光速の走り屋オオサキショウコ

まとらまじゅつ

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第2章 柳田編

ACT.12 ヒルクライム・バトル

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 あたし、柳田マリアの実家はフェアレディZを扱う店で、Z33を愛車に選んだのもそのためだ。
 元々は神奈川の横浜に住んでいて、横浜で暮らしてた頃に、自然と“じゃん”が口癖になった。群馬の高崎に引っ越したのは、小学校に上がる頃のことだった。
 走り屋を始めたのは高校1年生の時。パワーのある車だったから、ダウンヒルではなくヒルクライムを選んだ。元々はNAだったZ33をターボ化し、それに合わせて仕様を変更した。
 得意のサイドブレーキドリフトは、最初はフットブレーキを使って行っていたが、やらない方が派手になると気づき、それ以降はフットブレーキを使わないようにした。
 覚醒技は榛名山に落ちた隕石の影響で身に付け、得意のサイドブレーキドリフトもさらに磨きをかけた結果、ついには榛名ヒルクライム最速の走り屋となった。
 18歳の頃、転機が訪れた。白髪で長髪のDC5型インテグラタイプRに乗る男に声をかけられた。

「お前に話がある。こっちに来ないか? チームのことだ。WHITE.U.F.Oっていうチームだ。クレイジーな走りをするドライバーを探してるんだ。」

 内容はスカウトだった。どうやら、この男はチームリーダーをしているらしい。

「どうしてあたしをチームに入れたいと思った?」と聞くと、

「お前のフットブレーキを使わないサイドブレーキに魅了された。是非入って欲しい。その代わり、ナンバー2に任命する」と言われた。

「チームか……入ってやるじゃん。」

 こうして、あたしはWHITE.U.F.Oに加入し、ナンバー2の座についた。この地位に就いたことで、より身を引き締めることにした。

「紹介が遅れたな、俺は戸沢龍だ。」

「あたしは柳田マリアじゃん。」

 その後、あたしは彼らと共に走り屋としての道を歩むことになった。WHITE.U.F.Oは榛名最速の勢力として名を馳せ、赤城のDUSTWAYや妙義の矢口姉妹と互角に戦うようになっていた。
 だが、今あたしはDUSTWAYではない赤城の走り屋と戦っている。その走り屋は見知らぬ人物だが、何かしらのオーラを感じる。とてつもない力を感じる。この勝負、負けるかもしれない……新興勢力に。

「今、柳田が相手を抜いたな。」

「そうみたいですね。」

「様子見のために後ろを走っていましたけど。」

「そうだ。このバトルはアウェイだから、5連ヘアピンまでは後攻で走るように伝えていた。」

 他のWHITE.U.F.Oのメンバーにも、柳田が追い抜いたことが伝えられる。

「柳田さんにも作戦があったとは……戸沢さん、優秀な指揮官だな。」

「このバトルはアウェイだから後攻の方がコースを把握できる。」

 一方、おれ側。

「サキちゃんが抜かれた!? でもクマさん、焦らないで! まだ負けたわけじゃないよ!」

「小鳥遊の言う通りだ。オオサキはまだ負けたとは決まっていない。柳田は後で自分の首を絞めるだろう。」

「まだ始まったばかりだぜ。」

 川さんとタカさん、智姉さんと六荒は、おれが抜かれても冷静に状況を見守っていた。

 緩やかなコーナーを抜け、直線を駆け抜けた後、2台は左U字ヘアピンに入る。そこはサクラゾーンだ。
 柳田に抜かれた後、何か変化を感じる。

「ワンエイティが遅くなっている……!? 抜かれた技のせいか……!?」

「さっき使った<啄木鳥の突撃>は加速を下げる効果もあるじゃん!」

 やっぱり、さっきの技の影響だ! パワーが必要なところで加速を下げるなんて、厄介だ。
 だが、抜かれた後でも、コーナーでのグリップ走行で差を詰めることができるはずだ。そう自分に言い聞かせながら、走り続ける。
 緩やかな右高速コーナーを抜け、左低速ヘアピンに突入する。
 フットブレーキを踏み、リアから赤い線を描かず、ハンドルを左に回す。柳田はサイドブレーキドリフトを決め、おれはグリップ走行で追い上げる。Z33のリアに接近していく。
 次は直線だ。パワーのあるZ33が有利だが、ワンエイティの距離はどんどん開いていく。
 元々NAで280馬力を誇ったエンジンにターボを組み合わせたチューニングは、まさに鬼に金棒だ。VQ35DEターボがRB26DETTを引き離していく。
 両者とも、ホリンジャーの6速ギアがリアに伝わっていく。
 2連続の曲戦が迫ってきた。
 先週、サクラを追い抜いた場所だ。
 ただし、今回は逆方向で走っている。
 1つ目の右曲線に突入した。
 先行していたZ33がテールを光らせずに突っ込む。20m離れているおれも、ここに入った。
 前の車はスキール音と白煙を立てて豪快に走行。後ろの自分は、エンジン音だけを響かせながら走る。
 距離は少しずつ縮まっていく。
 次の左曲線、Z33はやはり赤い線を描かず、サイドブレーキを使ってドリフト。リアタイヤからは豪快な白煙とスキール音が響き、フロントタイヤは左にしっかりと曲がる。

「久しぶりに本気を出したじゃん! 覚醒技を使わずサイドブレーキドリフトでついてこようなんて、逃げられなくなってきたぞ! 覚醒技を使うあたしのZ33に、ついてこれるか?」

 グリップ走行が得意ではない自分でも、それができているということは、コーナリングの基礎ができてきている証拠か?
 柳田にうまく接近できているのがその証拠だ。
 ラリードライバーのセバスチャン・ローブが、体操選手としての経験をドライビングに活かしていたように、おれも智姉さんの勧めで体操をしていたことが、グリップ走行に役立っているのだろうか?
 そう感じながら、さらに前を追う。
 前を走る柳田は、さらに本気を出してきた。
 油断できない。どんどん覇気を増してきている。速い……でも、焦りは禁物。覚醒技は後半に使うんだ。
 現在、彼女がリードしているものの、悪夢が近づいていることを知らなかった。
 Z33のタイヤは、どんどん削られていた。

 スタート地点。智姉さんが口を開いた。

「オオサキにグリップ走行をさせたのは、タイヤのグリップを温存するためだ。今日のバトルに合わせて、ワンエイティをグリップ寄りのセッティングにしてある。でも――本当の狙いは別にある。柳田の弱点を知ってるからだ。彼女は、いずれ自滅するぞ」

「弱点、ですか?」

 クマさんが首をかしげながら訊ねる。

「それはね……サイドブレーキとアクセルだけでコーナーを抜ける、あの走り方。あれはタイヤに大きな負担をかける。でも、それだけじゃまだ弱点とは言えない。問題は、彼女が“本気”になったとき。あの走り方を続けると、いずれタイヤが悲鳴を上げる。そろそろ、その兆候が出る頃だ」

 そこへ、六荒が言葉を継いだ。

「ドリフト走行は、もともと峠やラリーの技術だ。タイムが稼げるものじゃないし、タイヤにも負担が大きい。サーキットでは、基本的にグリップ走行が主流だ」

 彼の目は遠くを見ていた。

「昔はサーキットでもドリフトが使われていたが、今は違う。タイヤ性能が進化して、速さを求めるならグリップが正解になった。ワンメイクレースで戦っていた俺も、当時はドリフト派だったけどな……いま思えば、あれはタイヤの無駄遣いだったよ」

 智姉さんが言っていた通りだった。
 現在、おれを引き離している柳田は、右U字曲線に差し掛かろうとしている。
 だが、ここに入ると同時に、何かを感じる。

「どうした、Z33? スピードが遅くなってないか? コーナーも遅くなってるじゃん!?」

 Z33の性能が少し落ちていることに気づき始めた。

「まあ、気にせずにここを抜けるしかないか。」

 だが、このままでは後で問題になるだろう。柳田はそれを知らない。
 U字を抜けると次は、左S字を挟んだ直線が待っている。
 互いに右足を強く踏み、エンジン回転数を上げてシフトを切り上げていく。
 RB26DETTとVQ35DEターボのサウンドが交差する。
 S字ストレートを抜けると、サクラゾーン最後のコーナー、ナイフのように鋭い左曲線に突入する。

 Z33のボディがオレンジ色のタキオン粒子に包まれる。

「ノーフットブレーキング流<マッハ・ドリフト>!」

 時速180km/hで、内側のガードレールぎりぎりをサイドブレーキでドリフトしながら攻める。
 スキール音と白煙がリアタイヤから響く。
 柳田の使ったこの技で、差は広がり、70mになった。
 一方、遥かに遅れて、おれは刃型の左曲線に入る。
 シフトを下げ、ブレーキを踏み、ハンドルを切りながら、次の一手を考える。
 ふと、脳裏に智姉さんの言葉がよぎった。

「後半から覚醒技を使ってもいいと言ってた。ここを通ると後半だ……今しかない──<ハヤテ打ち>! イケェーッ!」 イケイケイケイケイケェー!」

 技の封印が解かれた赤い戦闘機が透明なタキオン粒子を纏い、グリップ走行で攻める。

 第2高速セクションにいる柳田は、VQ35DEターボを響かせながらこんなことを考えていた。

「もう技は控える。気力と力の温存のためじゃん。」

 序盤から本気を出してしまった結果、これがラッキーだったと思う。
 回転数を上げ、シフトを切り上げ、VQ35DEターボを加速させる。
 長い直線を終えた後、次の左曲線。
 シフトを下げ、アクセルを踏み込む。
 予想通り、技は使わず、サイドブレーキとアクセルだけでドリフトして抜ける。
 前より遅く見えた。
 遅れておれも第2高速区間を抜け、左曲線に入る。
 ブレーキを踏み、ギアを下げながら、再び透明なタキオン粒子を纏う。

「小山田疾風流<ズーム・アタック>!イケイケイケイケイケー!」

 柳田との差は65mに縮まった。
 技を使い始めたおれ……ここから逆襲が始まるのだった。
 ハンマーヘッドと呼ばれる左曲線の後、右コーナーを通過し、両者とも技を使わずに抜けていく。
 次は、長い直線の第一高速区間。
 ここではパワーのあるZ33のほうが有利だ。
 柳田は右足で回転数を上げ、ギアをどんどん上げながら、VQ35DEターボを加速させる。
 けれども、Z33はワンエイティを離せなかった。

「どういうことじゃん!」

 Z33の性能が下がったのか? そうかもしれない。

 スタート地点前の駐車場。
 現在の様子がトランシーバーで報告される。

「ピッ!こちら第1高速セクション!柳田さんのZ33の走りが以前より遅くなっています!」

「やっぱり来たか、柳田の弱点か…」

 Z33のペースダウンが戸沢に伝えられると、彼はすぐにその原因を理解した。

「やつ、熱ダレを起こしたな。」

 Z33の性能低下の原因はこれだ。タイヤの温度が上がりすぎ、グリップ力を失ったことで遅くなったのだ。アクセルを踏みっぱなし、サクラゾーンで本気を出し過ぎた結果、タイヤに過剰な負担をかけてしまったのだ。
 リアタイヤから上がる白煙、それが証拠だ。次に現れるのは、タイヤカスだろう。

「タイヤが磨り減ってる…やつ、自分で首を絞めたな。」

 ゴール地点前で、トランシーバー越しに伝えられた情報を聞いたウメの表情がほころんだ。

「私の予感通りね。柳田、タイヤをすり減らし始めたわ。」

 サクラはその状況を見守りながら、静かに言った。

「前半、オオサキは技を使わなかったけど……後半からは本気を出して逆転するだろうな。」

 今後の展開を感じ取ったサクラは、目を細めた。

「バトルの流れが、ここから大きく変わるぜ。」

 雨原はそれを聞き、期待に満ちた声で続けた。

「まさに、これからだな。楽しみだ。」

 熱ダレにより弱体化したZ33に乗る柳田と、技を使い始めたワンエイティのおれ。終盤戦がついに始まる!
 第1高速セクションを抜けると、すぐに右ヘアピンが待ち受けている。

「ここはノーブレーキで突っ込むじゃん!」

 柳田は宣言通り、全開でコーナーに突入した。
 50m、いや60m以上の差がついているおれも、ようやく右ヘアピンに到達する!

「速い!でもこのままだと、柳田さんが逆転されるぞ!」

「……柳田さん、ブレーキングが遅れてる……? さっきより動きが硬い!」

「肩が上下に揺れてる……マジで焦ってるじゃん……!」

 ギャラリーの声が場内に響き渡る。彼らも次第に、柳田のペースダウンに不安を感じ始めている様子だ。
 差はみるみる縮まり、次の左S字曲線、右U字曲線が迫る。

「くそっ!」

 ハンドルを握る指先に、ギリギリと力がこもる。柳田は歯を食いしばり、汗が額から頬を伝った。サイドミラー越しに迫ってくる赤いワンエイティの  気配に、肩が震える。
 彼女は思わず舌打ちした――焦りの色はもう隠しようがなかった。

 榛名山で戸沢との練習が思い出される。

「ダウンヒルでは俺には及ばないが、ヒルクライムでお前に右に出る者はない。」

 その言葉が胸に染みる。

「そう言ってもらえると、やる気が湧いてくるじゃん」

 あたしは榛名ヒルクライム最速を誇る走り屋。あのぽっと出の素人に負けるわけにはいかない。
 でも、今はもう後がない。ここで負けたらすべてが終わってしまう。

 3連続ヘアピンに差し掛かる。
 柳田は技を使わなかったが、おれは3つ目のヘアピンで<ズーム・アタック>を決め、グリップ走行に切り替えて抜け出す。

「ヤバい……差が縮まってきてる! 後ろのワンエイティが見えるじゃん!」

 柳田が焦り始めた。もうすぐ追いつく。倒せるかもしれない。
 3連続ヘアピンを抜けると、直線が待っている。アクセル全開で回転数を上げ、シフトを次々と上げていく。

「何度も言うけど、直線では勝てるじゃん。」

 そう言いながら、右足でアクセルを強く踏み込み、回転数がレッドゾーンに達すると、左手でギアを上げる。しかし、柳田の言葉とは裏腹に、熱ダレによるグリップ力低下で、やはりおれを引き離すことはできなかった。
 次のコーナーに入る。柳田はサイドブレーキを引き、おれはフットブレーキを踏み、どちらもギアを下げる。その瞬間、前のクルマに異変が起きた!

「アンダーステアだ!」

 ステアリングの先で車体が微かに揺れる。アンダーが出た――壁に触れた衝撃と共に、柳田の心臓が跳ねた。

「この……ッ!」

 彼女はハンドルを拳で叩きつけ、グローブの内側で手のひらがじっとりと濡れているのを感じた。
 息が荒い。肩で呼吸しながらも、アクセルを踏み抜こうとする右足がわずかに震えている。
 おれとの差は急速に縮まり、テール・トゥ・ノーズの状態に。

「このままだと抜かれる! 最終ヘアピンで封印していた技を使ってブロックするじゃん!」

 ブレーキを踏もうとする足が一瞬だけ遅れた。自分の鼓動がうるさくて、サイドミラーの赤が脳裏に焼き付く。

「落ち着け、落ち着け……!」

 そう唱えながらも、額から垂れた汗が視界をかすめた。手のひらの感触がぼやけ、指の力加減が乱れていく。

「いよいよ最終ヘアピンだ。<ズーム・アタック>を使って、あの走りで柳田を追い抜こう!智姉さんの言うことを破るかもしれないけど……」

 実は、グリップ走行でもドリフト走行でもない、別の技を使うつもりだった。
 そして、最終コーナーに差し掛かる。両者とも減速し、ワンエイティのテールランプから赤い線を描く。

「ノーフットブレーキング流<サイドブレーキアタック>!」

「小山田疾風流……<ズーム・アタック>!イケイケイケ!」

 萌葱と透明のタキオン粒子が交錯する。
 Z33のリアが光の軌跡を引き裂く――ギリギリで繰り出す《サイドブレーキアタック》!
 ワンエイティのテールが、赤く燃える鳥のように宙をかすめ――ズーム・アタックが爆ぜた!

「なんだあのワンエイティ⁉」

「すげェー! ワンエイティ!」

 おれの走りはドリフトの豪快さや、グリップ走行のようなタイムを求める走りではない。だが、理想的なラインをしっかりと走り抜ける。

「この走りは!」

 ギャラリーたちが目を見開く。
 “ドリフトとグリップの中間の走り”――それがいわゆる“第3の走り”だ。
 突っ込みが滑るように、立ち上がりはまっすぐ走るように見える。
 超高速のサイドブレーキドリフト、そしてガードレールギリギリの走りが交錯する。

「勝ったぜ!」

 突っ込み勝負では互角だったが、速度重視でコーナリングする柳田が一歩前に出る。
 しかし、立ち上がりで熱ダレによるアンダーを出し、<ズーム・アタック>の精神的ダメージも重なり、柳田はおれに前を譲ることを許してしまう。

「くそ!」

 拳でハンドルを叩きつけた直後、息を詰まらせて顔を伏せた。
 火照る顔、冷たい汗、震える右脚──敗北の実感が、身体に滲んでいく。
 榛名最速の名が、初めて重荷に変わった瞬間だった。
 ハンドルを叩いた拳が震えていた。
 声にならない何かが喉に詰まり、シートに背を預けると同時に、胸の奥がぎゅっと縮んだ。
 榛名最速──その肩書きが、初めて自分を縛った。

「榛名最速ヒルクライマーの柳田さんが負けた!」

「赤城でも強かったのに!」

「ヒルクライムで350馬力の車が480馬力を抜くなんて、あり得ない! サーキットでもそんなことはなかった!」

 ヒルクライムで柳田のZ33が抜かれるというのは驚くべきことだった。ギャラリーたちはその異常さに驚き、呆然と立ち尽くす。
 リードを許した後、柳田はおれを追う。アクセル全開で回転数を上げ、シフトを次々と上げていく。しかし、最終ヘアピンでの立ち上がりでの失敗が響き、次第に差が開き、ついにはアクセルを戻す。
 おれはそのまま突っ走り、ゴールインした。

「柳田さんが負けました! ゴールラインで鼻先一つ分でした!」

「残念だったな……あいつはやっぱり強いな」

 スタート地点にいる戸沢も、柳田が負けたことを聞き、少し無表情で頷く。報告を受けた後、戸沢はトランシーバーを切った。

「あいつと次回勝負するのは俺だ。柳田の仇を取ってやる。ヒルクライムじゃなくて、ダウンヒルでな」

 そう言って、戸沢は無言でガルウイングが開いたDC5に乗り込む。エンジン音が響き、彼は赤城を後にした。
 その後、雪のように白く集まったWHITE.U.F.Oのメンバーたちも、次々と帰って行く。

 一方、おれの側では、智姉さんとプラズマ3人衆が集まり、嬉しそうに話している。

「またお見事だったな」

「無事勝てたな」

「葛西サクラ、わだすたち3人、そして今回……柳田マリアを倒したぜ!」

「さすがだね、サキちゃん!」

「やったわ、サキはん!」

 みんな、オオサキの勝利を祝ってくれた。

「皆、帰ろうか」

「帰るのはサキさんの勝利を祝ってからだべ!」

 誰かが叫ぶと、皆が万歳をして、楽しい雰囲気に包まれた。
 これで、オオサキは日本一の走り屋に近づけたのかもしれない。雨原芽来夜を、見返した瞬間かもしれない。

 頂上の駐車場。
 葛西親子と雨原が今日のバトルを振り返っていた。

「また勝ったな……」

「私が言った通り、柳田は自滅したわね」

「ったく、またやらかしたぜ!」

 これから三人は今回のバトルを振り返る。

「今回のバトルについてだけど、大崎翔子は終始グリップ走行だったわね(最終ヘアピンを除いて、グリップとドリフトの中間の走りをしたけど)。あれはタイヤを温存するため。彼女は前半で覚醒技を使っていなかったのも、精神的な温存を意識したからよ」

「なるほど」

「一方、柳田は激しいサイドブレーキドリフトや覚醒技で大崎翔子から逃げていたけど、途中からその戦法を使わなくなった。激しい走行が原因で熱ダレを起こしてしまったわ。前半で力を温存し、後半でその力を出した結果、柳田に勝つことができたのよ。それに、赤城のヒルクライムは、前半がコーナーが少なく、後半がコーナーが多くなる。そこで逆転しやすいと判断し、勝負を仕掛けたのも大きかったわ」

「――なるほど、そういうことか」

「うまく作戦を立てたな……」

 今回は智が上手く考えたおかげで、勝つことができた。
 次は、ドリフトとグリップの中間の走りについて説明が続く。

「そして、最終ヘアピンで大崎翔子はドリフトとグリップの中間の走りをしていた。あれは究極の走り。スライドしているけど、リア荷重の移動だけで滑らせ、ハンドルはほぼ固定、速度を落とさずに走ることができる技なのよ。ドリフトでもない、グリップでもない……これが、“第3の律動”……」

 つまり、両方の走りの長所を持った走りだ。

「今日も先週のようにワクワクしたな。オオサキちゃんとまた戦いたくなった。彼女の成長が楽しみだ」

「私も手が震えたけど、芽来夜は手加減しなかったら、赤子の手を捻るくらい楽勝よ」

 サクラは心の中で、大崎翔子へのリベンジを誓った。

(大崎翔子……また勝ったな……次は柳田マリアを倒すなんて……さらに怪物になったみたいだ……)

 夜、星空が輝く中、苦戦が予想された柳田戦が終わった。
 現在の公式バトルでは、連勝を果たした。

 3日後、4月7日火曜、午後8時──
 高崎市内のレストラン。WHITE.U.F.O.のリーダー・戸沢龍は、向かいの柳田マリアに切り出した。

「実は――あのワンエイティ乗りに、俺もバトルを申し込みたい」

 柳田は目を見開く。

「え、本気……? あいつ、速いじゃん! ヒルクライムでZ33に食らいついた結果、抜かれたじゃんよ?」

 戸沢は頷いた。

「オオサキの走りを見て驚いた。葛西サクラまで倒してる──ダウンヒルでは自信ある俺でも、こいつには分が悪い。見かけは小柄だが、中身は“怪物”だ。だからこそ挑む価値がある」

 柳田は息を呑む。

「マジで言ってるの?」

「明日はチーム休みだから、正式な誘いはあさって。だけど、ヤツは男性恐怖症らしい――」

 そこで戸沢は満面の笑みで囁いた。

「だから手紙を送る。宛先は“和食さいとう”。ついでに豆腐一か月分もな──ドラゴン急便でな!」

 次回、リーダー・戸沢龍、ダウンヒルに舞い戻る。

(――待ってろよ、オオサキ)

 The Next Lap.
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