転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

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5章 イズナバール迷宮編

237話 結成

 ──某日某所──

「あがぁ!!」
「ベリル! 手前ぇ、一体何の真似だ!?」

 コミュニティ「死山血河」の本部屋敷に、ドアを蹴破って押し入った集団、その先頭にいる男はたまたま真正面に居た男の顔を殴りつけ、男はそのまま数メートル吹き飛ばされる。
 トップコミュニティ、しかもその本部でそんな暴挙に及ぶ阿呆を初めて目の当たりにしたメンバー達は一瞬怯みはしたものの、すぐに威勢を取り戻して侵入者に対して威嚇を始める。

「何の真似、だぁ? 手前ンとこのハゲ大将が装備を揃えて出直して来いっつうから、わざわざ集めて回ってんだろうが!!」

 先頭の男──ユアンはそう言うと周囲の探索者たちを一瞥し、かぶりを振りつつ肩をすくめる。

「……たいした鎧を着けてねえな」

 ザワ──

 死山血河のメンバーはユアンの言葉の意味を正しく悟る。
 ユアンは現在、剣は背負っているものの全身平服に身を包んでおり、およそ装備と呼べるものは身に着けていない。その彼からついて出た言葉から意味する所は──。
 奪うと言っているのだ、自分たちから。

「──おい、後ろ」
「ああ、アレは──」

 ユアンの後ろに控えている4人の女性は、いずれも見た目にもこれと分かるほど立派な造りをした革鎧とローブを身につけており、また、どれも何がしかの魔力を帯びているらしく、鑑定能力や魔力を感知できる者にはうっすらと魔力の光を放っているのが見えただろう。
 しかし重要なのは、彼女達が着ている装備は彼等の見知っている物だったからである。
 「死山血河」と同様、「乾坤一擲」そして「千変万化」の両コミュニティに最近派遣されてきた本国からの精鋭部隊、彼等が見につけていた装備をなぜ彼女達が装備しているのか……答えはおのずと理解できた。
 数日前まではユアンの事を笑い話の種に美味い酒を飲んだ。
 誰かから剥ぎ取ったサイズの合わない服で町中を歩く姿を見かけ、仲間と一緒に笑いもした。
 格下相手に無様な醜態をさらしてその実力に疑問ありと、賭けに参加して大損をしたコミュニティの代表達から迷宮攻略での契約を破棄され追い返される奴等を見下しもした。
 ──その連中が今、こうして再びコミュニティの本部にやって来た、しかも殴りこみと言う形で。
 そして、ユアンだけが未だに平服である意味──所詮ただの構成員でしかない彼等に、ユアン達を止める力も気概もなく、5人が建物の奥に、幹部連中の集まる場所へと進む彼等をただ見つめるのみだった。

「──お望み通り装備を整えて出直して来たぜ、つっても1人分足りねえんだが……まあ直ぐに揃えてやるよ──ここでな」


──────────────
──────────────


「そんな提案を俺たちに飲めと言うのか、一探索者の分際で!?」
「国を背負ってりゃ偉いのか? そもそも俺達に無様に負けた後で吐く台詞じゃねえな、頭に蟲でも湧いてんのか?」

 死山血河の本部会議室には、最も奥まった場所の豪華な椅子に座るユアンとその背後に並ぶ4人の女性、そして反対側にはコミュニティの代表パーティとその支援国であるドウマから派遣された精鋭部隊が立っている──1人を除いて。

「別に難しい話をしてるつもりはねえぞ? 既に最下層攻略にとりかかってる異種混合に対抗するため、他のコミュニティが力を合わせて頑張ろうって話だ」

 確かに難しい話では無い……3つの内のどれかが主導権を握ると内輪揉めが起きるから、それを防ぐ意味も込めてユアンが全体のリーダーになる。などという妄言さえ吐かなければの話だが。
 言い分は間違っていない。確かに3つのコミュニティで力を合わせるのも、公平を期すために外部のものを建て前上代表に据えるのも。
 しかしそれが会議室の床に転がる、絶命し身に着けていた魔法の鎧を剥ぎ取られた、ドウマから派遣されてきた部隊のリーダーの骸を作り出した張本人の口から唱えられ、彼を頂点とせよと言われて従う者は居ないだろう。

「隊長を殺しておいて良くもそんな世迷言を!!」
「なす術も無く殺される程度の実力しか持たないヤツが隊長だとか、悪い冗談だな」
「そもそも、誰のせいで迷宮攻略が遅れてると思ってるんだ!!」
「はぁ?」

 実のところ、3つのコミュニティは先日のジンとユアンの勝負において、ユアンの勝利に活動資金の大半をつぎ込んでいた。
 冷静に考えれば、コミュニティの活動資金をギャンブルに使うなど言語道断ではあるが、対戦相手を考えれば、ほぼ10割方勝つ、負ける方法を知りたいと思うレベルの実力差の勝負だったはずで、冷静に考えて、鉄板の勝負に大金を投じないというのも彼らにとってはある意味言語道断な話だった。
 そして結果は言わずもがなである。
 その結果、活動資金が大幅に減じられた彼等は40層攻略の為に必要な後方支援を「韋駄天」に依頼する資金が足りず、足踏みしている状態だった。
 ちなみに、現状において「異種混合」が他3勢力より1歩も2歩も先んじているのは、ジン達を仲間に引き入れているのが主な原因であり、単体の戦闘力が高い者が多いほど機動力は高く、補給も少なくて済んでいるからだ。なおかつ、充分な活動資金のおかげで回復薬も中級以上を揃えて持ち運びやすく、各種物資も小型で効率的な物で取り揃えている。資金は国力・軍事力の下支えになるという証左であった。
 であるならば、3コミュニティが結束すれば戦力の不足も、彼等が補給を担当するのであれば「韋駄天」に頼む資金の問題も同時に解消できる。
 考え自体は間違っていない……提案したのがユアンでなければ、の話だが。

「そもそも、手前があの時勝負に負けさえしなければ……」
「は、お前等の財布の中身まで俺のせいだとでもいいたいのか? 負け犬根性が極まるとここまで恥知らずな言葉が吐けるようになるんだな」
「……負け犬なのはお前も一緒だろ」

 ──ピク

 片眉が跳ね上がると、ユアンはゆらりと立ち上がり声の主へ向かって歩き出す。

 ガシッ──!!

「ふぇっ!?」
「──俺は負けてねえ。卑怯な罠にはまって不覚を取っただけだ、正面からやりあえば俺の勝ちは揺るがないんだよ!!」

 部屋に押し入り、今まで椅子に腰掛けていたユアンが見せていた余裕の表情は消え去り、血走った目は男が視線を逸らす事を許さず、顎を掴まれた男はまさに蛇に睨まれたカエルの如く、身動きどころか思考すら奪われていた。
 そして、

 ゴキリ──

「んごおおおおお!!」

 そのまま顎を砕かれた男はその場に蹲り、それでも気が収まらないユアンは男の砕けた顎を更に蹴り上げると、周囲の連中を一睨み、そして問いかける。

「で、まだ俺はジンアイツに劣ってるとぬかす奴はいるか? いるなら名乗り出ろ。もしいないのなら、さっさと俺の提案に返事をしろ。言っておくが今の俺はコイツのせいで機嫌が悪い……いや、ただそれだけの事だがな」

 見開くユアンの目つきは半ば狂気染みており、不気味に笑う口元も相まって、正面きって反論するものなどおらずユアンの提案は受け入れられた。
 もちろん、本国にとっては迷宮踏破とその後の領有権、それさえ手に入るのであれば途中の経過も彼等の心情もどうでもよく、今回の共闘の件を知らせたところ、帰ってきた返答は、

「ライゼン独走の現状をなんとしても打破するべし。その為にもユアンの要求は全て受け入れ、その上で迷宮攻略の功が手に入るよう最善を尽くせ」

 言うは易し、されど……であった。
 しかし、ユアンの提案は明確な結果を持って証明された。
 3コミュニティの合同部隊は驚くべき速度で40層に辿り着き、瞬く間に階層のボスを討伐。
 ジン達の倍以上の戦力となった合同部隊が、遂に最下層の攻略に参加する事になる。

「もうすぐだ……ジン、手前に奪われたもの、名声、プライド、そして──全て、全てを奪い返してやる!!」

 ユアンの目にはどす黒い炎が揺らめいていた。
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