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本編
10.がおー(鳴き声)
「がおーがおー。にゃーにゃー。……兎はなんて鳴くんだろ?」
「この世の楽園…」
「フィニス、リセイって動物はこの中にいないのですか?」
今日はお屋敷に商人の人が来て、色んな商品を広間いっぱいに広げていた。
身分が高い人はあんまり街に買い物とか行かなくて、商人の方を呼び寄せるんだって。
使用人の皆もお買い物するから大人用から子供用まで種類豊富に持ってきてくれてて、僕にも好きなものを買っていいってフィニスが言うから
お人形を見つけたのでどれか買ってもらおうと選んでいる。
「リセイはいないな。よく逃げ出すから姿を知られていないんだ」
「ふーん。色んな動物がいるんですねぇ」
「……旦那様。」
「静かにセバス。いくらお前でも妻の可愛い鳴き声の邪魔は許されない」
並んでるお人形を全部買おうかと提案されたけど、それはダメだよって断った。贅沢は敵だからね。
嗜好品のお人形を買うのがそもそも贅沢だって?ふふん。これは良いんだ。
「だって、ご褒美だもんねぇ。がおがお。…うん、このクマさんにします!」
「あぁ、(妻が)可愛いな」
「そうでしょう。可愛いクマさんです!目がフィニスと同じ色でキラキラしてます!」
さぁ!決めたので抱っこしてください!さぁ!
クマさんを掲げるように両手を上げるとすかさずフィニスが僕を抱っこした。そう、今日の僕は一歩も歩かないと決めているんだ。
昨日、よく知らない貴族の女の人の相手をして偉かったご褒美だからクマさんも買ってもらえるし、何処に行くにもフィニスが運んでくれるのだ。
「ルミエルの瞳と同じ人形はないのか?」
「んー…僕の瞳、何色をしてるんですか?」
「知らなかったのか」
だって糸目だし。鏡を見ることってあまりないし。
髪は長いから流石にわかるんだけど、そういや僕って自分のことあまり知らないかも。
「僕って、なんでしょうねぇ」
「哲学の話か」
「いや、得体の知れない妻をよく受け入れてくれたなと。顔と名前以外、フィニスも僕のこと知らないでしょ?」
「……」
お人形だけど、クマさんには色んなことを用意してあげよう。名前と、誕生日…は今日でいいか。あとは…
「家族、いたほうがいい?クマさんは欲しいですか?がおー、うんうん、次のご褒美で家族を増やしましょうね~」
お人形の手を動かしたり、代わりに鳴き声をあげて遊ぶの、楽しいかもしれない。新発見だ。
まずはクマさんの名前を考えよう。なにがいいかな…
「……ルミエル」
「はい、なんでしょう」
「年齢を…聞いてもいいか?」
とても気まずそうに聞いてくるので何事かと思った。年齢ね、年齢…えーっと。
「む。待ってくださいね…いち、に、さん………多分、20歳です!」
「多分。」
「『今日からお前は15歳の成人だ』って言われて孤児院追い出されてから大聖堂で働くようになって、5年たったので20歳です!」
「…それまで年齢について、何も言われてこなかったか?」
「聞いたことないです! 」
「セバス、孤児院に強制捜査だ。」
「畏まりました。」
セバスさんはススッとスライドするように現れて、あっという間に消えていった。執事ってすごい。
さてクマさんの名前……む。フィニスがすごく怖い顔してる。
「クマさんパンチ!」
両手が塞がってる僕はクマさんの手を皺の寄った眉間にパンチした。怖い顔はよくないよ、僕が怖いから。
僕を抱っこしてるから両手が使えないフィニスは避けられない。なんならクマさんの腕が短すぎて顔面全部にモフッとくらっている。ちょっと気持ち良さそうだ。
「…ルミエル」
「この子の名前、リトルフィニスにします」
「……なんとも言えない気持ちになるから、やめておきなさい。」
目の色が同じだから良いと思ったけど、ダメだったか。
クマさんを顔からどかしたら、気が抜けたフィニスの顔が表れた。ふふん。なかなか人形の使い方が上手だな、僕。
「怒ってたらかっこいい顔がもったいないです。怒っててもかっこいいけど」
「…そうか、俺はかっこいいか。ちなみに誕生日はいつだ?」
「僕は孤児だから、誕生日はないですよ?」
クマさんの誕生日は今日にしました!名前はリトルくんにします!と宣言したら再びフィニスの眉間に皺が寄ってたので、もう一回クマさんパンチしといた。
「リトルくん、僕は本当に木登りが得意で、決して降りれなくもないんですよ~」
大聖堂の敷地内にある大きな木は僕の安全地帯だったからね。木の上にいたら誰も手出し出来なくて、安心出来たんだ。
フィニスはちょっと用事があるって外出しちゃった。だから僕は木登り騒ぎを起こした木の下でリトルくんと遊んでいる。
メイドさんが敷物を敷いてくれて、手掴みで食べられるおやつも置いてくれた。ピクニックというらしい。
「リトルくんは本当にフィニスと同じ色の目をしてるね。綺麗…」
光を集めて、反射して。どの角度から見ても綺麗な瞳は本当にフィニスとそっくりだ。
…なんだか聞きそびれちゃったな。僕の瞳はどんな色をしているんだろう。
「僕もこんなに綺麗な目だったらいいなぁ。光を集めてキラキラして、皆がつい魅入っちゃうような……は、無いか。糸目だし」
リトルくんをギュッと抱き締めて横になった。ご褒美とはいえ、僕は服も靴も、色んな物を与えられてる。これって良いのかな。
「僕はなんにも、フィニスにあげられないのになぁ」
孤児の僕を大切にしてもらってる。優しくしてもらってる。それは夫婦だから。
僕が用意出来るものは、フィニスはきっと既に持っているものしかなくて。与えられる物は何ひとつ持ってない。
唯一の持ち物だった修道服はなくなった。聖職者なのに祈りを知らず、信仰もない。
親を知らず、一般的な平民よりも身分も低い。
僕が何も持たないからこそ、政略的に良かったから選ばれたんだって、わかった。…これは、散歩してる時に兵士さんがこっそり話してた内容が聞こえたから知った事だけど。
他の孤児と比べて運が良かったんだなぁくらいの感想しかないから、それは別にいい。
「互いを信じ、死ぬまで愛す……僕とフィニスは政略結婚だけど、誓いのキスをしてるから本当の夫婦だって昨日寝る前に言ってたんだよ」
リトルくんは聞き上手だね。僕も黙ってたらフィニスの言葉とか、気持ちとか、いっぱい聞けるかな。
「孤児の僕に、愛は難しいなぁ」
だって聖書に書いてあったよ。神とは愛で、民の愛、それは父であり、母であるって。無条件に愛を与える存在だって。
無条件の愛が父と母なら、孤児は得られる事がないじゃないか。政略結婚という条件付きの愛とは違うかもしれないけど。
「……やーめた。リトルくん、僕には誓いを守れないってことはフィニスには内緒だよ。」
「…………守れないのか」
転がる僕の頭の上の方から、暗くて静かな声が聴こえてきた。
「あれ、フィニ……ひぃっ」
全速力で帰ってきたらしいフィニスは、汗を流しながら過去一怖い顔をして僕を見ていた。
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