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本編2【青年期】
14.口移し
しおりを挟む俺の望むことをなんでも叶えたがるアリオルは、もしかしたら自分の事はあまり好きじゃないのかもしれない。
「………影から聞いてはなりませんか」
「…寂しいから」
ぽつりと、でも素直な気持ちを呟いた。
「俺が居るだろうが」とデュミナスが小言を言うが、デュミナスとアリオルは違う存在だ。代わりになんてなりようがない。
「アリオル」
やはり俺の言葉程度では動いてくれないだろうか。でもアリオルはいつも俺を最優先にしてくれていた。
纏わりつく影を撫でて、抱き締めたいのにと残念になる。
一度正直になると、こんなにも俺は弱かったのかと愕然とするが、他人事のようにも思う。
「……希少なエリオの甘えん坊さんな姿に、私の恥も何もありませんね」
影から真っ黒な手が出てきた。いつものように抱き締めてくれるだろうかと動かずに待つ。少し迷ってはいたが、やはり思惑通り腕は俺の身体に伸び、そのまま抱き締めた。
思ったより闇に染まったアリオルはデュミナスよりも黒くなっていた。
「何をしてたのか、聞いていいの」
温かさはいつもと変わらないアリオルに擦り寄ると、大きな影に纏わりつかれたみたいだなと内心思った。
困りながらも俺の頭に頬擦りするアリオルは、少し考えてから口を開く。
「そうですね、そろそろ隠せなくなってきました。…明日にでも、見てもらいましょう」
「ん。…アリオルも、デューも今日は疲れてるのか」
不快な神力をどうにかしたかったけれど二人とも明らかに疲れている。我慢しなければと諦めた。
特にデュミナスはそれだけ多くの魔力を俺に注いだのだろう。
「エリオ?」
「神力が身体ん中巡ってて気持ち悪いから上書きしてほしいってよ」
「…デューは黙って」
「……デュミナスには、愛称があるのですか」
あまり聞き慣れない低い声に、反射で身体がビクリと震えたがアリオルは相変わらず優しい力加減で俺を抱き締めている。
影のように黒いアリオルは表情がわかりにくいから、こういう時は少し怖いなと思った。
「デューの名前、言いにくい」
「なるほど。…それで、少し神力を探っても?」
「ん」
探ると言えば魔力を流すんだろうと口を開けて待てば、唯一元の色のままの目が見開かれ、でもすぐにアリオルの開いた口が角度を付けてそっと重ねられた。
先程までは酔うことも出来なかったが、少しずつ注ぎ込まれる魔力に心地良さを感じる。
「ふむ…エリオ、自分で神力を動かせますか?」
「自分で?」
「いつもは無意識下で神力を排出していますが、神力の動きが分かるなら私達のように口移しも出来るのではと」
「ん……やってみるから、アリオル」
「えぇ。私はエリオの小さなお口を楽しんでいるのでゆっくりと試してみて下さいね」
アリオルが唇を重ねたところで、目を閉じて自分の中に巡る神力に集中する。
混ざり合わない魔力と神力。普段はすっかり魔力に満たされていたので神力の方に違和感がある。その違和感を足先から上へと運ぶイメージをしたら、案外あっさりとそれは動いた。
──あぁ、俺はずっと諦めていたから何もしなかったけれど、本当はこんなに簡単に動かせたんだ。
全身に散る神力を集めて、集めて。首を伝って、舌の上に。絡むアリオルの舌に流し込んだ。
「────ッ」
「……アリオル、大丈夫?」
そっと顔を離して表情を見ると、さっきよりは黒くなくなった気がする。
どうなんだろう。痛みとかあるなら嫌だけど、でも二人とも神力の混じった精液をよく飲んでいるし…よく考えたら精液を日常的に飲まれている事にも疑問を持ちたいが。
「……エリオ、もう一度送って頂いてもよろしいでしょうか」
「ん」
さっきと同じ要領で神力を集め、アリオルの口に送り込む。
「俺にも寄越せ」とデュミナスが横からせがむので同じようにしてやると、二人して考え込んでしまった。
「……何故でしょうか、エリオの身体の中では馴染まない神力と魔力が私の中では馴染みますね」
「俺もだ。魔力として吸収出来る。」
「魔精族…精霊は特に神に近いからでしょうか…?」
なにやらブツブツと話し合い始めてすっかり蚊帳の外だ。
よく分からないけど、二人にダメージが無いならまぁいいかと目を閉じた。話をしながらもアリオルはずっと抱き締めている。だから満足だ。
(今日は、疲れた)
これからどうやって生きるかは、目が覚めたら考える。
神が精霊を生み、人間と共に平和な世界を歩もうとしたが精霊達はどういう訳か魔に堕ちた。
魔精族達はそれぞれ力が強く、これでは人間が滅ぼされかねないと勇者を用意される。
──さて。神はなぜ、人間の肩を持ったのだろうか。
考えてみれば簡単なもので。人々の信仰心が神を大きなものにする。
神の力は信仰の力。人間のように勤勉に祈る種族が根絶やしになっては困るのだ。
「んん…狭い…」
相変わらず寝返りが打てない。身体が痛くなってきた。
「痛い…」
「エリオ?どこが痛いのですか?」
「エリオ」
二人の声が聴こえる。それはそうだ、こんなに窮屈なんだから。
「ふたりとも、どいて…背中痛い」
目を開くと、やっぱり大きな男二人に挟まれている。心配そうに顔を覗き込んでいるが押し退けて身体を起こした。
伸びをすると固まった身体がほぐれて気持ちがいい。
「……心配ばっかりさせやがってこのガキ」
「デュミナス、乱暴な言葉はおやめなさい」
「……ここどこ?」
いつものアリオルの部屋じゃない。倍以上の大きさのベッドの上で寝ていたと知った。結局挟まれていたから狭かったけど。
「俺の部屋だ。話の途中でエリオが寝たからこのまま城で寝る事にした。」
「…魔王の部屋」
ぼんやり見渡していたら顎を掴まれて口を吸われた。
「もう忘れたか。名前で呼ぶんだろ。」
「…デュー、言いにくい」
「エリオ、私も愛称が欲しい。」
上書きするようにアリオルからも口に吸い付かれ、寝起きなのに元気だなとただ受け入れた。
(…あ、そうだ。神力)
今なら二人も喧嘩していない。さっきの話の結論は出たのだろうかと切り出す事にした。
「神力、なにかわかった?」
「…憶測だが」
「エリオ、人間の世界で教会に属する者達は、日々神に祈ります。それは勿論、信仰心を示す行為でもありますが…他にも理由があるのです」
「勇者の天啓?」
「…いいえ、信仰心の強い者は神からの祝福を得られるのです」
「……」
神からの祝福。それはなんだか、聞き馴染みのあるフレーズだと思った。
信仰心、祝福、神力…だんだん繋がってくる情報。
真実はきっと思っていたよりシンプルで、もう少しで全てが見えそうだとは思ったけれど
でもどうしても腹が立ってきて、やっぱり神力は不快なものだと思い始めたから身体に巡る神力を集め、アリオルの舌に送り込んだ。
アリオルが俺のキスを拒むなんて絶対しないという信頼がある。だから沢山注ぎ、アリオルの魔力に生まれ変わればいいなと思った。
いつの間にかアリオルの髪も肌も元の色に戻っている。驚いて目は見開いているけれど、俺は構わず神力を注ぎ続けた。
「おい、エリオ。やりすぎだ」
「んー」
だって神力は不快だから、いらないから。…あと、いつもやられてばかりで癪だから。
ついでに舌を動かして、アリオルの舌の感触を確かめた。エルフの舌は、俺の舌と変わらない大きさをしている。
「…は…エリオ…」
あれ?と思った時には遅かった。アリオルの目は潤み、顔が昂揚し、困惑したように俺を見ている。
俺は俺で、少し目眩がしていた。
「……ふらふらする」
「だから言ったろうが。神力の渡しすぎだ。」
すぐにデュミナスから魔力を口移しされる。身体を巡る感覚にゾクゾクして、酔う。
「私も、酔わされたようです…吸収に時間がかかりますかね」
「あ…ごめんアリオル」
「エリオは何も分からなかったのですから、仕方ありません。それより」
手をそっと握られて、アリオルの下腹部へと誘導される。
布越しでも分かるくらい固く、熱い。
「魔力酔いの発散の仕方は、わかっていますね?」
「……ん。」
行為なんていつもしているのに、アリオルの熱い吐息にドキドキして、顔が熱くなるのを感じた。
まだ言葉には出せないけれど、どうしてだろう
自分に素直になってみれば、二人がとても愛おしくなった。
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