旅するイスカ

１－４

　おかゆのようにゆるい白米に豆の煮物、それとほうれんそうだろうか、どろどろとした緑色の野菜が金属製のプレートにのっている。少し冷めた状態で出てきた。素手で食べるのがマナーらしい。どれもうす味。うまくはない。ただ健康にはよさそうだ。
  
「いかがですか？」ミラが心配そうに言った。
「おいしいですよ」時と場合によっては嘘くらいつく。
「よかった」ミラは心底ほっとしたような顔をした。

　サヤはうまそうな顔もしていないが、まずそうな顔もしていない。興味深そうな表情で食事を続けている。

「少し、話をしても？」ボールに注がれた水で手を洗ってから、ライジは尋ねた。
「はい」と、うなずいたミラ。
「エルさんはミラさんにとって、ただの男性というわけではなさそうですね。どういったご関係だったんですか？」

　ミラは食事の手を止めると、少しうつむいた。口元に小さな笑みを浮かべ、静かな顔をしている。

「エル様は、わたくしの夫になってくださるはずでございました」
「婚約者ですか」
「はい」
「驚きました。ミラさんは強いですね。感心します。大切な人を亡くされても、毅然としていらっしゃる。気丈なことだと思います」
「一人きりになると、きっと二日でも三日でも泣き続けてしまうと思います」

　一人きりになると。
　アルがそうはさせないだろうと思い、ミラは安心しているのかもしれない。
  
　ライジはアルの方に視線を向けた。アルは物言わぬまま、左手で食事を続けている。ふっと自嘲するような笑みを浮かべたように見えた。気のせいかもしれない。気のせいでなかったとしても、現状、その真意は定かではない。

　食事を終えると、片づけを終えたミラから逆に質問攻めにあった。それに応える格好で、ライジは自分の話をした。どういう仲間と旅をしていて、これまでどのような体験をしたのか、そのあたりを話してやると、ミラは目を丸くしたり、時にはころころと笑ったりした。いずれも愛らしい反応で好感が持てた。

　眠る際、じゅうたんを勧められた。食事を囲んだ時に敷かれていたものだ。この家にじゅうたんはそれしかない。寒くもないので断った。モッズコートを掛け布団がわりに、むしろの上に寝そべった。

　サヤがくっついてくる。
　非常にうっとうしい。
　右手で押しのけてやると、サヤは向こうにころんと転がった。