転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

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6章 ライゼン・獣人連合編

263話 かわいい失敗?

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「──まあ、そうじゃろうな」

 シンの、「グレートオーシャンクラブを沢山食べさせてアトラを頑丈に育てよう」作戦は初日から頓挫とんざする。
 理由は至極簡単、あの頑強な甲殻が今のアトラでは噛み砕けないからである……ちなみにセリアはバリバリと美味しそうに全て食べ終えた。

「キュー……」
「……泣くな」

 粉末状になるまで砕いた蟹の甲羅と肉をアトラの口元に差し出しながら、シンは何かいい手は無いかと思案する。
 ……やがて、

「ドラゴンも、魔石を大量に食べさせたりすると急激に強くなったりするのか?」

 グランディヌスの一件(三章参照)を思い出したシンはヴァルナに聞いてみた。
 ヴァルナは一応頷きはするものの、

「自分より格上の魔石であれば、まあそういう事もありはするが……」

 相手は海竜である、望みは薄い──が、アトラはまだ赤ちゃんの状態であり、シンはそこに希望を見出す。

 ゴソゴソ──ヒョイ!

「む、それは──」
「ああ、紅の心臓クリムゾン・ハートだ。コイツも一応魔石の一種なんでな」

 ニヤリと笑うシンは、以前レッドオーガを倒した際に手に入れた、筋力や耐久力増加の効果を持つ宝石を取り出すと、躊躇ちゅうちょする事無くアトラに食べさせる。

「キュ…………──!! キュー!! キュー!!」
「うを!? ど、どうしたアトラ!?」

 「紅の心臓」を飲み込んだ海竜アトラはその直後、仰け反るように全身を弓なりに身体を曲げたかと思うと、今度は逆に山なりに身体を曲げながら砂浜に身体を叩きつける!

 ズバシャアアアアン!!

「わぶっ──!!」

 砂を大量にかぶったシンは魔法で水を生み出すと、顔を洗いながらもアトラの様子が気になり、”擬似千里眼”を発動させて周囲の様子を把握する。
 そこには、

 ドゥン──バシャーーーン!!

 砂浜に身体を強く叩きつけ、その反動で高く跳ね上がるアトラの姿が脳裏に映し出される。

「………………………………」
「キュー! キュー! キューッ♪」
「──ピュイ!!」

 体内で暴れるレッドオーガの生命力、それに振り回されるように飛び跳ねるアトラを見てに、何かの遊びかと勘違いしたセリアが同調、周囲は地雷源の跡のように穴ぼこだらけになっていた。

「──とりあえず、当初の目的は果たしたの」
「あれぇ……?」

 結果オーライとはいえ、やらかしてしまった・・・・・・・・・シンは首を捻る。

「キューーー♪」

 その日は陽が暮れるまで、楽しそうに鳴くアトラの声が爆発音と共に周囲に響いたという──。


………………………………………………
………………………………………………


 ──そして二ヵ月、すっかり逞しく成長したアトラは、セリアには敵わぬものの、並のドラゴンよりもはるかに将来が楽しみな子竜へと成長していた。

 言い換えればそれはつまり、人類にとってかなりの脅威ではあるのだが、

「温厚な海竜にケンカをふっかける馬鹿の事など知らん」

 とはシン・ヴァルナ共通の認識である。
 六体のグレートオーシャンクラブを残さず平らげ、デザート代わりにシーサーペントをシェアする微笑ましい・・・・・光景を眺めながらヴァルナは、自分の横で同じ光景をしゃがんで眺めるシンに向かってしみじみと語る。

「……それにしても、何だかんだ言うてアトラにとって一番の敵・・・・はおぬしじゃったの」
「全く持って不本意な言われ様だな、俺は生まれたばかりの小さな命に対して、真正面から真摯に向き合っていたはずだが……?」
「結果オーライで済ます気か、ならばワシ等にも存分に感謝してもらい──」
「アトラ、本当にすまない!!」
「「ごちそうさまー♪」」

 食事を終え、幼児の姿に戻った二人がパサパサと可愛らしい足音を立てながらシン達の元に駆け寄ってくると、しゃがんでいるシンに飛びつく。
 普段は「まぁま」に纏わりつく事の多い子竜達だが、食後だけはシンが最優先だ。それは、シンがエサを持ち帰ってくる事もそうだが何より、

「「おやつー♪」」

 ──所詮シンなど、ここでは食事係でしかなかった。

「……ハイハイ、それじゃウチに戻ろうか」
「──変われば変わるものよのう……」

 仲良く手を繋いで家に戻るシン達、その後ろ姿を優しい眼差しで見つめるヴァルナは、かつてのシンの姿を思い出し、目を細める。
 シンに向けるヴァルナの顔は、もしシンがその顔を見ていれば亡き姉を思い出し泣いてしまったかも知れない。そんな慈愛に満ちた表情だった──。


──────────────
──────────────


 目の前に出されたプリンとフルーツ牛乳を食べ終え、食休みとばかりにうつらうつらと頭を揺らすセリア、それを見たシンはセリアをデッキチェに寝かせてやり、タオルケットをかける。
 すると今度はアトラが、シンのズボンの裾をクイと引っ張ってくる。

「────────────」
「……アトラ、欲しいのか?」

 コクン──困ったようなシンの問いかけに、アトラは表情を変えずに真顔で頷く。
 それを見たシンはハァと一つため息をついて、

「一日一個の約束だから、今日はこれでおしまいだぞ?」
「うん!!」

 喜ぶアトラが見つめる中、シンは異空間バッグから木箱を取り出し、その中からドライフルーツのようにしぼんだ実を取り出す。
 真っ赤な干し柿のようなそれをシンは、あーんと元気良く開かれたアトラの口元まで持って行く。

 パクン♪

「ん~~~~~~♪」

 その瞬間、アトラは身体をキューッと縮めてプルプルと震え出し、その状態のままシャクシャクと口を動かして口の中に入った身を味わう。

 ゴクリ──。

「きゃー♪」

 食べ終えたアトラは、両手を広げて喜びを表現すると嬉しそうに声をあげる。その目尻には涙が滲んでいた。

「美味しかったか?」
「うん!!」
「そうか、よかったな……アトラはホントに好きだな、この「アギア・ガザルの実」が……」

 アギア・ガザルの実──とんでもなく辛い、シンが主に「毒」として好んで扱うこの実が、なぜかアトラの大好物だった。
 もっとも、原因を作ったのはやはりシンだったのだが。
 それは一ヶ月ほど前、シンが自室で薬作りにいそしんでいた時の事だが、最近人化を覚えたばかりのアトラが部屋に入り込み、たまたま磨り潰す前のアギア・ガザルの実を見つけたのが事の始まりだった。
 人間の幼児はとにかく何でも口に入れる、獣や魔物であればまず匂いを嗅いで危険かどうかを判断するのだが、人間形態だった為かそれとも竜種にそんな警戒心など皆無なのか、実に自然にそれを口に突っ込んだ、シンが反応するよりも早い速度で。
 結果、その辛さ──いや、口の中に広がる爆発にも似た刺激の虜という業を、アトラは幼くして背負ってしまった……もっとも、そうなる要因はずっと以前から用意されていたのだが。
 というのも、シンが紅の心臓を食べさせた時にアトラは、全身を駆け巡る激しい刺激と同時に、漲る力をその身に感じた結果、刺激=体に良いものと認識してしまった。
 あれ以降、シンがそんな劇物をアトラに食べさせる事はなかったのだが、不幸にもアギア・ガザルの実とアトラ、両者は出会ってしまったのである。

 結論──だいたいシンが悪い。

「──まったく、おかしな性癖を仕込みおって」
「誤解されるような言い方は止めろ! それに俺にとっても予想外の出来事過ぎるわ!!」
「んまーーーい♪」

 無邪気に喜ぶアトラをよそに、二人の大人は頭を抱える。
 それに、問題はもう一つあった。

「アギア・ガザルの手持ちが少なくなってきてるな……」
「そんなもん、採って来るか買って来るかすれば良かろうが?」
東大陸エステラの一部でしか流通して無えんだよ、コイツは」
「場所が判っておるならさっさと行ってこんか」
「それは……」

 シンが渋るのも無理は無い、アギア・ガザルが栽培されているのは東大陸の国家「獣人連合」内であり、ヒト種はなかなか入国できない。出来るとしてもその前に入念な審査を受けるため、モグリのシンはほぼ絶望的である。
 ならば何故シンが持っていたのか、理由は「獣人連合」と友好関係・・・・にある「ライゼン」で売られていた物を大量にストックしていたからだ。
 つまり、今ライゼンにアギア・ガザルの実を仕入れに行こうものなら、こちらも審査の時点で面が割れてしまう可能性が高かった。
 そんなうじうじ悩むシンに対して、青筋を何本も浮かべるヴァルナは般若の形相になり、

「いいから、さっさと行って手に入れてこんかぁ!!」
「ぐふっっっ!! ……いや、二人の子育てもまだまだコレからが本番……」
「そんなもんワシがやっておくわ! そろそろこやつ等にも狩りを教え込む時期じゃしの、おぬしは遠慮なく家から離れておれ、むしろその方が都合が良いわい」

 認識出来ないほどの高速腹パンを受けたシンはその場に崩れ落ち、木箱を取り上げたヴァルナは中身を確認すると、

「ひぃふぅ……年内には戻ってくるんじゃぞ?」
「……くそったれ……が」
「にーちゃ?」

 ガクンとその場で意識を失うシンを不思議そうに眺めるアトラは、やがてシンに寄り添うように横になると、すぅすぅと寝息を立てだす。

「まったく、世話の焼ける……」

 いつの世も、しり込みする男のケツを叩くのは女の仕事であった──。


………………………………………………
………………………………………………


 それから一ヵ月後──シンはイズナバール迷宮のある街「リトルフィンガー」に居た。

「は~い、らっしゃい。各種お薬取り揃えてますよ~♪」

 意外と元気だった。
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