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序章【幼少期】
5.惰性の日々
しおりを挟むどう生きたらいいか、答えは得られないまま惰性で月日は過ぎていく。
「エリオ、買い物に行きましょう」
コクリと頷いて、俺の為に用意された踏み台に乗って椅子から降りる。
勇者を休んでいいと言われてから、俺は誰にも何の役割も求められない日々の空虚さをただ味わって生きていた。
すっかり見慣れた魔族だけが行き交う街。
いつかの俺がここを通った時、無差別に殺した魔族も数多く居た。それが勇者だから。
でも、魔族側の目線を見ると勇者はただの侵略者だなと実感する。人間の世界では英雄と称えられるその立場も、別の目線では真逆に見えるんだと何度も生を繰り返したのに気付かなかった。
「エリオ、もうすぐ冬が訪れますね。ノクシス魔族領域では雪が降り積もるので、家からあまり出なくなる魔族が多いのですよ」
始めのうちは律儀にしていた返答も、意味がないと思ってからは発言をしなくなった。
魔族達の安寧の為に、ただ生かされるだけの無意味な人生。死んだら次の勇者が生まれるから、死なせられない。
───ほら、勇者が転生を繰り返すなんて知られて良い事はひとつもない。
僧侶の買い物が終わるのを待つ間、地面を見ていると身体全体が勢いよく浮いた。
「よう、ガキ。今日も辛気臭い顔をしてるな」
「…」
僧侶の親友らしい、魔族の男がまだ小さな俺の身体を大きな肩に乗せる。
体幹がないくせにしがみつきもしない俺が落ちないよう、片手で身体は支えたままだから非効率だ。
褐色の肌に真っ黒な髪、背中には羽毛のない大きな羽がある。恐らくは竜族と人型のミックスだろう
「お前、剣を握ってみるか?どうせ毎日暇だろ」
「デュミナス、危ない事を提案するのは…」
それはまさかの提案だった。
苦言を呈す僧侶は気にせず、俺はすぐに口を開いた。
「やる」
声を出すのはいつぶりだろうか。喉が少しだけヒリっとした。
「アリオル、そんなに苦い顔をするなよ。」
「……悔しいだけです。」
俺を監視しながら話している二人は放っておいて、俺は結局剣を振るしか能がないんだと実感していた。
剣を握る手を細く割いた布でグルグル巻にして縛り付け、ひたすら振る。
筋力がついていないうちは、これが一番手っ取り早い。
過去の自分の動きを模倣して剣を振っていたら、褐色の魔族が近くでしゃがんで俺を見てきた。
「力は無いが、正しい動きを知ってるって振り方だな。」
「…」
出来る限り早く魔族を殺せるようにならなければいけないから、剣は何よりも最速で身体に覚えさせる必要があった。
息が上がるからなんだ。剣を握る手が痛いのがなんだ。
目の前の敵を刺し、斬りつける。
「もう少しまともになったら相手もしてやるよ。他にやりたい事が見つかれば剣なんて捨てていい。」
「…どうでもいい」
暇つぶしに剣を与えた事には感謝するが、どうでもいい。楽しいと思ってやっていないし、現状は暇つぶし以上の意味をなさない。
「あんま、アリオルを泣かすな」
「デュミナス、私は泣いていません」
アリオルって誰だと思ったが、僧侶の名前かとすぐに把握した。
把握したからと言って名前に意味を見出だせないが。
「エリオ、お前はどうして剣を振る?」
「…」
返事をするのが面倒になって、無視をしていると振った剣を掴まれて強制的に静止した。
「エリオ」
「……勇者だから」
もういいだろ。早く続きをやらせろと剣を眺めていると、褐色の魔族が剣の刃を直に握ったまま自らの首へと切っ先を向けた。
「勇者は魔王を倒す、だったか?───俺が魔王本人だと言えば、どうする」
「魔王………」
ざわりと全身に鳥肌が立つ。瞬間的に剣を動かそうとしたが幼児の筋力では話にならない。
ならばとギリギリ届きそうな足を目の前の魔族の目を狙って突き出した。
「チッ」
結果、剣と足を掴まれて無様にぶら下げられ、遭遇するタイミングが悪すぎたなと判断を下した。せめて毒キノコを採取出来ていたら。
───いや、そもそもあの時点で死んでいたか。
魔王が勇者を認識した。ならば後は死ぬだけだ。
脱力してその時を待てば、逆さまになって地面から離れていた俺の頭に影が絡み付いた。
「いけませんよエリオ。これでは剣を禁止しなければなりません」
伸びた影が手に巻かれた布を丁寧に解く。既に限界を超えていた手は補助無しではまともに剣の柄を握り締めることも出来ず、魔王に掴まれた右足だけでぶら下がった。
「勇者、俺が憎いか?」
「…?」
魔王が俺をぶら下げたまま問い掛ける。何を言っているのだろう。
「勇者は魔王を殺さなければいけない」
理由なんて、それだけだ。決められているからやっている。憎しみなんて、そんな疲れるだけの無駄な感情をなぜ持たないといけないのか。
憎しみは、最愛の母を殺したこの運命に全て向けた。それ以外はどうでもいい。
「…俺が存在しているから、お前は勇者を繰り返しているんだろうが」
「俺が勇者だから、お前は魔王なんだ。」
どうやら驚くことを言ったらしい。魔王の手から離れて俺の身体は落下して、僧侶の影に包まれた。そういえば影にまとわりつかれたままだった。
「デュミナス。いくら貴方でもエリオを危険に…」
「…………悪い。今日は帰る」
黒い魔力が嵐のように回転しながら魔族の男…魔王を包み、背中に翼が生えた。
バサバサと羽ばたかせ、風を起こして魔王は飛んで行った。
いつの間にか影から僧侶の腕に代わって抱かれていた俺は、どこか遠くを見ている僧侶を下から眺め、今日の訓練はこれまでだなと身体の力を抜いた。
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