転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

文字の大きさ
199 / 231
6章 ライゼン・獣人連合編

262話 名付け親

 痛みから回復したシンがヨロヨロと立ち上がった時に見たものは、

「ピュイ!」
「キュー!」

 ヴァルナの腕に抱かれて嬉しそうに鳴く赤ちゃんズ。

「そういう真似が出来るんなら最初からやれよ……」
「そうじゃな、まさかおぬしがこの程度の事も出来んとは……こいつはワシの見立てが甘かったようじゃ、ホントにスマンの」

 盛大にディスられたシンは返す言葉も無く、ただ苦々しい表情を浮かべながら、孵化した後のバスケットに残った「卵の殻」を摘まんで眺める。

竜の卵殻──竜の生命力を宿した魔石の一種
 最強の生物を生み出すために、周囲から取り込んだ魔素を高密度の生命力に変換する力を宿す。
霊薬エリクサーの材料

卵殻これはまあ、当初の予想通りなんだが……こっちはなんだ?」
 シンは、魔竜の卵が寝かされていた綿の中に残る物体を見つめながら首を傾げる。

魔竜の雫ドラゴンドロップ──魔竜の卵の中を満たしていた羊水
 ドラゴンよりも更に強大な力を有する魔竜を生み出すための、魔力と生命力が凝縮された液体。
 この世のあらゆる物を分解・再構成できる。

「物騒という言葉しか思い浮かばねえシロモノだな……」

 卵膜に包まれた、虹色の光を放ちながらプルプルと揺れるまんじゅうサイズの物体を指で突きながら、シンは感想を漏らす。
 そして何を思ったか、チラリとヴァルナの顔を見るシンに向かって、

「考えておる事がダダ漏れじゃぞ? ……ま、世界を壊したいのなら試してみるんじゃな」
「……やらねえよ」
「ほうかほうか、ならさっさと膜を破って中身を瓶にでも入れとけよ」

 ヴァルナの言葉に従いシンは、異空間バッグから長期保存可能な処理を施した瓶を取り出し、破った膜から流れ出るドラゴンドロップを瓶に詰めて封をする。
 瓶の中で七色に輝く液体はとても幻想的で、まるで数多の宝石が液体になって混じりあい、己の美しさを競うように光を放っているようにも感じられる。

「そういえば、膜に包まれたままじゃダメだったのか?」
「生憎、あのまま放っておけば一カ月ほどで石になってしまうからの」
「石?」
「むろんただの石ではない、竜王石と呼ぶんじゃが──」

 ヴァルナはシンに竜王石について説明を始める。

竜王石──魔竜の孵化後も魔竜の雫ドラゴンドロップが周囲の魔素を吸い続け、さらに凝縮された生命力と魔力が結晶化したもの。
 少量を体内に取り込むだけで肉体の活性化をおこすと同時に寿命が延びる。

「幸か不幸か、ヴリトラのおかげで各地で魔竜どもが復活するじゃろう。見つけたら粉にでもして飲んどけ」
「……一ヵ月後ココにある筈だったんだが?」
「何を言うか、ドラゴンドロップの方が余程希少に決まっとろうが?」

 生後一ヶ月までに回収しないといけない魔竜の雫と、それ以降に手に入る竜王石、希少価値など比べるべくも無い。

「それに、不老長寿みたいなモンに興味はねえよ」
「何も二〇〇年も三〇〇年も生きろなどと言うとらん、せめて天が人に定めた寿命くらいは生きろと言うとるだけじゃ」
「………………………………」

 シンは強い、それこそ最強の魔竜たる邪竜ヴリトラを倒すほどに。
 しかしどれだけ強くなろうとも、シンの肉体そのものが人間の域を超える事は無い。
 どこまで基本レベルを上げようとも彼には、千年前の勇者とは違って膨大な神の加護もスキルも持ち合わせてはいないのだから。
 ヴリトラを倒す事が出来たのは、ヴリトラ自身がシンの身体に刻んだ呪いによる暴走、人としての壁を無理矢理越えさせた結果によるものである。しかしそれには当然、代償が求められる。
 ──生命の磨耗、霊薬でも癒せない傷ならざるいたみにより、シンの寿命はあと十数年といった所である。

「寿命を延ばせばどうなるもんでも無いと思うが……そもそも俺みたいなケースに効くのか?」
「さあの? 試してダメなら別の方法を探せばよかろう。それこそ、そこの魔竜の雫が役に立つかもしれん」

 ヴァルナの視線の先にある液体を少しの間見つめてシンは、ふぅと一つため息をつくとそれを異空間バッグにしまい、

「あんがとよ」
「フン! ──その話はこれでしまいじゃ、今はもっと大事な事があるんでな……ホレ、こやつらに名前をつけてやれ」
「……は、俺が?」

 唐突に投げつけられた言葉に、シンの頭の中は一瞬真っ白になる。
 名前、つまりこの二体の竜の名付け親になれという事か? それ以前に竜や魔竜に名前が必要なのか? 疑問符がシンの頭の中で次々と現れる。

「おまえさんがほふった海竜はきっと、魔竜と我が子に対して最初のステキな贈り物を考えておったであろうなあ……その中身を思い知る事はできんが」
「ピュ?」「キュ?」

 言葉の意味が分からない赤ちゃん竜が首を傾げる姿をシンは、酸っぱい物を口にしたような表情で眺めながら、反論するのを諦めた。
 ヒレを器用に動かしながらピョコピョコ近寄る海の魔竜ディープ・シーと、決して追い抜かないようその後ろから慎重に這いずる海竜をシンは抱き上げ、

「名前ねえ……んじゃコッチはピーす──けんっ!?」

 ガィン──!!

 何か不満でもあったのか、いきなり魔竜が頭を振り回してシンの顎をかち上げた──!

「……何をしとるか」
「つぅ……見た目がアレだから気に入ると思ったんだが……」

 ご不満らしかった。
 気遣いの出来る海竜が、シンの顎をさする様に頭を擦りつける。やがて傷みが引いてきたシンは改めて二つの顔をまじまじと見つめ──

「それじゃ……魔竜こっちは「セリア」で、海竜こっちは「アトラ」な」
「ほう、悪くない名じゃの。何か意味でもあるのか?」
「別に……まあコイツの目の色を見てな」

 そう言ってシンは、魔竜のクリンと可愛らしく開いた空色セルリアンブルーの瞳を見つめて微笑む。
 深海ディープ・シーなどという寂しい名前への、シンの対抗意識でもあった。

「アトラの方は、海だからポセイドンにでもと……だから微妙な顔になるのはヤメロ! 違う名前をつけただろうが」
「そっちにも意味はあるのか?」
「ポセイドン繋がりだが、元の世界で伝説となってる王国と、その国のあった大陸の名前だよ」

 どうやら「アトラ」ンティスらしかった。

「……それは海竜につける名前か?」
「崇めてた神様の名前がポセイドンなんだよ。それに海繋がりで言えば、一夜にして海に沈んだとか何とか……」
「………………………………」
「………………………………」
「キュ?」

 基本的にシンはセンスが悪かった、色々と……。

………………………………………………
………………………………………………

「──ところで、生まれてすぐに問題が発生している訳だが」
「はて、なんぞ問題でもあったか?」

 赤ちゃん竜の名付けも終わり、今後の子育て・・・方針について話し合う場にて、シンが問題提起をする。

「……アトラを手っ取り早く強くしないと、壊れる・・・
「なるほどの」
「ピュイ!」
「キューーーー!!」

 シンの視線の先には、砂浜で戯れる(セリア視点)、もしくは虐待を受ける(アトラ視点)二体の姿があった。
 どちらも生まれたばかりではあるが、大きさや見た目云々がどうとかではなく地力がまるで違う。竜と魔竜ではそもそも勝負にならないのが純然たる世の摂理である。
 ヒレで弾き飛ばされたり、ボディプレスをくらったり、反撃とばかりに飛び掛った挙句にしならせた首でライナー性の当たりにされたりと、それを見たシンは目頭を押さえる。
 恐らく思い出しているのであろう、あの・・地獄の日々を──。

「分別がつく様になれば自然と力の加減も覚えるとは思うが……それまで保たんの」
「なんとかならねえのか……?」
「魔物はどれもこれも幼少期のエサによって性質が変化する傾向があっての、魔竜セリアにはあまり関係はないが、海竜アトラであれば多少の影響は出てこよう」

 ヴァルナの言葉を聞いてシンはしばし黙考し、そして──

「──よし、蟹だな」
「……どういう理屈じゃ?」
「反撃する前に潰されるのは目に見えてる、とりあえず硬さと耐久力を上げて、アトラの攻撃でも死なない身体を作る!」

 シンの力強くも後ろ向きな決断にヴァルナは呆れつつ、

「食事当番はお前じゃぞ?」
「……おう」

 こうしてアトラの強化プロジェクト、もとい食育が始動した──。
感想 497

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。