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5章 イズナバール迷宮編
181話 ある意味テンプレ
「──で、こいつがその卵か……ワシに育てろとな?」
その後、貴重な霊薬を2度使用するほどの地獄に落とされたシンは、身体の傷は消えたものの、忘れたい過去に新たな1ページを追加する事になった。
そして現在、円卓を囲うように座る5人の中心に2つの、淡いターコイズブルーの殻を纏った大きな卵が鎮座している。
律儀にも海竜との約束を守るシンは、はたして義に厚い信義の徒かそれとも約束も守れない無能になるのが嫌と嘯く捻くれ者か。
「まあ、そういう事で……依頼されたのは頼むところまでだから無理に受ける必要は」
「ええじゃろ」
「だよな──んあっ!?」
「ヴァルナ、おぬし?」
予想外の言葉にシンは目を丸くし、イグニスは訝しげな顔になる。
「なんじゃ、可愛い弟子の頼みじゃから引き受けてやると言っておろうが、もっと感謝せんかい」
「……その言葉を額面どおりに受け取れることが出来れば私もシンも幸せなのだがな」
「良かったな、幸せ者ども」
「「……………………」」
「別にたいした理由など無いわ。しいて言うならシンの時と同じで暇つぶしよ、実体化したままでいる言い訳もたつしの」
そう言ってヴァルナは2つの卵をお手玉のようにヒョイヒョイと放り投げて遊ぶ。
──やがてお手玉に飽きたのか、卵をテーブルの上に置くとヴァルナはシンに向かって意地の悪い笑みを浮かべ、
「勿論、タダとは言わんよな?」
「タダって……それ以前に報酬なんか貰ってどうするつもりなんだよ?」
「金を寄越せ等とは言っておらんわ、チョットお使いに行って欲しいだけじゃ」
「おつかい?」
「おうよ──東大陸の古代迷宮にな」
古代迷宮──迷宮には大まかに分けて3種類存在する。
かつてその土地を支配していた豪族や為政者などの墳墓や、何らかの目的で建てられた一般的な人工物の迷宮。
ワームの通り穴や自然洞穴にコボルトやゴブリン等の魔物が住み着き、魔物の手によって補修・拡張されて出来上がった自然迷宮。
そして、いつ、誰が、何の目的で造ったのか、そもそも建造物かどうかも疑わしい、5大陸に1ヶ所ずつ存在する巨大施設、それが古代迷宮といわれるモノである。
ヴァルナは5つの古代迷宮の一つに『おつかい』に言って来いと言う。
しかし、
「──俺はその古代迷宮がどこにあるのかすら知らないんだが?」
「なに、お前なら直ぐに見つけられるわ、なにせその古代迷宮は他の4つの迷宮と違い最近発見されたもので、名を──イズナバール迷宮と東大陸のやつらは呼んでおる」
「──っ!!」
ガタンッ!!
シンはいきなり立ち上がると、表情を硬くしてヴァルナを凝視する。
イズナバール──シンにとって、それはよく知る名前だった。
「どうじゃ、行きたくなったか?」
「……はぁ、分かったよ」
渋々という体で腰を下ろし、アタマをガシガシと掻きながらシンは目を瞑ると、一人の世界に入り込んで頭の中でシミュレートをはじめる。
自分がその場所に赴いたときの事を想定しているのだろうか。
──そして、
「さすがに古代迷宮に単身潜るのは色々目立ってしょうがないんだが?」
「──ふむ、ならば私が同行す」
「「却下!!」」
イグニスの意見は師弟コンビによって却下された。
落ち込む師匠を尻目にシンは、リオンに顔を向けると、
「リオン、一緒に来てくれないか?」
「へ、私ですか?」
「ああ、一人で迷宮に潜ると俺に視線が集まるけど、巨乳美女が同行してれば確実にそっちに目が行くんでな」
どちらにせよ悪目立ちはするだろうが、少なくとも話題は巨乳美女に集中するだろう、シンは同行者としてのやっかみだとかそういった、本人とは無関係な部分で引っ掛かるくらいとの判断だ。
ちなみにイグニスが却下な理由は、あからさまにシンを構うため、2人で目立つ様子が目に浮かぶからだ。
「だったらボクも同行するよ、2人より3人だよね♪」
「……お前ならそう言うだろうと思ってたよ、暇神」
「嬉しいよシン、そこまでボクの事を理解してくれているなんて!」
「俺のこの渋い表情を見ながらその言葉もう一度言ってみろや!」
「嬉しいよシン、そこまでボクの事を理解してくれているなんて!!」
「…………………………」
「嬉しいよシン──」
「スマン、俺が悪かった……」
実際のところ、エルダーが同行してくれるのならそれはそれでアリだと頭の中で算盤を弾くシンだったが、それとは別に心労が溜まりそうだなと不安視する自分もいた。
そしてリオンはというと、
「私も構いませんけど……シンは常々タダ働きはゴメンだと言っていたような?」
実に魅力的な笑顔でチクリと毒を吐く。
「……わかったよ。で、何が欲しいんだ?」
「さっきの鎧!! アトラスとか言いましたっけ? アレをぜひ!!」
「おおう!?」
隣に座っていたリオンはいきなり立ち上がると、椅子に腰掛けるシンに覆いかぶさるように圧をかける。
その顔は幾分か紅潮し、見開いた目は爛々と輝き鼻息は荒く、お互いの鼻先が触れる寸前まで近付いたせいで暖かい吐息がシンの肌をくすぐる。
「リオン、近い近い近い!!」
「ああ、これはすみません……だからシン、あの鎧を報酬としてくれるならこのリオン、いくらでも合力いたしますよ!!」
「……理由を聞いても?」
「もちろん、カッコイイからですよ! 一目で気に入りました! ああ、あの艶! 輝き! 鎧本体の思わずウットリする滑らかな曲線と、張り出しながらも稼動域を妨げない計算された追加装甲。魔竜の時は無理ですけど、ああいうオシャレな装備に身を包んで力を振るうのは楽しそうですねえ」
「アレをオシャレと来ましたか、リオンさん……」
リオンの感性に幾分引きつつ、シンとしてはまあ、それで向こうが良いと言うのならと思っていたりする。
作った本人としても、正直あの鎧は扱いに困る作品だった。
まず市場に流せないし、シンとしてもアレを着て旅に出る気などさらさら無い。
対龍種に作った防御力特化型にも拘らず、イグニスの防御無視攻撃であっさり負けた。
箪笥の肥しになるくらいなら欲しいと言ってる、かつ信頼の置ける相手に報酬として渡すのは悪くない。
なにより今はこの見かけでも南大陸最強の魔竜が味方になってくれるというのは悪くないどころかいい話である。
「ただなあ……アレは俺用にあつらえてるから直しをするのにリオンの身体をくまなく採寸しないといけないから……」
魔道鎧への愛情を語るリオンの、身体を揺らすたびに揺れる豊かな膨らみを鼻を伸ばしながらも澄まし顔で眺めるシン。
「その程度の手間ならいくらでも協力しますよ。待って下さいね、すぐにエルフの姿に──」
「馬鹿野郎!! ギルドマスターの姿じゃどこかから足がつくじゃねえか! リオンに目立ってもらって俺はそれを隠れ蓑にするつもりなんだから同行者は巨乳美女じゃないとダメなの! これ、絶対!!」
絶対に負けられない……もとい譲れない想いがそこにはあった。
「そ、そう……なんですか、分かりました。ならこの姿で採寸をお願いします」
シンは渾身のガッツポーズを決めた。そしてなぜかエルダーもそれに倣って拳を振り上げていたが真意は不明だった。
「なんじゃい、いつまで経ってもオッパイが恋しいガキンチョよのう」
「うるせえ、お前は黙ってろ!」
「はっ、昔はワシの胸に顔を埋めて泣いておったくせに……ホレ、しゃぶるか?」
「いつの話してんだよ! だから胸をほじくり出すな、隠せよ!!」
「……楽しそうだのう」
一人、場のテンションに乗り遅れたイグニスが寂しそうにしていた……。
──────────────
──────────────
その後、鎧の直しに合わせてシンも今回は旅の薬師ではなく冒険者のフリをする為に新装備の製作、ついでにエルダー用の装備も作って1ヶ月──その間地獄の修行をはさむこと数回──準備万端で3人は東大陸に転移した。
「いやあ、実に充実した日々だったよ」
「誰かに従順なシンなどという面白いものが見れました」
「……言ってろ」
仏頂面のシンは、東大陸に転移すると直ぐに『探知網』を展開させ、とりあえず街道を探す。
そして、
「──近くに街道はなさそうだな、とりあえず歩くか」
「「はーい」」
徒歩宣言に文句が出るかと思ったものの、周りの雪景色にテンションの上がってる2人はむしろ嬉しそうだった。
「そういえばシン、よくあんな無茶なおつかいを受けましたね」
「言うほど無茶か? まあ冬場にそれを求めるのは無茶かもしれんが、古代迷宮の中なら無いことも無いだろ?」
「冬場?」
「ん?」
リオンとシンの間に微妙に意思の疎通が出来ていない、そんな違和感が生じる。
そんな微妙な空気を打破しようとリオンはシンに質問をする。
「シン……ヴァルナ様から仰せつかったお使いの内容、覚えてます?」
「リオン、俺を馬鹿な子だと思ってるのか? 覚えてるよ『ネクター』だろ」
「……シン、もう一度言ってもらえますか?」
「だから、果実の搾り汁だって」
「……………………」
「シン……キミが耳の遠い鈍感系主人公だとは思わなかったよ」
目の前であからさまに頭を抱えるリオンと生暖かい視線を送るエルダーに、シンは戸惑いうろたえる。
「え? え?」
こめかみを指で押さえながらリオンは、とても優しい口調でシンを諭す。
「シン、ヴァルナ様が古代迷宮から取って来いとおっしゃったのは『ネクタル』です」
「ネクタル?」
「ええ、神酒です」
神酒──ネクタールとも呼ばれる、飲めば不老不死を得られると言われる神の酒。
そのような効果が実際にあるのかは不明、どのような経緯で言い伝えられているかも不明、実在したとの記録はあるが、現存するものは無い。
「………………帰るか」
「私は構いませんけど?」
「スイマセン冗談です」
「予想の斜め上を突き抜けてくれて嬉しいよ、我が相方」
「……泣きたい」
シンのテンションはダダ下がりだった……。
その後、貴重な霊薬を2度使用するほどの地獄に落とされたシンは、身体の傷は消えたものの、忘れたい過去に新たな1ページを追加する事になった。
そして現在、円卓を囲うように座る5人の中心に2つの、淡いターコイズブルーの殻を纏った大きな卵が鎮座している。
律儀にも海竜との約束を守るシンは、はたして義に厚い信義の徒かそれとも約束も守れない無能になるのが嫌と嘯く捻くれ者か。
「まあ、そういう事で……依頼されたのは頼むところまでだから無理に受ける必要は」
「ええじゃろ」
「だよな──んあっ!?」
「ヴァルナ、おぬし?」
予想外の言葉にシンは目を丸くし、イグニスは訝しげな顔になる。
「なんじゃ、可愛い弟子の頼みじゃから引き受けてやると言っておろうが、もっと感謝せんかい」
「……その言葉を額面どおりに受け取れることが出来れば私もシンも幸せなのだがな」
「良かったな、幸せ者ども」
「「……………………」」
「別にたいした理由など無いわ。しいて言うならシンの時と同じで暇つぶしよ、実体化したままでいる言い訳もたつしの」
そう言ってヴァルナは2つの卵をお手玉のようにヒョイヒョイと放り投げて遊ぶ。
──やがてお手玉に飽きたのか、卵をテーブルの上に置くとヴァルナはシンに向かって意地の悪い笑みを浮かべ、
「勿論、タダとは言わんよな?」
「タダって……それ以前に報酬なんか貰ってどうするつもりなんだよ?」
「金を寄越せ等とは言っておらんわ、チョットお使いに行って欲しいだけじゃ」
「おつかい?」
「おうよ──東大陸の古代迷宮にな」
古代迷宮──迷宮には大まかに分けて3種類存在する。
かつてその土地を支配していた豪族や為政者などの墳墓や、何らかの目的で建てられた一般的な人工物の迷宮。
ワームの通り穴や自然洞穴にコボルトやゴブリン等の魔物が住み着き、魔物の手によって補修・拡張されて出来上がった自然迷宮。
そして、いつ、誰が、何の目的で造ったのか、そもそも建造物かどうかも疑わしい、5大陸に1ヶ所ずつ存在する巨大施設、それが古代迷宮といわれるモノである。
ヴァルナは5つの古代迷宮の一つに『おつかい』に言って来いと言う。
しかし、
「──俺はその古代迷宮がどこにあるのかすら知らないんだが?」
「なに、お前なら直ぐに見つけられるわ、なにせその古代迷宮は他の4つの迷宮と違い最近発見されたもので、名を──イズナバール迷宮と東大陸のやつらは呼んでおる」
「──っ!!」
ガタンッ!!
シンはいきなり立ち上がると、表情を硬くしてヴァルナを凝視する。
イズナバール──シンにとって、それはよく知る名前だった。
「どうじゃ、行きたくなったか?」
「……はぁ、分かったよ」
渋々という体で腰を下ろし、アタマをガシガシと掻きながらシンは目を瞑ると、一人の世界に入り込んで頭の中でシミュレートをはじめる。
自分がその場所に赴いたときの事を想定しているのだろうか。
──そして、
「さすがに古代迷宮に単身潜るのは色々目立ってしょうがないんだが?」
「──ふむ、ならば私が同行す」
「「却下!!」」
イグニスの意見は師弟コンビによって却下された。
落ち込む師匠を尻目にシンは、リオンに顔を向けると、
「リオン、一緒に来てくれないか?」
「へ、私ですか?」
「ああ、一人で迷宮に潜ると俺に視線が集まるけど、巨乳美女が同行してれば確実にそっちに目が行くんでな」
どちらにせよ悪目立ちはするだろうが、少なくとも話題は巨乳美女に集中するだろう、シンは同行者としてのやっかみだとかそういった、本人とは無関係な部分で引っ掛かるくらいとの判断だ。
ちなみにイグニスが却下な理由は、あからさまにシンを構うため、2人で目立つ様子が目に浮かぶからだ。
「だったらボクも同行するよ、2人より3人だよね♪」
「……お前ならそう言うだろうと思ってたよ、暇神」
「嬉しいよシン、そこまでボクの事を理解してくれているなんて!」
「俺のこの渋い表情を見ながらその言葉もう一度言ってみろや!」
「嬉しいよシン、そこまでボクの事を理解してくれているなんて!!」
「…………………………」
「嬉しいよシン──」
「スマン、俺が悪かった……」
実際のところ、エルダーが同行してくれるのならそれはそれでアリだと頭の中で算盤を弾くシンだったが、それとは別に心労が溜まりそうだなと不安視する自分もいた。
そしてリオンはというと、
「私も構いませんけど……シンは常々タダ働きはゴメンだと言っていたような?」
実に魅力的な笑顔でチクリと毒を吐く。
「……わかったよ。で、何が欲しいんだ?」
「さっきの鎧!! アトラスとか言いましたっけ? アレをぜひ!!」
「おおう!?」
隣に座っていたリオンはいきなり立ち上がると、椅子に腰掛けるシンに覆いかぶさるように圧をかける。
その顔は幾分か紅潮し、見開いた目は爛々と輝き鼻息は荒く、お互いの鼻先が触れる寸前まで近付いたせいで暖かい吐息がシンの肌をくすぐる。
「リオン、近い近い近い!!」
「ああ、これはすみません……だからシン、あの鎧を報酬としてくれるならこのリオン、いくらでも合力いたしますよ!!」
「……理由を聞いても?」
「もちろん、カッコイイからですよ! 一目で気に入りました! ああ、あの艶! 輝き! 鎧本体の思わずウットリする滑らかな曲線と、張り出しながらも稼動域を妨げない計算された追加装甲。魔竜の時は無理ですけど、ああいうオシャレな装備に身を包んで力を振るうのは楽しそうですねえ」
「アレをオシャレと来ましたか、リオンさん……」
リオンの感性に幾分引きつつ、シンとしてはまあ、それで向こうが良いと言うのならと思っていたりする。
作った本人としても、正直あの鎧は扱いに困る作品だった。
まず市場に流せないし、シンとしてもアレを着て旅に出る気などさらさら無い。
対龍種に作った防御力特化型にも拘らず、イグニスの防御無視攻撃であっさり負けた。
箪笥の肥しになるくらいなら欲しいと言ってる、かつ信頼の置ける相手に報酬として渡すのは悪くない。
なにより今はこの見かけでも南大陸最強の魔竜が味方になってくれるというのは悪くないどころかいい話である。
「ただなあ……アレは俺用にあつらえてるから直しをするのにリオンの身体をくまなく採寸しないといけないから……」
魔道鎧への愛情を語るリオンの、身体を揺らすたびに揺れる豊かな膨らみを鼻を伸ばしながらも澄まし顔で眺めるシン。
「その程度の手間ならいくらでも協力しますよ。待って下さいね、すぐにエルフの姿に──」
「馬鹿野郎!! ギルドマスターの姿じゃどこかから足がつくじゃねえか! リオンに目立ってもらって俺はそれを隠れ蓑にするつもりなんだから同行者は巨乳美女じゃないとダメなの! これ、絶対!!」
絶対に負けられない……もとい譲れない想いがそこにはあった。
「そ、そう……なんですか、分かりました。ならこの姿で採寸をお願いします」
シンは渾身のガッツポーズを決めた。そしてなぜかエルダーもそれに倣って拳を振り上げていたが真意は不明だった。
「なんじゃい、いつまで経ってもオッパイが恋しいガキンチョよのう」
「うるせえ、お前は黙ってろ!」
「はっ、昔はワシの胸に顔を埋めて泣いておったくせに……ホレ、しゃぶるか?」
「いつの話してんだよ! だから胸をほじくり出すな、隠せよ!!」
「……楽しそうだのう」
一人、場のテンションに乗り遅れたイグニスが寂しそうにしていた……。
──────────────
──────────────
その後、鎧の直しに合わせてシンも今回は旅の薬師ではなく冒険者のフリをする為に新装備の製作、ついでにエルダー用の装備も作って1ヶ月──その間地獄の修行をはさむこと数回──準備万端で3人は東大陸に転移した。
「いやあ、実に充実した日々だったよ」
「誰かに従順なシンなどという面白いものが見れました」
「……言ってろ」
仏頂面のシンは、東大陸に転移すると直ぐに『探知網』を展開させ、とりあえず街道を探す。
そして、
「──近くに街道はなさそうだな、とりあえず歩くか」
「「はーい」」
徒歩宣言に文句が出るかと思ったものの、周りの雪景色にテンションの上がってる2人はむしろ嬉しそうだった。
「そういえばシン、よくあんな無茶なおつかいを受けましたね」
「言うほど無茶か? まあ冬場にそれを求めるのは無茶かもしれんが、古代迷宮の中なら無いことも無いだろ?」
「冬場?」
「ん?」
リオンとシンの間に微妙に意思の疎通が出来ていない、そんな違和感が生じる。
そんな微妙な空気を打破しようとリオンはシンに質問をする。
「シン……ヴァルナ様から仰せつかったお使いの内容、覚えてます?」
「リオン、俺を馬鹿な子だと思ってるのか? 覚えてるよ『ネクター』だろ」
「……シン、もう一度言ってもらえますか?」
「だから、果実の搾り汁だって」
「……………………」
「シン……キミが耳の遠い鈍感系主人公だとは思わなかったよ」
目の前であからさまに頭を抱えるリオンと生暖かい視線を送るエルダーに、シンは戸惑いうろたえる。
「え? え?」
こめかみを指で押さえながらリオンは、とても優しい口調でシンを諭す。
「シン、ヴァルナ様が古代迷宮から取って来いとおっしゃったのは『ネクタル』です」
「ネクタル?」
「ええ、神酒です」
神酒──ネクタールとも呼ばれる、飲めば不老不死を得られると言われる神の酒。
そのような効果が実際にあるのかは不明、どのような経緯で言い伝えられているかも不明、実在したとの記録はあるが、現存するものは無い。
「………………帰るか」
「私は構いませんけど?」
「スイマセン冗談です」
「予想の斜め上を突き抜けてくれて嬉しいよ、我が相方」
「……泣きたい」
シンのテンションはダダ下がりだった……。
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