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5章 イズナバール迷宮編
244話 放たれる災厄
くそっ、いきなり先手を取られた!
魔竜、とりわけヴリトラ級の咆哮はそれだけで攻撃みたいなものだ、ランク指定外級でもなければ浴びるだけで体がすくみ、レベル2桁程度であれば命の危険すら──
────まずい!!
「エル坊っ!?」
俺は振り返るとエルの様子を確認する。
「────────」
大きく目を開いて硬直しているが、少なくとも死んではいない。
よかった……しかし、なぜ?
こちらにしてみれば有り難い話だが、それは理屈に合わない。
エルの基本レベル・肉体強度でヴリトラの咆哮を耐え切れるはずが無い。仮に耐えられるとするならば、エルにはそれに見合う異能が備わっているかもしくは──
あのヴリトラには何かが足りない?
(──気付いたか)
(邪竜!! ……いや、聖竜王か?)
(気遣いは無用だ──それよりも目の前のアレに集中するのだな)
(────!!)
ダッ──!!
俺は、咆哮を浴びて動けなくなったルフト達の前方にダッシュで回りこみ、
「我、世界に呼びかける、大地に溝帯あり、海に海溝あり、されば空には空裂あらん、隔絶せよ”断空”!!」
ヒュオン────!!
──────カッ!!
透明なアクリル板が差し込まれたかのように一瞬目の前の空間が歪むと、間髪を入れずヴリトラの炎の息吹が俺達に向かって放たれる。
ボオオオオオ────
────オオオオオ!!
ヴリトラの口から伸びる炎の渦は、俺の作った空間の断層に届くとその進行を90度曲げ、壁にぶつかった炎が行き先を求め外へ外へと広がるように逸れてゆく。
オオォォォ────シュッ!
炎が届いていない事を確認したヴリトラはブレスを直ぐに止める。
そして今度は前肢を振りかぶり、鋭く巨大な5つの爪で俺を薙ぎ払おうとする──
が、
ドズシャアア──!!
ヴリトラの腕は想定の軌道を無視し、あらぬ方向へと進んだせいでバランスを崩したヴリトラはその巨体をよろめかせ、床にその腹を打ち付ける!
「らしくないな……」
以前戦ったヤツはこんなものではなかった。怒りと憎しみに凝り固まったこいつの攻撃は執拗でいて同時に不合理で、間違っても、届かないブレスをさっさと引っ込めて爪を振るうなど、およそ理性的な判断などしなかった……はずだ。
(耳の痛いことよな)
(ブライティア!? ありゃあ一体なんだ? いつまで経っても転生しないテメエに業を煮やした誰かの作ったお前の体か?)
(面白い説ではあるが違うな。アレは迷宮生物がそなたに対抗するために作り上げた我の模造品よ)
模造品、つまり迷宮内で活動する他の魔物と同様、迷宮生物の魔力によって精製された似非生命って事か……1000年分の有り余った魔力で何してくれてんだ、コラ!!
(こやつを責めるのは酷というもの、そもそも古代迷宮の最下層は試練の場、到達者はその試練に打ち勝つ事で、はれて報酬を手にする権利を得るのだ)
(……それはつまり)
(そなたの想像通りよ)
クソッ、俺のせいかよ!!
背後で呆然としている彼等を一瞥すると俺は、”断空”の効果が切れるタイミングを見計らってヴリトラの脇をすり抜けるように走る。そして、
「エル坊! それに若さんも! 首飾りを千切れ、急げ!!」
そのまま俺は異空間バッグから魔剣を取り出し、身体能力強化を重ねがけして高速機動に入る。
ガィン──!!
俺の振るった一撃はヴリトラの後ろ足を覆う鱗を浅く傷つけるが、そのまま押し込もうとするも何かに弾かれるように剣が押し戻される。
チッ! ただ邪竜を模しただけじゃねえな、きっちり聖竜王の斥力場も組み込まれてやがる…………っ!?
ブォン────!!
「くっ!!」
俺の頭上にヴリトラの尻尾が振り下ろされ、そのゴツゴツとした硬い鱗は間一髪、俺が今までいた場所の床を易々と破壊する……相変わらずバカみたいな速度と破壊力だな。
「ジンさん!?」
「エル坊!! 俺との約束はどうした!? 四の五の言わずに早くしろ!!」
「でも!!」
「戦えないヤツは正直足手まといなんだよ!! ルフト達も、コイツの咆哮で動きの止まったヤツはエル坊と若さんの周りに集まれ! それからリオン!!」
俺はリオンの表情を確認し──頭を振る。
ダメだ、目に戸惑いがある。魔竜同士の戦いは禁忌に触れるかそれとも、王に対して牙を向ける事を躊躇っているのか……どちらにせよ戦力にならん。
「リオン!! 星球武器を寄越せ、早く!!」
「ジン……」
「早く!!」
──バシッ!
リオンの放った星球武器を受け取った俺はそれを右手に、左手にニルヴァーナを握ったままリオン達とは反対方向に走り出す。
「くそ、完全に俺をターゲットにしてやがる……」
ヴリトラはルフト達には目もくれず、ただ俺1人を敵とみなして視線を離さない。アイツらでは敵にならないと判断してるのか? しかし強さだけならリオンもいるのに……。
………………竜宝珠か!?
(そのようだな、アレは我を取り込んで完全体になろうとしている)
(……完全体になってもう一度俺に殺されてくれない?)
(……仮にも我を討った勇者の分際で情けない言葉を吐くでないわ)
(討ってもいねえし勇者でもねえよ!!)
ボウウウウッ──!!
「──っ!? 痛うぅ……」
ヴリトラが今度は紫色のブレスを吐くと、それに触れた俺の足甲はグズグズに崩れ去り、むき出しになった脛の一部も変色を果す。
「──腐食の息吹か!!」
俺はすぐに脛の表面を削ぎ落とし、呪いの侵食を回避する。
クソ、遊びは無しか……なまじ自我がない分、合理的な判断で攻撃しやがるから付け入る隙が見あたらねえ。
地力がある上、引き出しまで多いやつに冷静な判断をされたら勝ち目なんか無えんだけどな……これなら昔の怒り狂ってた時の方がまだやり易い。
俺はヴリトラを挟んでリオン達の反対側に辿り着くと、すかさず星球武器を床に叩きつけ、
「大崩壊!!」
パリン──
──ズジャアアアア!!
ヴリトラを床の崩落に巻き込むと続けて呪文の詠唱に入る。
「火精よ、我が前に現れ踊り狂え、汝は地獄の業火──」
「ジン! 戻って来なさい!!」
リオンの叫び声が聞こえる。見ればエルと若さん──エルダーの引き千切られたペンダントから光が放たれ、ドーム状に周囲を包み込む。
その状態だと発動まで後5秒か、残念ながらヴリトラに気付かれる訳には行かないんでな、その提案は却下させてもらうわ。
「──怨敵を滅ぼす紅の炎、”紅炎”」
ゴウゥッ────!!
地下に落とされたヴリトラの周囲が俺の魔法で炎の海に変わる。
「グルルルルルルルルル──!!」
効いちゃいねえ……。
ったく、相変わらずの耐性だな、流石は頂点。
だがまあ、アッチは間に合ったか。
「ジンさん──!!」
エルの叫び声をその場に残し、ルフト達全員がこの場から姿を消した直後、
「ガハアアアアアアア!!」
ヤツの口から放たれた灰色のブレスは、瞬く間に周辺で燃え盛る紅炎の炎をかき消す。
魔法封じ……やっぱオリジナルはスケールが違うな。
「アレを逃亡者に合わせられたら詰みだったんでな」
まあ、とりあえず最悪だけは免れたか。
(……状況は一つも好転してないけどな)
(あの頃より強さを得たか)
(は? むしろ甘っちょろくなって後悔してるくらいだよ)
(アレを前に、他者の身を案じる余裕があるではないか)
(……誰かに見られてたら全力が出せねえからだよ)
(そうか、ならば全力で挑む事だ)
──1度目は何も出来ずただ逃げた。
──2度目も結局敵わず、介錯の手伝いをさせられただけだった。
──では3度目は?
──身体に呪いを受け、全力を出せばその反動で自身も傷付くような体たらく。そんな今の俺がアイツに勝てるのか?
──だからこその試練だってのか?
無理ゲー過ぎんだよ、この迷宮生物が!
──────────────
──────────────
「──────ジンさん!!」
雲一つ無い青空、リトルフィンガーの大通りにエルの声が響く。
ここは古代迷宮へ挑む探索者たちが受付をする場所であり、迷宮の入り口から50メートルほど離れた広場、そこへ突如現れた集団に周囲は驚きの声を上げる──。
「──代表!? なんでここに?」
「ていうか今、どこから現れたんですか!?」
異種混合のメンバーがルフトの姿を確認すると声をかけてくる、見ればルフトだけではなく、最下層に挑んだ部隊のうち前線のメンバーが勢ぞろいだった──1人を除いて。
「ここ、は? ──お前達、なぜここに!?」
「それはコチのセリフですぜ、周囲が光ったかと思えばいきなり目の前にみなさんの姿が現れて……まさか、遂に最下層を攻略したんですかい!?」
──ザワッ!!
男の声に周囲がざわつく──が、ルフト達の表情はとても迷宮攻略を果した者とは思えないほど暗く、そして苦い。
「ジンさんは? ねえ、リオンさん、ジンさんはどうしたんですか?」
「…………」
「あれ、そういやジン、あの若いのだけ姿が見えねえな」
「……なぜ、私は……」
「リオン、キミが動けなかったのは仕方が無いよ。相手がアレじゃあ」
「ですが!! ……いえ、申し訳ありません」
悲痛な顔のリオンとエル、そして何かしら思案するルディの表情とやりとりから、周囲の者達はジンに何かが起きたのだという事は察したが、それも含めて何が起こったのか、説明が出来るものはいなかった。
そんな中、ゲンマがポツリと漏らす。
「なあ、ジンのやつ、アレを「ヴリトラ」って呼んだよな?」
「馬鹿な事を言わないでゲンマ! ヴリトラは4年前に討伐されたはずでしょ」
「んな事たぁ俺だって知ってるさ、だけどあの姿、あの面、あれは確かに邪竜にしか見えなかったぜ!?」
──────!!
ゲンマの悲鳴にも似た叫びは周囲の探索者たちの耳にも入ると、彼等の動揺が周囲の空気を振るわせる。
ヴリトラ──この町にいてその名前に聞き覚えの無い者などいるはずも無い。4年前何者かの手によって討伐された東方大陸の生きる災厄、最強最悪の魔竜の名。
なぜ今更その名前が?
「まさか、最下層の魔物って……?」
「ちょ、嘘だろ!? そんなの絶対勝てるはず無えよ!!」
「ルフトさん、嘘ですよね?」
「────────」
沈黙するルフト、その態度に周囲の動揺はますます大きくなる。
そこへ──
ズズズズズズズズ──!!
「な、なんだぁ?」
「──地震だ!」
見れば、周囲の人間も揺れる地面に戸惑いながらもなんとか踏みとどまって立ったままの姿勢を保つ。
が、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ────
「オイ、今度は違うぞ! コレは地震じゃねえ!」
「一体何だってんだよ!?」
その直後、
ドゴオオオオオオ────!!
大地が割れ、何かが飛び出す。
「わああああああああああ!!」
「退避、全員この場から逃げろーーーー!!」
地面から吐き出された土砂が降ってくる中、
────ドサッ!
リオンやエル達の座り込んでいる場所に何かが落ちる──。
「? ……………………!?」
「ジンさんっ!! ……えっ?」
そこには、銀灰色の髪の色をした青年ではなく、全身に紋様らしき幾何学模様を浮かび上がらせた黒髪の青年が、全身の骨を砕かれ力無く横たわっていた──。
魔竜、とりわけヴリトラ級の咆哮はそれだけで攻撃みたいなものだ、ランク指定外級でもなければ浴びるだけで体がすくみ、レベル2桁程度であれば命の危険すら──
────まずい!!
「エル坊っ!?」
俺は振り返るとエルの様子を確認する。
「────────」
大きく目を開いて硬直しているが、少なくとも死んではいない。
よかった……しかし、なぜ?
こちらにしてみれば有り難い話だが、それは理屈に合わない。
エルの基本レベル・肉体強度でヴリトラの咆哮を耐え切れるはずが無い。仮に耐えられるとするならば、エルにはそれに見合う異能が備わっているかもしくは──
あのヴリトラには何かが足りない?
(──気付いたか)
(邪竜!! ……いや、聖竜王か?)
(気遣いは無用だ──それよりも目の前のアレに集中するのだな)
(────!!)
ダッ──!!
俺は、咆哮を浴びて動けなくなったルフト達の前方にダッシュで回りこみ、
「我、世界に呼びかける、大地に溝帯あり、海に海溝あり、されば空には空裂あらん、隔絶せよ”断空”!!」
ヒュオン────!!
──────カッ!!
透明なアクリル板が差し込まれたかのように一瞬目の前の空間が歪むと、間髪を入れずヴリトラの炎の息吹が俺達に向かって放たれる。
ボオオオオオ────
────オオオオオ!!
ヴリトラの口から伸びる炎の渦は、俺の作った空間の断層に届くとその進行を90度曲げ、壁にぶつかった炎が行き先を求め外へ外へと広がるように逸れてゆく。
オオォォォ────シュッ!
炎が届いていない事を確認したヴリトラはブレスを直ぐに止める。
そして今度は前肢を振りかぶり、鋭く巨大な5つの爪で俺を薙ぎ払おうとする──
が、
ドズシャアア──!!
ヴリトラの腕は想定の軌道を無視し、あらぬ方向へと進んだせいでバランスを崩したヴリトラはその巨体をよろめかせ、床にその腹を打ち付ける!
「らしくないな……」
以前戦ったヤツはこんなものではなかった。怒りと憎しみに凝り固まったこいつの攻撃は執拗でいて同時に不合理で、間違っても、届かないブレスをさっさと引っ込めて爪を振るうなど、およそ理性的な判断などしなかった……はずだ。
(耳の痛いことよな)
(ブライティア!? ありゃあ一体なんだ? いつまで経っても転生しないテメエに業を煮やした誰かの作ったお前の体か?)
(面白い説ではあるが違うな。アレは迷宮生物がそなたに対抗するために作り上げた我の模造品よ)
模造品、つまり迷宮内で活動する他の魔物と同様、迷宮生物の魔力によって精製された似非生命って事か……1000年分の有り余った魔力で何してくれてんだ、コラ!!
(こやつを責めるのは酷というもの、そもそも古代迷宮の最下層は試練の場、到達者はその試練に打ち勝つ事で、はれて報酬を手にする権利を得るのだ)
(……それはつまり)
(そなたの想像通りよ)
クソッ、俺のせいかよ!!
背後で呆然としている彼等を一瞥すると俺は、”断空”の効果が切れるタイミングを見計らってヴリトラの脇をすり抜けるように走る。そして、
「エル坊! それに若さんも! 首飾りを千切れ、急げ!!」
そのまま俺は異空間バッグから魔剣を取り出し、身体能力強化を重ねがけして高速機動に入る。
ガィン──!!
俺の振るった一撃はヴリトラの後ろ足を覆う鱗を浅く傷つけるが、そのまま押し込もうとするも何かに弾かれるように剣が押し戻される。
チッ! ただ邪竜を模しただけじゃねえな、きっちり聖竜王の斥力場も組み込まれてやがる…………っ!?
ブォン────!!
「くっ!!」
俺の頭上にヴリトラの尻尾が振り下ろされ、そのゴツゴツとした硬い鱗は間一髪、俺が今までいた場所の床を易々と破壊する……相変わらずバカみたいな速度と破壊力だな。
「ジンさん!?」
「エル坊!! 俺との約束はどうした!? 四の五の言わずに早くしろ!!」
「でも!!」
「戦えないヤツは正直足手まといなんだよ!! ルフト達も、コイツの咆哮で動きの止まったヤツはエル坊と若さんの周りに集まれ! それからリオン!!」
俺はリオンの表情を確認し──頭を振る。
ダメだ、目に戸惑いがある。魔竜同士の戦いは禁忌に触れるかそれとも、王に対して牙を向ける事を躊躇っているのか……どちらにせよ戦力にならん。
「リオン!! 星球武器を寄越せ、早く!!」
「ジン……」
「早く!!」
──バシッ!
リオンの放った星球武器を受け取った俺はそれを右手に、左手にニルヴァーナを握ったままリオン達とは反対方向に走り出す。
「くそ、完全に俺をターゲットにしてやがる……」
ヴリトラはルフト達には目もくれず、ただ俺1人を敵とみなして視線を離さない。アイツらでは敵にならないと判断してるのか? しかし強さだけならリオンもいるのに……。
………………竜宝珠か!?
(そのようだな、アレは我を取り込んで完全体になろうとしている)
(……完全体になってもう一度俺に殺されてくれない?)
(……仮にも我を討った勇者の分際で情けない言葉を吐くでないわ)
(討ってもいねえし勇者でもねえよ!!)
ボウウウウッ──!!
「──っ!? 痛うぅ……」
ヴリトラが今度は紫色のブレスを吐くと、それに触れた俺の足甲はグズグズに崩れ去り、むき出しになった脛の一部も変色を果す。
「──腐食の息吹か!!」
俺はすぐに脛の表面を削ぎ落とし、呪いの侵食を回避する。
クソ、遊びは無しか……なまじ自我がない分、合理的な判断で攻撃しやがるから付け入る隙が見あたらねえ。
地力がある上、引き出しまで多いやつに冷静な判断をされたら勝ち目なんか無えんだけどな……これなら昔の怒り狂ってた時の方がまだやり易い。
俺はヴリトラを挟んでリオン達の反対側に辿り着くと、すかさず星球武器を床に叩きつけ、
「大崩壊!!」
パリン──
──ズジャアアアア!!
ヴリトラを床の崩落に巻き込むと続けて呪文の詠唱に入る。
「火精よ、我が前に現れ踊り狂え、汝は地獄の業火──」
「ジン! 戻って来なさい!!」
リオンの叫び声が聞こえる。見ればエルと若さん──エルダーの引き千切られたペンダントから光が放たれ、ドーム状に周囲を包み込む。
その状態だと発動まで後5秒か、残念ながらヴリトラに気付かれる訳には行かないんでな、その提案は却下させてもらうわ。
「──怨敵を滅ぼす紅の炎、”紅炎”」
ゴウゥッ────!!
地下に落とされたヴリトラの周囲が俺の魔法で炎の海に変わる。
「グルルルルルルルルル──!!」
効いちゃいねえ……。
ったく、相変わらずの耐性だな、流石は頂点。
だがまあ、アッチは間に合ったか。
「ジンさん──!!」
エルの叫び声をその場に残し、ルフト達全員がこの場から姿を消した直後、
「ガハアアアアアアア!!」
ヤツの口から放たれた灰色のブレスは、瞬く間に周辺で燃え盛る紅炎の炎をかき消す。
魔法封じ……やっぱオリジナルはスケールが違うな。
「アレを逃亡者に合わせられたら詰みだったんでな」
まあ、とりあえず最悪だけは免れたか。
(……状況は一つも好転してないけどな)
(あの頃より強さを得たか)
(は? むしろ甘っちょろくなって後悔してるくらいだよ)
(アレを前に、他者の身を案じる余裕があるではないか)
(……誰かに見られてたら全力が出せねえからだよ)
(そうか、ならば全力で挑む事だ)
──1度目は何も出来ずただ逃げた。
──2度目も結局敵わず、介錯の手伝いをさせられただけだった。
──では3度目は?
──身体に呪いを受け、全力を出せばその反動で自身も傷付くような体たらく。そんな今の俺がアイツに勝てるのか?
──だからこその試練だってのか?
無理ゲー過ぎんだよ、この迷宮生物が!
──────────────
──────────────
「──────ジンさん!!」
雲一つ無い青空、リトルフィンガーの大通りにエルの声が響く。
ここは古代迷宮へ挑む探索者たちが受付をする場所であり、迷宮の入り口から50メートルほど離れた広場、そこへ突如現れた集団に周囲は驚きの声を上げる──。
「──代表!? なんでここに?」
「ていうか今、どこから現れたんですか!?」
異種混合のメンバーがルフトの姿を確認すると声をかけてくる、見ればルフトだけではなく、最下層に挑んだ部隊のうち前線のメンバーが勢ぞろいだった──1人を除いて。
「ここ、は? ──お前達、なぜここに!?」
「それはコチのセリフですぜ、周囲が光ったかと思えばいきなり目の前にみなさんの姿が現れて……まさか、遂に最下層を攻略したんですかい!?」
──ザワッ!!
男の声に周囲がざわつく──が、ルフト達の表情はとても迷宮攻略を果した者とは思えないほど暗く、そして苦い。
「ジンさんは? ねえ、リオンさん、ジンさんはどうしたんですか?」
「…………」
「あれ、そういやジン、あの若いのだけ姿が見えねえな」
「……なぜ、私は……」
「リオン、キミが動けなかったのは仕方が無いよ。相手がアレじゃあ」
「ですが!! ……いえ、申し訳ありません」
悲痛な顔のリオンとエル、そして何かしら思案するルディの表情とやりとりから、周囲の者達はジンに何かが起きたのだという事は察したが、それも含めて何が起こったのか、説明が出来るものはいなかった。
そんな中、ゲンマがポツリと漏らす。
「なあ、ジンのやつ、アレを「ヴリトラ」って呼んだよな?」
「馬鹿な事を言わないでゲンマ! ヴリトラは4年前に討伐されたはずでしょ」
「んな事たぁ俺だって知ってるさ、だけどあの姿、あの面、あれは確かに邪竜にしか見えなかったぜ!?」
──────!!
ゲンマの悲鳴にも似た叫びは周囲の探索者たちの耳にも入ると、彼等の動揺が周囲の空気を振るわせる。
ヴリトラ──この町にいてその名前に聞き覚えの無い者などいるはずも無い。4年前何者かの手によって討伐された東方大陸の生きる災厄、最強最悪の魔竜の名。
なぜ今更その名前が?
「まさか、最下層の魔物って……?」
「ちょ、嘘だろ!? そんなの絶対勝てるはず無えよ!!」
「ルフトさん、嘘ですよね?」
「────────」
沈黙するルフト、その態度に周囲の動揺はますます大きくなる。
そこへ──
ズズズズズズズズ──!!
「な、なんだぁ?」
「──地震だ!」
見れば、周囲の人間も揺れる地面に戸惑いながらもなんとか踏みとどまって立ったままの姿勢を保つ。
が、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ────
「オイ、今度は違うぞ! コレは地震じゃねえ!」
「一体何だってんだよ!?」
その直後、
ドゴオオオオオオ────!!
大地が割れ、何かが飛び出す。
「わああああああああああ!!」
「退避、全員この場から逃げろーーーー!!」
地面から吐き出された土砂が降ってくる中、
────ドサッ!
リオンやエル達の座り込んでいる場所に何かが落ちる──。
「? ……………………!?」
「ジンさんっ!! ……えっ?」
そこには、銀灰色の髪の色をした青年ではなく、全身に紋様らしき幾何学模様を浮かび上がらせた黒髪の青年が、全身の骨を砕かれ力無く横たわっていた──。
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