清らかな結婚生活

江多之折(エタノール)

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11.真面目に悩む妻も可愛い(フィニス視点)

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誓いを守れないって言ったか、今。


「好きじゃ、なくなったのか」
「あの、」

…あぁ、俺は怖い顔をしているらしい。ルミエルが怯えている。
震えるルミエルにキツく抱き締められた人形をズタズタに引き裂いてやりたい。物にすら嫉妬する俺を、ルミエルは愛せないのか

「───悪い、頭を冷やしてくる」

背中を向けて、屋敷へと足を踏み出した。さっきまで急いで帰ろうと速く動いた足がやけに重い。
何があろうと、可愛い妻が怯えているのは良くないことだ。切り替えて来なければ。

「ッ…ぅ……うわぁぁぁぁんっ」
「ルミエル!?」

突風が吹いたかと思う程の突然の大声にバッと振り返ったらルミエルが大号泣していた。細い目から涙の大粒がボロボロと落ちて敷物を濡らしている。

 「っしぬまで、死ぬまでの愛が!欲しいならっ…ッ孤児なんて選ばないで!っうわぁぁぁん!」
「ルミエル、俺が悪かった。ちゃんと話も聞かずに傷付けてしまった。」

大きな声で泣き叫ぶルミエルに膝をついて謝る。叫ぶ内容から完全に思い違いをしていたのだと気が付いた。早合点してしまった。

「うぅぅ…僕、わかんな、わかんないんだもん!」
「よしよし、ちゃんとお話をしよう。抱っこしてもいいか?」
「うぅ…」
「……本当に、俺の妻は…」

──俺の妻は、俺を振り回す天才すぎる。

汗をかいているので不快感を与えるかもしれないが…泣いている妻を放っておく事は出来ない。

ずっとぎゅうぎゅうに抱き締めていた人形をあっさりと手放して俺に向けて手を伸ばすルミエルを抱き上げて、木を背もたれにして座った。
密着した小さな身体がヒクヒクと跳ねるので背中を摩って落ち着くのを待つ。

誓いが守れない、死ぬまでの愛が欲しいなら孤児を選ぶな…か。
結婚式の彩りのひとつとして形式だけ行われている誓いのキスに、ここまで真剣に向き合っている者が居るだろうか。
俺の妻は、真面目で可愛い。留守番中も俺の事に悩んでいたという事じゃないか。

「ぐすっ…」
「ルミエル、愛とは何だと思う?」
「ぅ…聖書には、父と母が無条件に与えるものが愛だって、そう書いてありました」
「聖書を燃やそう。この世にある聖書という聖書を。」
「フィニス!?」

親を知らないルミエルになんて物を読ませるんだ。教会とは鬼畜の集まりか。

「ルミエルは、俺のことは好きか?」
「好きです!とても、大好きです。」
「クマの…リトル?も同じくらい好きか」
「リトルくんは、フィニスに似てるから好きです。でもフィニスと同じ…って程の好きじゃないです」

ふん。なんだ、圧勝じゃないか。
しかも人形を好きな理由が俺に似てるから。俺に似なかったら好きじゃない、つまり俺が好きって事じゃないか。ふん。嫉妬する程でもなかったな。

「俺と同じくらい好きな人はいるか?」
「んぅ………メイドさんも、執事さんも、みんな優しくて好きだけど…フィニスと同じくらい好き、は居ないです。」

ぽす、とルミエルは俺の胸板に頬を当てて肩の力を抜いた。いつもの調子が戻ってきたようだ。
よしよしと頭を撫でるとシャツの胸元にじわりと温かな染みが広がった。やはり聖書は跡形もなく消し去ろう。よくも俺の妻を苦しめたな悪の教典め。

「ルミエル、愛とは好きと同じ感情であり、好きの先にあるものだ。」
「好きの、先…?」
「俺はルミエルが好きで、好きで…沢山好きだ。好きで収まりきらないほど好きだ。これが愛だ。」
「……僕の、フィニスを好きな気持ちも、愛ってこと?」
「そうだ。俺達は愛し合っているから誰よりも互いを大切に思うんだ」

顔を上げたルミエルの、若草色の瞳がキラキラと輝いている。まだ涙を溢れさせている頬を吸ったら「ひゃあ!」と小さく悲鳴があがった。

「……なーんだ。僕、フィニスを愛してたんだ。愛、知ってたんだ…へへ」

安堵したルミエルの笑顔があまりに美しくて、ルミエルこそがこの世の愛を体現するのではないかと思うとたまらなくなってきた。

「…抱きたい。ルミエル、愛してる」
「んぅっ」

小さな口に食らいつけば、素直に口を開けて侵入を許す。
なんて慈悲深い。ルミエルこそが神なのではなかろうか。
キスのひとつひとつを誓いだと信じて、真摯に結婚に向き合う妻を超える者などいるものか。

「っくるし、ふぃにす、息が…」

はふ、と息をつく妻はキスは好きでも受け入れるのに精一杯でいつまでも呼吸が上手くならない。苦しいと言いつつも次のキスを求めてしまう。
───抱きたい。今すぐに、ルミエルとひとつになりたい。

毎晩、ルミエルが眠っている間にせっせと可愛い蕾を解しているが…まだ時間がかかる。しかし早くルミエルを抱きたい。

(理性が一匹、理性が二匹、理性が三匹……)

「……あの。フィニス、フィニスのが、熱くてモゾモゾします…」

俺に跨って座っているルミエルの股間を押し上げているようで、腰をモジモジとし始めた。そんな事をしては更に硬くなってしまう。

「ッ俺の妻は、試練を与える天才だ…!」
「はぅっ」

つい、勢いでルミエルの尻を鷲掴んでしまった。小さくて丸くて可愛い。更に揉み心地まで極上とは、なんてパーフェクトな尻をしているんだ。頬を染めて困っているのに拒否はせず受け入れて期待に潤む若草色の瞳を揺らしている。キスをした唇は濡れて艷めきを放ちつつ熟した果実のように赤く俺を誘っているとしか思えない色気を放っている。とんでもない。俺の妻が日を追う毎にとんでもない理性クラッシャーに育っている。それでいて可愛いとはどういうことだ。この世の可愛いを全てかき集めたらルミエルが出来るんじゃないか。ルミエル、俺のルミエル…!

「……ルミエルを現人神として新しい宗教にしよう…」
「フィニス、落ち着いて。目がガンギマってる。」

チュッともう一度唇を吸ったら俺を落ち着かせたいのに嬉しそうに緩んでしまう口角を抑えようとモジモジし始めた。


───ルミエル教、入信します。今現存している聖書は絶対に燃やし尽くす。絶対にだ。
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