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6章 ライゼン・獣人連合編
261話 誕生
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「オイ、辛気臭い顔を見せるでないわ! 子供に必要なのはまっさらな愛情じゃぞ」
「うっせえ、分かってるよ! ──ああ、大きな声出してゴメンな……うん、ただいま、ゴハン獲って来たぞ」
ゴハンの言葉に「キャーイ」と諸手を挙げて喜ぶ二人をなだめながらシンは、背後でまだ海水に浸かっているカニと海ヘビを引き上げ、二人の前に並べる。
そして、砂浜に転がっている、調理も何もしていない魔物の死体の前にセリアとアトラを連れてゆくとおもむろに、
「──はい、いただきます」
「「いただきまーす♪」」
二人は目の前の巨大な物体に向かってペコリと頭を下げ、次の瞬間──
キュン────ズンッ!
一瞬の閃光の後、そこにはグレートオーシャンクラブ、シーサーペントの巨体を上回り、更にはその身体から滲み出る圧倒的な存在感と威圧感によって、並みの人間や生物では近付く事すら出来ないであろう圧力を周囲にばら撒く。
海竜(幼体) ランク不明
生まれて間もない海竜の子供。
幼体とはいえ体長十メートル、胴体は最大部で直径五〇センチメートルにもなる大蛇の体を、成体同様、角と硬い鎧のようなゴツゴツした鱗に覆われた、海の王者。
温厚な性格で、キラキラしたものが好き。
海の魔竜(幼体) ランク指定外
一度死に、生まれ直したばかりの子供の魔竜。
水棲の魔竜ではあるが、その姿は海竜のものとも地上の竜種とも異なる。
ドラゴンのものよりその首は長く、また、四つの足は海中での移動に適したヒレ状になっており、海竜同様に角と、全身を硬い鱗に覆われている。
バキッ──! ゴリリ──バキャン!!
幼竜二体は、グレートオーシャンクラブの、防具の素材にも使われる硬い甲殻に包まれた体を、先ずは脚を根元から噛み千切り、殻を難なく噛み砕き、中の身ごと咀嚼する。
脚を平らげると次はハサミ、そして胴体だけになったカニを海竜──アトラがグルリと巻き付き、
ギュウウゥゥゥ──バギンッ!!
グレートオーシャンクラブの最も硬い甲羅を容易く圧壊させ、手頃なサイズに砕く。
「結構な値段で売れるんだがなぁ……痛うっ!」
「セコい事を抜かすな、そもそもアレ等にカニを食わせようと言い出したのはお前じゃろうが」
ぼやくシンの尻に向かって、ヴァルナの軽い蹴りが見舞われた──。
──それは二ヶ月前、シンがイズナバール迷宮から戻ってきて一週間ほど経った頃。
リオンは、シンが徹夜で修復した魔道鎧と大量のスパイダーシルクを持って棲家であるファンダルマ山脈へ戻り、エルダーも神域へ、火龍であるイグニスもシンの隠れ家を後に。
そんな、家に残っているのはシンとヴァルナだけになって二日目の朝。
「──そろそろかえるぞ」
「じぶん家にか?」
「阿呆、卵が孵ると言うとるんじゃ」
「ああ、卵が……………………もうか!?」
急いで家の中から出てきたシンは、綿を敷いた大き目のバスケットの中でフラフラと揺れる淡いトルコ青の卵を見つめ、ソロリソロリと近付く。
すると、
──コツ──コツン。
一方の卵は内側から殻を叩く音が、そしてもう一方は卵自体が微かに輝き、まるで脈動するかのようにその光が明滅する。
音が聞こえる方が海竜の、そして光を帯びているのが魔竜の卵と言う訳だ、実に分かりやすい。
……パキャ!
「おっ、海竜側の殻に穴が空いたか、魔竜の方は……まだか。どうやら海竜の方が先に生まれてきそうだな」
そんな言葉がシンの口から出た、次の瞬間──
ドン──!!
「んあっ!?」
「今のはこヤツか……フム……なるほどのう」
ヴァルナが訳知り顔で光る方の卵に向かってウンウンと頷くが、意味が分からないシンは二つの卵を交互に見比べ、そしてある事に気付く。
海竜の卵が静かになった──。
「……なあおい、これって」
「間違いなく警告じゃろうな。先に孵化するのはコッチじゃという」
「………………………………」
シンはシワのよる眉間を指で揉みながら、よく分からない竜同士のマウンティングに思い悩む。
(魔竜と竜の時点で既に越えられない壁があるのに、そのうえ孵る順番まで気にせんでも……)
シンの懊悩をよそに、魔竜の卵はその光を徐々に強めてゆき、
「ほれ、孵るぞ──海の魔竜の復活じゃ」
──────カッ!!
「くっ────?」
周囲が眩い光で埋め尽くされ、シンは思わず目を瞑る。そしてようやく目を開けたときには、
「ピューイ! ピューイ!」
四〇センチメートルほどの饅頭の様な胴体から足代わりの四本のヒレを生やし、短い尻尾に五〇センチの長い首、その先に握り拳ほどの頭のついた、シンが子供の頃に図鑑で見た事のある首長竜に酷似した魔竜の赤ちゃんが可愛らしい声で泣いていた。
「……これが、か?」
「これが、じゃ」
「ピューイ!!」
「あ、そう……っと、コッチもか?」
魔竜が無事に孵ったのを確認したのか、生まれる前から空気の読める海竜が元気に殻を砕くのを再開、程なくして無事に生まれる。
こちらは、シンが倒した親竜をそのまま小さくした様な姿をしており、大きさは二メートル弱、シン愛用の炭化タングステン製の棒を二周りほど太くしたようなサイズだった。
「キュー……キュー……」
「なんじゃ、コッチは元気が無いのう?」
海竜の赤ちゃんの様子を見たヴァルナがそう呟くので、シンも海竜をよく観察してみる。
「別に海竜だからって陸で呼吸が出来ない訳じゃねえよな……ん、震えてる? 夏ど真ん中のこの日差しでそれは流石に、まさか先天性の病気?」
シンは急いで女神から授かった異能の一つ『組成解析』で海竜の身体を調べるが、特におかしな点は見られない。
「健康そのものなんだが……………………あ」
「なんじゃ、何か判ったのか?」
今度はシンがそれに気付き、未だ答えに辿り着かないヴァルナが急かすように問い正す。
シンはため息をつきながら、
「一番の理由はオマエだよ、つっても、ここにいる全員とも言えるんだがな……」
「──ああ、なるほどのう」
現在、生まれたばかりの海竜の目の前は『聖竜王の竜宝珠を胎内に宿す竜殺しの称号持ち』、『魔竜の幼体』、『精霊王の一角である水龍』と、文字通りの人外魔境となっており、生まれたばかりの竜の子供には危険な世界と言えた。
何せ、生まれる前から魔竜の威圧を受け、生まれたら生まれたで周りはこの有様、実に不運な存在であり、さすがにシンも同情を禁じえない。
おまけに、
「ピー! ピーーー!!」
「キュウウゥゥ……」
今のうちに立場をハッキリさせようとでも言うのか、赤ちゃん魔竜が赤ちゃん海竜の腹や首元にガジガジと歯を立てている。
「──止めんのか?」
「止めていいのか? 何か魔竜と竜の通過儀礼的な……そうか、無いのか」
本日何度目かのため息をつきながらシンは、二体の赤ちゃん竜が絡み合う所に近付き、一方的に攻撃している魔竜の首根っこを優しく掴むと一言、
「その辺にしとこうか」
「────!! ピ、ピュイィ……」
何かを感じたのか、海竜の首から離れた魔竜は若干脅えるようにシンの顔を見上げる。
それを見たシンは、今度はこちらが脅えてしまわないよう、魔竜の頭をヨシヨシと撫でてやり、同時に神聖魔法を唱えて、魔竜の歯型が無数に付いた海竜の身体を癒す。
「こんなもんかな……いいか、お前達はこれから一緒に暮らす訳だから仲良く──うをわっ!?」
「キュー!」
言葉を遮るように海竜の赤ちゃんがシンに向かって飛びつく!
しかし、それは攻撃的なものではなく、むしろ攻撃から自分を守ってくれた事とキズを癒してくれた事によってシンを己の庇護者と認定した海竜の、危険地帯の中で唯一見つけた安全地帯への避難ともいえた。
「わっ──ひゃっ! ちょ、おまっ!?」
海竜の赤ちゃんは、半袖姿だったシンの袖口から服の中へ侵入、腋をくすぐりながら身体を滑り込ませるとそのまま胴体に巻きついて、周囲から身を隠そうと必死だ。
「ピュー!!」
それを見た魔竜の赤ちゃんは、逃亡した事への非難かそれともヤキモチなのか、服の上から海竜を再度つつき始めるので驚いた海竜はさらなる避難場所を求めて今度は下へ──。
「……酒の不味くなる光景じゃのう」
「うっせえ!! おいコラ、そっちはマジで止めろ! ……だからオマエも──☆×◇○!!」
──キン!
ズボンの中へ逃げ込む相手への魔竜の一撃は見事、致命的な一撃を与える事に成功し、シンは悶絶して前のめりに倒れこむ。
「……おお! 途端に酒が美味くなったぞ」
「うっせえ……」
脂汗を全身から滲ませるシンに、今はその一言を返すのが精一杯だった──合掌。
「うっせえ、分かってるよ! ──ああ、大きな声出してゴメンな……うん、ただいま、ゴハン獲って来たぞ」
ゴハンの言葉に「キャーイ」と諸手を挙げて喜ぶ二人をなだめながらシンは、背後でまだ海水に浸かっているカニと海ヘビを引き上げ、二人の前に並べる。
そして、砂浜に転がっている、調理も何もしていない魔物の死体の前にセリアとアトラを連れてゆくとおもむろに、
「──はい、いただきます」
「「いただきまーす♪」」
二人は目の前の巨大な物体に向かってペコリと頭を下げ、次の瞬間──
キュン────ズンッ!
一瞬の閃光の後、そこにはグレートオーシャンクラブ、シーサーペントの巨体を上回り、更にはその身体から滲み出る圧倒的な存在感と威圧感によって、並みの人間や生物では近付く事すら出来ないであろう圧力を周囲にばら撒く。
海竜(幼体) ランク不明
生まれて間もない海竜の子供。
幼体とはいえ体長十メートル、胴体は最大部で直径五〇センチメートルにもなる大蛇の体を、成体同様、角と硬い鎧のようなゴツゴツした鱗に覆われた、海の王者。
温厚な性格で、キラキラしたものが好き。
海の魔竜(幼体) ランク指定外
一度死に、生まれ直したばかりの子供の魔竜。
水棲の魔竜ではあるが、その姿は海竜のものとも地上の竜種とも異なる。
ドラゴンのものよりその首は長く、また、四つの足は海中での移動に適したヒレ状になっており、海竜同様に角と、全身を硬い鱗に覆われている。
バキッ──! ゴリリ──バキャン!!
幼竜二体は、グレートオーシャンクラブの、防具の素材にも使われる硬い甲殻に包まれた体を、先ずは脚を根元から噛み千切り、殻を難なく噛み砕き、中の身ごと咀嚼する。
脚を平らげると次はハサミ、そして胴体だけになったカニを海竜──アトラがグルリと巻き付き、
ギュウウゥゥゥ──バギンッ!!
グレートオーシャンクラブの最も硬い甲羅を容易く圧壊させ、手頃なサイズに砕く。
「結構な値段で売れるんだがなぁ……痛うっ!」
「セコい事を抜かすな、そもそもアレ等にカニを食わせようと言い出したのはお前じゃろうが」
ぼやくシンの尻に向かって、ヴァルナの軽い蹴りが見舞われた──。
──それは二ヶ月前、シンがイズナバール迷宮から戻ってきて一週間ほど経った頃。
リオンは、シンが徹夜で修復した魔道鎧と大量のスパイダーシルクを持って棲家であるファンダルマ山脈へ戻り、エルダーも神域へ、火龍であるイグニスもシンの隠れ家を後に。
そんな、家に残っているのはシンとヴァルナだけになって二日目の朝。
「──そろそろかえるぞ」
「じぶん家にか?」
「阿呆、卵が孵ると言うとるんじゃ」
「ああ、卵が……………………もうか!?」
急いで家の中から出てきたシンは、綿を敷いた大き目のバスケットの中でフラフラと揺れる淡いトルコ青の卵を見つめ、ソロリソロリと近付く。
すると、
──コツ──コツン。
一方の卵は内側から殻を叩く音が、そしてもう一方は卵自体が微かに輝き、まるで脈動するかのようにその光が明滅する。
音が聞こえる方が海竜の、そして光を帯びているのが魔竜の卵と言う訳だ、実に分かりやすい。
……パキャ!
「おっ、海竜側の殻に穴が空いたか、魔竜の方は……まだか。どうやら海竜の方が先に生まれてきそうだな」
そんな言葉がシンの口から出た、次の瞬間──
ドン──!!
「んあっ!?」
「今のはこヤツか……フム……なるほどのう」
ヴァルナが訳知り顔で光る方の卵に向かってウンウンと頷くが、意味が分からないシンは二つの卵を交互に見比べ、そしてある事に気付く。
海竜の卵が静かになった──。
「……なあおい、これって」
「間違いなく警告じゃろうな。先に孵化するのはコッチじゃという」
「………………………………」
シンはシワのよる眉間を指で揉みながら、よく分からない竜同士のマウンティングに思い悩む。
(魔竜と竜の時点で既に越えられない壁があるのに、そのうえ孵る順番まで気にせんでも……)
シンの懊悩をよそに、魔竜の卵はその光を徐々に強めてゆき、
「ほれ、孵るぞ──海の魔竜の復活じゃ」
──────カッ!!
「くっ────?」
周囲が眩い光で埋め尽くされ、シンは思わず目を瞑る。そしてようやく目を開けたときには、
「ピューイ! ピューイ!」
四〇センチメートルほどの饅頭の様な胴体から足代わりの四本のヒレを生やし、短い尻尾に五〇センチの長い首、その先に握り拳ほどの頭のついた、シンが子供の頃に図鑑で見た事のある首長竜に酷似した魔竜の赤ちゃんが可愛らしい声で泣いていた。
「……これが、か?」
「これが、じゃ」
「ピューイ!!」
「あ、そう……っと、コッチもか?」
魔竜が無事に孵ったのを確認したのか、生まれる前から空気の読める海竜が元気に殻を砕くのを再開、程なくして無事に生まれる。
こちらは、シンが倒した親竜をそのまま小さくした様な姿をしており、大きさは二メートル弱、シン愛用の炭化タングステン製の棒を二周りほど太くしたようなサイズだった。
「キュー……キュー……」
「なんじゃ、コッチは元気が無いのう?」
海竜の赤ちゃんの様子を見たヴァルナがそう呟くので、シンも海竜をよく観察してみる。
「別に海竜だからって陸で呼吸が出来ない訳じゃねえよな……ん、震えてる? 夏ど真ん中のこの日差しでそれは流石に、まさか先天性の病気?」
シンは急いで女神から授かった異能の一つ『組成解析』で海竜の身体を調べるが、特におかしな点は見られない。
「健康そのものなんだが……………………あ」
「なんじゃ、何か判ったのか?」
今度はシンがそれに気付き、未だ答えに辿り着かないヴァルナが急かすように問い正す。
シンはため息をつきながら、
「一番の理由はオマエだよ、つっても、ここにいる全員とも言えるんだがな……」
「──ああ、なるほどのう」
現在、生まれたばかりの海竜の目の前は『聖竜王の竜宝珠を胎内に宿す竜殺しの称号持ち』、『魔竜の幼体』、『精霊王の一角である水龍』と、文字通りの人外魔境となっており、生まれたばかりの竜の子供には危険な世界と言えた。
何せ、生まれる前から魔竜の威圧を受け、生まれたら生まれたで周りはこの有様、実に不運な存在であり、さすがにシンも同情を禁じえない。
おまけに、
「ピー! ピーーー!!」
「キュウウゥゥ……」
今のうちに立場をハッキリさせようとでも言うのか、赤ちゃん魔竜が赤ちゃん海竜の腹や首元にガジガジと歯を立てている。
「──止めんのか?」
「止めていいのか? 何か魔竜と竜の通過儀礼的な……そうか、無いのか」
本日何度目かのため息をつきながらシンは、二体の赤ちゃん竜が絡み合う所に近付き、一方的に攻撃している魔竜の首根っこを優しく掴むと一言、
「その辺にしとこうか」
「────!! ピ、ピュイィ……」
何かを感じたのか、海竜の首から離れた魔竜は若干脅えるようにシンの顔を見上げる。
それを見たシンは、今度はこちらが脅えてしまわないよう、魔竜の頭をヨシヨシと撫でてやり、同時に神聖魔法を唱えて、魔竜の歯型が無数に付いた海竜の身体を癒す。
「こんなもんかな……いいか、お前達はこれから一緒に暮らす訳だから仲良く──うをわっ!?」
「キュー!」
言葉を遮るように海竜の赤ちゃんがシンに向かって飛びつく!
しかし、それは攻撃的なものではなく、むしろ攻撃から自分を守ってくれた事とキズを癒してくれた事によってシンを己の庇護者と認定した海竜の、危険地帯の中で唯一見つけた安全地帯への避難ともいえた。
「わっ──ひゃっ! ちょ、おまっ!?」
海竜の赤ちゃんは、半袖姿だったシンの袖口から服の中へ侵入、腋をくすぐりながら身体を滑り込ませるとそのまま胴体に巻きついて、周囲から身を隠そうと必死だ。
「ピュー!!」
それを見た魔竜の赤ちゃんは、逃亡した事への非難かそれともヤキモチなのか、服の上から海竜を再度つつき始めるので驚いた海竜はさらなる避難場所を求めて今度は下へ──。
「……酒の不味くなる光景じゃのう」
「うっせえ!! おいコラ、そっちはマジで止めろ! ……だからオマエも──☆×◇○!!」
──キン!
ズボンの中へ逃げ込む相手への魔竜の一撃は見事、致命的な一撃を与える事に成功し、シンは悶絶して前のめりに倒れこむ。
「……おお! 途端に酒が美味くなったぞ」
「うっせえ……」
脂汗を全身から滲ませるシンに、今はその一言を返すのが精一杯だった──合掌。
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