光速の走り屋オオサキショウコ

まとらまじゅつ

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第3章 戸沢編

ACT.17 ブラインドアタックの恐怖

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「相手の存在なんか、消えるわけがない」

 たとえライトが消えようと――
 タイヤの悲鳴と、エンジンが刻む“生の音”だけは絶対に消えない。

 S字ヘアピンへ突入。
 背後の闇を裂きながら迫る戸沢のDC5。
 その輪郭に、白いオーラがぼんやりと揺らぐ。

「来る……」

 全身の神経が針のように尖り、直感が警鐘を鳴らす。

「行かせてもらう。《臨戦態勢》!」

 静かな熱が身体の奥から立ち上がり、
 呼吸が浅く、鋭く変わる。
 視界の輪郭がはっきりと切り出され、
 闇の中の色彩が異常に鮮やかだ。

 ヘッドライトを消したまま、戸沢のDC5が
 おれの180SXをかすめてS字を切り裂く。
 アクセルとブレーキの僅かなタッチですら精密で、
 ステアリングを切る音が鋭い刃物のように感じられる。

「前に出られたら逃げられる……なら、ここで使う!」

 胸の奥から、炎のような衝動が突き上がる。

「見せてやる……おれの奥の手。《赤備え》──ッ!」

 全身が焼けるように熱くなり、
 鼓動がマシンの回転と完全に同期する。
 恐怖は消え、思考はただ“走る”ことだけに研ぎ澄まされた。

 シフトダウンとブレーキを同時に叩き込み、
 大きく角度をつけて強引にドリフト。
 戸沢のラインをえぐり取るように、
 ブロックラインへねじ込む。

 わずかだが、確実に距離が開く。

「離したいようだが……無駄だ」

 戸沢の低い声が、静かな殺気となって闇を這う。
 まるで狙撃手の瞳だ。
 おれのテールだけを正確に追い続けている。

 ヘッドライトは、まだ闇の底。

 第1高速セクション。
 数字だけなら、パワーで勝る180SXが有利のはず――だが。

 下りではフロント荷重のFFが、重力そのものを味方にする。

 互角。
 むしろ、VTECの咆哮は少しずつ距離を詰めている。

「やっぱ……駆動の差が出るか……!」

 距離が縮まらない。
 “いつ刺されるか”を考え続けるプレッシャーが、
 胸を圧迫していく。

 ヘッドライト消灯は、ただの見せ技じゃない。
 精神を削りに来ている。

「離されないぞ……絶対に!」

 赤いテールランプにDC5のノーズが食い込む。
 煽るような間合いに、思わず舌打ちが落ちる。

 どう踏んでも、背後の咆哮が消えない。
 このまま先を守りきれるのか?

 ハンマーヘッド。
 左突き当たりの複合コーナー。

 両者、同時に強烈な減速。
 その瞬間――

 戸沢が“死角の外側”を滑るように刺してきた。

「行くぞ──ッ!」

 ライト消灯のまま、速度をほとんど落とさず飛び込んでくる!

「──なにっ!?」

 視界に映らない。
 ブロックの判断が、ほんの一瞬だけ遅れた。

 鮮やかすぎる追い抜き。
 ポジションは、スタート時と同じ――いや、さらに最悪へと戻る。

「いま、戸沢さんが180SXの前に出ました!」

 ギャラリーの無線が弾ける。

「《ブラインドアタック》で抜いたってことだよな!」

「アレはマジで心折れる……」

「180SXも耐えられなかったか……」

 だが――ひとりが小さく呟いた。

「……でもさ。終わってねぇよ。180SX……なんか来る」

 プラズマ三人娘も空を見上げ、不安げに息を呑む。

「おらんときみてぇに、刺されるかもしれねぇ……」

「でも後半は直線多いよ……サキちゃんのワンエイティ速いもん」

「せやけど下りはFFが強いんや。どうすんねん……」

「後半で勝つには……どうすりゃいいんだよ!?」

 その混乱を断つように、智が静かに口を開いた。

「確かに不利。でも――オオサキには切り札がある。“能力”だ」

「見たことねぇぞ」

「くにも知らない」

「うちもや」

 智はまぶたを伏せる。

「精神が追い詰められた瞬間に発動する。ただし、代償も大きい。私も一度使ったけど……その後、一日中動けなかった」

 現在、第2高速セクション。
 戸沢はライトを点け直し、全開で駆け抜ける。
 青いテールが、闇の中で妖しく揺れる。

 赤よりも闇に沈む――そんな色を選んだのか?

 接近と離脱を繰り返しつつ、
 第2高速の終盤ジグザグへ――。

 技はまだ冷却中。
 戸沢はまだ継続中。

「このままじゃ……負ける……!」

 精神力が削れ、視界がじんじん滲む。
 死んでもいい――そんな黒い感情が浮かびかけた。

 サクラゾーンへ。

 ナイフのような右ヘアピン。
 ドリフトで飛び込むが……距離はさらに開く。
 S字でも差が広がっていく。

 左U字ヘアピン。
 先に入った戸沢の口元が、わずかに動いた。

「終わったな」

 サクラと柳田を倒したおれが――
 ここで終わるのか?

「……ダメ、だ……」

 遅れて入った瞬間、絶望が胸を覆う。

 ――その時。

 おれの身体から、真紅のオーラが噴き上がった。
 太陽すら焼き尽くすような灼熱。
 鼓動が激しく跳ね、視界の色が変わる。

「……あれは……!」

 全てを焼き尽くす覚醒が――
 今まさに始まろうとしていた。

The Next Lap
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