4 / 10
聖女召還
よん☆神聖な空間で
しおりを挟む「………」
「………」
私は、逃げる事も出来ず、お兄さんは、喋ることもせず、ただひたすらに文字を追っている。
「……あの、エウレンティリカ様ってなんですか?」
無言に耐えきれなくなった私は、前を向いたまま聞いてみた。
「主神だ。」
今度は返事をくれた。あれ?無視されてたんじゃないの…?
「主神、」
「我々の信仰神の頂点におられる方だ」
「へぇ…キレイな女神様ですね」
どうやら、会話してくれるみたい…
「主神エウレンティリカは、女神などではない」
「え!?すみません…あまりにもキレイなお顔だったので…勝手に女性かと…」
「主神は、無性別だ。男にも、女にも、何者にもなれる」
なんと!この世界の神は性別無いの!?
「へぇえー!無性別…珍しいですね」
「そうか」
お兄さん、余り無駄話はしないタイプなのかな
簡潔的だけど、返事をくれる。
「何教って言うんですか?」
「………なんだ、それは。」
「え?信仰してる宗教の名前、なんて言うんですか?」
「………ふむ、……信仰に名前など無いが、」
「えっ!キリスト教とか、イスラム教とか、仏教とか…名前、無いんですか?」
「無いな。その宗教とは、何なのだ?」
お兄さんは本から顔を上げた
え、その概念無いの…?この世界。興味津々じゃない、お兄さん。
「ん、と、私も詳しくはないんですけど、神様を信仰している事自体を指すと思うんですけど…信仰してる神が違うと、教えも変わってくるので…それぞれに、私の信仰している神様は、この人です。ってわかりやすいように名前、あるんです。」
「なるほど…神毎に、教えが変わるのか」
「そうですね。」
「神は多く居るが、教えが変わることは無い。基本は皆、一緒です」
「一神教で、統一されてるんですね…じゃ、宗教戦争とか、無いんだ……」
「ちょっと待ちなさい、これを持っていなさい。」
へ、お兄さん急にビー玉、みないなの渡してきた。
「なんですか?これ。」
「良いから握り込みなさい。」
あ、はい。
私があまりに指遊びし過ぎて見てられなかったのかも…
ぎゅっと握った。そりゃもう、ぎゅっと。
「宜しい。では、宗教戦争とは何なのだろうか」
「それぞれの信仰を掛けて戦争、するんです」
「なぜなのだ」
「んー、自分たちの信仰している神様を唯一の神にするため…?かな…」
「なぜそれで、人々が争う事になるのだ?神が自分たちで争うだろう」
「え、神様、居るんですか?」
「居るだろう。神が信仰せよ、と言われたのだ。」
「なるほど…」
「それで、なぜ信仰を掛けて争うことになるのですか」
「えっと…」
あんまり、私は別の世界から来ました~とか、言わない方が良いよね…?
「あの、私の国では、様々な信仰宗教があるんですけど、そのどれも基本的には、争う事を禁じてるんです。」
「それなら、なおおかしいでは無いのだろうか?」
「そうなんですよね…でも、私の国は神様なんてきっと居ないんです。」
そう。居ないのだ。神様は。
お兄さんは、ふむ、と何か考えてる
「もしかしたら居るのかも知れないけど、誰も見たことも無いですし…心の寄り処としてだったり、正しく人生を歩む為に初めはあったんだと思います。だけど、長い時間をかけてそれが段々と大きな団体になると、色んな人が居るから、そうなると、お互いが自分たちの神が正しいのだ!我々の神こそ唯一なのだ!って…」
「さも在りなんな。」
「はい。なので何個かの宗教が、その神が生まれた所…聖地って言われてるんですけど、その土地が一緒だったことで、聖戦という大義名分で聖地をめぐった争いだったり、元は1つの信仰だったはずなのに、大きくなったことで、派閥が出来て…自分たちの都合が良いように聖書や聖典を、解釈して、己が正しいのだ、と内輪揉めを起こしたり…そうして争うんです。」
ふぅ、と息を吐いた。
お兄さんは前を向いていた。
「なるほどな。神を感じられないから、こそ、な話だな」
「そうなんです。ごく一部の人が、自分たちの人生に、自分たちの意思とは関係の無いような、奇跡としか言えないような体験をすると、まるで神と遭遇したような感覚になって、熱狂的になるんです。熱心なひとが周りにはなしたり、話を聞いて感化したり、過激な人が他者を良いように扱いたいが為にその思いを悪用したり、なんか色々複雑化しちゃうんですよね」
「神を感じれないといささか大変な様だな」
「どこも根本は変わんないと思うんですけどね…善があって、悪があって、どのように生きていけば良いのかって。だけど、あまりにも長い時間があってしまったから、誰も最初に教えを説いた人が本当はどんな理由で、どんな意味があったのか、ってのが分からないんです。大昔の…今は使われてない言葉も多いので…だいたいは大まかに解釈はされてるけど。だから余計に都合良く解釈できちゃうんです。」
「そうなるとあなたの国の信仰は、だいぶ発展途上なのでしょう」
「どうなんでしょう…私は何も信仰していなかったので…多分そうなのかなーって、遠巻きでした。」
「…信仰していたら、あなたの所属する信仰が完璧である、と感じて居ただろう。信仰して居なかったからこそ、見えるものも在るのですよ。また逆もしかり、ですがね」
「そうなのかもしれませんね。なんで、この国に神様が居るって判るんですか?」
「神がそう作ったのだから、判って当然で在ろう。その存在を近くに感じる事もあるのだから」
「へぇ、神様との距離が近いですね」
「距離は遠い筈だ。余りこちらに降臨することは滅多に無いのだから。」
「そんな降臨までしちゃうのか…」
「待ちなさい。その様な事は滅多に無いと言ったでしょう。前回降臨されたとされているのは、確か1200年前の一回きりだ」
「たった一回でも確かに降臨なされたんですよね?多くの人が見ちゃったり?」
「そうだな」
「なら、遥かに凄いですよ。私の国は一回たりとも無いんですもん!」
「ゼロに比べたら確かにそうであるようだが…」
それから、お兄さんとなぜかべらべらと色々喋ってしまった。宗教の話から派生して、価値観の話や、倫理観、育った環境、私のこれまでの生活とか言わなくても良いものまで喋った。あと、ここに来てからの愚痴も当たり障りの無いよーに、ちょっとだけ溢した。お陰で、スッキリした。めちゃめちゃ聞き上手だし、質問にも的確で、簡潔に答えてくれる。気になった事をお互いに聞きあって、私のハチャメチャな説明でも確実にまとを得て理解してくれる。凄い頭良いんだろうな。この人…
「で、ハゲの上司がセクハラしてくるんですけど、後2年でヤツも定年で居なくなると思うと、反撃しにくかったんですよね…微妙なおさわりだったので」
「待ちなさい、セクハラとは何だ」
「あぁ、セクシャルハラスメントです。例えば、お尻触るとか、胸のサイズは?とか聞いてきたり、下心ある状態ある無しに関わらず、相手の性を不本意に侵害する様な行為?をする事。なので、相手が人権を無視し、性的に接収してきたと感じたら、セクハラと認定出来て……」
白熱した談義だったであろう。個人的には。
そんな説明をしてると、遠くで「ナスカ様ー?」と、リュンデルさんの声が聞こえた。
「やだ、リュンデルさんが探してる…私、行かないと…」
「おや、結構な時間が経って居るようだ。」
「色々、うるさくしてすみませんでした。」
「いや、大丈夫だ。私も、なかなかに楽しんだ」
いつの間にか、腰が復活していたので、さっと立った。
「あ、そうだ、コレ、お返しします」
ビー玉を返した。結局、コレ何だったんだ…
「あぁ」
久しぶりにいっぱい話せたし、静かな雰囲気もなかなか良かった…また来たいな。
「あの、ここってまた来ても大丈夫何でしょうか…」
「なぜ、私に許可を得る必要が有る。開いているときならば、好きに来れば良いではないのか?」
やっぱり、神官長って人じゃ無いのね…彼は。
「………はい。じゃあ、また来ます。」
「そうか。もう行きなさい」
「はい!じゃあ、さようなら」
私がそう言ったのに、また本に目を通しはじめて返事は帰ってこなかった。
もー!あんなに喋ったのに!最後の最後で、ツンツンですか!?
外に出るとだいぶ日が傾きかけていた。リュンデルさんが、「ご心配致しましたよ!」と合流早々に心配そうに言ってきた。私は、謝り倒して、ずっと簡易教会の中に居たことを報告した。
「お気に召したのですね?良うございました。では、またお行きになられると宜しいかと」
と、微笑んでくれた。
「はい!また行きたいです!彫刻、とってもキレイで、いつまで眺めてても飽きませんでした」
うふふ、おほほ、とリュンデルさんと2人で微笑みあっていた私は、教会のお兄さん、彼がこちらをじっと見ている事に気が付かなかった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】私は聖女の代用品だったらしい
雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。
元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。
絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。
「俺のものになれ」
突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。
だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも?
捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。
・完結まで予約投稿済みです。
・1日3回更新(7時・12時・18時)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる