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第2章 柳田編
ACT.9 熊久保宣那
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わだすは熊久保宣那。もともとドリフトを嫌っていた。
それは、コースが汚れるのが嫌だったからだ。
中学時代、地元のサーキットで旗振りのアルバイトをしていた。路面にタイヤカスを撒き散らし、ラインを崩すドリ車にブラックフラッグを振ることもしばしば。“ドリフトは、他人の走りを邪魔する”という先入観が、いつしか自分の中で根を張っていた。
ある日、AE86レビンが走行していた。その車はドリフトをしており、わだすはブラックフラッグを振ったが、相手はやめることなく、態度を改めることもなかった。
「ルールを守れば問題ない」という条件を提示し、少しは態度が和らいだように感じた。
免許を取得後、ドリフトに挑戦してみた。経験者からのアドバイスもあり、驚くほど早くできるようになった。自分の才能に自信を持つと、学生限定のドリフト大会に参加し、その大会で好成績を収めた。
その後、GDB型インプレッサWRXをFR化し、さらなる技術向上を目指して参戦。翌年にはランサーエボリューション9に乗り換え、さらに本格的な戦いを繰り広げた。
現在は「旧車で相手を倒す」というロマンを抱き、C33ローレルを駆り、昨年ついにドリフト甲子園で優勝を果たした。
今、わだすは葛西サクラに勝ったワンエイティと勝負している。
ドリフト甲子園の優勝者としての誇りを胸に、負けるわけにはいかない。
「川ちゃんとくにを倒したから、すげえ腕を持ってるな、赤城で雨原芽来夜に次ぐ実力を持つ葛西サクラを本当に倒した走り屋だって分かるだろう! 威圧感がやべぇけど、わだすはうっしゃろの怪物に勝ってやる! 20年以上前のFRセダン、ナメるなよ!」
ついに最後の相手、オレンジのC33ローレルとの勝負が始まる!
サクラ・ゾーンが終わり、第2高速セクションの入り口にあるジグザグゾーンに差し掛かる。
「わだすの覚醒技の力、見せてやっからな!」
前のC33はジグザグゾーンに入った途端、左、右、左、右、左、右と次々と曲線を攻め、そのたびに突っ込みの速さが増していく。
「これがわだすの覚醒技の力だべ!」
「なんだ? 抜けるたびにコーナリングが速くなっている!?」
六荒はC33の動きを見て驚いていた。
それは、コーナーごとに車の挙動精度を高めていく“連続進化型覚醒技”。まるで車がドライバーと一体化しながら、加速的に学習していくかのような走りだった。
「速い! 一生懸命攻めても、こっちが付いて行くのが辛いほどのコーナリングだよ! 腕なのか、性能なのか?」
「特別な能力を持ってるくせに、そんなこと言うなよ」
さっきのHCR32に続き、覚醒技、やっぱり異常だ。
ワンエイティの突っ込みが苦しくなるほど、C33はその旋回性能を発揮していく。
ジグザグゾーンを抜けると、本格的な高速セクションが始まる!
「わだすのC33は20年前に作られた旧車だが、旧車を舐めるなよ! その底力、見せてやる!」
「前のC33、直線でも速い!」
コーナーだけでなく、直線でも圧倒的な勢いを見せる。
このC33に搭載されているRB20DETは、430馬力、49.5kg・mのトルクを持つチューンエンジンだ。
おれのワンエイティのRB26DETTのスペックを上回っている。
かなりのチューンが施されたC33は、おれを引き離していく。
先頭のC33は第2高速セクションを終わると、左ヘアピンへと進入する。
「<コンパクト・メテオ>!」
C33乗りが持つ覚醒技によって、突っ込み性能がさらに上がっている。この技は強力になっている。
次の右ヘアピンでは技を使わず、ドリフトで抜けていき、第1高速セクションに入った。
「速いコーナリングだ。強力な<コンパクト・メテオ>だ。どう対抗すればいいんだ?」
次のコーナーのことを考えながら、おれは必死に走行を続ける。
今、連戦の疲れで精神力を大きく消耗している。
川畑や小鳥遊の技を喰らいながらの戦いの結果、体力が限界に近づいてきた。
現在、おれは半分やられている。
クルマの操作が辛くなり、疲労が急激に蓄積していく。
「どう攻めるか。そうだ、次の2つのコーナーを一気に、再び気合いで攻めてみよう!」
「いく気なのか?」
「そのつもりだよ。」
この後、おれは左U字コーナーと突き当たりのヘアピンに入る。
ブレーキを踏み、サイドブレーキを引き、ハンドルを回転させる。
左U字コーナーでは普通にドリフトしながら攻め、突き当たりではタキオン粒子を纏う。
「ぶっちぎってやる……! フライ・ミー・ソー・ハイッ!!」
速さを増して突っ込んでいく!
隣にいる六荒はその走りに耐えるため、アシストグリップを強く掴んだ。
「わだすにづいでごれる奴はすごいだ!」
さっきのおれの突っ込みを見て、熊久保は驚きの表情を浮かべた。
「でも、直線ではこっちが上だべ!」
次は第1高速セクション。
パワーの勝るC33が加速し、GCG製ターボ、エンジンブロックの強化、フル鍛造ピストンがついたRB20のサウンドを響かせながら、おれを離していく。
「しばらくは使えねーが、おらの走りにづいで来られるべ?」
第1高速セクションを終えると、右ヘアピンに突入。
覚醒技の能力でさらに速くなった旋回性能から、ドリフトで突っ込む。
後攻のおれも少し遅れて入る。
「イケイケイケイケェー!」
技を使わなかったが、気合のドリフトで攻める。
C33と互角だ。
短い直線を抜けて、左S字ヘアピンに突入する。
予告通り、能力で引き上げた旋回性能を使い、ドリフトを連発しながら攻めていく。
「どうしだんだべ!? わざとゆっぐりなグリップで攻めたんか?」
C33乗りは、おれの作戦に気づいていない。
U字コーナーを抜け、さらに短い直線を抜けて3連続ヘアピンに入る。
左、右、右と続くコーナーで、C33は最初の2つを技を使わずにドリフトで抜けていく。
少し離されていたおれも遅れて入る。
1つ目、2つ目では時速70km/hほどでグリップ走行していたが、左ヘアピンでは気合を入れて早めにブレーキを踏み、立ち上がりを重視したドリフトで攻める。
「わだすのドリフド以上のゴーナリングした奴はいねぇがったべ!」
気合いを入れたドリフトが自分より速いと、C33乗りは驚きを隠せなかった。
コースの距離が少なくなり、次は直線に突入する。
RB20とRB26のサウンドが交差し、タコメーターがレッドゾーンに突入した瞬間、両者シフトアップを果たす。
「パワーのあるC33の方が優勢だと考えられていた。しかし!」
「直線でも、まだ追いづいでぐるだと……!?」
脱出時のラインを完璧に描いたワンエイティが、C33のリアバンパーにピタリと張り付く。距離ゼロ。勝負は最終局面に突入した。
「もう逃げられないよ!」
2台は直線を終え、道幅の広い緩やかな左コーナーに差しかかる。C33はドリフトで攻める。後ろのおれも入り込み、必死に食らいつく。だが、距離は一気に広がる。
「もう終わりだべ。ついにあそごでわだすの最終兵器を繰り出すとしようだ……」
残るコーナーは一つだけとなった。C33乗りが予告する。
一方、おれは冷静に言った。
「ずっと前のコーナーでドリフトを使わなかったのはタイヤの温存だよ」
「そうなのか、納得したぜ」
温存した分を終盤で一気に使う。この後、抜かないともう後がない。今のポジションでは負けてしまう。
「いよいよ最終ヘアピン! わだすの最終兵器、行ぐべ!」
最後のヘアピンに突入。2台のテールランプが流れる。先にC33が内側に入り、おれは外側から攻める。
「小山田疾風流<フライ・ミー・ソー・ハイ>!」
風のように舞うタキオン粒子を纏い、猛烈なスピードで突っ込む!
「超速舞流<大外刈スクリュー>!」
次の瞬間、技がぶつかり合い、2色のタキオン粒子がイリュージョンを描く。
「絶対に追い抜くッ! イケイケイケイケイケイケェーッ!」
「おめーはもう終わりだべ! わだすは勝っだだァ~!」
熊久保は勝ち誇っているものの、果たしてどちらが勝つのか?
次の瞬間!
「……なして……わだすが……30年落ちのローレルが、負けっこない走りをしたはずなのに……いや、負けたべ……あいつの“覚悟”に……。」
おれの方が先に出たようだ!
「少し先に技を使ったんだよ」
「それだから速く出られたのか」
「抜かれても抜き返す! 仕返しだあ~!」
半沢直樹を彷彿ささせる台詞で接近しようとするが、<大外刈スクリュー>の代償が襲いかかる!
「うわ!」
C33はフラフラと直線を走り、ガードレールに接触しながらスピンした。
<大外刈スクリュー>を使うと精神力が消耗する。反動でミスが出やすくなったのだ。
「昨年度学生ドリフド甲子園ヂャンピオンの自分が負けだべ。相手は葛西サグラに勝っだ走り屋だと分がるだ――」
熊久保が呟く。その瞬間、おれは3台を抜き、勝利を収めた。
激しいバトルを終えた4台はヒルクライムのスタート地点前の駐車場に入る。 それぞれの車から5人が降り立つ。
智姉さんはおれと六荒を心配そうに見つめた。
その視線に、おれも少し不安な気持ちになる。
「バトルは勝てたのか?」
「勝てました。でも、厄介な戦いだった末に……」
無事に報告を終えると、智姉さんは安心した表情を浮かべた。
「勝ててよかったな……」
その時、熊久保が声をかけてきた。
「中々の腕だっだべ。さすが、葛西サクラを倒した走り屋だぁ!」
「その年でくにちゃんたちに勝つなんて、恐ろしい才能だね!」
小鳥遊もおれの勝利を称賛してくれた。
「これから3人まとめて、オオサギさん……いや、サギさんとお世話になるべ!」
「よろしくね!それぞれクマさん、タカさん、川さんと呼ぼうかな」
名前を付けられたおれたちも返す。
「賛成だべ」
「ピッタリな名前だね」
「呼んでもええで」
その名前はすぐに受け入れられた。
「では、よろしくね。クマさん、タカさん、川さん!」
智姉さんが3人組をじっと見つめ、ふと思いついたように言った。
「せっかくだから、お前たち3人に名前を付けたいんだ」
「おらだち、アイドルデビューするんだべ?」
「それではない」
どんな名前が付けられるんだろう?
スリーアミーゴス?それともトリオ・ザ・捜一?
カッコいい名前を期待していた。
「どんな名前になるんだろう?」
「うち、緊張するわ」
タカさんと川さんも、心臓がドキドキしている様子だった。
「お前たちの名前は……プラズマ3人娘だ。3人とも、"プラズマ"の異名を持つRB20搭載の車に乗っているからな」
3人の車にぴったりな名前だと感じた。
「プラズマ3人娘か……いい名前だべ!」
「かっこいいよ!」
「賛成やで!」
こうして、3人組には新たな名前がつけられた。
彼女たちはおれの仲間となり、友達が一気に増えたように感じた。
激戦の火が消えた赤城。深夜11時。駐車場に残るのは、冷えたターボと、ふたりの女の未完の想い──。オレと柳田マリア。Z33型フェアレディZとJZA80型スープラ。勝敗のつかなかった者たちが、再び火を灯す。
「よぉ、サクラ! こないだのバトルで負けて、落ち込んでるんじゃねぇの?」
「別に落ち込んでない…」
「赤城でもDUSTWAYでも、雨原に次ぐ実力を持つお前が負けるなんて、ちょっとびっくりしたじゃん! それに、勝ったワンエイティ乗りの大崎翔子に、あたしは挑みたいじゃんよ!」
「オオサキにバトル…?」
「そう!戦いたいんじゃんよ!ヒルクライムで勝負しようってわけじゃん!」
挑むつもりか…。
甘く見ない方がいいぞ…。
「バトルを挑んだか…NAだったVQ35に後付けツインターボを載せて480馬力にパワーアップさせたZ33なら、お前の方が有利かもしれない…でも、斎藤智がお前の対策を考えて、あいつに作戦を指示するかもしれないな。」
あいつは伝説の走り屋という後ろ盾がある。
「伝説の走り屋が考えた作戦で、あたしとZ33が負けるってことか?」
「そうかもな。」
柳田は、少し言葉を返してきた…。
「ならサクラ、あたしとヒルクライム勝負しようぜ」
「興味ないな…」
しかし、断ろうとした瞬間、
「興味ないだとォ!? サクラ、バトルで負けた影響で、バトルを怖がってるんじゃねーか?」
「怖がってない…興味ないだけだ…だが、お前の走りだけは見てみたい…」
「バトルは興味ねーけど、あたしの走りは見てーんだな。じゃあ決まりじゃん! 今からヒルクライム、行くぜ!」
「言っとくが…オレは走る気はない。オレは着いて行くだけだ…勝負だと思ってない…最初からお前の勝ちで、不戦勝だ…」
ヒルクライムが始まった。
ただし、オレはこれをバトルだとは思っていない…柳田に着いて行くだけだと決めた。
すぐにコーナーに差し掛かる。
柳田はテールを光らせず、サイドブレーキを使ってドリフトで突っ込んだ。
「いつもの技か…」
"フットブレーキを使わないサイドブレーキドリフト"だ。
スピードを落とさずにドリフトできるテクニックだが、上級者向けで、使うのは非常に危険だ。絶対に真似しないように…。
オレはドリフトせず、ゆっくりとコーナーに入っていく…。
「ついていくだけだ…」
次のヘアピンに差し掛かる。
柳田はまたサイドブレーキを使ってドリフトで突っ込んでいく。
オレは無理せず、ゆっくり走る。だんだんと離されていく…。
「速いじゃん!あたしのサイドブレーキドリフト、サクラはどうしたじゃん?手加減するから、どんどん離れていくじゃん!」
「重いZ33のくせに、よくあんなに速く突っ込めるな…。オレのJZA80より重い1400kgだが、もし本気を出したら、ノーマルの10倍曲がると言われたこのJZA80といい勝負できるかもしれないな…」
柳田のサイドブレーキドリフト、よく曲がっている。
オオサキのワンエイティよりも速いかもしれない…。ものすごいキレだ。
次の3つ目、4つ目のコーナーでも、柳田はサイドブレーキドリフトで突っ込んでいく。
一方、オレは「勝負したくない」という気持ちでわざと手加減しているため、どんどん差が開いていく。
5連続ヘアピンを越えた頃、柳田の姿はオレの視界から消えていった。
ヒルクライムが終わり、2台の車は頂上に到着した。
柳田がゴールしてから、オレがゴールするまでにはかなりの時間がかかった。
バトルが終わると、ドライバーたちは自然に会話を始めた。
「すごく遅れてゴールしてきたじゃん」
「オレはバトルする気がなかったんだ…」
「本当にバトルする気があったら、あれは競争になって良かったのに。だけど、お前が競争しなかったから、結局フリーランになったじゃん」
オレは少し考えてから、柳田の走りについて尋ねてみる。
「いつも通り、フットブレーキを使わずにサイドブレーキを使っていたな…」
「当然じゃん! それがあたしの技だもん。その効果は、サイドブレーキの制動力とハンドリング性能を50%上昇させるってわけ」
「それは知ってるよ…」
柳田の覚醒技「ノーフットブレーキング流」については、すでに聞き覚えがあった。
「それを知ってて、あたしから教えたことを気にするなよ。次のバトルでは、大崎翔子に勝てなかった君を代わりにやっつけてあげるよ!」
果たして、柳田は本当に大崎翔子に勝てるのか?
オレはその答えを心の中で問いながら、しばらく考え込んでいた…。
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それは、コースが汚れるのが嫌だったからだ。
中学時代、地元のサーキットで旗振りのアルバイトをしていた。路面にタイヤカスを撒き散らし、ラインを崩すドリ車にブラックフラッグを振ることもしばしば。“ドリフトは、他人の走りを邪魔する”という先入観が、いつしか自分の中で根を張っていた。
ある日、AE86レビンが走行していた。その車はドリフトをしており、わだすはブラックフラッグを振ったが、相手はやめることなく、態度を改めることもなかった。
「ルールを守れば問題ない」という条件を提示し、少しは態度が和らいだように感じた。
免許を取得後、ドリフトに挑戦してみた。経験者からのアドバイスもあり、驚くほど早くできるようになった。自分の才能に自信を持つと、学生限定のドリフト大会に参加し、その大会で好成績を収めた。
その後、GDB型インプレッサWRXをFR化し、さらなる技術向上を目指して参戦。翌年にはランサーエボリューション9に乗り換え、さらに本格的な戦いを繰り広げた。
現在は「旧車で相手を倒す」というロマンを抱き、C33ローレルを駆り、昨年ついにドリフト甲子園で優勝を果たした。
今、わだすは葛西サクラに勝ったワンエイティと勝負している。
ドリフト甲子園の優勝者としての誇りを胸に、負けるわけにはいかない。
「川ちゃんとくにを倒したから、すげえ腕を持ってるな、赤城で雨原芽来夜に次ぐ実力を持つ葛西サクラを本当に倒した走り屋だって分かるだろう! 威圧感がやべぇけど、わだすはうっしゃろの怪物に勝ってやる! 20年以上前のFRセダン、ナメるなよ!」
ついに最後の相手、オレンジのC33ローレルとの勝負が始まる!
サクラ・ゾーンが終わり、第2高速セクションの入り口にあるジグザグゾーンに差し掛かる。
「わだすの覚醒技の力、見せてやっからな!」
前のC33はジグザグゾーンに入った途端、左、右、左、右、左、右と次々と曲線を攻め、そのたびに突っ込みの速さが増していく。
「これがわだすの覚醒技の力だべ!」
「なんだ? 抜けるたびにコーナリングが速くなっている!?」
六荒はC33の動きを見て驚いていた。
それは、コーナーごとに車の挙動精度を高めていく“連続進化型覚醒技”。まるで車がドライバーと一体化しながら、加速的に学習していくかのような走りだった。
「速い! 一生懸命攻めても、こっちが付いて行くのが辛いほどのコーナリングだよ! 腕なのか、性能なのか?」
「特別な能力を持ってるくせに、そんなこと言うなよ」
さっきのHCR32に続き、覚醒技、やっぱり異常だ。
ワンエイティの突っ込みが苦しくなるほど、C33はその旋回性能を発揮していく。
ジグザグゾーンを抜けると、本格的な高速セクションが始まる!
「わだすのC33は20年前に作られた旧車だが、旧車を舐めるなよ! その底力、見せてやる!」
「前のC33、直線でも速い!」
コーナーだけでなく、直線でも圧倒的な勢いを見せる。
このC33に搭載されているRB20DETは、430馬力、49.5kg・mのトルクを持つチューンエンジンだ。
おれのワンエイティのRB26DETTのスペックを上回っている。
かなりのチューンが施されたC33は、おれを引き離していく。
先頭のC33は第2高速セクションを終わると、左ヘアピンへと進入する。
「<コンパクト・メテオ>!」
C33乗りが持つ覚醒技によって、突っ込み性能がさらに上がっている。この技は強力になっている。
次の右ヘアピンでは技を使わず、ドリフトで抜けていき、第1高速セクションに入った。
「速いコーナリングだ。強力な<コンパクト・メテオ>だ。どう対抗すればいいんだ?」
次のコーナーのことを考えながら、おれは必死に走行を続ける。
今、連戦の疲れで精神力を大きく消耗している。
川畑や小鳥遊の技を喰らいながらの戦いの結果、体力が限界に近づいてきた。
現在、おれは半分やられている。
クルマの操作が辛くなり、疲労が急激に蓄積していく。
「どう攻めるか。そうだ、次の2つのコーナーを一気に、再び気合いで攻めてみよう!」
「いく気なのか?」
「そのつもりだよ。」
この後、おれは左U字コーナーと突き当たりのヘアピンに入る。
ブレーキを踏み、サイドブレーキを引き、ハンドルを回転させる。
左U字コーナーでは普通にドリフトしながら攻め、突き当たりではタキオン粒子を纏う。
「ぶっちぎってやる……! フライ・ミー・ソー・ハイッ!!」
速さを増して突っ込んでいく!
隣にいる六荒はその走りに耐えるため、アシストグリップを強く掴んだ。
「わだすにづいでごれる奴はすごいだ!」
さっきのおれの突っ込みを見て、熊久保は驚きの表情を浮かべた。
「でも、直線ではこっちが上だべ!」
次は第1高速セクション。
パワーの勝るC33が加速し、GCG製ターボ、エンジンブロックの強化、フル鍛造ピストンがついたRB20のサウンドを響かせながら、おれを離していく。
「しばらくは使えねーが、おらの走りにづいで来られるべ?」
第1高速セクションを終えると、右ヘアピンに突入。
覚醒技の能力でさらに速くなった旋回性能から、ドリフトで突っ込む。
後攻のおれも少し遅れて入る。
「イケイケイケイケェー!」
技を使わなかったが、気合のドリフトで攻める。
C33と互角だ。
短い直線を抜けて、左S字ヘアピンに突入する。
予告通り、能力で引き上げた旋回性能を使い、ドリフトを連発しながら攻めていく。
「どうしだんだべ!? わざとゆっぐりなグリップで攻めたんか?」
C33乗りは、おれの作戦に気づいていない。
U字コーナーを抜け、さらに短い直線を抜けて3連続ヘアピンに入る。
左、右、右と続くコーナーで、C33は最初の2つを技を使わずにドリフトで抜けていく。
少し離されていたおれも遅れて入る。
1つ目、2つ目では時速70km/hほどでグリップ走行していたが、左ヘアピンでは気合を入れて早めにブレーキを踏み、立ち上がりを重視したドリフトで攻める。
「わだすのドリフド以上のゴーナリングした奴はいねぇがったべ!」
気合いを入れたドリフトが自分より速いと、C33乗りは驚きを隠せなかった。
コースの距離が少なくなり、次は直線に突入する。
RB20とRB26のサウンドが交差し、タコメーターがレッドゾーンに突入した瞬間、両者シフトアップを果たす。
「パワーのあるC33の方が優勢だと考えられていた。しかし!」
「直線でも、まだ追いづいでぐるだと……!?」
脱出時のラインを完璧に描いたワンエイティが、C33のリアバンパーにピタリと張り付く。距離ゼロ。勝負は最終局面に突入した。
「もう逃げられないよ!」
2台は直線を終え、道幅の広い緩やかな左コーナーに差しかかる。C33はドリフトで攻める。後ろのおれも入り込み、必死に食らいつく。だが、距離は一気に広がる。
「もう終わりだべ。ついにあそごでわだすの最終兵器を繰り出すとしようだ……」
残るコーナーは一つだけとなった。C33乗りが予告する。
一方、おれは冷静に言った。
「ずっと前のコーナーでドリフトを使わなかったのはタイヤの温存だよ」
「そうなのか、納得したぜ」
温存した分を終盤で一気に使う。この後、抜かないともう後がない。今のポジションでは負けてしまう。
「いよいよ最終ヘアピン! わだすの最終兵器、行ぐべ!」
最後のヘアピンに突入。2台のテールランプが流れる。先にC33が内側に入り、おれは外側から攻める。
「小山田疾風流<フライ・ミー・ソー・ハイ>!」
風のように舞うタキオン粒子を纏い、猛烈なスピードで突っ込む!
「超速舞流<大外刈スクリュー>!」
次の瞬間、技がぶつかり合い、2色のタキオン粒子がイリュージョンを描く。
「絶対に追い抜くッ! イケイケイケイケイケイケェーッ!」
「おめーはもう終わりだべ! わだすは勝っだだァ~!」
熊久保は勝ち誇っているものの、果たしてどちらが勝つのか?
次の瞬間!
「……なして……わだすが……30年落ちのローレルが、負けっこない走りをしたはずなのに……いや、負けたべ……あいつの“覚悟”に……。」
おれの方が先に出たようだ!
「少し先に技を使ったんだよ」
「それだから速く出られたのか」
「抜かれても抜き返す! 仕返しだあ~!」
半沢直樹を彷彿ささせる台詞で接近しようとするが、<大外刈スクリュー>の代償が襲いかかる!
「うわ!」
C33はフラフラと直線を走り、ガードレールに接触しながらスピンした。
<大外刈スクリュー>を使うと精神力が消耗する。反動でミスが出やすくなったのだ。
「昨年度学生ドリフド甲子園ヂャンピオンの自分が負けだべ。相手は葛西サグラに勝っだ走り屋だと分がるだ――」
熊久保が呟く。その瞬間、おれは3台を抜き、勝利を収めた。
激しいバトルを終えた4台はヒルクライムのスタート地点前の駐車場に入る。 それぞれの車から5人が降り立つ。
智姉さんはおれと六荒を心配そうに見つめた。
その視線に、おれも少し不安な気持ちになる。
「バトルは勝てたのか?」
「勝てました。でも、厄介な戦いだった末に……」
無事に報告を終えると、智姉さんは安心した表情を浮かべた。
「勝ててよかったな……」
その時、熊久保が声をかけてきた。
「中々の腕だっだべ。さすが、葛西サクラを倒した走り屋だぁ!」
「その年でくにちゃんたちに勝つなんて、恐ろしい才能だね!」
小鳥遊もおれの勝利を称賛してくれた。
「これから3人まとめて、オオサギさん……いや、サギさんとお世話になるべ!」
「よろしくね!それぞれクマさん、タカさん、川さんと呼ぼうかな」
名前を付けられたおれたちも返す。
「賛成だべ」
「ピッタリな名前だね」
「呼んでもええで」
その名前はすぐに受け入れられた。
「では、よろしくね。クマさん、タカさん、川さん!」
智姉さんが3人組をじっと見つめ、ふと思いついたように言った。
「せっかくだから、お前たち3人に名前を付けたいんだ」
「おらだち、アイドルデビューするんだべ?」
「それではない」
どんな名前が付けられるんだろう?
スリーアミーゴス?それともトリオ・ザ・捜一?
カッコいい名前を期待していた。
「どんな名前になるんだろう?」
「うち、緊張するわ」
タカさんと川さんも、心臓がドキドキしている様子だった。
「お前たちの名前は……プラズマ3人娘だ。3人とも、"プラズマ"の異名を持つRB20搭載の車に乗っているからな」
3人の車にぴったりな名前だと感じた。
「プラズマ3人娘か……いい名前だべ!」
「かっこいいよ!」
「賛成やで!」
こうして、3人組には新たな名前がつけられた。
彼女たちはおれの仲間となり、友達が一気に増えたように感じた。
激戦の火が消えた赤城。深夜11時。駐車場に残るのは、冷えたターボと、ふたりの女の未完の想い──。オレと柳田マリア。Z33型フェアレディZとJZA80型スープラ。勝敗のつかなかった者たちが、再び火を灯す。
「よぉ、サクラ! こないだのバトルで負けて、落ち込んでるんじゃねぇの?」
「別に落ち込んでない…」
「赤城でもDUSTWAYでも、雨原に次ぐ実力を持つお前が負けるなんて、ちょっとびっくりしたじゃん! それに、勝ったワンエイティ乗りの大崎翔子に、あたしは挑みたいじゃんよ!」
「オオサキにバトル…?」
「そう!戦いたいんじゃんよ!ヒルクライムで勝負しようってわけじゃん!」
挑むつもりか…。
甘く見ない方がいいぞ…。
「バトルを挑んだか…NAだったVQ35に後付けツインターボを載せて480馬力にパワーアップさせたZ33なら、お前の方が有利かもしれない…でも、斎藤智がお前の対策を考えて、あいつに作戦を指示するかもしれないな。」
あいつは伝説の走り屋という後ろ盾がある。
「伝説の走り屋が考えた作戦で、あたしとZ33が負けるってことか?」
「そうかもな。」
柳田は、少し言葉を返してきた…。
「ならサクラ、あたしとヒルクライム勝負しようぜ」
「興味ないな…」
しかし、断ろうとした瞬間、
「興味ないだとォ!? サクラ、バトルで負けた影響で、バトルを怖がってるんじゃねーか?」
「怖がってない…興味ないだけだ…だが、お前の走りだけは見てみたい…」
「バトルは興味ねーけど、あたしの走りは見てーんだな。じゃあ決まりじゃん! 今からヒルクライム、行くぜ!」
「言っとくが…オレは走る気はない。オレは着いて行くだけだ…勝負だと思ってない…最初からお前の勝ちで、不戦勝だ…」
ヒルクライムが始まった。
ただし、オレはこれをバトルだとは思っていない…柳田に着いて行くだけだと決めた。
すぐにコーナーに差し掛かる。
柳田はテールを光らせず、サイドブレーキを使ってドリフトで突っ込んだ。
「いつもの技か…」
"フットブレーキを使わないサイドブレーキドリフト"だ。
スピードを落とさずにドリフトできるテクニックだが、上級者向けで、使うのは非常に危険だ。絶対に真似しないように…。
オレはドリフトせず、ゆっくりとコーナーに入っていく…。
「ついていくだけだ…」
次のヘアピンに差し掛かる。
柳田はまたサイドブレーキを使ってドリフトで突っ込んでいく。
オレは無理せず、ゆっくり走る。だんだんと離されていく…。
「速いじゃん!あたしのサイドブレーキドリフト、サクラはどうしたじゃん?手加減するから、どんどん離れていくじゃん!」
「重いZ33のくせに、よくあんなに速く突っ込めるな…。オレのJZA80より重い1400kgだが、もし本気を出したら、ノーマルの10倍曲がると言われたこのJZA80といい勝負できるかもしれないな…」
柳田のサイドブレーキドリフト、よく曲がっている。
オオサキのワンエイティよりも速いかもしれない…。ものすごいキレだ。
次の3つ目、4つ目のコーナーでも、柳田はサイドブレーキドリフトで突っ込んでいく。
一方、オレは「勝負したくない」という気持ちでわざと手加減しているため、どんどん差が開いていく。
5連続ヘアピンを越えた頃、柳田の姿はオレの視界から消えていった。
ヒルクライムが終わり、2台の車は頂上に到着した。
柳田がゴールしてから、オレがゴールするまでにはかなりの時間がかかった。
バトルが終わると、ドライバーたちは自然に会話を始めた。
「すごく遅れてゴールしてきたじゃん」
「オレはバトルする気がなかったんだ…」
「本当にバトルする気があったら、あれは競争になって良かったのに。だけど、お前が競争しなかったから、結局フリーランになったじゃん」
オレは少し考えてから、柳田の走りについて尋ねてみる。
「いつも通り、フットブレーキを使わずにサイドブレーキを使っていたな…」
「当然じゃん! それがあたしの技だもん。その効果は、サイドブレーキの制動力とハンドリング性能を50%上昇させるってわけ」
「それは知ってるよ…」
柳田の覚醒技「ノーフットブレーキング流」については、すでに聞き覚えがあった。
「それを知ってて、あたしから教えたことを気にするなよ。次のバトルでは、大崎翔子に勝てなかった君を代わりにやっつけてあげるよ!」
果たして、柳田は本当に大崎翔子に勝てるのか?
オレはその答えを心の中で問いながら、しばらく考え込んでいた…。
TheNextLap
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