにも見えてるってことは、まさか実体化……っ!?」

 嘘だろ、と柊也が唇を噛んだ。

「よく覚えてたね。ちゃんと覚えてたのは偉いよ」

 その様子に、継は妖魔を見据えたまま、軽口を返してくる。

 いつもであれば、「馬鹿にすんじゃねーぞ!」と怒る柊也だが、今はそんな余裕などなかった。初めて目の当たりにした妖魔の実体化に、驚きを隠せない。

 きっと継の軽口も、そんな気持ちを紛らわすためのものだろう。

「実体化って確か、普通の人間にも見えるようになるだけじゃなくて、妖魔がもっと強くなるってことだったよなぁ!?」

 柊也が優海を不安にさせないよう、わざと声を張り上げる。自覚はないが、自身を鼓舞するためでもあったかもしれない。

 ただ、今この台詞を大声で口にするのはあまり良くなかったはずだ。「妖魔がもっと強くなる」などと言っては、優海が逆にもっと不安になるのではないかと、柊也は後から気づいた。

 そんな柊也の心中を察しているのかはわからないが、継は冷静に言葉を紡いだ。

「そうだよ。見えるようになるってことは、それだけの力を持ってしまったってことだからね。でも実体化したのは僕も初めて見たよ」

 通常の妖魔が持つ妖気はそれほど大きくはない。そのため、危険がまったくないわけではないが、浄化は比較的簡単とも言える。

 しかしまれにだが、何らかの要因で妖気が一気に膨れ上がることがある。
 その結果、普通の人間にも姿が見えるようになってしまうことを『実体化』と呼んでいるのだ。

 妖気の大きさと妖魔の強さは比例しているので、当然浄化しにくくなる。
 しかも、『実体化』した妖魔は負の力だけで動いているので、なおさらたちが悪い。

「マジかよ……。じゃあどうすんだ?」
「そうだね、柊也は昨日と同じく自分と優海さんを守って。君はまだ浄化ができないから僕がやるよ。鳥型で素早いからどこまでできるかわからないけど」
「……わかった」

 ごくりと喉を鳴らしながら、柊也が神妙な面持ちで頷く。すると助けを求めるかのように、優海が柊也のジーンズの裾を掴んだ。

 柊也が振り返ると、座り込んだ優海は小柄な身体をさらに小さくして、声もなく震えている。頭はもうすぐ地面につきそうなところにまで下がっていた。

 こんな化け物を前にして怖くないはずがないのだ。柊也だってまったく怖くないと言えば嘘になる。

(俺が優海さんをちゃんと守らないと。絶対に負けらんねー……っ!)

 柊也は、地面のアスファルトを踏みしめる両足に力を込めた。

「じゃあ、そっちは任せたからね」

 そう言って、継が緋桜ひざくらつかに手を掛けた時だ。

『……オ前、美味ウマソウナ匂イガスルナ……。オ前ヲ食エバ優海ヲモット、ズット守レルカモシレナイ……』

 妖魔が柊也の方に顔を向ける。真っ黒な塊の中に浮かぶ、不気味で赤い瞳。まっすぐ射貫いぬいてくる視線に、柊也の身体が金縛りにあったように動けなくなった。

「な……っ!?」

 妖魔から目を逸らすことができず、息を吞む。

 柊也の頬をひやりとした風が撫でたのと同時に、妖魔のまとっている妖気が一気に膨れ上がった。柊也は巨大な身体がさらに何倍にも大きくなったような錯覚に陥る。

 その時だ。

「柊也! いけない!」

 継が大きな声を上げ、柊也を勢いよく突き飛ばした。

「──っ!」

 柊也は数メートル離れた場所に、派手な音を立てて倒れ込む。その横を妖魔の腕が掠めたことには気づかなかった。

 慌てて上半身を起こした柊也が見たのは、炎を纏わないただの刀の姿をした緋桜で妖魔の太い腕を受け止めている継の姿。

「継!」

 咄嗟とっさに柊也の口から零れたのは、悲痛な叫びにも似た声だけである。
 けれどそれを耳にした継は、柊也の方に顔を向けると柔らかな笑みを浮かべた。

「僕を誰だと思ってるの。これくらい平気だって。……行くよ、緋桜」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...