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第3章 戸沢編
ACT.16 破綻
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おれはあえて速度を落とし、DC5の直後に忍び込んだ。
真っ青に光るテールランプを睨みつけ、アクセルをじわりと踏み増す。
「さて――得意のブラインドアタック、封じさせてもらうよ……」
後攻に入った理由は、それ一つ。
だが前を走る戸沢は、バックミラー越しに薄く口角を上げた。
「“不得意な先攻を取ったときの対策”……忘れるなよ」
湿った夜気に紛れて、その声は不気味に沈む。
スタート地点。智が腕を組んだまま呟く。
「よし……後攻、取ったな」
だがその横顔の奥には、別の声がざわついていた。
(この作戦……本当に通るのか?)
WHITE.U.F.Oの面々もざわつく。
「珍しいな。戸沢さんが先攻?」「普段はライト消して後ろから刺すのに……」
そう。ブラインドアタック――
後攻でなければ成立しない、奴の十八番。
しかし今、後ろにいるのはおれだった。
ワンエイティとDC5。
6気筒と4気筒が、東名パワードのシーケンシャルを吠え立てながら闇夜へ飛び込む。
ギャラリーポイントには、オレンジ髪のツインテールと緑髪のポニテ。
……いや、緑のヒマワリは普通に寝ていた。
「おいヒマワリ、来たぞ! ワンエイティとDC5! しかも後者が先を走ってる!」
「……んあ。マジか……」
2台が一閃して駆け抜ける。
DC5は吸い込まれるような鋭いタックイン。
ワンエイティは白煙を撒き散らしながら角度を付けて滑り込む。
「イィーネ……!」
ヒマワリが指先を顎に当て、震える声で呟く。
「ポジション、そろそろ入れ替わる」
モミジが冷徹に分析した。
右ヘアピンを抜けた瞬間、DC5はタックイン。
おれはドリフトで角度を残したまま追従。
タイヤの皮が削れ、焦げた匂いが夜気に散る。
2台は直線へ飛び出す。
DC5の4気筒は鋭く叫び、
ワンエイティの6気筒は腹の底に響く重い鼓動で応戦する。
シフトアップ。
そして――地獄の3連続ヘアピン。
ブレーキを深く踏み込み、一気にギアを落とす。
息をつく前に3つ目へ突入。
おれのワンエイティは戸沢のテールへ迫っていく。
「……覇気がないね」
戸沢の突っ込みが、いつもより遅い。
――違う。これは“わざと”だ。
「まさか……技を使わずに負ける気はない、ってわけか!」
予感は当たった。
ライトを消す気だ。奴は必ずやる。
だが、おれはそれに“誘われて”いく。
破綻寸前の罠の中へ――。
左U字ヘアピン。勝負の分岐点。
「今だ!」
DC5がわざと遅らせたブレーキで外へ膨らむ。
その瞬間、反射的におれは内へ――
――飛び込んだ。
前に出てしまった。
全てが崩れた。
後攻で封じるはずの技を、自分の手で蘇らせてしまったのだ。
「こちら3連続ヘアピン後のU字! ワンエイティ、前に出ました!」
無線の声に、場が揺れた。
「ぢぐしょーっ!! サギさん封じるって言ってたのによお!」
熊久保が荒れる。
「落ち着け、熊久保。私は……最初から予感してた」
「えっ?」
「前に出ればブラインドアタックは封じられる。だが、開始直後に“そうはならない”と気づいたんだ」
その言葉に、3人娘と六荒が息を飲む。
WHITE.U.F.O側では――
「予定通り。戸沢は相手を前に行かせて後攻に入った。で……」
「ブラインドアタックが来る」
ギャラリーポイントの双子にも戦慄が走る。
「DC5が後攻になったぞ、モミジ!」
「ふふ……予想通り。ここからは地獄だよ」
モミジは冷徹に言い切る。
「大崎翔子は前に出たことで、最悪の状況に陥った。戸沢の精神攻撃……あれは、速さじゃない。“心”を壊す技だ。前にいたC33乗りだって、逃げられなかった」
「運命は決まったも同然だね」
次のカーブ。
ワンエイティ先行。DC5後攻。
――そして。
ヘッドライトが、消えた。
「見せてやるよ。“闇”の走りを」
闇に沈むDC5。
戸沢龍――十八番、ブラインドアタック発動。
The Next Lap
真っ青に光るテールランプを睨みつけ、アクセルをじわりと踏み増す。
「さて――得意のブラインドアタック、封じさせてもらうよ……」
後攻に入った理由は、それ一つ。
だが前を走る戸沢は、バックミラー越しに薄く口角を上げた。
「“不得意な先攻を取ったときの対策”……忘れるなよ」
湿った夜気に紛れて、その声は不気味に沈む。
スタート地点。智が腕を組んだまま呟く。
「よし……後攻、取ったな」
だがその横顔の奥には、別の声がざわついていた。
(この作戦……本当に通るのか?)
WHITE.U.F.Oの面々もざわつく。
「珍しいな。戸沢さんが先攻?」「普段はライト消して後ろから刺すのに……」
そう。ブラインドアタック――
後攻でなければ成立しない、奴の十八番。
しかし今、後ろにいるのはおれだった。
ワンエイティとDC5。
6気筒と4気筒が、東名パワードのシーケンシャルを吠え立てながら闇夜へ飛び込む。
ギャラリーポイントには、オレンジ髪のツインテールと緑髪のポニテ。
……いや、緑のヒマワリは普通に寝ていた。
「おいヒマワリ、来たぞ! ワンエイティとDC5! しかも後者が先を走ってる!」
「……んあ。マジか……」
2台が一閃して駆け抜ける。
DC5は吸い込まれるような鋭いタックイン。
ワンエイティは白煙を撒き散らしながら角度を付けて滑り込む。
「イィーネ……!」
ヒマワリが指先を顎に当て、震える声で呟く。
「ポジション、そろそろ入れ替わる」
モミジが冷徹に分析した。
右ヘアピンを抜けた瞬間、DC5はタックイン。
おれはドリフトで角度を残したまま追従。
タイヤの皮が削れ、焦げた匂いが夜気に散る。
2台は直線へ飛び出す。
DC5の4気筒は鋭く叫び、
ワンエイティの6気筒は腹の底に響く重い鼓動で応戦する。
シフトアップ。
そして――地獄の3連続ヘアピン。
ブレーキを深く踏み込み、一気にギアを落とす。
息をつく前に3つ目へ突入。
おれのワンエイティは戸沢のテールへ迫っていく。
「……覇気がないね」
戸沢の突っ込みが、いつもより遅い。
――違う。これは“わざと”だ。
「まさか……技を使わずに負ける気はない、ってわけか!」
予感は当たった。
ライトを消す気だ。奴は必ずやる。
だが、おれはそれに“誘われて”いく。
破綻寸前の罠の中へ――。
左U字ヘアピン。勝負の分岐点。
「今だ!」
DC5がわざと遅らせたブレーキで外へ膨らむ。
その瞬間、反射的におれは内へ――
――飛び込んだ。
前に出てしまった。
全てが崩れた。
後攻で封じるはずの技を、自分の手で蘇らせてしまったのだ。
「こちら3連続ヘアピン後のU字! ワンエイティ、前に出ました!」
無線の声に、場が揺れた。
「ぢぐしょーっ!! サギさん封じるって言ってたのによお!」
熊久保が荒れる。
「落ち着け、熊久保。私は……最初から予感してた」
「えっ?」
「前に出ればブラインドアタックは封じられる。だが、開始直後に“そうはならない”と気づいたんだ」
その言葉に、3人娘と六荒が息を飲む。
WHITE.U.F.O側では――
「予定通り。戸沢は相手を前に行かせて後攻に入った。で……」
「ブラインドアタックが来る」
ギャラリーポイントの双子にも戦慄が走る。
「DC5が後攻になったぞ、モミジ!」
「ふふ……予想通り。ここからは地獄だよ」
モミジは冷徹に言い切る。
「大崎翔子は前に出たことで、最悪の状況に陥った。戸沢の精神攻撃……あれは、速さじゃない。“心”を壊す技だ。前にいたC33乗りだって、逃げられなかった」
「運命は決まったも同然だね」
次のカーブ。
ワンエイティ先行。DC5後攻。
――そして。
ヘッドライトが、消えた。
「見せてやるよ。“闇”の走りを」
闇に沈むDC5。
戸沢龍――十八番、ブラインドアタック発動。
The Next Lap
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