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聖女召還

ろく☆聖女召喚と期間

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「私は…一体どうすれば良かったんです…?」

ここに来て半月が過ぎた。大人であることが染み付いた私は、これまで、一生懸命不安や、怒り、憤りを必死に隠した。

今だってぽつりぽつりと話しながら、泣かないように、可哀想にならないように取り繕って話してしまっている

「ナスカ、貴女の言葉で話しなさい。この部屋では私以外誰も居ない。取り繕うな」

それまでずっと無言だったフェルトナリウス様がそう言った。繰り返し、貴女の言葉で話せ、と

「………っ、私、ずっと、不安なのに…!!」

「そうだろうな」

ぶわりと止まっていた筈の涙がまた溢れ出した

「な…のにっ、もっ、もう一人っ…のっ、召喚した人がっ…じょうっ緒が、ふ、不安定だからって…」

「あぁ」

「ずっと…あ、後回しに…されてっ…!」

あぁ…もう止まらなかった。
何でか、フェルトナリウス様が優しい目をしている気がする。無表情な筈なのに

「なんで!?何のために!!?アタシが皆に何かしたっ!?ずっと説明も無かったくせに!帰れ無いことは、ここに来た時点で一番最初に諦めた!なのにっっ」

「……あぁ」

「………あの時の、アタシ、分かっちゃったの…」

「何をだ?」

「聖女召喚…ホントは、帰れたかも…って」

あの時のオーゲンさんの瞳は雄弁だった。動揺がスゴく出てて、「どうすることも出来ない」って

「なのに、誰も教えてくれなかった…!!!」

握り締めた手に爪が食い込む

「何度も、話し合いはまだか?会えないのか?って確認したのに…!!!もう一人が、今大変だからって、もう少し待ってくれって…」

指先が握り締めすぎて白くなっている
それでも、この手をほどく事は出来そうもない。

「ナスカ…なぜ我慢する」

「だって…アタシは、あの子より大人で…会ったことも無いけど…でも、それでも、私が取り乱してるって聞いたら、あの子もきっと、ずっと不安になっちゃうかもって…アタシは、それを支えにずっと…」

「奮い立たせていたのか」

「…………ねぇ、ふぇるとなりうす様っ、ホントの事を教えて…アタシは、何のためにに居るの…何に、巻き込まれたの…?おしえてっ…」

「何が知りたい」

「そうね…聖女って、ホントに必要なの…?」

私は、窓の外を見ているはずなのに、何にも見えない…

「そうだな…」

おもむろに立つフェルトナリウス様は、机に置いた桶の中に入っていた水に布を入れ絞った
それを私の目に押し付けて、ホントに何も見えなくする

「………」

「とりあえず、泣き止みなさい。私は泣かれるとどうしていのか分からないのだよ。」

固く握り締めた手にフェルトナリウス様の、手が重なる。一本、一本指を外されていく。

手が離れた所で、ゆっくりと、布に持っていかれて

かたりと椅子に腰掛ける音が聞こえて、また、目を押さえている手に重る

「聖女とは、魔力均衡を計ることの出来る者の事だ。また、魔を緩和し、調律する者。魔力が乱れると、徐々に、獣が魔物へと変わる。そして人も乱れる。」

ゆっくりと、話し出した。

「それは、この国の各領地に存在するのだが、ほとんどの聖女は、この国の、その領地で産まれる。だが、まれに領地に聖女が誕生しない時があるのだ。しばらく、聖女が誕生しない場合、召喚が施される。この国では、15回、この領地では過去4回ほど施されたと記録にある。」

「……」

「このフェルグラットでは、もう20年、聖女が誕生していない。他の領地より、聖女に赴いてもらい、魔力均衡を調律して貰っては居たのだが…ほとんどが、被害が大きくなる魔物に対して対処して貰っていた。それに加え、他領より聖女を借り受けると莫大な資金が必要となる為に、中々に借り受ける事が出来ない。フェルグラットは15年ほど前から王に聖女召喚を進言していたのだが、内乱が起きた。ここ10年、この国には内乱があったのだが、それが終息し、ようやく落ち着いてきた今、王より聖女召喚を執り行う事を許された。その為、フェルグラットの領主の息子…領主候補が指揮をとり、今回聖女召喚を行ったのだ」

フェルトナリウス様の声だけが静かに響いてる

「聖女召喚と言っても、異界より召喚された聖女は、この国で産まれた聖女より、力が劣る。だが、魔力は中々に多い者が多い。過去の召喚された聖女がそうだった。本来、聖女召喚とは中継ぎの様なモノなのだ」

手が震えてくると、重なった手が上から強く握られる

「過去の召喚で、二人同時は、今回が初めての筈だ。どちらが聖女なのか、大方様子見したのだろう。」

「……ホントは、私帰れたんですか…?」

「……………………文献には過去に一度だけ、何らかの方法ですぐに元の世界に帰ったとされる聖女が居る。だが、その後、何人も試したが、失敗に終わっている。憶測ではあるが、私の見立てでは、帰れる期間が決まって居たのではないのかと推測出来る。帰ったとされる聖女も2500年前なので、ほとんど分かっていないのだが…」

「……………そうですか…」

「これから、調べてみるか?」

「そうですね…聖女じゃ無くても帰れるのかも分かんないですけどね…調べたいです」

「そうだな…」

分かってる。帰れる見込みはゼロだって。
私はただ、自分が置かれた環境に、理由が知りたかった。なぜ隠すの?私はどうでも良いの?って、
こんな事の為に私はここに居るのにって、

「仕事…途中だったんです。それに休みの日、何をするのか、決めてて…全部、全部、無くなっちゃったっ…」

「あぁ」

「フェルトナリウス様っ、何にも、無くなっちゃったよぉ」

私は声をあげて泣いた。それはもう、盛大に
こんなの子供の時以来だ

「泣くな。私は泣かれるとどうしていのか分からないのだ」

「優しく抱き締めてよぉっ!!!わぁあんっ!!ぎゅってしてぇっ!!」

立ち上がり、思いの丈を大いにぶちまけた。

「全く、貴女は慣れないことをさせる
…………………こうか…?」

ぎこちなく、回された腕。無表情なのに、引きっている気がする。

「ポンポンもしてっっ!」

「わかった、わかった」

撫でる手付きもぎこちなくて
しばらく私はフェルトナリウス様の腕の中で大いに声をあげて泣いた。
ここまで来たら涙が枯れるまで大いに泣いてやるのだ










そして、涙が止まった。

「…………………どうも、ありがとうございました。」

「もう二度とごめんだ、こんなこと…なぜ私が…」

気まずい思いで離れると、フェルトナリウス様は眉間を揉みながらぶつぶつ言っていた。

「次も良いじゃないですか。ケチっ」

「私の前でもう二度泣くんでは無い」

「では、人前で大いに、盛大に泣くことにします。」

「辞めなさい!全く…貴女は…」

スッゴい無表情の鉄仮面だし、変わるとしても眉間にシワがよった怖い顔だけどこの人は優しい。
私の心が軽くなった。

「私、これからどうしたいのか、じっくり考えます。巻き込まれてしまったみたいだけど…私は、今、ここにいて、帰れるか、帰れないか調べなきゃだし、それまでここで生きて生きて行きますから。」

「そうなさい」

「話し、聞いてくれますか?」

「…………………」

「え、無視ですか?ここに来て?え?」

「…………」

「考えないでください!お時間、ください!」

「………私もあまり暇では無いのだ。仕事も、山ほどある」

「やだ!フェルトナリウス様ー!お仕事お手伝いしますからぁ!」

「……………それなら、良かろう」

「え?まじで…?」

「もう行きなさい。近々使いを寄越します。」

「えぇ!?ホントに手伝うの!!?出来るか分かんないですよ!?」

「では、また」

フェルトナリウス様にぐいぐい背中を押され部屋を出た。

「フェルトナリウス様ぁーー!!!」


出されてしまって、ドンドンとドアを叩いても、うんともすんとも言わず、フェルトナリウス様はその後ドアを開けて出てくることは無かった。

泣いた代償はどうやら、大きそうだ。




…………どうやって部屋に帰るの?これ

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