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5章 イズナバール迷宮編
225話 決闘前
──最近、周囲の連中が俺に優しい。
「おうジン、あのユアンと決闘するんだって? まあなんだ、ほら……俺の奢りだ」
「おうジン、あさっては南の広場で1対1の決闘するんだってな……短い人生だったな」
「おうジン、リオンちゃんの事は俺に任せとけ!」
「おうジン……」
「……」
……前言撤回、世界はいつだって俺に優しくない。
俺とユアンの決闘の話はいつの間にか町中に広まっており、屋台に来る常連客から定食屋や酒場のなじみ、見知らぬ通行人に至るまで……人相書きでも出回っているのか?
はては異種混合の屋敷に足を運んだ際に、
「ジン、今すぐ頭を下げて来い!! 迷宮攻略に支障がきたしたらどうするんだ!?」
ジェリクやルフト辺りが心配してくれたが、
「リオンや彼女達は既にコミュニティの戦力として計画を立てているんだぞ!」
……ブ○ータス、お前もか。
うむ、どうやら俺が勝つと予想しているヤツはどこにもいないようだ。ほぼ唯一の例外は俺のごく近場の連中だけか……といっても片手で余るじゃねえか。
本来はレベル63の雑魚アピールが功を奏したと喜ぶべきなのだろうが、こうも負けると決め付けられるのは正直気分が悪い。せめてエルや護衛の彼女達だけには、実は強いんですよ、と教えてしまいたい衝動に駆られる。
「ジンさん……」
何せエルに至っては俺の人生の終焉が近いと思ってか、お早うからお休みまで俺にベッタリで、デイジーちゃん達が止めなければお休みからも一緒になりそうな勢いだ、その辺は彼女達に感謝している。
そして当然と言えば当然の事なのだが、勝敗予想の賭け事が裏で公然と(?)行われているらしい。
てっきり暇神の差し金かと思っていたが犯人は探索者ギルドのようで、裏どころか堂々と掲示板に張り出していやがった。
『探索者ユアン、ジン両名の決闘が来る5月1日正午、南の広場にて行われる。尚、勝敗予想は100:1』
なんだよ、勝敗予想100:1って、どう見ても倍率だろうが!!
当然の如く俺はギルドに抗議に行ったが、
「ジン君、当ギルドとしては最深部へ潜る有能な探索者同士が決闘など、出来れば避けたいんだ。しかし君たちの決意は固く、決闘が免れる事の無い未来なのだとしたら、せめて胴元になって今後の損失を補填しようと考える事は、果たして責められる事だろうか?」
責められる事だよ!!
だいいち手前ら俺に決闘を止めろなんて一言も言ってねえだろ!
……ったく、ともあれ、賭けには当事者どころか関係者も参加出来るという事で、俺の本気度と怒りを見せつけるつもりで大金貨100枚出してやったら、ギルド長の顔が青ざめていた。
しかし、一矢報いたと喜んだのも束の間、エルが「だったら僕も!」と言って隠し持ってた指輪を取り出したのには本気で焦った。
ヤメテ! そんな見せるだけで身の証が立つような紋章入りの指輪出さないで!!
放心状態で指輪に気付かなかったギルド長を放って宿屋に戻ると、ルディもリオンも俺と同額を賭けていたらしい。なるほど、胴元よりコッチの方が儲かると判断したのかコイツら……。
翌日、掲示板を見ると倍率が10:2になっていた。大金貨300枚賭けてまだこの倍率だというのか……よしわかった、お前ら全員路頭に迷えや。
そして4月最後の日曜日、無用心にも1人で町を散歩していたルディが夕方になって宿に戻って来ると、俺に向かって笑顔でサムズアップしてきた。
ああ、明日はレベル163と63の、決闘という名の公開処刑、レベル63の俺としては実に憂鬱だ……。
──────────────
──────────────
時間は少し撒き戻り、決闘を2日後に控えた夜──
「ユアン!! ジンと決闘なんて止めて!!」
「そんな事出来るわけないだろ。だいたい、決闘を仕掛けてきたのはアイツの方だ。俺は向こうの申し出を受けただけなんだから責められる筋合いは無いだろ?」
「でも──」
スッ──
それ以上リーゼの口からアイツの話題を聞きたくない俺は、右手を上げて彼女の抗議を遮る。
こうすればリーゼはいつも俺の気持ちを汲んで、それ以上とやかく言ってこない。
しかし最近のリーゼは、黙りはするものの、不満げな表情と視線を俺に送ってくる事が多い、そんな時は決まってあの男の話題だ、まったく、苛立たせてくれる。
むくれるリーゼはいつも可愛かった。上目遣いに俺を睨み付ける彼女を抱きしめ、唇を重ねたまま寝台に押し倒せば、次第に可愛らしい喘ぎ声と表情で俺を楽しませてくれた。
……なのに、今のリーゼの表情はなんだ!
今の彼女は直接俺に対する不満を持っているわけでも、ましてや仲間の事で俺を睨んでいる訳でもない。
──ジン。
あの男の身を案じて俺を睨む、いや責めるリーゼの顔は欠片も可愛いと思えない。
もしここで彼女を押し倒したらどんな反応をするだろう?
いや、それよりもあの男の吐いた台詞を聞かせたらどんな反応をするだろう──
『──まだ数回しか会ってねえしそれほど仲良くもねえ──』
その言葉にリーゼが、その通りだと答えればよし、だがもし、その言葉を聞いたリーゼが悲しい表情を見せるような事があれば俺は──そんなの、怖くて聞けるはずが無い。
「…………ハァ」
「ユアン……」
俺はリーゼに見せ付けるように深いため息をつく。
今まではこんな事で悩みなどしなかった。己の力に目覚め、守られる側から守る側へ変わったあの日から、前だけを見て歩いてきた。
故郷を離れる時も、幼馴染のリーゼは黙って俺についてきてくれた。領主の使命を果した時も、盗賊団を潰してマーニーを解放した時も、獣人抹殺の命令に背き、密かに集落ごと移住させてモーラに恩人だと感謝された時も、リーゼはいつだって俺の気持ちを、正しさを理解してくれていた。
権力者どもの言いなりになるのが嫌で、迷宮の最深部で秘宝を見つけた時、俺の道が開けた。俺の望む未来が目の前に開けたと思った。
ス──
胸元から1本の木片を取り出す。
ペンほどの大きさの何の変哲も無い丸い木の棒、これこそが俺が古代迷宮踏破の果てに手に入れた秘宝、俺の未来を指し示す道標。
──コイツがあるから俺はここまでやって来た。今の俺があるのはコイツの導きのおかげで、それはこれからも変わらない……そのハズなのに。
この町に来てからというもの、俺の周りは捗捗しくない、やる事なす事ろくな結果にならない。
──ジン。
ここにもアイツの名前が出てきやがる。
モーラとマーニーが何をしようとしていたのかは知らないが、俺の目の前にちらつくアイツの影を排除しようとしてくれたんだろう。
結果的に作戦は失敗、2人とも辛い目に合うハメになったが、俺の為を想っての行動を感謝以外の気持ちで応えられる訳が無い、なのに何故リーゼはアイツの肩を持つ?
2人がああなったのも、実はアイツらが裏で繋がっていた可能性だってあるんだ、でなければ2人が誰かに足元を掬われる様なヘマをする訳が無い。
どうしてそれが分からないんだ?
──────────────。
──そうか、そうなんだな。
これは試練なんだ。
この町での出来事は全て秘宝が俺に与えた試練で、2人の悲劇も、リーゼとの諍いも、全て俺が次の段階へ上がるためのお膳立て、そうなんだな?
──いいだろう、俺はユアン。
かつて辺境の勇者、剣舞のユアンと讃えられた俺が、いつの日か本当に勇者の称号を天から賜るため──ヤツを殺す。
「──ユアン」
「どうした、リシェンヌ?」
「おかしいと思わない? キマイラ討伐時、彼の基本レベルはせいぜい63、戦闘後にレベルが上がったとしても70に届くとも思えない」
「何が言いたい?」
「そんな彼がユアンに決闘を申し込む意味よ、ユアン相手にわざわざ決闘を申し込むなんて自殺行為をするとは思えないわ」
確かに一理ある。
決闘と言う形なら、いくら事前に殺さないと取り決めようと、不慮の事故と言うのはいくらでも起きる。そしてほとんどの場合は黙認される。
そもそも、命が惜しければあの時俺を挑発などせず、土下座でもして許しを請えば、多少は小突いたものの、2度とリーゼに近付かないと誓わせる事で勘弁してやっただろう。
命が惜しくない訳は無いだろう、しかしこのまま決闘に及んだとして、あの男に勝ちの目があるとも思えない。
何か見落としが……。
高威力の魔法……基本レベル63には無理だ。
ならば魔法の武器? もしかすると、とっておきを隠しているとか……そんなものがあるならキマイラの時に使うだろう、何より、俺に攻撃は届かない。
だとすれば魔道具、薬品…………薬!?
「超人薬──リシェンヌ、超人薬だ!!」
「そうか!! 全能力を3倍に引き上げる秘薬、あれを使えば5分限定とはいえユアンに匹敵する力を引き出せる!」
加えてアイツは、俺達があの薬の存在を知っている事を知らない。
基本レベル63とはいえ、3倍の速度で3倍の筋力による攻撃、不意さえ突けば俺を倒す事も可能だとヤツは計算している訳か……どこまでも狡い野郎だ。
……残念だったな、俺達はソレを知ってるんだよ。
「──フン、これでヤツの勝ちは無くなったな。知らなくて寝首をかかれることはあっても、知っていれば対処は出来る」
まだ若い頃はこの眼でオーガの集団を討伐した事もある。自分より強い相手を何度も返り討ちにしてきた俺の異能なら、たかだか5分間の超人なんぞに遅れは取らない!
ああ楽しみだ、たった2日待つだけの事がこんなにもじれったい。
喜びが顔に出るのを堪えきれない俺に向かって、リシェンヌが話を持ちかける。
「ねえユアン、こんなのはどうかしら──」
リシェンヌの話を聞いた俺は、興奮が抑えきれずにそのままリシェンヌを抱きしめると、俺に福音をもたらすその唇を貪る。
リシェンヌの舌を弄びながら俺は、ヤツの絶望する姿を想像してさらに昂る。
せいぜい泣き喚くがいいぜ──。
………………………………………………
………………………………………………
「よう、よく逃げないで出てきやがったな。それだけは誉めてやるぜ」
先に広場で待っていたユアンは、その全身から自信と余裕を漲らせて立っていた。
対するジンはといえば──
「……ったく、いい気なもんだぜ」
寝惚け眼に寝ぐせも直さず、とかくやる気の無さそうな態度であった──。
「おうジン、あのユアンと決闘するんだって? まあなんだ、ほら……俺の奢りだ」
「おうジン、あさっては南の広場で1対1の決闘するんだってな……短い人生だったな」
「おうジン、リオンちゃんの事は俺に任せとけ!」
「おうジン……」
「……」
……前言撤回、世界はいつだって俺に優しくない。
俺とユアンの決闘の話はいつの間にか町中に広まっており、屋台に来る常連客から定食屋や酒場のなじみ、見知らぬ通行人に至るまで……人相書きでも出回っているのか?
はては異種混合の屋敷に足を運んだ際に、
「ジン、今すぐ頭を下げて来い!! 迷宮攻略に支障がきたしたらどうするんだ!?」
ジェリクやルフト辺りが心配してくれたが、
「リオンや彼女達は既にコミュニティの戦力として計画を立てているんだぞ!」
……ブ○ータス、お前もか。
うむ、どうやら俺が勝つと予想しているヤツはどこにもいないようだ。ほぼ唯一の例外は俺のごく近場の連中だけか……といっても片手で余るじゃねえか。
本来はレベル63の雑魚アピールが功を奏したと喜ぶべきなのだろうが、こうも負けると決め付けられるのは正直気分が悪い。せめてエルや護衛の彼女達だけには、実は強いんですよ、と教えてしまいたい衝動に駆られる。
「ジンさん……」
何せエルに至っては俺の人生の終焉が近いと思ってか、お早うからお休みまで俺にベッタリで、デイジーちゃん達が止めなければお休みからも一緒になりそうな勢いだ、その辺は彼女達に感謝している。
そして当然と言えば当然の事なのだが、勝敗予想の賭け事が裏で公然と(?)行われているらしい。
てっきり暇神の差し金かと思っていたが犯人は探索者ギルドのようで、裏どころか堂々と掲示板に張り出していやがった。
『探索者ユアン、ジン両名の決闘が来る5月1日正午、南の広場にて行われる。尚、勝敗予想は100:1』
なんだよ、勝敗予想100:1って、どう見ても倍率だろうが!!
当然の如く俺はギルドに抗議に行ったが、
「ジン君、当ギルドとしては最深部へ潜る有能な探索者同士が決闘など、出来れば避けたいんだ。しかし君たちの決意は固く、決闘が免れる事の無い未来なのだとしたら、せめて胴元になって今後の損失を補填しようと考える事は、果たして責められる事だろうか?」
責められる事だよ!!
だいいち手前ら俺に決闘を止めろなんて一言も言ってねえだろ!
……ったく、ともあれ、賭けには当事者どころか関係者も参加出来るという事で、俺の本気度と怒りを見せつけるつもりで大金貨100枚出してやったら、ギルド長の顔が青ざめていた。
しかし、一矢報いたと喜んだのも束の間、エルが「だったら僕も!」と言って隠し持ってた指輪を取り出したのには本気で焦った。
ヤメテ! そんな見せるだけで身の証が立つような紋章入りの指輪出さないで!!
放心状態で指輪に気付かなかったギルド長を放って宿屋に戻ると、ルディもリオンも俺と同額を賭けていたらしい。なるほど、胴元よりコッチの方が儲かると判断したのかコイツら……。
翌日、掲示板を見ると倍率が10:2になっていた。大金貨300枚賭けてまだこの倍率だというのか……よしわかった、お前ら全員路頭に迷えや。
そして4月最後の日曜日、無用心にも1人で町を散歩していたルディが夕方になって宿に戻って来ると、俺に向かって笑顔でサムズアップしてきた。
ああ、明日はレベル163と63の、決闘という名の公開処刑、レベル63の俺としては実に憂鬱だ……。
──────────────
──────────────
時間は少し撒き戻り、決闘を2日後に控えた夜──
「ユアン!! ジンと決闘なんて止めて!!」
「そんな事出来るわけないだろ。だいたい、決闘を仕掛けてきたのはアイツの方だ。俺は向こうの申し出を受けただけなんだから責められる筋合いは無いだろ?」
「でも──」
スッ──
それ以上リーゼの口からアイツの話題を聞きたくない俺は、右手を上げて彼女の抗議を遮る。
こうすればリーゼはいつも俺の気持ちを汲んで、それ以上とやかく言ってこない。
しかし最近のリーゼは、黙りはするものの、不満げな表情と視線を俺に送ってくる事が多い、そんな時は決まってあの男の話題だ、まったく、苛立たせてくれる。
むくれるリーゼはいつも可愛かった。上目遣いに俺を睨み付ける彼女を抱きしめ、唇を重ねたまま寝台に押し倒せば、次第に可愛らしい喘ぎ声と表情で俺を楽しませてくれた。
……なのに、今のリーゼの表情はなんだ!
今の彼女は直接俺に対する不満を持っているわけでも、ましてや仲間の事で俺を睨んでいる訳でもない。
──ジン。
あの男の身を案じて俺を睨む、いや責めるリーゼの顔は欠片も可愛いと思えない。
もしここで彼女を押し倒したらどんな反応をするだろう?
いや、それよりもあの男の吐いた台詞を聞かせたらどんな反応をするだろう──
『──まだ数回しか会ってねえしそれほど仲良くもねえ──』
その言葉にリーゼが、その通りだと答えればよし、だがもし、その言葉を聞いたリーゼが悲しい表情を見せるような事があれば俺は──そんなの、怖くて聞けるはずが無い。
「…………ハァ」
「ユアン……」
俺はリーゼに見せ付けるように深いため息をつく。
今まではこんな事で悩みなどしなかった。己の力に目覚め、守られる側から守る側へ変わったあの日から、前だけを見て歩いてきた。
故郷を離れる時も、幼馴染のリーゼは黙って俺についてきてくれた。領主の使命を果した時も、盗賊団を潰してマーニーを解放した時も、獣人抹殺の命令に背き、密かに集落ごと移住させてモーラに恩人だと感謝された時も、リーゼはいつだって俺の気持ちを、正しさを理解してくれていた。
権力者どもの言いなりになるのが嫌で、迷宮の最深部で秘宝を見つけた時、俺の道が開けた。俺の望む未来が目の前に開けたと思った。
ス──
胸元から1本の木片を取り出す。
ペンほどの大きさの何の変哲も無い丸い木の棒、これこそが俺が古代迷宮踏破の果てに手に入れた秘宝、俺の未来を指し示す道標。
──コイツがあるから俺はここまでやって来た。今の俺があるのはコイツの導きのおかげで、それはこれからも変わらない……そのハズなのに。
この町に来てからというもの、俺の周りは捗捗しくない、やる事なす事ろくな結果にならない。
──ジン。
ここにもアイツの名前が出てきやがる。
モーラとマーニーが何をしようとしていたのかは知らないが、俺の目の前にちらつくアイツの影を排除しようとしてくれたんだろう。
結果的に作戦は失敗、2人とも辛い目に合うハメになったが、俺の為を想っての行動を感謝以外の気持ちで応えられる訳が無い、なのに何故リーゼはアイツの肩を持つ?
2人がああなったのも、実はアイツらが裏で繋がっていた可能性だってあるんだ、でなければ2人が誰かに足元を掬われる様なヘマをする訳が無い。
どうしてそれが分からないんだ?
──────────────。
──そうか、そうなんだな。
これは試練なんだ。
この町での出来事は全て秘宝が俺に与えた試練で、2人の悲劇も、リーゼとの諍いも、全て俺が次の段階へ上がるためのお膳立て、そうなんだな?
──いいだろう、俺はユアン。
かつて辺境の勇者、剣舞のユアンと讃えられた俺が、いつの日か本当に勇者の称号を天から賜るため──ヤツを殺す。
「──ユアン」
「どうした、リシェンヌ?」
「おかしいと思わない? キマイラ討伐時、彼の基本レベルはせいぜい63、戦闘後にレベルが上がったとしても70に届くとも思えない」
「何が言いたい?」
「そんな彼がユアンに決闘を申し込む意味よ、ユアン相手にわざわざ決闘を申し込むなんて自殺行為をするとは思えないわ」
確かに一理ある。
決闘と言う形なら、いくら事前に殺さないと取り決めようと、不慮の事故と言うのはいくらでも起きる。そしてほとんどの場合は黙認される。
そもそも、命が惜しければあの時俺を挑発などせず、土下座でもして許しを請えば、多少は小突いたものの、2度とリーゼに近付かないと誓わせる事で勘弁してやっただろう。
命が惜しくない訳は無いだろう、しかしこのまま決闘に及んだとして、あの男に勝ちの目があるとも思えない。
何か見落としが……。
高威力の魔法……基本レベル63には無理だ。
ならば魔法の武器? もしかすると、とっておきを隠しているとか……そんなものがあるならキマイラの時に使うだろう、何より、俺に攻撃は届かない。
だとすれば魔道具、薬品…………薬!?
「超人薬──リシェンヌ、超人薬だ!!」
「そうか!! 全能力を3倍に引き上げる秘薬、あれを使えば5分限定とはいえユアンに匹敵する力を引き出せる!」
加えてアイツは、俺達があの薬の存在を知っている事を知らない。
基本レベル63とはいえ、3倍の速度で3倍の筋力による攻撃、不意さえ突けば俺を倒す事も可能だとヤツは計算している訳か……どこまでも狡い野郎だ。
……残念だったな、俺達はソレを知ってるんだよ。
「──フン、これでヤツの勝ちは無くなったな。知らなくて寝首をかかれることはあっても、知っていれば対処は出来る」
まだ若い頃はこの眼でオーガの集団を討伐した事もある。自分より強い相手を何度も返り討ちにしてきた俺の異能なら、たかだか5分間の超人なんぞに遅れは取らない!
ああ楽しみだ、たった2日待つだけの事がこんなにもじれったい。
喜びが顔に出るのを堪えきれない俺に向かって、リシェンヌが話を持ちかける。
「ねえユアン、こんなのはどうかしら──」
リシェンヌの話を聞いた俺は、興奮が抑えきれずにそのままリシェンヌを抱きしめると、俺に福音をもたらすその唇を貪る。
リシェンヌの舌を弄びながら俺は、ヤツの絶望する姿を想像してさらに昂る。
せいぜい泣き喚くがいいぜ──。
………………………………………………
………………………………………………
「よう、よく逃げないで出てきやがったな。それだけは誉めてやるぜ」
先に広場で待っていたユアンは、その全身から自信と余裕を漲らせて立っていた。
対するジンはといえば──
「……ったく、いい気なもんだぜ」
寝惚け眼に寝ぐせも直さず、とかくやる気の無さそうな態度であった──。
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