14 / 52
第2章 柳田編
ACT.10 柳田マリア
しおりを挟む
3月31日。3月も終わろうとしていた。
午前0時の「和食さいとう」に、一台の車がやってきた。
Z33の後ろに据えられたR34純正のリアウイング。まるで“ガンダムにドカジャンを羽織らせたような”――近未来にねじ込まれた昭和の武骨さが浮き彫りになる。
ただの改造車ではない。あの車からは、ただならぬ気配が漂っていた。
──プラズマ3人娘よりも、やっかいかもしれない。油断はできない。
「VQ35の音だったな。しかもターボのサウンドだった。もしかして……」
布団から半身を起こし、作務衣のまま呟く智姉さん。「その目が、氷のように鋭くなる。一瞬で、見覚えを思い出していた。
ドアが開き、ドライバーが入ってきた。
「いらっしゃ──って、お前は……! 榛名最速チーム・WHITE.U.F.OのNo.2、柳田マリアじゃあないか!」
「そうじゃん。」
「今から寝るところだったんだぞ……」
Z33のドライバーは、やはり走り屋だった。そして──目的ははっきりしていた。
「あたしが倒したいのは、サクラに勝ったっていうワンエイティ乗りじゃん。ここにいるんだろ?」
「今呼んでくる。オオサキー! 深夜だけどお客さんだー!」
智姉さんに呼ばれたおれは、眠気まなこで階段を下りてくる。
同じく作務衣のまま。
「今から寝るところだったんだけどな……深夜に何の用?」
柳田の目には挑戦者の光があった。
(……幼そうに見えるが、もしかしてこいつ……)
おれの脳裏には、一抹の不安がよぎった。
「あたしのZ33で、あんたに登りで勝つ。それだけじゃん。受けるよな? 時間は今度の土曜日、4日の夜11時。どう?やるのか?」
「どうする、オオサキ?」
おれは走り屋としての礼儀を守り、静かに答えた。
「──バトル、受ける!」
これもまた、日本一の走り屋になるための道だ。
「よっしゃ、決まりじゃん!土曜の夜11時、赤城山麓に来いよ!」
そして10分後、柳田は去っていった。
時間は過ぎて、明け方6時、和食さいとうにはもう灯りがともっていた
おれと智姉さんはもう起きていた。
作務衣ではなく、今日は私服だ。
おれは「疾風」と描かれた赤いTシャツに、白のホットパンツ、黒のタイツ。
智姉さんは黒のセーターワンピースに黒タイツという格好だった。
店はまだ開いていないが、一台のクルマが音を立ててやってくる。
「──2JZのシングルターボ……車種はJZA80。葛西サクラが来たんだ」
「えっ、葛西サクラがここに⁉」
智姉さんはエンジン音だけで、それを見抜いた。
やがてJZA80から降りてきたのは、言うまでもなくサクラだった。
彼女は和食さいとうの中へ入ってくる。
「いらっしゃい」
「大崎翔子はいるか?」
どうやら、おれに用があるらしい。
「いるぞ。すぐここに」
サクラと顔を合わせるのは、あの夜のバトル以来――。
「昨夜、WHITE.U.F.Oの柳田が勝負を申し込んできたよな? あいつのZ33はツインターボ化されていて、480馬力。しかもドリフトは、サイドブレーキだけで曲げてくる」
……あれか、昨日智姉さんが話してた“あの走り”。
「Z33はオレのJZA80より重い。だけど、あの走りなら驚くほど速くコーナーを抜けていく。そして、柳田の“覚醒技”はあのドリフトと完璧に噛み合っている」
「その2つ、おれも聞いているよ」
サクラは真剣な表情で続ける。
「それだけじゃない。相手は榛名の走り屋……オレたちは赤城の走り屋だ。負ければ、赤城のレベルが低いと思われてしまう」
「……」
「お前はオレに勝った。きっと勝てる。そう思いたいんだ。次のバトル、オレはお前を応援する」
「……負けられない戦いになったね」
「分かったよ。柳田は強敵だけど……応援してくれるのか。なら、命懸けで勝ちに行く」
おれは、彼女のまっすぐな想いに応えた。
だが、サクラは静かにこう続けた。
「ただし……オレは今でもお前をライバルだと思ってる。技術も、車も、気持ちも……全部鍛え直してから、もう一度勝負する。そのときは、オレ一人じゃない。3姉妹で、必ずお前を超える」
そう言い残して、サクラは去っていった。
……妹たちはどんな走り屋なんだろう?
でも今は、まず柳田との勝負だ。
サクラが店を出て間もなく、プラズマ3人娘がドアを開けて入ってきた。
「おはようございます、智さん、サギさん」
「おはよう、クマさん」
智はテーブル越しに小さく頷いた。
「ちょうどいいところに来た。さっき葛西サクラが来ていてな。柳田とのバトルの話をしていたんだ。そのことを話そうか」
そう言って智は、サクラとの会話を静かに語り始めた。
「サイドブレーキだけでドリフト……ですか!?」クマさんが思わず声を上げる。
「それは……速いドリフトですね! ドリフト甲子園でも、そんな走り方する人なんで見だごどねーです! サイドだけで曲げるって、いったいどんな脚してるんだべ!?」」
「しかも480馬力!? そんなパワーで走らせとる奴なんて、聞いたことあらへん!」
「Z33か……くにちゃんのHCR32より速そうじゃない!?」タカさんが不安げに眉を寄せる。
「Z33で480馬力って、ストレートでも分が悪い……登りならなおさら」
カワさんの顔が、さっと真っ青になる。
「おれのワンエイティじゃあ、350馬力……登りじゃ分が悪いかも」
その場に沈黙が流れる。柳田のマシンと走りのレベルに、3人とも驚きを隠せなかった。
「……サギさん、勝てるんか?」
「パワーじゃ勝てない。でも、勝てる走りがあるはずや」
(……あの馬力相手じゃ、勝てないかも。車の強化なんて今はできないし)
智姉さんはそんな彼女たちを見つめ、静かに言った。
「うぅ……勝てるんですか!? Z33って、わだすのC33よりめっちゃ速そうだべ……」
「車重が違うのに、それでもあの動き……サイドだけで曲げられるって、どんなセッティングしてるの?」
「電制サイドやないと無理やで……ノーマルのZ33でそんな反応出すには、かなり深くいじっとるわ」
「電制サイド? いや、それでもあのトルクと重量で制御するには……セッティングの域超えてる」
「だからこそ、オオサキが柳田に勝つための作戦を立てようと思っている」
「作戦……ですか?」
「どんな作戦なの?」
「教えてください!」
3人の目が一斉に智姉さんに向けられる。
「まだ具体的には決まっていない。だが、あの走りに対抗するには――グリップ力を温存しながら戦う作戦が必要になるだろう」
静かな声に、誰も言葉を返せなかった。だが、その言葉が頭に焼きついたように、3人はじっと考え込んでいた。
The Next Lap——
午前0時の「和食さいとう」に、一台の車がやってきた。
Z33の後ろに据えられたR34純正のリアウイング。まるで“ガンダムにドカジャンを羽織らせたような”――近未来にねじ込まれた昭和の武骨さが浮き彫りになる。
ただの改造車ではない。あの車からは、ただならぬ気配が漂っていた。
──プラズマ3人娘よりも、やっかいかもしれない。油断はできない。
「VQ35の音だったな。しかもターボのサウンドだった。もしかして……」
布団から半身を起こし、作務衣のまま呟く智姉さん。「その目が、氷のように鋭くなる。一瞬で、見覚えを思い出していた。
ドアが開き、ドライバーが入ってきた。
「いらっしゃ──って、お前は……! 榛名最速チーム・WHITE.U.F.OのNo.2、柳田マリアじゃあないか!」
「そうじゃん。」
「今から寝るところだったんだぞ……」
Z33のドライバーは、やはり走り屋だった。そして──目的ははっきりしていた。
「あたしが倒したいのは、サクラに勝ったっていうワンエイティ乗りじゃん。ここにいるんだろ?」
「今呼んでくる。オオサキー! 深夜だけどお客さんだー!」
智姉さんに呼ばれたおれは、眠気まなこで階段を下りてくる。
同じく作務衣のまま。
「今から寝るところだったんだけどな……深夜に何の用?」
柳田の目には挑戦者の光があった。
(……幼そうに見えるが、もしかしてこいつ……)
おれの脳裏には、一抹の不安がよぎった。
「あたしのZ33で、あんたに登りで勝つ。それだけじゃん。受けるよな? 時間は今度の土曜日、4日の夜11時。どう?やるのか?」
「どうする、オオサキ?」
おれは走り屋としての礼儀を守り、静かに答えた。
「──バトル、受ける!」
これもまた、日本一の走り屋になるための道だ。
「よっしゃ、決まりじゃん!土曜の夜11時、赤城山麓に来いよ!」
そして10分後、柳田は去っていった。
時間は過ぎて、明け方6時、和食さいとうにはもう灯りがともっていた
おれと智姉さんはもう起きていた。
作務衣ではなく、今日は私服だ。
おれは「疾風」と描かれた赤いTシャツに、白のホットパンツ、黒のタイツ。
智姉さんは黒のセーターワンピースに黒タイツという格好だった。
店はまだ開いていないが、一台のクルマが音を立ててやってくる。
「──2JZのシングルターボ……車種はJZA80。葛西サクラが来たんだ」
「えっ、葛西サクラがここに⁉」
智姉さんはエンジン音だけで、それを見抜いた。
やがてJZA80から降りてきたのは、言うまでもなくサクラだった。
彼女は和食さいとうの中へ入ってくる。
「いらっしゃい」
「大崎翔子はいるか?」
どうやら、おれに用があるらしい。
「いるぞ。すぐここに」
サクラと顔を合わせるのは、あの夜のバトル以来――。
「昨夜、WHITE.U.F.Oの柳田が勝負を申し込んできたよな? あいつのZ33はツインターボ化されていて、480馬力。しかもドリフトは、サイドブレーキだけで曲げてくる」
……あれか、昨日智姉さんが話してた“あの走り”。
「Z33はオレのJZA80より重い。だけど、あの走りなら驚くほど速くコーナーを抜けていく。そして、柳田の“覚醒技”はあのドリフトと完璧に噛み合っている」
「その2つ、おれも聞いているよ」
サクラは真剣な表情で続ける。
「それだけじゃない。相手は榛名の走り屋……オレたちは赤城の走り屋だ。負ければ、赤城のレベルが低いと思われてしまう」
「……」
「お前はオレに勝った。きっと勝てる。そう思いたいんだ。次のバトル、オレはお前を応援する」
「……負けられない戦いになったね」
「分かったよ。柳田は強敵だけど……応援してくれるのか。なら、命懸けで勝ちに行く」
おれは、彼女のまっすぐな想いに応えた。
だが、サクラは静かにこう続けた。
「ただし……オレは今でもお前をライバルだと思ってる。技術も、車も、気持ちも……全部鍛え直してから、もう一度勝負する。そのときは、オレ一人じゃない。3姉妹で、必ずお前を超える」
そう言い残して、サクラは去っていった。
……妹たちはどんな走り屋なんだろう?
でも今は、まず柳田との勝負だ。
サクラが店を出て間もなく、プラズマ3人娘がドアを開けて入ってきた。
「おはようございます、智さん、サギさん」
「おはよう、クマさん」
智はテーブル越しに小さく頷いた。
「ちょうどいいところに来た。さっき葛西サクラが来ていてな。柳田とのバトルの話をしていたんだ。そのことを話そうか」
そう言って智は、サクラとの会話を静かに語り始めた。
「サイドブレーキだけでドリフト……ですか!?」クマさんが思わず声を上げる。
「それは……速いドリフトですね! ドリフト甲子園でも、そんな走り方する人なんで見だごどねーです! サイドだけで曲げるって、いったいどんな脚してるんだべ!?」」
「しかも480馬力!? そんなパワーで走らせとる奴なんて、聞いたことあらへん!」
「Z33か……くにちゃんのHCR32より速そうじゃない!?」タカさんが不安げに眉を寄せる。
「Z33で480馬力って、ストレートでも分が悪い……登りならなおさら」
カワさんの顔が、さっと真っ青になる。
「おれのワンエイティじゃあ、350馬力……登りじゃ分が悪いかも」
その場に沈黙が流れる。柳田のマシンと走りのレベルに、3人とも驚きを隠せなかった。
「……サギさん、勝てるんか?」
「パワーじゃ勝てない。でも、勝てる走りがあるはずや」
(……あの馬力相手じゃ、勝てないかも。車の強化なんて今はできないし)
智姉さんはそんな彼女たちを見つめ、静かに言った。
「うぅ……勝てるんですか!? Z33って、わだすのC33よりめっちゃ速そうだべ……」
「車重が違うのに、それでもあの動き……サイドだけで曲げられるって、どんなセッティングしてるの?」
「電制サイドやないと無理やで……ノーマルのZ33でそんな反応出すには、かなり深くいじっとるわ」
「電制サイド? いや、それでもあのトルクと重量で制御するには……セッティングの域超えてる」
「だからこそ、オオサキが柳田に勝つための作戦を立てようと思っている」
「作戦……ですか?」
「どんな作戦なの?」
「教えてください!」
3人の目が一斉に智姉さんに向けられる。
「まだ具体的には決まっていない。だが、あの走りに対抗するには――グリップ力を温存しながら戦う作戦が必要になるだろう」
静かな声に、誰も言葉を返せなかった。だが、その言葉が頭に焼きついたように、3人はじっと考え込んでいた。
The Next Lap——
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる